リヴェルム戦記   作:あいかや

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20 誰のせいだろうね

 部下の人使いが荒い。

 相手によっては私が出張らないといけないのは理解するし魔法のおかげで身体的負担も無いんだけどさ。

 何というか労って欲しいと思う。

 

 特にキュネルの異界渡りによる長距離移動はなるべくなら利用したくないと思っている。

 確かに離れた場所に短時間で移動できるのは私のような立場の人間にとって凄く有用だよ。

 ゲーム内でも使用する度に心情にデバフが重なっていくのを鬱陶しく思いながら活用していたからな。

 

 でもね、実際に体験するとなると話は変わってくるんだ。

 

 異界渡りはキュネルが生まれ育った魔族の世界を経由して移動する能力だ。

 つまり数秒といえども魔界に足を踏み入れることになる。

 そして魔界には人間なんていないから、その瞬間を狙って魔族が人間を観察しにくるんだよ。

 

 その時に魔族共は人間の姿を模して集まってくるんだけど微妙に人では無い姿をしている。

 瞼が左右に開いたり、耳が三つあったり、鼻の形が上下逆さまだったり。

 そこまで似せるならもうちょっと頑張れよと言いたくなる造形の人擬きが私を観察しに集まってくる。

 

 キュネルに文句を言ったこともあるが『見物しにくるのは止められない』と取り合って貰えない。

 身体欠損した人間や鏡餅のような肥満体が許されて、人擬きが許されないのは何故か教えてくれと言われる始末だ。

 やはり魔族とは分かり合えない。こいつらはきっと私の反応を見て楽しんでいるんだと思う。

 

 そんで正気度が削られつつも現地に着くと休む暇も無く精神的負荷が高い交渉をやらされることになる。

 つい最近もエレニュルト公国のオリオール辺境伯に会って協力関係を結んできた。

 その際にホルムの所行について辺境泊から遠回しに嫌みを言われたが、当の本人は何処吹く風のようだった。

 

 まあ、それはいい。

 自発的に動いてくれる有能な部下が多少問題を起こしたとしても、それをフォローするのは上司の役目だ。

 

 だけどもう少し余裕を持った行動をして欲しいと思う。

 聖女と救世主という面倒くさそうな人物が表舞台に現れたことで事態が急変しているのは理解しているけどさ。

 やっぱり忙しい時ほど事前に報告なり連絡はしてもらわないと困るんだよ。

 

「私主、私の話は耳に入っていますか?」

 

 そう、忙しすぎてモーエレンの当たりがきつくなっているのだ。

 部下達は全体のことを考え最善となる行動をしているのだろうけど裏方の仕事は増えるばかり。

 物資の手配一つだけでも手間も時間もかかる世界だから事務方の仕事は永久に減りそうにない。

 

「聞いている。

 ソケシアン帝国が侵略戦争を本格的に始めたのだろう?」

 

 聖女がいるソケシアン帝国の東隣にあるエレニュルト公国が落ちれば、次はその東に位置するタユルト国が狙われるだろう。

 タユルトは友好関係を結んでいる商売相手だから戦争になっては困るんだ。

 近場で戦争されると敗残兵や難民でまた仕事が増えるだろうし。

 

「公国には何としてでも踏みとどまって貰わねばならん。

 鉄崎とファロスヒルを密かに送れ」

「蟲を使うおつもりですか?

 それだと私達が関係していることが露見する可能性がありますが」

「ファロスヒルには帝国を餓えさせる工作をしてもらう。食い物が無ければ戦争もできまい」

「それは……被害が予想できません」

「アベガルに任せれば何とかしてくれるだろ。

 予め起きると分かっている災害は大儲けする機会だからな。もしそれでも戦争を仕掛けてくるようなら南の山脈から魔物をけしかけてやれ」

 

 とにかく内政が一段落するまでは余計な事をしないで欲しい。

 その為には公国を全力で支援させてもらう。

 

「それでは巨人の対応は誰にさせますか?」

「忙しいといって放置しておけ。

 国境も接していない遠くの国だ。アルミのインゴットでもいくつか贈ってやれば機嫌を直すだろう」

「それはそれで大騒ぎになると思いますが」

「巨人ももの作りが得意なのだろう?

 物珍しくて喜ぶと思うが?」

「いえ、喜びすぎることを心配しているのです。ドワーフ共も暫く五月蠅かったではないですか」

「巨人の国は遠いからな。騒ぎになってもドワーフの時のようにはならんだろう」

 

 何せ巨人は私達の居場所を詳しく知らないのだ。

 こちらから連絡を絶てば諦めて忘れるだろ。

 

「ガダンの行方はわかったか?」

「いえ、行方不明のままです」

「ならアイツの行方は商人達に捜して貰おう」

「協力するとは思えませんが?」

「『異界の神に連れてこられた人間で少々常識外れな所はあるがうまく取り入れば異界知識で儲けられる』とでも噂を流せば我先に捜すだろうさ」

「……本当のことなのですか?」

「もちろんでまかせだ。

 だが人は一か八かに賭けるのが好きだからな。たまには私達の手間を掛けずに他人に働いて貰うのもよいだろう」

 

 増えた仕事を減らすのは上司の仕事だ。

 

「あと機川に今年の収穫が終わり次第アマレースに行くと伝えておけ」

「まだ受け入れ準備は出来ていないようですが?」

「技術者は納期を決めないと永遠に作り続けるものだ。好きにさせてやるのも大事だがそろそろ限界だろう?

 皆が同じ場所にいたほうが仕事はしやすいからな」

 

 

 私は聖女アカネ。

 いま私は皇帝の相談役として帝国を支えている。

 

 いまの帝国は全盛期に匹敵するぐらいに、いや全盛期以上の力を持っていると思う。

 その証拠に帝国内は景気が良くなってみんなの顔に笑顔が戻ってきた。

 元気になりすぎて周辺国に侵略しはめじたのが誤算だったけど。

 

 でも駄目な王の下で苦しむよりは汚職も不正も無い帝国に組み込まれたほうが幸せだと思う。

 それに世界を救う為には一つの国にまとまっていたほうが対応しやすいと思うし。

 私は正しいことをしているんだ。

 

 それなのに私の邪魔をするようなことが立て続けに起きた。

 

 初めは隣のエレニュルト公国に攻め入った部隊が中々良い知らせを送ってこないから私が出向こうとしたときに起こった。

 帝国民の胃袋を満たしている穀倉地帯の一つで病害が発生したのだ。

 急いで駆けつけたけど現地についたときには、かなりの穀物がカビによって駄目になっていた。

 

 何が原因なのか調べたけど専門家じゃない私にわかるはずもなく。

 せめて残った穀物を大事に育てることで将来病気に強い品種になることを祈るだけだ。

 

 気持ちを切り替えて公国の戦場に戻ろうとしたら今度は水害で穀倉地帯の一つが駄目になった。

 大雨で堤が決壊して畑と住居が駄目になってしまったのだ。

 

 現地の人によると決壊するような雨では無かったというけど実際起きてしまったのだから対処するしかない。

 被害者救済と堤の修繕をするために皇帝や貴族達にお願いして回るのは大変だった。

 

 そんな感じで慌ただしくしていると別の穀倉地帯で蝗害が発生した。

 この世界に農薬は無いが魔法があるので、それで蝗を死滅させることができたけど、そしたら次は家畜が謎の病気で死んだという報せが飛び込んできた。

 

 前世の記憶をたどって対応していったけど本当に嫌な気持ちになった。

 せっかく大事に育てていた家畜を病気が広がらないように殺処分するのは悲しいし虚しい気持ちになる。

 

 そんな不幸な気持ちでいっぱいの所に今度は穀物を備蓄している倉庫で不審火騒ぎだ。

 しかも一カ所では無く複数箇所で。

 

 ここまで悪いことが重なると帝国に悪意のある勢力がいるとしか考えられない。

 私の行動が気に入らない誰かが私の邪魔をしているんだ。

 

 私は世界を救うためにこんなに頑張っているのに。

 誰かは知らないけれど絶対に許さないんだから。

 

 

 何かおかしなことが起こっている。

 フェリグスという名前の国から来たという侍を倒し損なった時から何かが狂い始めた気がする。

 

 手応えは確かにあったはずなのに侍は雪のように消え去り、その仲間は空間の歪みに吸い込まれるようにいなくなった。

 どこに続くかわかったものじゃないから後は追わなかったけど、今思えば追いかければ良かったかもしれない。

 

 その後はまた巨人達に追われる生活に戻り、何とか古エルフの領域まで逃げ切ることに成功した。

 いつもなら敵は返り討ちに出来るんだけど『狩人』と名乗る巨人達は手強く、しかも魔剣アイザックの力が通用しなかったから逃げるしか無かったんだ。

 

 カイザックによると神殺しの巨人と呼ばれるような上位巨人は神の恩恵により力が奪えないんだってさ。

 自分の力不足を突きつけられたようで少し落ち込んだよ。

 

 そんな苦労をして入国した古エルフの国なんだけど、この国の住民達は僕たちに不親切だった。

 古エルフの通貨なんて持っていないから買い物もできないし、その通貨が欲しくて宝石を換金しようとしたら渋られた。

 言葉の言い回しも変で言いたいことが分からないし、部外者はさっさと出て行けオーラをすごい出してた。

 

 古エルフは嫌な奴だったけど、彼らの建物は美しく見ているだけで楽しかった。

 生息している魔物も見たこと無いものばかりで新しい力をいくつか手に入れることができたのは良かったことだ。

 肉が無いのは物足りなかったけど食べ物は美味しいし、ウチの女性達はエルフらしい細工が施された服や雑貨をとても気に入っているようだった。

 

 そんな感じで古エルフの国を旅して回って、そろそろドワーフの国でも行こうかと考えていたときに人間の商人に出会った。

 古エルフの国に人の商人がいるのは珍しかったので僕から話しかけたんだけど、後でそのことを後悔したぐらいに変な奴だった。

 

 やたらと馴れ馴れしく僕のことを詳しく聞きたがるんだ。

 悪意は感じないんだけど宗教勧誘やマルチ商法の人みたいな雰囲気を持った人と言えばわかるだろうか。

 

 気味が悪くて思わず逃げ出したんだけど、それからはその手の商人によく出くわすようになった。

 そんなことが起きてからは古エルフの人達も対応が柔らかくなったし本当に何がなんだかわからない。

 

 危機感知には引っかからないし直接的な被害を受けたりしているわけじゃない。

 それでも何か自分の意思とは関係なく物事が進んでいるような感じがする。

 

 とにかく何かがおかしい。

 僕は何に巻き込まれたんだろうか。

 

 

 機川が酒場でくだを巻いている。

 同じテーブルにはいつものリジョとバリルンド、そしてエーリカが座っている。

 

 機川が愚痴りバリルンドが適当に相づちを打つ。

 エーリカが昼間の出来事を楽しそうに喋り、リジョは彼女の話を聞きながら酒と食事をかきこんでいる。

 

 いつもの光景、いつもの日常だ。

 帝国周りでは大変なことになっているが、アマレースは今日も平和そのものだ。

 

「リー姉、なんでトーコはプリプリ怒っているの?」

「ボスがこっちにくるからさ」

「トーコは ねねさま が来るのが嫌なの?」

「リーちゃん適当なことをエーリカに教えないで。

 アッシュがこっちに来るのが嫌なわけじゃないの。予定がご破算になったのが嫌なの」

「だから私はやり過ぎると後悔することになるって言ったのよ」

「そうは言うけど後半年貰えれば完璧なものを用意できたのよ?

 ヤーコだって賛成してくれたじゃない」

「初めの一回はね。

 でもその後に何回も延期したのを賛成したつもりはないわ」

 

 機川はその後も『ドワーフのせい』だの『物資が足りない』だのと愚痴を吐いている。

 

「そういえばリーちゃんに聞きたいんだけど。

 あのクズどもの処分をどうしたの?」

「クズってどのクズだ?」

「あの女癖の悪い衛兵のことよ」

「あーあいつらな。

 ボスに相談したら『女好きは一生治らん』とか言われてよ。じゃあどうすればいいんだって聞いたら『別の好きな物で上書きするしかない』とか言うんだよ」

「それで、どうしたの?」

「どうすればいいのか分からないからそれもボスに聞いたんだ。

 そしたら『男好きにでもなってもらえ』って……」

「もう良いわ。

 対処してくれたならそれでいい。皆には私のほうから話しておくからこの話はおしまいね」

 

 エーリカが『何のこと』とか聞くが、バリルンドは『ねねさまは凄い人って話よ』とはぐらかす。

 

「それよりトーコさー。

 ドワーフをやたら連れてきてるのなんでなんだよ。あいつら酒の消費が激しいからあんま連れてきてほしくねーんだけど」

「街の建設に必要なのよ。

 納期も前倒しになったし、もっと連れてきたいぐらいなんだけど」

「やめてくれよ。

 アイツら気が荒い奴が多くて喧嘩っ早いんだよ」

「財政を預かっている私からも反対させてもらうわ」

「お金はトーコが少し頑張れば用意できるんじゃねーの?

 何だっけ、アルミとかいうーの」

「アレ1つ作るだけでも凄い手間がかかるのよ?

 それをアッシュのやつ巨人にあげるからといって……」

「そもそもよー。

 何でドワーフなんだよ。人間やエルフじゃ駄目なのか?」

「ドワーフじゃなきゃ駄目なの。

 普通の人間なら死んでしまうような環境で私と一緒に働けるのは彼らぐらいなのよ。一段落するまではドワーフを使うしかないわ」

 

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