暗殺された。
いわゆる無差別テロというやつだ。
ゲームと同じように廻神の力で死から生の状態に巻き戻されことで私は無事だったが仕事場は酷い有様だ。
朦朧とした頭で周囲を見渡すと光神の神服と唯国(ユイスタイン帝国)の軍服を着た人間達が私を指さして叫んでいる。
彼らは奇跡や銃火器を使って私の肉体を破壊し始めたが人ごときが神に抗えるわけがない。
私の心身は廻神の力で急速にそして強制的に巻き戻っていく。私の意志すら無関係にだ。
壊され戻され続けることで苦痛と快楽がごたまぜになったような感覚に包まれて頭が回らなくなる。
ただ状況の整理ができなくてもハッキリわかるのは私の面倒を見てくれていた人達が目の前で殺されたことだ。
この世界に来てからずっと私の世話を焼いてくれていた者も、貴族から預かっていた娘も皆等しく瓦礫と一緒に転がっている。
私は中身が男だから彼女たちと良好な関係を築くのに結構な苦労をしたというのに、それを無駄にしやがって。
王になった時から暗殺される覚悟はしていたので、そのこと自体に怒りも悲しみもない。
だが時間をかけて育ててきたものを無駄にされるのは我慢できない。
丁度、神力を一身に受けて魔力が漲っているので生物なら大体殺せる魔術をワンセットばらまく。
紫外線を浴びせ、酸素濃度を急変させ、超純水で作られた針をフレシェット弾のように降らせる。
私自身もタダではすまないが今はスター状態だから問題ない。
そうして体は万全な状態に戻り、私以外の誰もいなくなって気分もスッキリしたところで気がつく。
怒りにまかせて後先考えずに行動したことで何の手がかりも得られなくなってしまったことに。
普段から部下に『殺したら情報を得られない』と言ってきたから気まずいったりゃありゃしない。
そして予想通り唯国と光神教との繋がりを調査したところで壁にぶつかった。
ウチの国民が光神信徒を迫害しているせいで光神教の協力も得られず苦労している。
国民からの『絶対許さん』という怒りの感情が届いてきてたからこうなるとは思っていたけどさ。
集団心理って怖いよな。一旦火がつくと消すのが難しい。
殺された本人は何とも思ってないんだが国民感情のせいで唯国と光神教には厳しい態度で臨まないといけなくなった。
そうしないと国民が納得せず、王の代理人を自称する輩が私刑をしまくる勢いだったからだ。
「私主、これが来週の予定です」
いつもの様子でモーエレンが日程表を渡してくる。
いつもの執務室は爆破されたので今はホテル暮らしだ。
「外回りが随分と多いな。そんなに危うい状況なのか?」
「はい。
私主には皆に元気な姿を見せ、そして落ち着くように話して貰いたいと各地の区長から嘆願が届いています」
いま主要都市間は魔力波を利用した通信網が張り巡らされている。
これのおかげで現場の状況を把握しやすくなった反面、予定外の仕事が増える原因にもなっている。
「博覧会への出席は無くなったのか?」
「優先度が低かったので。
ですが晩餐会には出席して頂きます」
異世界間の理解を深めるために異世界合同博覧会をやることにしたのだが、結構楽しみにしていたんだよな。
魔法と科学が融合することで面白い製品が出てきていたから、その製品の製作者と直接話をしてみたかったんだ。
ウチの機川達も色々と面白い物をつくるのだが彼女は未来人としての視点でみた実用的なものにしか興味ないからな。
その時代でしか産まれない馬鹿馬鹿しくて下らないものがもっと増えないと人類全体にとって良くないと思うんだよ。
自分の手で何かを作りソレを実際に使ってみて痛い思いをすることで人は世の中のことを深く理解していく。
もちろん犠牲者は出てくるだろうが、年を取ってからの失敗が致命傷になるように高度な文明になるほど失敗の影響が大きくなるからな。
「それとリジョから……お願い事が届いております。
院国(インサル連邦)の魔物化した兵士を自軍に加えたいと……」
モーエレンは伝えることすら嫌そうな顔をしている。
確かに私もそんな『お願い事』は聞きたくなかった。
「奴隷兵としてか?」
「正規兵としてです」
「傭兵ですらなく国民として迎え入れたいといっているのか?」
「彼らの居場所は何処にも無いからだと。
放っておいたら本人も周囲も不幸なことにしかならないから、それを防ぎたいのだと」
言いたいことはわかる。
面白怪人みたいな人間を受け入れ、一緒に暮らしても良いと考える人間はアッチの世界にはいないだろう。
コッチなら見た目の変さは獣人や蛇人、蜘蛛人がいるし粗暴さも巨人と比較したら可愛いものだ。
だけど自分から面倒事を背負い込むのは違うと思うんだよな。
「院国人は変な思想に染まっているだろう?
こっちで広められたら困るぞ?」
「そちらは心配しておりません
話を聞く限り一部の党員が贅沢をしそれ以外の大多数は貧しい思いをしている。貴族社会そのものですから」
そうなんだが本人達が聞いたら怒りで卒倒しそうだな。
「受け入れ体勢は考えて……いないのだろうな。
この件はバリルンドとホルムに任せる……」
「ご報告します!」
臨時の執務室に役人服を着た男が慌てた様子で駆け込んでくる。
モーエレンが冷たい目をして睨んでいるがそれを宥め報告を促す。
「ポータルが我が国に現れました。
現在、言葉が通じぬ武装集団と睨み合いが続いておりどう対応すべきか急ぎ指示が欲しいとのこと。いかが致しましょうか?」
◇
鳴国(メイケイ皇国)は歴史の古い国だ。
大陸とは海で隔てられた島国なため独自の文化を築いてきた。
日皇と呼ばれる神裔が国家元首の立憲君主制国家で、日皇は神聖不可侵な存在とされており国民から崇められている。
狭い国土を奪い合ってきた歴史があるため土地に強く執着し侮辱等に敏感に反応するため諸外国からは付き合いづらい民族だと思われている。
鳴国人は基本的に排他的なのだが生死を賭けて土地の奪い合いをしてきたため新しいもの好きで好奇心旺盛だ。
特に人の生き死に関係するようなものはすぐに取り込む柔軟性を持っている。
相手より優れた武器を持つことは一族存続のために必要なことだからだ。
だから世界を騒がしているポータルは無視できないものだった。
科学より魔法が発達し神々が実在する世界の存在に強い興味を持った。
何故なら鳴国は世界でも珍しい化生や妖怪が人と相利共生をしている国だからだ。
それらの数は少なく大多数の国民はお伽噺の登場人物としか思っていないが鳴国各地で人と一緒にひっそりと暮らしている。
本物は希だが神道や陰陽道の使い手がいて占いや厄払いなどで生計を立てている。
このようなオカルト的な存在が鳴国だけに残っているのは『無害なら良し、益があるならなお良し』という国民性と関係している。
理解できないものを無理に理解しようとせず後で何かの役に立つのではと判断を保留し何でも取っておく。
それもこれも狭い国土で多くの人口を養う必要があったからだ。
これが大陸側の人間だと理解できないものも無理に説明をつけようとする。
仲教の影響から教典に照らし合わせて正義か悪かを判断し、悪となれば根絶するために一致団結する。
この違いにより鳴国は大陸側の国々とは仲が良くない。
大陸では傲慢で独善的な仲教が政府中枢まで蔓延っているためどう転んでも衝突することになるのだ。
今は列強と距離を取ることは出来ているが将来もそうだとは限らない。
天国券などという代物を売りさばいて神に見捨てられ、科学に傾倒することで神に見限られた大陸人とは永遠に分かり合えることはないだろう。
そして鳴国に『価値』があると感じれば難癖をつけて滅ぼしにくるのは歴史が証明している。
だからこそ今のうちに異世界の国と誼みを結び備えなければならない。
鳴国の政府首脳陣は何とか繋ぎを作ろうと手を尽くし日皇は祖神に日参した。
そしてその時はきた。
祖神に願いが通じたのか皇宮の外れにポータルが何の前触れも無く開いたのだ。
鳴国政府はすぐに異世界側の人間と接触するために先遣隊を派遣した。
未国(ミドルズ連合王国)との交易商から得られた情報を元に鬼の血を引いた衛士など戦闘力の高いものを送り込んだ。
そしてフェリグス神国と接触することに成功する。
神国ではサイン王の暗殺未遂事件があったばかりで国民全員が不審者に対して敏感になっていたため王にすぐ連絡が入ったのだ。
大事な王に危害を加える不届き者を見つけたものには報奨金が出るという非公式な通達が良い方向で働いた。
それから話はトントン拍子に進み数ヶ月という短い時間で鳴国と神国は同盟を締結するまでの仲になった。
この理由としてサイン王が日皇の理解が深かったり、神国語と鳴国語が酷似しているためだとか言われたりするが、一番の理由は食べ物である。
化学物質は化学式により同一物質を再現することができるが麹菌だけは八方手を尽くしても入手できなかった。
このためサイン王と機川にとって酒味噌醤油を輸出してくれる鳴国と仲良くすることは決定事項だったのだ。
鳴国側としても神の代理人たる教皇に指名された王より、神に直接認められているサイン王は神の子孫である日皇と付き合うに相応しい。
神国民のサイン王に対する態度は鳴国人を以てしても病的に見えるが、大陸人とは違い価値観の押しつけをしてこないため不快な思いはしなくてすむ。
それ以外にも国民性が似ていたとかの条件が重なり鳴国と神国の関係は時間と共に深まっていった。
民間の交流も盛んに行われ両国では互いの国の話題で盛り上がっていった。
この状況に一番の焦りを感じたのは未国だ。
いままで異世界の窓口を一手に引き受けていたのに辺境の蛮族国家にその座を脅かされている。
それもこれも仲教が余計なことをしでかしているからだ、と理不尽な怒りを募らせていった。
「あのショウユ野郎どもめ」
未国の国王ゴードン三世が苛立たしげに呟く。
ジャック首相はそんな国王を気にすることも無く机に書類を積み上げていく。
「おい、私を過労死させるつもりか?」
「これでも要約し整理して少なくしているのです。部下達の苦労を労ってくれても良いのですよ?」
唯国と院国(インサル連邦)は相変わらず異世界で戦争をしており両国は新兵器を戦場に送り続けている。
神国の機川からもたらされる知識により毎週のように革新的な技術が発表され学者達は寝る間も惜しんで研究している。
そこに神国と鳴国の同盟発表だ。仲教を嫌って鎖国同然だった国が一躍世界の表舞台に上がってきた。
世界は激動し今までの常識が覆される事件が絶えず起きているため、目を通しておく必要がある書類は増えるばかりなのだ。
「あの見ているだけでも不安になる顔立ちの蛮人どもめ。何で魔法を見ても平気なのだ?」
そんな中でも国王はマイペースだ。
世界が激変していても自分の気分のほうが大事だといわんばかりにイライラしている。
「私達が仲教を選んだ際に切り捨てた物を鳴国は大事にしていた。
その違いがここにきて明確になっただけかと」
「そうだな。仲教が全て悪い!」
首相は『選んだのはお前の先祖だろ』という言葉を飲み込む。
「別に神国との関係が変わったわけではありません。
貿易も学生の受け入れも今まで通りですし手紙のやり取りもしているのでしょう?」
「そういう問題では無いのだ」
首相は呆れた顔をして拗ねている国王を見る。
「国と国の付き合いなのですからあまり私情を持ち込まないで頂きたいのですが……」
「お前は何もわかってないな。
どんな人間も合理的な判断などできはせぬ。心持ち一つで良くも悪くもなるのだぞ?」
「存じておりますよ。
だからこそ女王は我々に気を使い色々と贈り物を贈ってきました。個人的にはやり過ぎだと思いますが」
国王は溜息をつきつつ首を振る。
「ああいう気遣いが戦争の可能性を減らすのだ。
現にワシは神国に悪い感情は何一つ持ってはおらん。悪いのは全て仲教とオマケに鳴国だ」
首相は『お前は女に甘いだけだ』と思うが口には出さずに驚いた顔を向けるだけですます。
その態度に国王は鼻を鳴らし言いたいことがあるなら言えと首相を促す。
「それでは敬愛する国王は何をなさるのかお聞きしても?
国政に影響を及ぼすようなことは控えて欲しいと思うのですが」
「それが何も思いつかんから困っているのだ。何をしてもいいのなら直ちに仲教を追い出すのだがな」
「そんなことをしたら国が割れます」
「唯国では光神教の信徒が増え始めているではないか。
大多数の国民にとって神などそんなものだ。御利益があるならばと簡単に乗り換える」
国王はそれは国でも同じだがなと小さく呟く。
「言葉には気をつけて下さい。
女王のように暗殺者を差し向けられますよ?」
「おお、そうだ。
仲教を煽って神国へ差し向けよう。そして我々が仲介するのだ。どうだ良い案だろう?」