メン王国だった地域から侵略者(バイレ共和国)を追い出すことには成功した。
連合国軍と協調しないといけなかったから思ったより時間がかかってしまったが。
時間が余計にかかったのはコチラの世界の軍人が戦うことに誉れみたいなものを持っているからだ。
戦う機会を提供してやらないとあからさまに機嫌が悪くなるんだ。
物資と金さえ提供してくれれば後方にいてくれても全然構わないのにな。
その後は麦国軍が侵入してきたポータルがあるサステシア公国に進軍したんだが麦国軍は既に撤退した後だった。
麦酷軍の施設には何も使える物は残っておらず、代わりに地雷や罠が設置されているという嫌がらせつきだ。
アイツら自分達の土地じゃないからって好き放題しやがって、ホント性格が悪いと思う。
もちろんポータルは使用できなかった。
ポータル自体は稼働しているようだが向こう側の出口が塞がれているのかあちら側の世界に移動できない。
ただ、このポータルを調査研究することで私達が使用している転移門でも生体の転移ができる可能性がでてきたのは収穫だ。
「キュネル、一番近い侵略者の国は未国(ミドルズ連合王国)だったな?」
こちらの世界にやって来ている侵略者は麦国だけじゃない。
流れが此方に来ているうちに世界から侵略者を追い出す。
これが私に課せられた仕事だからだ。
「はい。如何なさいますかな?」
「賠償金を支払い、この世界から出て行けと最後通牒をつきつけてこい」
執務室で向かい合っているキュネルが此方を興味深そうな顔で見てくる。
「そうだ、またお前は殺されそうになるだろうな。だが、それが大義名分となる」
次はポータルを真っ先に確保しないとな。
逃げられてアッチの世界に籠もられたら手間がかかって仕方がない。
「次は私達だけでポータルを急襲し支配下に置く。
そして逃げた麦国に代償を支払わせるのだ」
今頃安心して体勢を整えているだろうが、そんな時間を与えてやるつもりはない。
「閣下。未国と交渉ができそうなら如何致しましょうか?」
「それならそれでも構わん」
キュネルは考え込むようなフリをしている。
「どこかの国とは異世界間交易をしたいと考えている。機川とバリルンドが催促してきて五月蠅いのだ」
「化学製品ですかな?」
「あと電子機器とかだな。アイツら前の世界の生活が忘れられないのだ」
私とモーエレンが忙しいことを知っているのに戦況の詳細をやたらと聞いてくる。
麦国のポータルが使えないこと知ったとき、機川は苛立たしげに舌打ちしバリルンドはあからさまに落胆してたからな。
「私はアッチの世界を滅ぼしたり征服するつもりは無いことは忘れるなよ?
此方を家畜以下の存在として認識しているようだから、その思い上がった鼻っ柱をへし折るだけだ。麦国だけは徹底的にいびるつもりだがな」
◇
未国の国家元首である国王ゴードン三世と行政府長であるジャック首相はフェリグス神国からの最後通牒にどう対応するかで揉めている。
国王は賠償金を支払わずに異世界から手を引きたいと考えており、首相は賠償金は払うが異世界とは引き続き関係を持ちたいと考えているためだ。
国王は麦国の占領地域で起きた惨事を個人的なツテを通じて知っておりアレらに関わるべきではないと感じている。
そして賠償金を払うことは相手に屈服することだと考えており、王族として戦わずにして屈服することは先祖に申し訳が立たないと思っている。
首相は周辺国との関係を考えると異世界との交流は必要だと考えており、国内で発生している魔物化現象はいつか解決すると信じている。
相手が交渉相手として相応しいのであれば賠償金を支払うし、その支払い方法も交渉すれば大きな問題にならないと思っている。
両者の違いは覇権国家として君臨してきた未国の王族と、優秀だが庶民育ちの官僚との違いによるものだ。
王族はその長い歴史から人々の感情に敏感であり、この世には手を出してはいけないモノがあることを小さい頃から叩き込まれている。
産業革命により急速に発展したことで科学は万能であり、全ては理性と合理的な思考で対処できると考えている官僚とは視点が異なるのだ。
この視点の違いもあるが個人的なツテから麦国の惨状を知っている国王は嫌な予感がして寝られない夜が続いているのだ。
魔法が当たり前にあり、ドラゴンどころか神さえも実在する世界など常識が違いすぎて国が混乱する未来しか見えないのだ。
だから国王は異世界との交流にも交易にも反対している。
最終的な判断は首相がすることになるのだが、未国は慣習と先例を重んじるため王族の意見を無視することはない。
国民も普段は王族のスキャンダルを面白可笑しく騒ぎ立てるが、王族の権威を大事にしており有事の際には国王の話を有難がるからだ。
そのため首相は国王に納得してもらうため必死になる。
後で問題が発生したときに国王の反対を押し切って物事を進めたと知られれば彼の政治生命どころか暗殺される可能性すらあるからだ。
「陛下、何故そこまでフェリグス神国のことを警戒しているのですか。我々は今までも異文化の国とうまくやってきたではないですか?」
「人を家畜として扱うことを『うまくやる』と呼称するなら、そうなのだろうな。だが世の中には家畜にできない、してはいけない獣もいるのだ」
「陛下も初めは乗り気ではありませんでしたか?」
国王は麦国から手に入れたフェリグスの資料を首相に手渡し、読むように促す。
「……ナメクジ喰いが蟲に喰われたのですか、なかなかに興味深い。所でこれは、どこから入手されたのですか?」
「麦国にいる遠い親戚からだ。彼所の国とは政略結婚をよくしていたからな。
あのような国になっても付き合いだけは続いておるのだ」
「ポータルを何処ぞの神殿のようにしていたのは封じ込めるのためだったのですね。興味深いことをしていると思っていましたが」
首相はアゴに手を当てながら考え込む。
「このような相手がいるならば尚更異世界のことを調査する必要があるのでは無いですか?」
「アレが我等に使いこなせると思っておるのか?
我々は銃火器ですら満足に規制できていないのだぞ?」
「何を仰りたいのですか?」
「犯罪者が魔法を使い始めたらどうするつもりだ?
何か面白いことを絶えず捜している子供のような奴らが、どんなことをしでかすか予想できるのか?」
国王は首相に言い聞かせるように語りかける。
「初め我が国に無い資源を入手できればと期待していたが、アレは我等を破滅に導く悪魔の道だ。庶民は『世の中を良くしよう』と思いついたことを検討もせずに試したがるからな」
「ですが唯国(ユイスタイン帝国)や院国(インサル連邦)に遅れを取ることになります。あれらの国は異世界から手を引くことは無いでしょう」
「全体主義者が統べる国など遠からず滅びるものだ」
「その意見には私も同意しますが、滅びるまでに色々と問題を起こすでしょう。特に唯国は我々を恨んでおりますから」
国王の思いを酌み首相は提案する。
「相手は魔法のある世界で国を維持しているのですから何らかのコツがあるはずです。
そのことも含め、一度向こうの代表者と会談してきて頂けないでしょうか」
「私に蛮地へ行けと?
変な病気でも貰ったらどうするつもりだ」
「向こうの代表者は大変お美しい女性だという話です。陛下は女性がお好きでしたでしょう?」
王妃が嫉妬深いことを知りつつ提案してくる首相に王は嫌な顔を返す。
「私は陛下の人を見る目を信じております。
これは未来を左右する大事な決断となるでしょうから情報は多い方が宜しいでしょう。それに王太子もご立派に成長されたようですし」
「お前、それは不敬だろ」
「これが成功すれば異世界の国と最初に交流した国として公表できます。
他国は山賊のように破壊し奪うことしか興味ないようですから。我が国の栄光のため、どうか宜しくご検討下さい」
◇
唯国はアドラ党と呼ばれる政党が国家の全てを掌握している国だ。
アドラ党こそが国民を正しく導くことができると信じられており、それ以外のものは排除される独裁国家だ。
アドラ党は当初は小さな政党だったが、提案した政策がたまたま当たり疲弊した経済を立て直したことで注目を集めた。
先の大戦の敗戦国として、蔑まされ馬鹿にされていた国民に尊厳を取り戻させることで、熱狂的な支持を得ることに成功した。
通常ならカルトとして排斥されただろうが、閉塞した空気を一変させる希望の光として国民は受け入れてしまったのだ。
国民の支持を集め国を差配することができるようになったアドラ党だが、自国資源の乏しさと周辺諸国から孤立したことで行き詰まることになる。
自分達は特別で周辺国は敵だと言い続けてきたため村八分となり物が作れなくなってしまったのだ。
そんな自滅するか周囲に戦争をしかけるか悩んでいる所にポータルが現れた。
当初は魔物により大きな被害を受けたが異世界には国内では入手できない資源が手つかずのまま大量にあることが判明しお祭り騒ぎになった。
言葉も通じない原住民は皆殺しにし、国力増強のため異世界から奪い尽くすことに挙国一致で邁進した。
この侵略事業は唯国が独裁国家だったこともあり拍車がかかる。
国家プロジェクトに反対する者は排斥され、アドラ党の言うことが正義なためどんな非道も国が肯定してくれる。
意志決定が迅速なため占領地域はどんどん増えていき、院国や未国の占領地に隣接して止まるまでかなりの土地を得ることができた。
もちろん異世界侵略は全て順調だったわけでは無い。
ドラゴンのせいで活動に制限がかけられているし、魔物や魔法には今でも苦しめられている。
だが情報統制を徹底しているため唯国民は万事順調で帝国の未来は明るいと信じているのだ。
「三号戦車の開発はどうなっている?」
「順調です、総統。
害獣共を効率よく駆除できる新しい砲弾の開発も済んでおり来月には試作品が完成するかと」
唯国のパウル総統は周囲の高官に確認を取りながら報告書を読み、次の手を考えていく。
机の上には雑多な資料が積み上げられており、その数は増えるばかりだ。
「紅茶狂いが異世界のものと接触したようだな」
「そのようです、総統。
会談の内容までは入手することができませんでしたが」
「見るだけで吐き気がする者共と手を組むとは思えんが……いや、ライムを囓りすぎて頭がおかしくなったか?」
高官達は総統のジョークに笑い声で応える。
「所でリーゲル博士はまだ魔法の研究を諦めていないのか?」
「諦めてないようです、総統。
院国に負けるわけにはいかないと」
「魔法を使用した兵器など使えぬとなぜ理解せんのだ。鹵獲した魔道具とやらも気分が悪くなるといって使えぬのだぞ?」
「使い続ければいつか慣れると考えてるようです、総統。
そして時間と金さえあれば画期的な兵器を……」
「いらん。
彼女の優秀な頭脳は科学の発展のために使うべきなのだ」
総統は駄々をこねる子供を見るような態度で吐き捨てる。
「それよりも魔物化した人間を元に戻す方法は見つかったのか?」
「難航しております、総統。
ただ理性を失わないようにすることは可能そうだと博士は話しておりました」
「貴様は同胞をあのような醜い姿のままで使おうと考えているのか?」
「ち、違います、総統。
唯国人は次の段階へ進むことができる、その可能性があると博士が言っておったのです。私は決して魔物化を肯定しているわけではありません」
総統は苛立たしげにしており、話していた高官は縮こまっている。
「まあ良い、博士は好きにさせておけ。
彼女が片手間でつくる兵器だけでも十分に役に立つ。それより戦略物資の調達に問題は起きてはいないな?」
「ありません、総統。
ただゴムだけは見つかっておりません」
「気候が違うのだからそれは仕方がない。魔物から合成する研究はどうなっている?」
「まだ良い報告ができる段階ではありません、総統。
博士からは可能性はあるので魔物の死骸を更に持ってきて欲しい、そう要望されております」
総統は今話している高官とは別の高官に目で合図を送り、その高官は頷く。
「それで麦国への侵攻計画は順調なのだな?」
「はい、総統。
計画通りに進んでおります」
「宜しい。
ナメクジ喰いどもが弱っている今がチャンスだ。先の大戦の雪辱を果たすため皆の奮闘を期待しているぞ」