この世界では一口に神といっても出来ることに違いがある。
だから特定の集団が信仰している神と、世界を創造した経験がある神とでは同じ神という括りで見ることはできない。
文明の発展度を表すカルダシェフ・スケールで例えるならば特定の集団が信仰している神はタイプIIとかIIIで創造神はタイプVIにあたる。
槌神ドヴェルグ等の現地の神々はタイプIIからIIIの神で、廻神はタイプV、誘女はタイプVIに相当すると思えば良いだろう。
そしてこのタイプが異なる相手とは意思疎通がスムーズに出来なくなる。
数値が大きい者は下の者の言動から意味を推測できたりするが、逆は難しいのだ。
人が神の居場所を見つけられないように、タイプが下の存在は上の存在を見つけることができないのだ。
これらのことは一般には知られていない。
どの宗教にも創世神話があり自分達が信仰している神が世界を創造したと信じている。
この世界では一般的に信仰されている神とは別に世界を創造した存在がいて、神々は自分達からその存在に接触することができない。
そのため現地神からしたら異世界を自由に行き来できる神や創造神は特別な存在だ。
相手は自分達に出来ないことができる存在であり、世界を滅茶苦茶にしてから後始末をせずに他の世界に行くことだって可能な存在だからだ。
もちろん廻神や誘女はそんなことをするつもりは毛頭無い。
お気に入りのサイン王や愛児のエーリカがいる世界を興味深く見ているも手助け以上のことをするつもりは無い。
例え世界を創造できるほどの力を持っていても何でも好き勝手できるわけではないのだ。
唯一の絶対的な存在などおらず、同格の存在がいて互いに相手のしていることを観察している。
もし他存在が管理している世界へ自分勝手に介入しようものなら同格の存在から白い目で見られ、最悪自分の管理する世界で同じ事をされても文句を言えなくなるからだ。
そんな事情を知らない現地の神々は上位の存在である廻神や誘女が怖くて仕方がない。
特に廻神は現地の神々に積極的に接触してくるのだが、その意図が分からず恐ろしくてたまらない。
見た目からして違う宇宙人がいきなり自分のもとにやってきて、流暢な母国語で話しかけてきたと考えるなら『何で自分なんだ』と呪いたくもなるだろう。
廻神からしたら誘女のように無関係を決め込んで観察しているだけで十分だったのだが、サイン王から現地神に挨拶したいと頼まれてやっているだけだ。
自身に『異世界の神々と縁を結ぶことで影響範囲を広げたい』という性質があることも理由の一つだが、切っ掛けはお気に入りからのお願いだから仕方が無くしていることなのだ。
「火守、先のアレは何なのですか?」
槌神ドヴェルグの火守ワーリンは同じ信徒達に囲まれ説明を求められている。
神から力を授かった神官から見習いまで多くの信徒が集まりワーリンの無様な対応を責めている。
「そもそも何故貴方が対応したのです。
神殿長はどこにいるのですか?」
火守は槌神の炎を守る大事な役目だが代表者ではない。
槌神と対話することが許可されている階級だが、本来なら部外者と交渉する権限は無いのだ。
「神殿長は……寝込んでいる。
私も啓示がなければ……こんな事はしたくもなかった」
ワーリンは自分が受けた仕打ちを少しキレ気味に皆に伝える。
何の前触れも無く神殿長と共に槌神に呼び出され、今から来る神徒とは決して事を構えないことを言い含められたこと。
廻神と誘女のことをいつものように言葉では無く直接頭に理解させられ、それに神殿長が耐えられずに昏倒してしまったことを。
「そのようなことがあったのですか……」
彼女の話を聞いて周りを囲んでいた信徒は一斉に大人しくなる。
「それで、その神徒とは何なのですか?
初めて聞きますが我々信徒とは何か違うのですか?」
「槌神は信徒は神を信じ仕える者、神徒は神と共に歩く者だと教えて下さった。
そして神徒は神の代理人として相応しい力を持っているとも……」
実際には神徒の中でも『廻神の契女』と呼ばれる特別な役目をベルナデッタは与えられている。
彼女は身体も心も全て廻神に捧げており、その代わりに廻神の力を自身の身体が耐えられる範囲で自由に使うことができる。
「異世界からの来訪者は過去にもいたが、異世界の神が接触してきたという話は聞いたことがない。
今我々は前代未聞の事態に巻き込まれているのだと理解せよ。
皆、一族のためにも軽率な行動だけはするのではないぞ?」
「戦いもせずに屈しろと言うのか?」
火守は溜息をつきつつ突っかかってきたものに語りかける。
「相手に此方を非難できるような口実を与えるな、と言うことだ。
まずはアイツラにどのような思惑があるのか知らなければならぬ。
それが槌神の思いだと心得よ」