異世界からの侵略者はコチラの世界で好き勝手に滅茶苦茶していることが判明した。
今いる大陸の西側で無事な国は一つも無く、侵略者たちに文字通り皆殺しにされているようだ。
いつもなら工作活動を仕掛けているのだが今回の相手は魔力察知能力に秀でており思うようにいっていない。
キュネルが駐屯地に近づくだけで騒がしくなるし、ファロスヒルの蟲を忍ばせば見つけて潰すまで徹底的に捜索される。
魔力探知を誤魔化す技術を持ってしても彼らに通用せず、どんなに上手に化けても見破られてしまう。
予想するに魔力の有無をアレルギー反応のように鋭敏に感じることができるのだろう。
そのため魔法を使用した時点で気づかれてしまい、それを誤魔化すことは未だに出来ていない。
おかげで彼らの情報を集めるのに苦労している。
戦場で捕らえた人間から情報を聞き出そうにも、魔法を目の前で使用すると取り乱し最悪精神崩壊してしまう。
キュネルやモーエレンのように魔力を多く持つ者は捕虜に近づくだけで怯えはじめ前後不覚に陥ってしまう。
中には恐怖しない者もいるのだが、そういう者は得てして頭の出来が良くなく協力的になってくれない。
拷問もしてないし食事も戦闘糧食より余程良い物を食べさしているのにやたら喧嘩腰で好戦的だ。
ブレインリーディングで手早く情報を吸い出してやろうかと何度も思ったことか……
話は変わり侵略軍の技術レベルなんだがジェット戦闘機ぐらいは所持しているかもと機川が報告してきた。
鹵獲した戦車に半導体を使用した火器管制装置らしきものが備え付けられていたらしく思ったより文明レベルが高いと驚いていた。
ただ基板回路を見るにそれほど高度なものでは無いようで、作れてポケベルぐらいガラケーは無理と評価していた。
だが相手の技術レベルが低いと言っても安心はできない。
戦争をしている最中は技術進歩が加速されるから、さっさと片を付けないと面倒な新兵器がでてくることになるだろう。
特に相手の航空戦力にどう対応するかを悩み中だ。
今のところはプロペラ機しか見ていないが、例えプロペラ機といえども上空から一方的に攻撃されてはたまったものではない。
此方には飛行装置があるがアレは戦闘機と直接格闘戦ができるような代物じゃないからな。
それと迫撃砲も此方の射程外から攻撃してくるため厄介な存在だ。
魔法は目視した対象に使用することを想定しており、望遠鏡を覗いて遠くの的に当てるようなものは今のところは無いのだ。
機川が設計した魔道具には狙撃銃に相当するモノもあるが、それでも一キロメートルぐらいの射程距離しかないからな。
「閣下、少し時間をいただけますか?」
キュネルが執務室にスルリと入ってきて話しかけてくる。
「キュネル、陛下だ」
モーエレンが訂正するも本人は悪びれた様子はない。
「問題でも起きたのか?」
「いえ、今日は閣下のお考えを伺いたいのですよ。あの侵略者どもをどうするつもりなのですか?」
そういえば最終的な目標を決めていなかったな。
この世界から侵略者を排除できたとしても、それで終わりというわけじゃない。
こちらの世界に侵入してきた経路を潰してもまた新たな侵入口ができるかもしれない。
根本的な原因をつきとめて対策しておかないと侵略者の影に永遠に怯え続けることになる。
「この世界は、この世界の住人のものだ。原住民と共存できないのであれば退場してもらうしかあるまい」
「それは生存を賭けた戦いになりますか?」
「侵略者の言動を見るにそうなるだろうな。
二度とこのようなことが起こらないように……」
唐突に私の中に負の感情が流れ込んでくる。
これは……建国の英雄によってもたらされる国民感情のフィードバックだろうか?
理由も分からず感情がかき乱されることがこんなにも不快だとは……
モーエレンは私の背中をさすり、キュネルはその光景を興味深そうに眺めている。
私自身は津波のように押し寄せてくる感情を、傍観者となり思考から切り離し、心への圧迫感を無くすために他人事だと言い聞かせる。
こんなことは初めての体験だが予想するに多数の国民が犠牲になったのだろう。
何とか感情を切り離すことはできたが今もなお恐怖や悲痛な想いが届いてくる。
「何かありましたかな?」
キュネルが場違いな笑みを浮かべて私に聞いてくる。
「私達の国に敵対的な行動をしたものがいるようだ。お前は何か心当たりがあるのか?」
「いえいえ、もし心当たりがあれば予め対処しておりますよ」
確かにキュネルならそうだろう。
しかし放っておいた方がより面白くなると思ったら見ぬ振りはするだろうな。
「閣下、何が起きているか調べてきましょうか?」
「まだ動かなくていい。それより侵略者どもについて確認したいことがある」
キュネルに判明している侵略者の国やその国民性について再確認していると、職員が執務室に駆け込んでくる。
「被害があったのは何処だ?」
「あ、アマレースです」
「何があった?」
「『焼夷弾で爆撃された』とのことです」
「他に何かあるか?」
「機川様よりオコナー様を至急寄越して欲しい、と」
報告を終えた職員を戻し、改めてモーエレンとキュネルに向かい合う。
「私とモーエレンはここから動けん。他の場所も攻撃されるかもしれないからな」
アマレースには機川やベルナデッタがいるから私が行かなくても何とかしてくれるだろう。
「キュネルは敵対的な行動をしてきた相手を突き止めろ。代償を払わせなければならん」
「戦争ということで宜しいですかな?」
「ああ、戦争だ。
通告も無しに民間人を標的にしてきたのだ。報復をしなくては示しがつかないだろう?」
◇
ソケシアン帝国のキナウス皇帝は帝都から離れた離宮で政務を取り仕切っていた。
メン王国を焼き払った兵器に対抗する手段を持たない帝国軍は、帝都に皇帝がいるのは危険と判断したからだ。
そして、この心配事は現実になる。
帝都が空襲され壊滅したのだ。
麦国(バイレ共和国)からしたら航空戦力を持たない国など敵ではない。
実際にメン王国、その西隣のサステシア公国をあっという間に手中に収めたのだから、そう考えてしまうのは仕方がない。
だが今回は簡単にはいかなかった。
現代戦をよく知るフェリグス神国が全面的に帝国を支援しゲリラ戦を展開したためだ。
魔法を使用する帝国軍は現代的な軍と比較すると兵站の必要性が驚くほど低い。
保持する魔力量によって使用回数制限はあるが弾薬の補給は必要ないし、光神の奇跡により怪我にも病にも悩まされないためゲリラ戦と非常に相性が良いのだ。
神が実在し、その神を感じるどころか奇跡を授かることができる兵士は神敵を殺すことで士気が爆上がりする。
薬も使わず覚悟が決まった帝国兵に麦国兵は恐怖し、自分達は世界に嫌われていることを自覚するのだ。
加えてアマレースを大陸一で一番大きな国の首都と勘違いた麦国が爆撃したことで彼らは破滅の道を進むことが決定した。
アマレースには周辺諸国から学生や職人達が集っていたため、それら住民が多数犠牲になったことで各国は麦国を討滅することで団結したのだ。
特に古エルフの怒りは凄まじいものがあった。
何せアマレースには世界樹があり、それを焼き払おうとしたのだから当然だ。
犬猿の仲である巨人でさえしない所行に、ラウグ王国は神を持たず魔力すら持たない野蛮人は世界の敵であると宣言した。
それからの行動は早かった。
フェリグスが交渉窓口となり帝国内を他国の軍が通行することを認めさせ、メン王国に連合国軍が雪崩れ込んだ。
この世界の軍が航空戦力に無力なように、麦国軍は魔法に対して有効な対抗手段を持たないため雑草のように刈り取られていった。
多国籍軍の戦術はこうだ。
昼はファロスヒルの蟲が麦国軍を追い立てて、逃げ出した麦国兵を待ち構えていた連合国軍が討つ。
夜はエーリカの死兵が駐屯地を襲撃し、逃げ出した麦国兵は人を食糧にもすることができる者達に狩られる。
現代兵器により連合国軍もそれなりの損害を被ったが、航空基地を潰され、補給基地を奪われ、ゆっくりと丁寧に麦国は追い詰められていった。
半年も経たずにメン王国から麦国軍は一掃され一人たりとも生き残ることはできなかった。
「酷いありさまだな」
皇帝は報告書を見ながら思わず呟いてしまう。
「はい。
我々はフェリグス神国を過小評価していたようです」
「ああ、この惨状を見るに我々はサイン王から敵とは見なされていなかったようだな。
そのことは腹立たしいが……この報告をみるとそれで良かったのだと思えるな」
麦国兵の末路は酷いものだ。
神国軍を相手にするということは蟲に喰われるか、死兵となり永遠に扱き使われることになるかの二択。
連合国軍の兵士なら普通に殺されるだけマシという現実。
「我が軍はあの二人に対抗できるのか?」
「死兵は光神の力で押さえ込むことは可能のようですが、蟲への対抗手段は見つからないと報告を受けております」
「影さえあればそこから湧いてくるのだったな。数に限りはあるのか?」
「餌さえ有ればいくらでも増やせると本人が語っていたようです」
皇帝と宰相は二人して顔をしかめる。
「それと神国兵は死なないというのは本当なのか?」
「報告によると戦場で吹き飛ばされた将校が、別の戦場で指揮を執っていたそうで」
「別人ではないのか?」
「こちらも本人に確認を取っております。廻神の加護だそうで」
「奴らの廻神は人を復活させることに制約は無いのか?
もし無いとしたらあまりにも不公平ではないか」
「それらは不明です。何らかの制限はあるようなのですが……」
フェリグス軍にはサイン王に心酔するものが多く、彼らは彼女の望みを叶えるために死を恐れない。
そして実際に殺しても死なずに戦場に戻ってくるとなれば、復活する条件は知りたくなるだろう。
自分達の信じる神だけではなくこの世界の常識からしたら復活は伝説級の奇跡なのだから。
「まあ良い。
この際だからサイン王を嫌っている者をフェリグス軍に観戦武官として送り込んでおけ。アレを見れば自分達の愚かさに気がつくであろう」
「余計に反発することになるのでは無いでしょうか?」
「そのような先の見えない者は切り捨てるだけだ。
普通の頭がついているなら武力対立せずに別の手段で対抗しようと考えるはずだからな。
安全な場所から威勢の良いことを叫ぶ者が少しでも減れば今後の政もやりやすくなろうだろうさ」
◇
ちょっとした行き違いから麦国はフェリグス神国のサイン王を激怒させてしまい、現在進行形で酷い目にあっている。
本土はポータルの向こうにあるため安全なのだが、戦場の麦国人は惨憺たる状況になっている。
始まりはポータルを囲うようにして作られた侵略者の本部にキュネルが持ってきた最後通牒だ。
流暢な麦国語を話すキュネルに本部の責任者は銃弾で応えたが、何の魔力も込められていない金属片で魔族を傷つけることなどできない。
キュネルは使者を殺害しようとする麦国の対応をなじり、彼の足元から溢れ出てくる蟲は周囲に散らばり本部を覆い尽くす。
麦国兵が必死で応戦したが後に残ったのは同士討ちで死傷した兵達と、司令官の足元にある最後通牒だけだった。
本部が襲撃され壊滅した報せに麦国の上層部はまず困惑し、次に報復派と講和派の二つに分かれ論争になる。
首相や参謀総長は交渉し講和すべきだと強く主張したが、世論を御することができない大統領は報復する選択をした。
異世界からは即時撤退し、ポータルをコンクリートで埋めてしまえば被害は最小ですんだのに麦国は恐怖と暴力で対抗する道を選んだ。
賠償金を払いフェリグスと講和すれば金銭的な負担だけで済んだのに、異世界人に対する偏見から交渉などできないと思い込んだのだ。
それからは地獄の防衛戦が始まる。
毎日一つずつ各地の主要施設が落とされていき前線は徐々に後退していく。
ドラゴンのせいで長距離無線が使えず戦況の確認も命令の伝達も思うようにできない。
魔力により敵の接近に気がつくことはできたとしても彼らの銃火器は機川特製の魔道具により防がれ無力化されてしまう。
航空機を真っ先に潰され地上戦力だけで戦うことを強いられた麦国軍は死ぬ場所すら選ぶことができず磨り潰されていく。
「大統領、もう異世界から手を引いた方が良いのではないですか?」
「国民にどうやって説明するのだ。我が国は勝っていると報道しているのだぞ?」
首相の提言に大統領は苛立たしく応える。
「軍はもう限界です。これ以上戦力を投入すると本国の防衛に支障がでますよ?」
参謀総長の他人事のような報告に大統領は忌々しげな目線を送る。
「お前の仕事はこの戦況を覆す作戦を考えることだ。何とかしろ!」
「彼らは私達のことを熟知していて、私達は彼らのことをまったく知らない。これで勝てると思っていたのですか?」
「なら知れば良いだろう」
「その知ろうとする行動を邪魔してきたのは誰です?」
八つ当たりしてくる大統領に参謀総長は嫌味で返す。
それを見て首相はため息をつきつつ心底残念そうな顔をして大統領に語りかける。
「我々に残された選択肢は数多くありません。
後はどう後始末をするか、それを決めることぐらいしか残っていないのですよ。貴方は国の代表なのですから……何をすれば良いのか理解していますよね?」