リヴェルム戦記   作:あいかや

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46 爆殺

 侵略者との戦争は継続中だ。

 二度と同じ事が起こらないように、適度に希望を持たせてソレをまとめて叩きつぶすような戦いをしているため時間がかかっている。

 

 私はバイオネットワーク技術が一般的な技術として普及していた時代の人間だ。

 だからドローンも普及していない向こう側の世界が、これからどのように発展していくのかがおおよそ分かる。

 それは機川も同様で、兵器に詳しく戦術や戦史にも造詣が深い彼女は向こうの世界のアレコレを技術ツリーとして可視化することすらできる。

 

 そんな頭脳を持つ機川と実戦経験が豊富な鉄崎がいる神国軍が侵略者を圧倒するのは当然のことだ。

 人間のやることや考え方は世界が違っても変わりはしないからな。

 

 問題になりつつあるのは侵略者を追い出す大義名分に集まってきた『義勇兵』という名の戦争好きどもだ。

 命を賭けた戦いを『生き様』として神に見てもらうため率先して殺したり殺されたりするのだ。

 

 その中でも特に酷いのが巨人たちだ。

 今、彼らの中だけで流行っているのは88mm砲を積んだ戦車に戦斧や戦鎚を持って突撃することだ。

 鹵獲品の中で20mm機銃は特に人気らしく敵前で奪い合いをしているらしい。

 

 いくら巨人が頑丈でも音速を超える戦車砲に当たれば無事で済まないのに『そのぐらいが丁度いい』とのたまう。

 今回の戦争は侵略者を追い出すのが目的なのに『本国まで攻め入ろう』と侵略する提案をしてくる。

 相手の世界にいったら苦戦することになると説明すると『それは楽しみだな!』と言ってくる。

 

 本当に頭の悪い連中なんだ。

 私達は相手国の国力を削いで少なくとも数十年は侵略する気など起こさないようにしたいのに、それを理解してくれない。

 犠牲を恐れずイケイケドンドンで戦線を進めようとして、放っておくと早期終結してしまいかねない。

 

 なので義勇兵を寄越してきた国に抗議したんだが、本国でも厄介者扱いされているらしく『使い潰しても構わない』と返事が返ってきた。

 今は兵站を一手に引き受けているから言うことを聞いているが、ここで放り出したらポータルをくぐって向こうに攻め入るだろう。

 

 そういう状況だからウチの兵士達の聞き分けの良さには感激して涙が出てくる。

 やはり軍隊に必要なのは規律だよ。死を恐れぬ勇気など糞食らえだ。

 

 なお麦国(バイレ共和国)の首都を蟲の都にする作戦は未国(ミドルズ連合王国)の国王からの要請で引き揚げた。

 これに懲りて私達を小馬鹿にするのを止めてくれればいいんだが、たぶん無理だろうな。次はどんな嫌がらせをしてやろうか……

 

「私主、麦国に繋がるポータルが消えました」

 

 モーエレンが慌てた様子で伝えてくる。

 

「前兆はあったのか?」

「数日前から此方の世界からの魔素流出が無くなりその原因を調査しておりました。ご報告が遅れて申し訳ありません」

 

 モーエレンの謝罪を手で受け止め考え込む。

 確か魔素を遮断することができる布か金属板を未国に輸出していたな。

 珍しくバリルンドがX線装置や電子顕微鏡を欲しがり、その対価として輸出したからよく覚えている。

 

「未国に魔素を遮断するものを出していただろう?

 なぜ麦国がそれを持っている理由まではわからんがな」

 

 問題は人為的にポータルを消すことができるのかだ。

 院国と唯国のどちらのポータルで検証するか悩むな。

 それと新たなポータルが何処かで出現しているかもしれないから各地に注意喚起をしなくては。

 

「各国に連……」

 

 

 サイン王が爆殺された。

 多数の榴弾により建物毎念入りに爆破された。

 

 王がいる建物は魔法に対して厳重に守られていたが魔力を伴わない攻撃には防御機構が反応できなかったのだ。

 光神の神官が襲撃者を密かに招き入れたため警備の者は攻撃されるまでソレが武器だと認識できなかった。

 光神信徒と唯国兵によりミースタークにある王の邸宅は原型がわからなくなるほど念入りに吹き飛ばされた。

 

 暗殺に成功したことを確認するために襲撃者達は砂煙が収まらないうちに瓦礫の中に突入する。

 そこで無残な姿になったサイン王を見つけ任務の成功に互いの体を抱いて歓喜するがその喜びもつかの間で終わる。

 

 目の前でサイン王の体が逆再生のように復元していったのだ。

 淡い黄緑色の光に包まれた残骸が空中に浮かび人の体を取り戻していく。

 

 その光景に廻神の力を感じた光神神官は一緒にいた唯国兵に攻撃を要請する。

 銃弾により王の体は為す術も無く崩れていくが神の力で巻き戻される現象を人の力で止めることなどできない。

 

 巻き戻され意識を取り戻したサイン王は周囲の様子を一瞥し状況を理解する。

 弾を撃ち尽くして呆然としている襲撃者を怒りの籠もった目で見下ろす。

 

 次の瞬間、襲撃者は息絶えて崩れ落ちる。

 後に自分の短慮をサイン王は後悔することになるのだが、この時は我を忘れるぐらいに怒りに支配されていた。

 彼は味方が死亡すると躊躇なくロードしなおすタイプのゲーマーなので、自分の世話をしてくれていた使用人が殺されたことに我慢できなかったのだ。

 

 彼が復活したことで腹心であるモーエレンも巻き戻される。

 王との接続が切れたことで理性を失っていたフェリグス神国民も正気を取り戻しサイン王の元に続々と集まってくる。

 

 そして世界は知ることになる。

 サイン王を敬愛している国民が多い神国で、彼女に直接危害を加えた者とその関係者が、どのような目にあうのかを。

 

 王は私人による報復を固く禁じたが『不慮の事故』が多発する。

 国民の数が少なければ、支配地域が狭ければ、目を行き届かせることはできたのだが神国は大きくなりすぎていたため抑えきれなかったのだ。

 

 全ての関係者が口裏をあわせればリンチも事故死となる。

 多くの光神信徒が国を追い出されることになり捕虜になった多くの唯国兵が行方不明になった。

 

「光神も馬鹿な選択をしたものね」

 

 工房で執務を行っている機川総督が書類を見ながら呟く。

 私刑された光神信徒の推定被害者数が予想より大幅に多かったからだ。

 

 機川も当初はまた過労で倒れたのかと思い、その後で暗殺されたことを知って激高したがそれは無謀な事をした唯国や光神へ向けたものであった。

 彼女たちサイン王に昔から仕えている者は彼女が廻神との契約で死ねないことを知っているし、ゲームの中ではしょっちゅう死んでいたから慣れているのだ。

 

 神国のような頂点がたった一人の国では、その頂点一人を暗殺することで国中を混乱させることができる。

 状況を打開するため暗殺に全てを賭けたのだろうが殺せるけども滅ぼせない相手だとは思ってもみなかっただろう。

 

「それほど追い詰められていたということよ。トーコも気をつけてね?」

 

 バリルンドが機川の呟きに反応する。

 

「既にこの建物の外壁は対策済み。入国管理局と黒蘭には向こう側のテロ手段についてレクチャーしたわ」

 

 バリルンドの呟きに機川は自信を持って答える。

 

「それでトーコは光神信徒をどうするつもりなの?

 アマレースから追い出すべきという声が日増しに増えてきているわよ」

「追い出す理由が無いでしょ。法的根拠も無く気持ちだけで動いていたら秩序が無くなるわ」

 

 機川の回答にバリルンドは満足げな顔を向ける。

 

「光神信徒の件はそれで良いとして追い出そうとしている側はどうするつもり?

 ホルムからの報告では暴動の可能性があると書かれていたけど」

「気は乗らないけどアッシュを呼ぶしか無いわね。

 それでも落ち着かなかったら矢鱈と好戦的な元聖女に何とかしてもらうわ。彼女は私よりそういうことが上手いから。ホントにムカツクことだけど」

 

 

 サイン王が暗殺されかけた報せは大陸中に駆け巡った。

 実際には暗殺されその後生き返ったのだが、その事実を知るものは少ない。

 

 古エルフはその事実を知る数少ないものだ。

 彼らはミースタークの邸宅を四六時中監視しており事の顛末を全て記録していた。

 

 それもこれも何時か起こるであろう非常事態に備えてだ。

 今は友好的であっても将来も同じだとは限らない。人は容易く心変わりする生き物だからだ。

 

 だからもしもの時には彼らもサイン王を亡き者にする計画を立てていた。

 それが今回の件で無理なことが判明し計画を大きく変更する必要がでたのだ。

 

 もしサイン王が乱心しフェリグス神国が敵となったときにどう対応すべきか。

 ラウグ王国の族長達は頭を悩ませることになる。

 

 巨人達の反応は古エルフとは正反対だ。

 自分達の神から事の顛末を聞いた彼らは『好敵手!』と喜んだのだ。

 

 巨人から見たら人間は脆く儚い生物だ。

 古エルフは魔法でその差を何とか埋めているが戦うために生まれてきたような巨人とのフィジカル差は埋めがたいものがる。

 

 そのため小さき人々との戦いでは無意識に手加減をしていたのだがサイン王にはその加減をする必要が無いことがわかった。

 やり過ぎても神々から咎められることが無い対等な相手として認識されることになった。

 

「アイツラは国を滅ぼしたいのか?」

 

 暗殺未遂事件の報告を受けたソケシアン帝国のキナウス皇帝は思わず机を蹴りつけて吐き捨てる。

 宰相から手渡されたコーヒーを苦々しい顔をして飲み干し大きな溜息をつく。

 

「私もフェリグス王のことは大嫌いだが殺した後のことをどうするつもりだったのだ。アレは世界の中心にいるのだぞ?」

 

 宰相が注ぐコーヒーを眺めながら皇帝は呟く。

 このことで光神教を国教としている帝国は周辺国から白い目で見られることになる。

 孤立することには慣れてはいるが自分が関与していないことで何か言われるのは腹立たしいものだ。

 

 この件でサイン王が帝国に直接何かしてくることは無いだろうが周りの者は何らかの報復行動をしてくるだろう。

 また神国と光神教との板挟みになることを想像し、皇帝は顔を顰める。

 

「神国にいる光神信徒がまた帝国に逃げ込んでくる。受け入れ準備をしておけ」

「宜しいのですか?

 暗殺を支持している思われかねませんが」

「国内にいる光神信徒に暴れられては敵わん。暗殺という手段を選んだ事は非難するが、助けを求める信徒を見捨てることはできんだろ」

 

 もしそんなことをすれば国内の光神信徒が皇帝は弱腰だと暴れるだろう。

 国が落ち着き次の戦争に向けて準備をしているというのに他の事に邪魔されたくはない。

 

「フェリグス王が人道支援と呼んでいたことをするだけだ。

 それに避難民が野盗化したら皆が困るだろうからな。誰も非難などしてこんだろう」

 

 流石に暗殺に関わった者まで受け入れることはできんがソレを確認することなど誰もできないだろうし帝国もするつもりは無い。

 これを機に神国を憎む者を一人でも多く吸収するのも悪くない手だろう。

 

「ただし光神教への予算を減らせ。二度とこのようなことをしないよう反省して貰わんと腹の虫が治まらんからな」

 

 ついでに金を使って内部対立を煽り、扱いやすい人間を教皇にする計画を立てる。

 皇帝は神に振り回されるのに懲り懲りしているのだ。

 

「それと帝国にいては困る神官をリストアップしておけ。

 向こうは生け贄を捜しているだろうからな。神国に情報を渡せば始末してくれるかもしれん」

「それは味方を売ったとして光神から不評を買う行為に思えますが……」

「ならば私腹を肥やしていることを条件に加えろ。

 神の言葉を都合良く解釈し、好き勝手している目障りなものがいるだろう?」

 

 皇帝の言葉に宰相は頭を垂れる。

 

「この機会に帝国の大掃除をする。

 今は何時かくるその時に向けて力を溜め込む時なのだ。それを邪魔する者は例え神であっても容赦するつもりは無いぞ」

 

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