異世界にやってきて三十九回目の春、フェリグス神国歴十七年目。
古エルフと巨人の両勢力と戦争することになってしまった。
それもこれも国民がキュネルの阿呆陀羅に乗せられたせいだ。
首都であるミースタークとその周辺地域は取り返してやったが他の地域では古エルフの残党がしぶとく抵抗している。
転移門が広く知れ渡ったせいで籠城されると攻略するのが難しくなったのだ。
門を使えば包囲軍に関係なく物資が届くのだから兵糧攻めが意味をなさない。
幸い彼らが使用しているのは旧式の生物が転移できないタイプだが、それでも厄介なことには変わりない。
そして転移門が一般的になったことで国防の在り方も変わってしまった。
支配地域一帯には転移を防止もしくは検知する術式を張り巡らさなくてはいけなって、侵入者には即応する体制を整える必要がでてきた。
国土全土が戦場になる可能性がでてきたため軍人の数が足りなくなり国民皆兵を検討する事態になっている。
今回のように話し合いができる相手ならルールを決めて戦うことができる。
だが民族浄化を目的とするような相手だと何をしでかすかわからないからな。
特にうちは隣にソケシアン帝国という外人嫌いで有名な国があるから徴兵制度を整えておく必要があるだろう。
あと問題なのは巨人だ。
戦争の原因を作ったあの戦馬鹿ども。
部下達は私が巨人と手を組むと思っていたようだが古エルフを追い出した後のことを考えてみてほしい。
どう考えても戦好きより引き籠もりのほうが付き合う相手としては楽に決まっている。
アイツら友達を遊びに誘う感覚で殺し合いするからな。仲間になったらどんな遊びに誘われるかわかったもんじゃない。
古エルフは私達のことを嫌っている青森派閥の発言力を落とせば関係を元に戻せるが巨人は私と戦うことが目的だからな。
毎回ボコボコにしてやっているのに飽きもせずに正面からぶつかってきて戦略も何も無い。
どうも巨人国内の序列争いに私との勝敗結果が利用されているようなんだよ。
もしそうなら序列が決まるまで付き合わされる可能性がでてくる。
アイツらの神は暴力での解決を推奨しているから、ありえない話で無いと思えてくるのが本当に嫌になる。
「攻め入りますか?」
私が巨人について考えているとモーエレンが物騒なことを提案してくる。
「巨人達の畑に蟲を放つことで飢饉を引き起こし弱体化させるのは如何でしょうか?
他にも弾道ミサイルを撃ち込むという……」
「却下だ。大義名分がない」
神国から追い出すことを理由に戦争しているのに相手国に攻め入ったら信用を失うだろうが。
それに巨人領なんて獲っても統治しきれない。あいつら真性の蛮人だからな。
「古エルフに動きはないな?」
「はい、街に引き籠もっており大人しくしております。
古エルフと巨人で密約が交わされているのは本当なのかもしれませんね」
情報部によると古エルフと巨人が密約を交わしていて神国に攻め入るタイミングを順番にしているらしい。
ウチが負けたときにどっちの手柄なのかで揉めるからそれの防止するためなんだそうだ。
まったく長命種は人のことを舐めているよな。
「なら次の巨人との戦いには鉄崎を連れて行く。アイツも偶には戦場の空気を感じたいだろう」
「全体の指揮はどうしますか?」
「適当なものにやらせればいい」
いつも鉄崎が指揮していたら下が育たんだろうからな。
「私主が指揮をされては如何ですか?
そろそろ戦場に出るのは控えて頂きたいのですが」
「そうもいくまい。
今戦争はキュネルに乗せられたとはいえ個人的な感情にまかせて初めてしまったようなものだからな。士気を保つためにも必要なことだ」
それに私のキャラクターは後方で指揮するより前線で活躍できるユニットとして仕上げている。
戦場で棒きれを振り回しているほうが私の心情を高い状態に維持できるしな。
「とにかくだ。
向こうの世界が静かなうちに此方の戦争は終わらしてしまいたい。ラウグ王国への工作は順調なのだな?」
「はい、青森派閥に事態の責任を取らせるように動いています。ベルナデッタの協力も得られているので時間の問題でしょう」
普段、神は人々の政治に関わるようなことはしないが今回は早期終戦するために動いてもらうことにした。
また『神からの頼まれ事』をすることになるが、私達に非友好的な勢力の影響力が弱まれば誰に文句も言われることも無く話はまとまるだろう。
「後は巨人との関係だが……とりあえず『巨人の力はそんなものか?』とでも煽っておけ」
「宜しいのですか?」
「アイツらは正面から叩きつぶさないと納得しないだろ。
ならアイツらが持っている最高の戦力を出させる必要がある」
戦馬鹿はこの際、徹底的に凹ましてやる。
「『面倒だからまとめて相手してやる』とでも言えば乗ってくるだろ。
機川も試したい兵器があると言っていたからな。私達の本気を見せてやろうじゃないか」
◇
神国がしていた戦争は目的を達したことで終戦した。
ただサイン王の思惑とは違った形で決着したことで彼を多いに困らせることになる。
古エルフのほうは予定通りの事が進んだ。
神国と友好的な派閥と手を組み、敵対的な派閥の発言力を削ってから双樹様の権威を使って講和した。
青森派閥は弱小派閥となりフェリグス神国とラウグ王国は元の同盟関係に戻った。
サイン王を困らせたのは巨人のほうだ。
煽ったせいで師団規模の巨人軍が現れたことにも困ったが、ソレを敗走させたら『ウグク連合は神国の属国となる』と宣言したのだ。
彼は巨人の『強者に従う』という習性と『身勝手さ』を忘れていた。
自分達のほうが序列が上だと理解させれば大人しくするだろうと高を括り全力で相手したことで巨人達の心を折ってしまった。
巨人が全面降伏したことで終戦したがサイン王の仕事は戦争前より増えることになったのだ。
そしてこの戦争は世界中に神国の力を知らしめることにもなった。
元聖女であるアカネが各地の有力者を招き、戦争の様子を解説付きで実況中継したのだ。
魔術により強化された迫撃砲で敵陣を耕し、飼い慣らした魔獣に騎乗した騎兵隊が敵の隊列を崩す。
そこに対巨人用に開発された多脚戦車と魔導装甲兵が突撃し敵を薙ぎ倒していく。
招かれた有力者達はその光景に自分達を重ね、神国との力の差をその身に刻みつける。
そして何より恐ろしいのはサイン王自らが先陣を切り誰よりも戦果を上げている事実だ。
八本脚の軍馬に跨がり真っ先に敵とぶつかり弾き飛ばしていく。
馬から落とされようが手足が折れ曲がれようが臆すること無く敵軍の奥深くに進んでいく。
サイン王はゲーム時代を思い出しながら無双して楽しんでいただけなのだが、その姿が中継されていることを後から知り恥ずかしがった。
そう彼は『子供のようにはしゃいだ』ところを見られて恥ずかしがったのだ。
その姿を見た者達は『殺しても死なない』姿に戦慄していたのだが彼はそのことを理解しておらず、ソレを訂正する者もいなかった。
「フェリグスの女王からの返事はまだか?」
巨人の首長達が囲炉裏を囲み話をしている。
皆、憔悴しきった姿をしており生気が感じられない。
「返事は暫く無いでしょうね。今頃、頭を抱えているでしょうから」
「何故悩むのだ。
あの女王は決断が早いという噂では無かったのか?」
サイン王によりウグク連合は弱体化した。
この機会をラウグ王国は見逃さないだろう。
今は政権交代で騒がしいが落ち着いたら連合に攻め込んでくるのは火を見るよりも明らかだ。
「フェリグスの女王は世界を征服するつもりなのだろう?
だからこそ白モヤシ(古エルフのこと)に領土を荒らされる前に神国と話をつけることにしたのだ。攻め込まれてからでは遅いからな」
サイン王は世界征服をする気は無いし、そんな話をしたこともない。
だが部下達がそこら中でソレを仄めかすような話をするせいで勘違いするものが後を絶たない。
「貴方たちは戦場のサイン王しか知らないからそう思うのは仕方がないことね。
でも私の見立てでは彼女はいい加減でモノグサな人よ。だから世界征服を考えているなんて信じられなかった」
巨人の神の一柱である大神に使える巫女ウォーダンが答える。
「私が思っている通りの人なら文句を言いながらも良い落とし処を見つけようと奔走しているのじゃないかしら。
彼女は義理や人情を大事にして何より揉め事を嫌う人だから悪いようにはならないはずよ」
「ここはお前の感想を聞く場所ではない。我々は国の行く末を決めるために集まっているのだぞ?」
ウォーダンはそれを聞くと微笑みながら答える。
「サイン王は人として正直に生きるためにアレだけの力を手に入れたのよ?
だから友人としてお願いするのが一番効くの。私に任せてちょうだい」
◇
古エルフのラウグ王国は混乱の只中にあった。
巨人のように正面切って戦わなかったので物的損害は少なかったが精神的な損害は少なくなかった。
籠城戦が多かったせいで蟲や死兵との交戦回数が多く、トラウマを植え付けられた古エルフが多かったせいである。
地面の下から無限に湧き続ける蟲、障害物をすり抜け魂を奪うと言われている死兵。
その噂の殆どが虚偽なのだが古エルフは蟲と死兵を恐れ、心に深い傷を負った者が多かったのだ。
そして何より恐れたのが先陣を切って攻め込んでくるサイン王の存在だ。
全ての障害を力でねじ伏せて暴れ回る姿に古エルフは今までに無い絶望を知った。
本人はゲームのノリで戦争をしていたのだが、周囲からは奇異な行動をする人間として認識された。
本人は王様が出たほうが結果的に戦争は早く終わるだろと思っての行動なのだが、相手からすると異常者にしか見えなかった。
そんなことばかりしているから国民から熱狂的に支持され、外国人からは引かれてしまうのだ。
「それでフェリグスの王はどうしている?」
「害人(巨人のこと)の扱いをどうするかで揉めている」
「我々にとってはどうでも良いが国内が安定するまでは、そのまま引っかき回しておいたほうが良いな」
古エルフの族長達はうなずき合う。
「あの女のせいでこれだけ迷惑を被ったのだ。少しは仕返しをせんと気が晴れんからな」
自分達も大概なのだが人は得てして自分のことを棚に上げるものだ。
「今は巨人などよりも向こう側の世界、魔法の無い世界について我々は考えねばならん。皆はどう思っているのか聞きたい」
機川が此方側の人間を助手として向こう側に連れて行って暫くの時間が経過した。
そのことで神が実在する此方側の為政者達も向こう側に興味を持ち始めたのだ。
「弱い魔物ばかりなのは魅力だな」
「魔法も使えぬ人間ならば扱いも簡単であろう」
「神がいないなら好き勝手してもいいと言うことか?」
古エルフは他種族を侮ったことで痛い目を見た過去がある。
その結果『やられる前にやれ』と考えるようになり相手との『格付け』は必要だと考えている。
「向こうの人間は身の程を弁えることを知らず諦めも悪いのだろう?」
「腹が減ったというだけで動物を絶滅するまで狩り尽くすと聞いたわ」
「名声のために国を滅ぼし、金のために自然を破壊する外道だそうだ」
「向こうの神とやらは貴族だけが人で他の者は家畜扱いするそうじゃの」
族長達は自国内にポータルが出現したときのことを考えている。
向こう側の世界は物資を大量に生産する環境と技術があるため、古エルフからはもしもの時の保険として魅力的な土地に見えている。
「火薬を使用した武器に対抗する手段を考えねばならんの」
「魔法に耐性が無いのじゃから洗脳してしまえばよいのではないか?」
「体の欠損を治す手段も無いくせに戦好きらしいのよね」
サイン王は向こう側の世界の人間をよく知っているため手を取り合うこともできるが古エルフにはそれが出来ない。
そのため支配するかされるかの二択になってしまい、どう支配するかを検討することになってしまう。
「噂話や報告書だけだと精度が上がらんな。
王国のためにも枝を伸ばす場所を間違えることは許されんからな。やはり実際に見てきて貰うしかないか……」
「それなら私に任して貰えないかしら。
私ならサイン王と親しい間柄だし貸しがあるから多少の無理も利く。丁度、親戚の子が仕事で向こうに連れて行かれているから理由もあるわ」
灰森の族長セイフェンが名乗りを上げる。
「向こうの人間を知るためにも社会的地位のある人間を何人か我が国へ招待したいと考えているのよ。
彼らは長寿と美に強い憧れを持っているようだからきっと喜んで協力してくれると思うわ。フェリグスからのお零れを貰うだけじゃ嫌ですものね」