リヴェルム戦記   作:あいかや

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52x 三馬鹿怒られる

 古エルフと巨人はフェリグス神国相手に苦戦していた。

 神国の懐に入り込むことで彼らの持つ技術を自分達の物とし、この時のために備えていたが彼らには届かなかった。

 機川の自信作である戦域統合システムの前に為す術なく潰されていったのだ。

 

 古エルフや巨人の軍は強力な部隊が集まった集団だ。

 部隊毎に優秀な指揮官がいて、その指揮官が全てを差配する。

 

 それに対して神国軍は強力な武器を装備しているとはいっても所詮人間の軍だ。

 どうしても個々の戦力は古エルフや巨人には劣ってしまう。

 

 だが情報を共有し指揮系統が統一されているため神国軍全体が一つの生き物のように機能する。

 まるで戦場の霧など存在しないかのように攻め込んでくるため相手からすれば気持ち悪いとしか言いようが無い。

 

 士気が高く統率が取れた神国兵が的確に嫌なことをしてくる。

 絶えず先手を取られ気がつくと劣勢に追い込まれる。

 神国軍は敵からしたら自分のしたいことを何もさせてもらえない非常に腹立たしい存在なのだ。

 

「リーちゃん(リジョのこと)、体半分吹っ飛んだって聞いたけど大丈夫なの?」

 

 バリルンド、機川、リジョの三馬鹿娘は軍の食堂で情報交換という名目の飲み会をしている。

 周囲には兵士達もいて思い思いに仲間達と親睦を深めており食堂内はかなり騒がしい。

 なおエーリカはベルナデッタと共に鳴国で妖怪退治をしているためここにはおらず、そのおかげで三馬鹿娘はハメを外しているのだ。

 

「だから腹が減ってんだよ。はやく体調を戻しとかないと出番を飛ばされるからな」

 

 サイン王のお供は輪番制だ。

 誰もが一緒に戦いたがるため少しでも体調が悪いと皆から難癖をつけられ次回に持ち越しになってしまう。

 そのため一緒に戦う権利がある者は体調管理に非常に気を使うのだ。

 

「本部で指揮を執らされてる鉄崎が恨めしそうにしていたわよ。たまには代わってあげたら?」

「はっ、アタイにゃ無理だとわかってるだろ?

 トーコ(機川のこと)が代わってやれよ」

「私は機械の面倒をみるので精一杯なの知ってるでしょ?

 どんな強力な兵器でも正しく使えるようにしておかないとダメなの」

 

 機川とリジョは仲良くじゃれ合っている。

 

「そんなことより我が君の体調が心配だわ。

 アレからずっと感情が高ぶったままなのよ?

 兵士達の士気を維持するためとは思うけど……」

 

 バリルンドは目が据わりブツクサとつぶやいている。

 戦争は兵士にばかり目がいきがちだが裏方も大変なのだ。

 特に高度にシステム化された軍では何をするにも書類が必要で絶えず人手不足に喘いでいる。

 

「おい、トーコ。

 ヤーコ(バリルンドのこと)が死んでるぞ、何とかしてやれよ」

「こっちの世界じゃ、あのクソトカゲ(ヒルサーヤ山にベルニクスのこと)のせいで広域無線が使えないのよ。

 アイツのせいで向こうの世界みたいに自動化ができないの。あのトカゲ、さっさと死んでくれないかしら」

「おっ、ヤルか?

 いつでもいいぞ」

 

 こちらの世界では自然界に存在しない電磁波を感知すると怒り狂うドラゴンがいるせいで無線等が使えない。

 魔力波等で代用しているが本来の力を発揮できないため機川はドラゴンのことを蛇蝎のごとく嫌っている。

 

「我が君の仕事を増やさないでくれる?

 私達が我慢すればいいのよ。これぐらい何てことはないわ」

 

 バリルンドはもう駄目そうだ。

 

「それよりリジョはちゃんと書類を出してよね。溜めているの知ってるのよ。

 それとトーコはキチンと決まりは守ってよ。上の人間がいいかげんだと下も真似するんだから」

 

 機川とリジョは互いに顔を見合わせ、絡み始めたバリルンドを相手におしつけようとしている。

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

 三人のもとにファロスヒルがやってきて声をかける。

 

「何の用?」

「いま食事中なんだが?」

 

 機川とリジョはファロスヒルに白い目を向けて答える。

 彼女たちにとって今のモーエレンとファロスヒルの姉妹は仕事を押しつけてくる嫌な奴だ。

 

 理由は単純だ。

 サイン王が前線に出ているせいでモーエレンが内政を取り仕切っており、割り振られる仕事量が増えたのだ。

 サイン王は部下の様子を見ながら仕事を振るが、モーエレンは部下の能力に見合った仕事を割り振る。

 

 それに加えて機川は元々長命で美しいエルフという種族があまり好きではなく、リジョは正々堂々戦うことが好きなためファロスヒルのようなタイプとは水が会わない。

 エルフ姉妹の興味と愛情はサイン王個人に向けられており、昔からの仕事仲間であっても乾いた対応をする彼女達とは反りが合わないというのもある。

 

「バリルンドを少し借りたい……」

「見て分かんだろ?

 今日の仕事は終わったんだ。明日にしろよ」

 

 リジョはファロスヒルの言葉を遮る。

 そんな態度になれているのかファロスヒルは言葉を続ける。

 

「ベルナデッタが妖怪とか呼ばれている人達を鳴国から連れてきた……」

「それを早く言えよ。トーコ、ヤーコの酔いを覚ましてやれ」

「ヤーコしっかりして。ベルナデッタさんが来てるわよ」

 

 ベルナデッタの名前が出た途端にリジョと機川の顔色が変わる。

 ベルナデッタは国母のような立場になりつつあり誰も彼女には逆らえない。

 魔族のキュネルでさえ彼女の前では大人しくしているぐらいだ。

 

「大人の女性がずいぶんとはしたない振る舞いをしていますね?」

 

 いつの間にかファロスヒルの後ろにベルナデッタがいて冷めた目で三人を見ている。

 彼女の隣にはエーリカがいて、久しぶりに再会したお姉ちゃん達に向けて楽しそうに手を振っている。

 

「仕事が忙しくてハメを外したい気持ちがあるのは理解します。

 ですが貴方たちは自分達の立場というものを考えて行動しなければなりません。もう一度教えて上げますから此方にいらっしゃい」

 

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