リグナルドはリアルさを追及したせいで膨大なパラメータ管理が必要となったクソゲーだが設定厨には最高のシミュレーション環境だ。
キャラクターの設定を細かく設定すればするほどAI管轄下になったときに人間のようなリアルな反応をしてくれるNPCになる。
希にAIとの解釈違いが発生することもあるが、それも新鮮な驚きとしてコアなプレイヤーは喜んで受け入れた。
サイン王の中の人もリグナルドの魅力に取り憑かれ、中身から外見まで何から何まで厳選したキャラクターを作成し世界中に配置した。
そして各地を旅して周り、綿密に計画したタイムテーブルに従って自分の作成したNPCを仲間に加えていくロールプレイを楽しんだ。
旅の最終目標は誰も手を付けていない強力な魔物が徘徊する辺境の地に自分の王国を作ること。
はみ出し者達を集めて理想の国家を作り上げ、世界に自分達のことを認めさせること。
そのためには大好きな内政に励むだけでは無く戦争に勝てる国にしなくてはいけない。
世界中のプレイヤーの行動を学習しているAI国家に勝つためには、此方も本気を出して戦力を整えなければならない。
このような事情があってサイン王の部下は一騎当千のキャラクターばかりになった。
あらゆる状況に対応するために検討を重ね、各キャラクターとの相互作用や相性を考えて準備した。
その結果、サイン王の部下は尖った性格のものばかりだ。
普通の人間では得られない力を持っている人物は常識に囚われない考え方をし、一般人とは異なる選択をしつづけるものなのだ。
だからこそ心を繋ぎ止めておくためには細心の注意を払う必要がある。
配下として言うことを聞いてもらうためには相手が欲しているものを与える必要がある。
何せ相手は金や地位などに価値を見いださない者ばかりなのだから。
ゲームの中なら心情や忠誠を示すパラメータに気をつけていれば良い。
不快と取られるような言動をしないよう気をつけて望む仕事を与えればそれだけで良かった。
だがサイン王をこの世界に連れてきた超常存在により、元NPCは性格もパラメータも忠実に再現された人として命を与えられた。
膨大なデータベースからより良いと判断した行動をするAIではなく、その時の気分や体調で意見がコロコロ変わる人に作り替えられた。
そのことをサイン王は心配している。
ステータスを見ること無く、自分が部下達を繋ぎ止めておくことができるかを絶えず気にしている。
根っからのゲーマー故にAI管理下のNPCイメージが拭えず、人の心を持つ人間として認識できずにいる。
部下の側から見たらサイン王は唯一無二の存在だ。
人外の力を持つ者達をまとめ上げ、普通の人と同じように扱き使い、全世界を相手取って戦い抜き、最後は宣言したとおりに建国を成し遂げた英雄なのだ。
サイン王にとっては綿密に計画したロールプレイを完遂したぐらいの気持ちだが、彼らにとってサイン王は伝説の偉人なのだ。
だから彼の側にしか自分の居場所は無いと思っているし、今後も彼が成し遂げることを手伝いたいと考えている。
サイン王から認められ褒められたいし、無能と切り捨てられることを何よりも恐れている。
「姉さん、あの子の様子が何かおかしくない?
なんだか怯えているような気がする」
「見ず知らずの所に飛ばされて不安なんでしょう。
まだ百歳にも満たない子供なのだから仕方がないわ」
ファロスヒルが正解である。
サイン王だけが身体は超人で中身は一般人なのだ。
身も心も超人に囲まれて、それらが指示を仰いでくるのだから情緒もおかしくもなるだろう。
「まったく廻神もおかしな事をしてくれたわね。
私達ごと異世界に飛ばすなんて」
「廻神かな?
あの子やベルナデッタを見るにそんな感じしなかったけど」
「実のところ誰でもいいのよ。
誰かのせいにできればね」
モーエレンの言葉にファロスヒルも『それもそうか』という顔をするが、実際に廻神だって被害者だ。
「それよりも貴方の蟲はどうなの?」
「順調、コロニーが出来てからは数も質も問題ないよ。
でも、こんな悠長にしててもいいの?
調べた感じ、国の一つや二つ奪えそうだけど」
ファロスヒルは仮面の男のことを気にしている。
彼女らにはまだ正体を知られていない謎の勢力がサイン王を誘き出すような動きをしつつ、勢力範囲を徐々に増やしていることを心配している。
初動の遅れは戦略の幅を狭めるし、彼女にとって後手に回るのは性に合わないからだ。
「あの子は統治の仕方がわからなかった前回を反省しているのよ。
前と違う方法を試してみるのは悪い事では無いわ」
「世界や常識が違っていても人は人だと思うけど。
結局は暴力で解決することになるんじゃないの?」
「そうね。
でも同時に『人からどう見られるか』ということもよく考えて。
特に私達はこの世界の異物なのだから」
ファロスヒルは『私達って向こうでもハグレ物じゃん?』という顔をする。
「いい?
貴方は『笑顔で手を差し出す人間』と『血塗れの手を差し出す人間』のどっちの手を取る?」
「両方怪しくない?」
「もう、いいわ。
言い方を変える」
モーエレンは溜息をつきながらファロスヒルに語りかける。
「私達は普通の人と較べたら強大な力を持っているから何をしても目立つの」
「そうだね?」
「だから行動に気をつけなくてはダメ。
あの子がせっかく友好的な雰囲気をだして信頼を築こうとしているのに、私達が後ろで死体を引きずり回していたら全てが台無しになってしまうわ。
私達は侵略者ではなくて『良き隣人』になろうとしているのよ?」