サイン王の部下達は中の人が精魂込めて鍛え上げた強者ばかりだ。
パラメータは上限まで育て上げ、厳選したスキルを取得させている。
誰でも習得できる魔術やスキルは当然のように全員が履修済みだ。
身体強化や生活魔法、サバイバル知識など、例え荒野ではぐれたとしても生き残ることができるように育成している。
そしてそれは戦う力や生き残る力だけに止まらない。
裁縫や調理、鍛冶や栽培など本人の好き嫌いに関係なく色々な知識を広く浅く詰め込んだ。
逃げ落ちてどんな境遇になっても生きていけるようにと最低限必要な知識を学習させた。
そんなわけで見た目からは想像できないほど驚異的なスペックを持つキャラクターに仕上げられている。
オーガぐらいなら素手で殴り合うことができるし、各種デバフにも強い耐性を持たされている。
ジャングルの奥地に何も持たずに放り出されても生還できるし、人が住んでいるところなら食うに困らないように育て上げられている。
そのため彼らは一般人の限界が分からない所がある。
一緒に働く同僚が化け物ばかりなので、普通の人がどんなに弱いのかを忘れがちだ。
鉄崎やリジョは兵隊の訓練をしているため人の脆弱さを理解しているが、サイン王は逸脱者に絶えず囲まれているため無理なことを言いがちだ。
人は馬並みに走ることはできないし、魔物が彷徨くジャングルを『こっちが近道だから』とか選択しない。
猛獣にビンタを喰らわせて追い払うことも出来ないし、飛んでくる矢をむんずと掴んでへし折ることもできない。
サイン王がこのように過剰なまでに部下を育てるのはゲーマーのせいもあるが、自分の意志を押し通すためでもある。
彼は謀略より手っ取り早く力で全てをねじ伏せることを好むからだ。
自分の国を持ってからは立場に縛られ好き勝手することは減ったが、冒険者時代は関係者から恐れられていたものだ。
「帝国商人の出入が激しくなってきておるようですな」
豪商アベガルがオコナーに話しかける。
「何か問題でもあるのか?」
「今のソケシアン帝国はかつて無いほどの勢いがあります。
彼処は典型的な大陸国家ですからな。何か起こる気がしてなりません」
帝国は唯一神である光神のみが神であると考えている。
自分達が大陸一優れた種族だと言い張って外国人を見下している。
「確かホルムも帝国の動きを気にしていたようだが……
ならば帝国が何を買い入れているのか調査して貰えるか?」
「それは可能ですが出入を禁止しなくても良いので?」
「政治と商売は別だ。それに『何か』あったときの為にツテがあったほうが良い」
「衰退したエレニュルト公国が草刈り場になっておりますがそれも放置で宜しいので?
このままですと帝国領になりかねませんぞ」
「必要なら王が何かするだろう。
私達が最優先するべきことはアマレースに王を呼べるよう環境を整えることだ」
「帝国は脅威ではないと言うことですかな?」
「そうだ。
帝国がどんなに頑張ろうとも此処に攻め込んでくるまでに数年は必要だろう。それだけの時間があれば迎え撃つ戦力を用意できる」
「我々のことを嗅ぎ回っておりますが放っておいても?」
「嗅ぎ回っているのは帝国だけでは無いだろう?
好きにさせておけばよい」
アマレースは機川が設計した計画都市だ。
当初は現場の人間から理解を得られず反発されていたが、今では関係者一同が技術や知識を盗もうと一心不乱に働いている。
彼女が持つ知識や経験や技術は幾多の犠牲者の上に築き上げられたモノだ。
誰でもできると思われている土を盛ったり重量物を持ち上げたりする手順書だって血で書かれているのだ。
それらを仕事をしながら手に入れられるのだから全身全霊で働くだろう。
「我々商人からしたら彼女の知恵を無料で広めるのは勿体ないと感じてしまいますが……」
「私達が目指しているのはこんなモノでは無いのだ。頑張って励んでもらい発展に寄与してもらえればいい」
「左様ですか。
それも織り込み済みだと」
「そもそも機川を止められる者は此処にいない。王から『好きにやれ』と言われているのだからな」
機川はヤル気があるなら種族や身分を気にしない。
そのせいで彼女の周りには貪欲に学ぶ者が集まってきており、いつも殺気だっている。
足を引っ張ろうものならけがき針が飛んでくるし、行く手を遮ろうものならハンマー片手に襲いかかってくるからだ。
「確かにその通りなのですが……何というか少し野蛮な所がありましてな。
我々商人も苦労しております」
「交わした約束はしっかり守ることを周知しておくのだ。
もし守れそうに無いなら言い訳などせず真摯に話せば悪いようにはならん」
機川は時間に厳しい。
忙しすぎて精神的な余裕が無いこともあり納期が守られないと烈火のごとく切れ散らかす。
唯一の救いは後を引かないことだが『超人』である機川に怒られるのは誰でも避けたいだろう。
「そこは徹底させようとしているのですが商習慣というのは中々変えられないものでして」
「どうしても困ったらリジョやバリルンドに相談するといい。私も機川の扱い方は未だによくわからん」
「はあ……それにしても貴方たちは多才ですな。
専門外のこともよく知っておられる。おかげで商人達は苦労しておりますよ」
「王に仕込まれたからな……」
オコナーはどこか遠い目をして答える。
「何か嫌なことであったので?」
「忠告しておくが、王に『成長したい』とかその類いの言葉は言ってはならんぞ?」
「???」
「酷い目にあうことになる。王は人を育てるのが好きだからな」
「素晴らしいことだと思いますが?」
オコナーの言葉にアベガルは困惑を隠しきれない。
「王のアレは常軌を逸しているのだ。
『この順で鍛えると効率が良い』とか『これを覚えないと条件が満たせないのだ』とか言われてな。控えめに言ってアレは地獄だった」
「そんなに酷かったので?」
「ああ。
確かにアレのおかげで驚くほど短期間で成長できたのは事実だがな。しかし何事も限度というものがあるだろう?」