鉄崎が死に戻ってきた。
本人は『久しぶりに死に申した。ガハハ』みたいな感じですこぶる機嫌が良い。
何ならリジョやファロスヒルなんかと誰がリベンジしにいくかで盛り上がっているが少し冷静になって欲しい。
死に戻りは廻神がいてこそ使える裏技みたいなもんだ。
普通は死ねばそこでお終いなのだから死んでも構わないような考えは持たないで欲しいんだよ。
確かに私もゲームでは死に戻りを便利に利用していたが、それは後ろにプレイヤーがいてこそ本領を発揮するんだ。
何故なら廻神から提供される死に戻りは予め指定しておいた時間に巻き戻るものなので、知り得た情報や経験が無かったことになる。
うちの武闘派どもはお気楽に考えているが、死亡時の状況がまったく分からないことに危機感を持って欲しい。
それに同行していた兵達は廻神と契約していないから犠牲者が出てしまった。
いくら兵士とはいえ殺害されたとなれば家族は加害者を恨むし、私が恨みを晴らすことに期待しているだろう。
幸いにも今回はキュネルが一緒にいたので犠牲者は最低限に抑えられたし鉄崎達を殺害した相手も判明している。
その彼の話によると下手人の名前はガダン、年の頃は二十代前半で魔剣の使い手だそうだ。
普段の立ち振る舞いはそこら辺にいる農民にしか見えないのだが、戦いになったとたん剣の達人に豹変するらしい。
キュネルはそのチグハグさに意表を突かれたのでは無いかと推測しているが死に戻っているため真相は不明のままだ。
そのガダンだが彼は巨人の恨みを買っているらしく、助力を求めて鉄崎達の居る場所に転がり込んできたらしい。
彼らは同じ人間族だから最悪助けてくれないまでも仲介役ぐらいはしてくれるだろうと期待していたようだ。
だが厄介事を抱えた見ず知らずの人間を受け入れるはずもない。
私のせいで巨人族との関係が微妙なことになっているんだからなおさらだ。
巨人族との関係改善のため捕縛して巨人に突き出さないだけでも感謝して欲しいぐらいだ。
これは鉄崎も同じ考えだったようで断ったのだが、やたらと食い下がってきたらしい。
それと仲間の女達がやたらと姦しくて思わず処分しそうだったと話してくる。
「で、その状況でなぜ殺し合いになる」
「閣下のことを侮辱したのですよ」
キュネルは楽しそうに微笑みを浮かべ、後ろに控えるモーエレンからは苛立ちの気配が漂ってくる。
お前、もしかして止められたのに止めなかったな?
「お前なら止められただろう?
これ以上面倒事を増やされても困るのだが」
「閣下の仕事を増やすつもりなど毛頭御座いませんよ。
ただ件の男は救世主を自称しておりまして。これは相容れない相手だなと」
自称救世主?
私のように送られてきたものか?
「何故相容れないと思う?」
「閣下は救世の神女で相手は救世主。世の中に二人の英雄が並び立つことはありません」
まだその二つ名使っているのかよ。
とっくに廃れたと思ってたのに。
「閣下、人類の歴史を思い出して下さい。
人は順列を決め、一位のものは二位のものを蹴落とすものです。
ましてや王を侮辱し特使を殺害するような輩。どうして仲良く出来ると思いますか?」
◇
私は聖女アカネ。
いま私はソケシアン帝国再興のため各地を飛び回っている。
帝国の人口も少しずつだが増えてきて、徐々にだけど元の力を戻しつつある。
やっぱり貴族は優秀な人が多い。私が色々と指示しなくても意図を酌んで動いてくれる。
ソケシアン布もタユルト布に負けず劣らないぐらいの出来になった。
これもタユルト布を作っていた職人達がうちの国に来てくれたおかげだ。
このままいけば帝国の重要な収入源になるだろう。
だけどアルミの作り方はわからないままだ。
何となくだけどドワーフ達も作り方を知らないような気がしている。
これについては引き続き調査中だ。
世界を救うために大事な軍隊についてだが、優先的に力を注いだだけあって順調に大きくなっている。
今は東の隣国のエレニュルト公国が変異種の騒動で弱体化しているせいで土地が取り放題になっているのが良かった。
土地と爵位が貰えるとなればみんな必死に頑張ってくれる。
もちろん聖女の私が目を光らせているから酷いことは起きていない。
私は貧しい農民の生まれだから貴族の横暴さを知っている。
だから生まれ変わった今の帝国に組み込まれた方が幸せな生活を送れると思う。
現に帝国民に笑顔が戻ってきているのを実感している。
市場で食べ物が買えるようになったしスラム街も無くすことができている。
学校も孤児院も沢山建てて不幸な子供達を減らす努力もしてきた。
ただ歓楽街を無くすことだけはできなかったのは残念だと思っている。
あと数年もすれば帝国は万全の体制になるだろう。
何かあったとしても私が育てた帝国が中心となって世界を救うことができるようになるはずだ。
神様、見ていて下さい。
私は世界を救って見せます。
◇
エレニュルト公国は存亡の危機にある。
変異種に何もかもが破壊された所に周辺国から侵略され続けているためだ。
元々周辺国と仲が悪かったため窮地に手を差し伸べてくれるような国がない。
唯一バザ大公国とは親交があったが大公国も自国のことで手一杯だ。
そのような訳で公国は死体に群がるハゲタカのごとき輩にいいようにやられている。
特に西のソケシアン帝国からの侵攻が過去に例を見ないほど激しく国土の四分の一以上を奪われてしまっている。
耕作に適した土地も他の国に奪われてしまい、残っているのは魔物が巣くう誰も欲しがらない土地だけというありさまだ。
公国貴族もことごとく討たれてしまい残るはオリオール辺境泊だけとなってしまった。
その辺境泊も主要な街道を敵国に封鎖されてしまい蓄えておいた食糧で何とか食いつないでいる状態だ。
本来ならさっさと降伏してしまえば良いのだろうが今辺境泊の下には王族唯一の生き残りである年端もいかない王子がいた。
友人でもあった亡きエレニュルト王の遺児を保護しているため年老いた辺境泊は決断できずにいる。
そのような苦しい状況に黒蘭の者だと騙るホルムが大量の物資を持って訪れた。
辺境泊は追い出したかったが自領民の窮状を考えると受け入れざる得なかったのだ。
「さっそくだが老伯、今後のことについて話をしようか」
「自己紹介も無しとはな。黒蘭はいつもそうなのか?」
「意味が無いのは分かっているだろう?
アタシのことはチビでもクズでも好きに呼べばいい」
辺境泊の問いに髪色を変えエルフのような付け耳をつけたホルムが『何言ってるの?』的な顔をして答える。
「オヌシ、黒蘭の者では無いな?
ケピアンの守銭奴どもか?」
「それに答えるつもりは無いね。もしかしてアタシとお話しするのは嫌なのかい?」
「いや、そんなことはない。もちろんお主の話には興味がある」
辺境泊はホルムの所作から何かつかめないかジロジロと見るが、ホルムはそれを気にも止めない。
「それでワシにどんな話をしてくるのだ?」
「そうさね。あまり時間も無いことだ帝国の話からはじめるかね」
「帝国の話なぞ聞きたくは無い。我等が苦しんでいるのはその帝国のせいだからな」
「わかるよ。
だが今の帝国は何かが違う。何かがおかしい。そう思わないかい?」
ホルムは意味ありげな顔をして語りかける。
「アタシが調べたところ、ある人物が表舞台に現れてから帝国は変わったようだね。
その人物は皇帝の右腕として内乱を鎮め、財政を立て直し、僅かな期間で帝国を再建した」
「……」
「その人物は慈悲深く聡明で美しい姿をしている。
その言葉は閉ざされた心を溶かし、その姿見を見るだけで病がたちどころに治る」
辺境泊は厳しい顔をして話を聞いている。
「老伯も噂ぐらいは聞いたはずだよ。
それともその人物を調べようとしたが調べられなかった口かい?」
辺境泊は顔の厳しさが増す。
「アタシらもその人物には凄く興味あってね。
どんな人物なのか調べたんだが情けないことに何もわからないままさ」
「あの黒蘭がか?」
「そうさ、そのせいで私が出張ることになったんだ」
ホルムは肩をすくめる仕草をし話を続ける。
「アタシの推測だけどね。
その人物は魅了や支配のような力を持っているんじゃないかと考えている。しかも飛び切り強力なやつをね」
「なぜそう考える」
「そりゃあ黒蘭も似たようなことをしているからさ」
ホルムはいきなり両手を叩き、辺境泊の視線が手に集まったところで開く。
手の平にはいくつかの小さなメダルが現れ、それらを一つずつ机の上に置いていく。
「このメダルを身につけていれば心や精神に影響を与える魔法に抗えるようになる」
「それをワシに見せてどうする。何が言いたい?」
「これは既に裏切っているものを炙り出すのにも使えるんだ。
魔法の類いで頭を弄られている時にしか効果は無いんだけどね」
ホルムの言葉に辺境泊はメダルを手に取り光に透かしたり手触りを確認したりしている。
「此処にあるものは全て老伯が好きに使ってくれていい。アタシからの好意だと思ってくれると嬉しいね」
「黒蘭からの好意など気味が悪いものはいらん。それより本題に移ってくれんか?
こう見えても忙しいのだ」
「借りたいものがあるんだよ。老伯が飼っている鹿を……」
「小娘、何を口にしているか分かっているのか?」
辺境泊が殺気立つ。
『鹿』は辺境泊が後ろ暗い仕事をするときに使う集団の名前だ。
余人は知るはずも無いその名前をホルムは気軽に口にし、あろうことか力を借りたいという。
「自分の推測が正しいのか確証が欲しいんだよ。その為には良く訓練された腕の立つ者が必要なのさ」
「話にならん。何故ワシがオヌシの謀を手伝わなければならんのだ」
「アタシらと手を組まなければ滅びるからさ。
街道を閉鎖している兵の数が増えているのは知っているだろう?
どうやら帝国は公国を滅ぼすのに本腰を入れてきたようだね」
「……何かしおったな」
ホルムは笑いながら否定するも辺境泊は疑念を捨てることはできない。
「アタシがやろうとしていることにはどうしても現地人の協力が必要なんだよ。
帝国の歴史や国柄を熟知し肌身で感じることができるような者がね。それは知識でしか知らないアタシじゃできないんだ」
辺境泊はホルムを睨めつけながら考え込んだままだ。
「老伯、これは商売の話だと考えたらどうだい?
必要なものをお互い提供するというね」
「商売は信用できる相手とするものだ。ワシはお主を信用できん」
「それじゃあ何なら信用できるんだい?
老伯が信用しているものを教えてくれるかい」
辺境泊は即座に言い切る。
「人だ。
ワシは家族と領民、そして友人のために生きてきた。それを変えるつもりはない」
ホルムは暫く考え込み、そしてため息をつきながら答える。
「やはり老伯とアタシじゃ相性が悪いようだね。
これは主に任せるしかなさそうだ」
「吸血鬼なんぞ連れてきても会わんぞ」
「そんなもの連れてきやしないよ」
ホルムは立ち上がり辺境泊に告げる。
「それじゃあ明日にでも主を連れてくるよ」
立ち去ろうとするホルムに辺境泊は問いかける。
「最後に1つ聞かせてくれ。なぜワシらに接触してきた?」
「追い詰められ後が無さそうだったからさ。
そういう者達は覚悟が違うからね。アタシは適当な仕事をする奴とは手を組むつもりは無いんだよ」