リヴェルム戦記   作:あいかや

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23 熱狂するものは嫌いだ

 馬鹿が脱獄しやがった。

 馬鹿は放置するに限ると放っておいたのが気に入らなかったのだろう。

 仲間を置いて一人で逃げやがった。

 

 逃げてしまったのを今更悔やんでも仕方がないが余計な仕事を増やしやがって。

 今度捕まえたらキュネルの故郷にでも監禁してやる。

 

 問題は置いていかれた仲間の処遇だ。

 本人達は『私達を解放しろ』とか『いつか報いを受けるぞ』とか言ってきて交渉できそうにない。

 此方としては鉄崎を殺害したことも含めて金で解決したいのだが、どうも自分達の立場を理解していないんだよな。

 機川とかが『ヤリチンに騙された被害者』だと言うので捕虜扱いを続けているが、彼女らと話しているとつい勢いで処分してしまいそうになる。

 

 後、あの馬鹿をどう扱うのかも考えておかないとな。

 アイツは見た感じこの世界の住人ではなさそうだから私と同じように背後には超常存在がいるのだろう。

 

 そうなると敵対して良いのか悩みどころだ。

 もちろん迷惑をかけられた落とし前はつけさせてもらうが処分した後に文句をいわれるのだけは避けたい。

 あの馬鹿が担っていた役割を引き継げとか言われても困るからな。

 

 廻神が橋渡しをしてくれればいいんだが連絡がつかないんだよ。

 もし相手側の超常存在と話をつけられればこんなことに気を揉む必要はないんだけどな。

 

 悩みと言えば街の物資不足も問題になりつつある。

 留学生を受け入れ始めてから街の人口が予想を超えて増えすぎたからだ。

 

 人が増えて市場が賑わうのは良いことなんだけど物資不足は物価を引き上げる。

 これを放置しておくと人々は金を手に入れるため規律を蔑ろにするようになり結果治安が悪くなる。

 

 これら財政のことは豪商だったアベガルに任せているんだけど日を追う毎に元気が無くなっているような気がする。

 今までは儲けることだけ考えていれば良かったのに経済や社会秩序も含めて任せているから業務に忙殺されているのだろう。

 生き字引のオコナーや機川達に相談しているようだからもう少し様子見して駄目そうなら話を聞いてやろうと思う。

 

 行方不明だった鉄崎はソケシアン帝国に放った蟲たちのおかげでやっと居場所が判明した。

 やはりファロスヒルの蟲たちは使い勝手が良い。

 人は虫には注意を向けないからな。これがエルフとかだと気づかれる可能性がぐんと上がるが。

 

 その尋ね人の鉄崎は何故か聖女と一緒に帝国内を奔走しているようだ。

 無事なのは良かったが何を考えているのかわからない。

 聖女とその護衛が絶えず近くにいるため接触できないという報告が来ているがアイツの実力なら何時でも逃げ出せるだろうに。

 

 もしかして聖女に陥落されたか?

 それならそれで対処するんだが報告を聞く限り陥落はしてなさそうなんだよな。

 

 なんか部下達が私に黙って悪巧みをしているような気がする。

 鉄崎のことを詳しく聞こうとすると露骨に話題を逸らしてくるんだよ。

 外遊による地盤固めが一段落したら何をしようとしているか聞き出す必要がある。

 

 あとは巨人の国からの訪問者も悩みの種だ。

 ウォーダンと名乗る巨人の神に仕える巫女が何の連絡も無く街にやってきたんだよ。

 

 私が巨人の仕来りを知らなかったせいであの国とは微妙な関係になっているから無下に追い返すこともできない。

 だからといって古エルフの仇敵である巨人と交流をしているとバレたらラウグ王国から何を言われるかわかったもんじゃない。

 なので非公式に会ったら、挨拶した途端に『留学しにきた』とか言いやがった。

 

 うちは種族や男女で差別するつもりはないけど普通国交も無い国から留学生を受け入れろとかさ。

 まあ結果から言うと受け入れたけど。

 なんか機川と意気投合して断れそうになかったんだよ。

 

 心配なのは巨人の巫女が機川の工房に籠もって出てこないことだ。

 機川に聞いても『些事は部下に任せてアッシュは外交でもしてて』と教えてくれない。

 

 強く問い質せば教えてくれるだろうが彼女には街の建設と管理で苦労かけたから暫くは好きにさせてやりたいと思っている。

 だが事前報告だけは忘れないで欲しいなあ。

 

「それで今日は何があった?」

 

 場所はアマレースの白亜の館にある執務室。

 目の前にはいつものように機嫌良さそうなキュネルがいる。

 

「救世主ガダンを見つけたのですが。

 とても面白いことになっているので報告しに戻って参りましたよ」

 

とても良い笑顔だ。

これはロクでも無い話になりそうだな。

 

「正直そいつの話は聞きたくないが……どこにいた?」

「聖女アカネの所ですよ。どうやら聖女と救世主は手を組んだようですな」

「聖女の所には鉄崎がいるだろ。どうなっている?」

「詳しいことはわかりませんが閣下の敵が一つの勢力として集まったわけです。

 これは好機ですな!」

「別に敵対しているつもりはないが」

「本人達はそう思ってないようですよ。

 こちらへ進軍する準備をしているのですから」

 

そんな話は聞いていないんだが?

後ろに控えているモーエレンを見ると頷いてくる。

 

「帝国に戦争するような余裕は無かったと思うが」

「周辺国から必要なものをかき集めているようです。聖女の人徳はすさまじいですな」

「周辺国から集めたとしてもだ。どこの国にも余裕は無かっただろう?」

「どうやら人は狂信すると腹も減らぬようで。中々興味深いですな」

 

 そんなわけあるか。

 それでうまくいくなら私だってやってる。

 

「帝国と私達がいるバザ大公国の間にあるタユルト国はどうなっている?」

「聖女の魅力に汚染されつつありますな。もう当てにならないかと」

 

 これだから精神支配系の相手はいやなんだ。

 こっちが苦労して築き上げた関係を簡単に覆しやがる。

 

「確か帝国は人間至上主義だったな?」

「ええ、ええ、帝国人が最も優れた種族だと考えているようですな」

「帝国内でエルフやドワーフなどの異種族はどういう扱いを受けている?」

「この頃は酷い扱いを受けているようですな。聖女は止めさせようとしているようですが」

 

少し引っかかる。

なぜ支配しているのに止めさせることができない?

 

「聖女の力について調査してくれ。

 どうも彼女の力は完全に支配する類いのものでは無さそうだ。効果対象や範囲などに制限や限界を予め知っておきたい」

「直ぐにでも」

「それとラウグ王国にいる古エルフの長老達と話をしておきたい。

 可能ならラウグ王国と同盟のバザ大公国の王も一緒にだ」

 

 キュネルは私の指示を受け何故か生き生きとしている。

 

「今度の相手は心を操る優生思想の差別主義者どもだ。

 正義を掲げ熱狂している奴らとは話し合いができんから面倒な戦いになるだろう」

 

 モーエレンは機嫌良さそうに頷いている。

 

「注意深く準備してその時がくるまで密やかに事をすすめるのだぞ。

 私達は帝国に対抗するが、光神を崇めている帝国なぞ金を貰ってもいらんからな?

 ああいう奴らは仲間同士で永遠にいがみ合ってもらえればいいのだ」

 

 

 私は聖女アカネ。

 いま私は非常に腹立たしい思いをしている。

 

 何もかもがうまくいかない。

 みんな私に魅了されているのに予想外のことばかりする。

 

 食糧が足りないとなれば周辺国から略奪しそれを悪いことだと思っていない。

 領民を餓えさせないのは貴族の責務だと言い、それを受け取る民衆もその貴族の行動を賞賛している。

 

 帝国人が優れた種族だと心底信じており、それ以外の種族や民族は劣等種族と決めつけている。

 思い通りにいかないのは異種族のせい、自分達が貧しいのは周辺国のせい、そう信じている。

 

 私がいくら言い聞かせても野蛮な考えを改めないし侵略戦争を悪いことだと思ってもいない。

 そもそも人権という考えが無いのだ。

 教養があるはずの貴族ですら分かろうともしないで暴力を振りかざす。

 

 皇帝からしてダメなのだ。

 エレニュルト公国を併合してからは調子づいてこの勢いで大陸統一するのだと息巻いている。

 

 私の力は世界征服の片棒を担ぐためのもじゃないと言ってもわかってもらえない。

 世界統一すれば最終的に世界を救うことになるではないか、と訳の分からないことを本気で信じている。

 

 何でみんな仲良く出来ないのだろう。

 欲しいからって奪うのは良くないことだといくらいっても聞いてもらえない。

 馬鹿みたいに周辺国を荒らしたせいで私が後始末にどれだけ苦労しているのかわかってない。

 

 そんな所に問題児がやってきた。

 救世主を自称する見た目も中身も軽いチャラ男だ。

 

 私はチャラ男が心底嫌いだ。

 女とヤルために平気で嘘をつくしその時々で言うことがコロコロかわるのがムカツク。

 いまの私には魅了の力があるから騙されるようなことは無いけど見るだけでも不快な存在だ。

 

 だけど皇帝とは相性が良かったようで名誉帝国人として迎え入れられた。

 私は反対したんだけど使い勝手の良い捨て駒だからと、少し我慢すればすぐにいなくなるからとお願いされてしまった。

 

 笑えるのは鉄崎のオジサンに修練場でボコボコにされていたことだ。

 本人は『僕のほうが格上』とか言ってたくせに地面に転がされて顔を真っ赤にしている様は、いつ思い出しても心が温かくなる。

 

 そしてオジサンが凄く強いと言うことを改めて知ることになった。

 やっぱり私の力が弱いわけじゃなくオジサンのレベルが凄く高いのだろう。

 いつか私の魅了の力で屈服させてやるんだから。

 

 

 僕は聖女様に出会うことで生まれ変わった。

 救世主ガダンは彼女に奉仕するために、彼女の力になるためにこの世界に送り込まれたんだと思っている。

 

 今までは目標も無く何となく生きてきたが彼女のおかげで誰かの為に生きることの素晴らしさを知ることができた。

 毎日が楽しく張りのある人生、彼女に笑顔を向けられるだけで報われた気持ちになることができる。

 女性に、いや他人にこんな感情を抱くことになるなんて思ってもみなかった。

 

 彼女が喜んでくれるなら僕はどうなってもいい。

 彼女が困っていることは僕が解決してあげたい。

 彼女が望んでいる争いの無い世界を実現するために僕の力を使いたい。

 

 彼女は完璧で素敵な女性なんだけどその思いに賛同しない輩もいる。

 彼女はそんな輩にも慈悲の心で接しているけど僕にはそれが我慢できない。

 彼女は言葉に出さないけれど一緒に歩めない者は仲間では無いだろう?

 

 だからドワーフやエルフなどの亜人達は敵だ。

 彼女を崇め、そして共に理想の世界を築く気が無い輩は邪魔だからね。

 

 本当は後顧の憂いを断つためにも殺してしまったほうが良いと思うんだけど彼女がそれを許してくれない。

 でもそのままと言うわけにもいかないから彼女に賛同できない亜人達には帝国から出て行ってもらっている。

 彼らには聖女様の優しさに感謝しながら何処かで野垂れ死ねば良いと思っている。

 

 その点人間は聖女様の御姿を一目でも見れば偉大さをすぐに理解してくれる。

 反抗的なものであっても手の施しようのないクズでも彼女を目にすれば考えを改める。

 彼女が一人いるだけで争いは無くなり皆が手を取り合って笑顔になるんだ。

 

 僕も含めてみんな彼女が大好きで、彼女が笑顔になるならどんなことだってしてあげたいと思っている。

 貴族も民衆も彼女に振り向いて貰うために必死に頑張っているし何かできないかを絶えず考えている。

 彼女に認められ名前を覚えてもらえることを夢見ている。

 

 そんな彼女の偉業を阻む者がこの世界にはいる。

 フェリグスのサイン、あの腐れ女。

 

 帝国に不和と災いをまき散らすもの。

 勝つためには毒でも罠でも使う卑劣な冷酷無情の女。

 悪魔を配下に持ち、死者や蟲を率いる陰険な外道。

 

 せっかく僕が手を差し伸べたというのに彼女はそれを拒絶した。

 それどころか僕から魔剣カイザックと仲間を取り上げた。

 顔と頭が少し良いからってお高くとまりやがって絶対に許すことはできない。

 

 ただ聖女様が今はその時では無いからといってアマレースに攻め込むことを許してくれない。

 今は力を蓄える時期だと彼女は言うがそれは腐れ女も同じだと思っている。

 

 くやしいけどアイツらは優秀なんだ。

 時間をかければかけるほど厄介な敵になるだろう。

 

 それと鉄崎の処遇についても僕は納得していない。

 彼女はヤツを自分の護衛か何かと勘違いしている。

 

 確かに彼女を暗殺者の魔の手から守ったり、帝国軍人の教育に一役買ったりしているが、僕の目は誤魔化すことはできない。

 ヤツは腐れ女の忠実な部下でここぞと言うときに裏切るだろう。

 

 その時がきたら僕が命をかけて彼女を救い出すんだ。

 そして僕は聖女様と共に世界に救済をもたらすんだ。

 

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