サイン王は廻神に仕えている。
本人は雇用関係だと言い張っているが廻神の機嫌を損ねないように気をつけているし神が望む世界を実現しようとしてもいる。
神が望む世界については中の人が実現したい世界と一致しているため特別なことをしているつもりは無いが、廻神から見たら使える人間として認識されている。
これは前世で資産家で歴史ある『本家』に扱き使われていた経験が生きている。
彼は上位者の性格や性質を観察することで見抜き、越えてはいけない一線を見極めることに長けているのだ。
誰かに仕えることが当たり前の環境で育ったため、ソレらに関わる諸々の煩わしさを上手くあしらうことができる。
もちろん神との関係を良好に保ち続けるのにゲーマーとしての性格も有利に働いている。
だが上位者に尽くしたり、反対に自分が上位者として奉仕されることで生じる人間関係のアレコレをそつなくこなすことが出来るのは実体験があるからこそだ。
そんな訳でサイン王は神の僕としての立ち回りも、王としての振る舞いも何とかこなしている。
本人からしたら大旦那の立ち振る舞いを必死に思いだし模倣しているだけなのだが、それがかえって異国の王っぽさが出て信憑性を与えている。
この世界の常識からしたら下々の者との距離感が近すぎるきらいがあるが、そういう文化なのだと受け入れられている。
ただ危険なことに真っ先に立ち向かおうとする所だけは皆から『いかれている』と思われている。
巨人でさえ長老ともなれば大人しく守られるものなのだが、サイン王は『死んでも巻き戻せるから実質不老不死』と主張して前に出ようとする。
つい最近も襲撃された際に『部下が死ぬのは許容できん』と言い放って先陣を切り、モーエレンから叱られたりしているが自重する気配はない。
そんな性格だから兵士からは絶大な支持を集めている。
見た目が良く、普段は温厚で慈悲深いが戦うと凄く強い、そんな姿にイチコロになる。
軍を任され近代的な戦闘教義を叩き込まれた鉄崎も根っこは首狩り武士だし、リジョは今も昔も戦闘狂だからサイン王の行動を全肯定している。
他の部下も『アレはどうにもできない悪癖』と見放しており、モーエレンとベルナデッタしか止めようとしないため改善しないのだ。
そんなモーエレンやベルナデッタも『危険』だからやめてくれと言っているのではなく『示しがつかない』からやめてくれと言っているため本人に響かない。
神から気に入られているという事実は、それだけの力を人に与えるのだ。
「まだ奴を始末できないのか?」
フェリグス国によって既得権益を奪われた者達が集まりサイン王の暗殺を企てている。
フェリグスは良くも悪くもサイン王を中心に回っている国であり彼に何かあれば全てが破綻する。
本人もそれを自覚しており少しでも和らげようと法を整備しているが溢れるばかりのカリスマがそれを許さない。
「大陸で最高の暗殺者とのことだったが……失敗したのかもしれんな」
「何を他人事のように言っておるのだ。我々の未来がかかっているのだぞ?」
この世界で『儲かる商売』は全て誰かのものだ。
各ギルドはその利権を守るためなら自力救済を躊躇わない。
フェリグスも商売の範囲内でならそのルールを守るが、アマレース建設に関係することにはその限りでは無い。
どういうことかというと、この世界のギルドが秘匿している技術や知識を惜しげも無く公開する。
しかもこの世界のモノより優れたモノを何の見返りも求めずにだ。
機川からしたらこの世界で実現できる最高のモノで街を作りたいだけなのだが既得権益者からしたら堪ったものではない。
職人や学者達は新しいモノに大喜びしているが、ギルドの経営陣からは蛇蝎のごとく嫌われている。
「神も国も当てにできぬし商人どもはフェリグスに好意的だ。もう我々にはどうにもできぬのでは無いのか?」
この世界の神々は人の問題は人が解決すべき、と考えている。
奇跡を授けることはしても神は何かしろとか強制しないし揉め事を解決する手助けもしない。
それがサイン王のように廻神の後ろ盾がある相手ならなおさらだ。
下手に突っついて廻神と戦争にでもなったらと考えて見守るだけなのだ。
ギルドに利権を与えている周辺国の為政者も、フェリグスとは事を荒げたくないと考えている。
先の変異種騒動の時に武力でもって周辺国に恩を売りまくっているし、モーエレンとキュネルが『皆で幸せ』になるように根回し済み。
各ギルドが幸せのおこぼれに預かれていないという理由だけでサイン王に文句を言うことは無いのだ。
「もう諦めてフェリグスに取り込まれるしか無いのではないか?」
「私が持つ財産を捨てろというのか!」
「そんなものはもうとっくに無くなっているのが何故わからん。
私達には残されている道は彼らの下で生き残るか、死ぬまで嫌がらせを続けるかの二つだけだ」
既得権益者の怨恨を向けられている機川だが、彼女は彼らに嫌がらせをしているつもりはまったく無いし怨まれているとも思っていない。
それどころかギルドが持つ横の繋がりやコネ、師弟制度を活用すれば自分の手間を少なくすることができるはずだ、と考えている。
周囲の者が機川の身辺をしっかりと警護し些事に患わされないよう心配りをしているため、彼女はギルドの面々と上手くやっていけるとすら思っている。
「ドワーフどもは既にフェリグスのもとで新しい技術を学んでいるという。もう我々が主導権を握れるような状況では無いのだ……」
このようにしてフェリグスの影響力はゆっくりと、だが着実に世界に広がっている。
サイン王が知ったら頭を抱えそうな事態だが、彼の所には『どこぞのギルドが教えを請いにきた』という報告しか上がってこないため真相を知ることは一生無いだろう。
全てはモーエレンとキュネルによって何事も無かったように処理され、アマレースのイメージは綺麗なまま保たれているのだ。