リヴェルム戦記   作:あいかや

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51x フェリグスの国民は特別

 フェリグス王国のサイン王は『建国の英雄』と呼ばれている特別な力を持っている。

 王と国民を精神的に繋ぐことで王は国民集団の感情を知ることができ、国民も王個人の機嫌を感じることができる。

 そして王と国民の両感情が良好ならば全国民の作業効率が向上し、サイン王に首ったけな全国民は精神攻撃に耐性が得られるという強力な力だ。

 

 ゲーム上でこの力は強力な祝福(呪詛)として実装されており、他の祝福や呪詛を撥ね付ける。

 つまり王国民は神からの祝福を得られなくなるかわりに呪われた道具などを使用しても呪われなくなるのだ。

 

 このとてつもなく強力な力の代償は『建国の英雄』所持者のプライベートが無くなることだ。

 国民は王がいる方向を感じることができるようになり、王が強い感情を継続して抱くとそれが全国民に伝わってしまう。

 

 この代償のせいで王は絶えず感情を抑制する必要がでてくる。

 戦場で不測の事態が起きても焦りや動揺することはできなくなり、政治の場においても判断に思い悩み続けることはできなくなる。

 もしそのような感情を持ち続ければ、表面上は隠し通せても国民に伝わってしまい各種バフが得られなくなってしまうからだ。

 

 だからサイン王の中の人が此方の世界に飛ばされて、まず最初に注力したのは心を制御する術を会得することだった。

 

 その結果、自分のことでも他人事として見る癖が付いてしまい人間性が薄まったが、部下からはミステリアス性が増したと好意的に受け止められた。

 偶に見せる激しい感情も普段穏やかな日差しを思わせる感情との落差から王の本気度が分かると好評だ。

 

 そんな訳でサイン王は国民から絶大な人気がある。

 そしてこれは王国民が世界一排他的な民族であることにも繋がる。

 

 彼らはサイン王から『お願い』されて外国人と友好的に接するが、王と繋がっていない余所者を決して信用しない。

 王に見守られているという感情を共有できず、その彼女を支えている自覚がない人間など価値が無いと考えているのだ。

 

「王国民は何かおかしくないか?」

 

 未国(ミドルズ連合王国)の外交官が同僚相手にぼやいている。

 

「サイン女王、いや王か。

 彼女に執心しすぎている傾向はあるがそれは鳴国(メイケイ皇国)も同じだろう?」

 

 場所はフェリグス王国に出来たばかりの未国人街にあるパブ。

 近々、未国の王とサイン王の会談が行われることになり街は活気づいている。

 

「王国民は毎朝決まった時間に礼拝をしているだろう?

 アレ、サイン王がいる方角に向かってしているらしいぞ」

「居城の方角では無かったのか?」

「どうやら王国民はサイン王がいる方角が分かるらしい。そこらへんを話したがらないから真相はわからないが」

 

 その話に同僚は半信半疑の顔をしている。

 

「それと王国民はサイン王の気持ちも分かるらしいぞ?」

「お前、魔道具を使いすぎて常識や分別をどっかに落としてきたのか?」

「違うって。

 つい最近、本国に戻った儀礼官がいるだろう。あの家柄だけはやたらと立派な」

「ああ、何でも持病が悪化したと……」

「アイツ、サイン王に求婚したんだ」

 

 その言葉に同僚は目を見開く。

 

「彼女にその手の話は禁忌とされていたはずだが?」

「そうなんだがな。

 アイツは『我が家門は国王を輩出したこともある名家』だと言って聞く耳を持たなかったらしい」

「今の国王がその手の話をして一時期出禁されていただろうに。何でウチの貴族はどいつもこいつも好色なんだ」

 

 外交官の話に同僚は呆れた顔で返す。

 

「儀礼官殿は問題発言する前にも色々と馴れ馴れしくしていたらしくてな。

 その結果、サイン王の臣下がブチ切れて本国に戻されたってわけだ」

「よく外交問題にならなかったな」

「表向きは何も無かったことになったからな。サイン王は揉め事を嫌うって噂は本当だってことだ」

「それは……舐められないのか?」

 

 外交官はニヤリと笑う。

 

「その後、儀礼官殿はどうなったと思う?」

「何も無かったことになったんだろう?」

「そう公には何も咎められなかった。

 だが、王国のどこにいても親の仇のように殺気を孕んだ視線で睨まれるようになった。あれは公に罰を受けたほうが余程マシだったな」

「貴族なら殺気を向けられるのなんて慣れているだろう?」

 

 同僚は疑問を呈す。

 

「王国民全員が『お前の寝る場所を知っているぞ』って目で訴えてくるんだ。いくら、お貴族様でも無理だね」

「その場にいたのか?」

「いたいた。

 そんで何でそんな目で見てくるのか聞いてみたんだがな……」

 

 もったいぶった外交官の態度に同僚は身を乗り出してせっつく。

 

「彼らは決まって『あの男は私達が大事にしている王を怒らした』と真顔で言ってくるんだ。私達は王の気持ちが分かるのだ、ってよ。信じられないだろう?」

「それは狂信者の妄言ではないのか?」

「王国民でもない私に聞かれても知らんよ。

 ただ彼らは皆、本気で王の気持ちが分かると思っているぞ」

 

 外交官は嫌な思い出をビールと一緒に飲み込みながら語りかける。

 

「お前の上司にも言っておけよ。

 決してサイン王を怒らすようなことをするなってな。さもなければフェリグス王国の全国民が敵に回るぞ」

 

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