クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ大統領(偽)   作:けつだけせいじん

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ブリブリ王国の秘宝 3

 

 

「あ、貴女は一体……!?」

 

 

 恐る恐る話しかけて来る野原ひろし。

 それに対し、無言で佇む俺。

 

 彼の視点からしてみれば、だ。

 二者択一の選択を失敗し落下死すると思ったら、何故か愛する息子も飛び降りを計り、突然湧いてきた異物に助けられている状況だ。

 

 死ぬかと思った恐怖と、助かったという安堵で情緒が破壊されているらしく。

 その顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになり、目も当てられない。

 

 それでも尚、正体不明の存在に声掛け出来るだけ立派な大人と言えよう。

 

 だがしかし。その問いに俺は答えられない。

 

 

 何故ならば。

 

 

(ふんぬぬぬ! 重力操作キッツ! 二人分飛ばすくらい余裕だと思ったけど潰さない力加減ムッズ!)

 

 

 ーー全身全力で彼らを浮かばせて居たからである。

 

 

 いやちゃうねん。

 

 俺だってこういう事もあろうかと魔力でマネキンを造り、空へ飛ばす特訓を密かに行っていたのだ。

 

 ただ、意外と調整が難しくてね。

 ホンの数秒空中に浮かばせるだけで、圧力の調整ミスにより頭部から爪先にかけて捻れに捻れた現代アートが誕生したりもした。

 

 大統領ボディはとても頑丈なので、重力操術をいくら失敗しても平気だった弊害とも言える。

 

 それでも挫けずに特訓したお陰で、成人男性一人くらいなら何とか浮かばせるようになった。

 

 

 ……なったんだけれども。

 

 

「あ、あの……?」

 

 

 簡単に言うと、コレはすっごい疲れるのである。

 

 狙った相手を浮かせる為には右腕を突き出し、指定方向への照準を合わせ。

 対象がミンチにならないよう細心の注意を払う必要がある。

 

 更には今までの最長保持時間は五分。

 

 体調が良かった時で五分なのだ。

 

 生身の人間へ使う緊張感も含めると、集中力は更に減衰し制限時間も削られる事だろう。

 

 自分一人だけなら負担なんて無いも同然。膨大な魔力にあかせ、無限に飛び続けられるんだけど、こればかりはどうしようも無い。

 

 あと重力操術を扱えるのは余裕を持って三分、と言った所か。

 

 とても心許ない数字だ。

 ウルトラマンだって三分だけしか戦わないが、それは彼がシゴデキ人間だから良いのであって。

 無能な俺にはその十倍の三十分くらいは普通に欲しい。

 

 きっと野原ひろしの目には、便意を我慢したような顔でプルプルと右腕を震わせる愉快な女が映し出されているに違いない。

 カラータイマーがあればピコンピコンと赤状態で点滅している事間違いなしだ。

 

 なんてこった。カラータイマーが切れたらもう二度と立ち上がれないぞ。物理的に。

 

 

「お、おい! 動くなって!」

「だって息苦しいだもん」

 

 

 ならさっさと転移を使えば? 

 と、なるかもしれないが。残念ながら頭の悪い俺では能力の併用は無理なんだ。

 

 ただえさえ今は複数対象に分けて重力操術の権能を行使している。

 当然ながら宇宙人である大統領の体重は地球人類の比ではない。

 

 自分と相手側で重力を弱めたり強めたり調整しているだけで精一杯なのだ。

 他の機能を使う暇なんぞない。

 

 そこで野原ひろしの胸元でもぞもぞしていた野原しんのすけが漸くヒョッコリと顔を出した。

 

 

「おおー! 美人なおねいさ……ん……んん?」

「しんのすけ、どうした?」

「いや……なーんか見覚えがあるような。ないような」

 

 

 うーん、と眉を顰めてこちらを伺うその様子に。

 この世界に来た当初のことを思い出してしまい、そっと顔を背ける。

 

 いや……正味……あれ若干夢だと思ってたこともあるし……。

 地面に埋まって行ったのも不可抗力っていうかですね。

 

 

 あっ、まずッ。

 照準が定まらなくなり、重力操術が一瞬解けてしまった。

 

 慌てて再度彼らを空中に浮かせるも、野原ひろしは心胆寒からしめたらしく。

 顔がサッと青ざめていた。

 

 

「アトラクションみたいで楽しいね。とーちゃん」

「たのしかねぇよ!」

 

 

 くっ、気が散る……! 

 

 映画とかで野原家のピンチに陥った時のギャグ描写にゲラゲラ笑っていたが、当事者になると笑えないにも程があるぞ。

 冗談でも何でもなく、俺の肩に二人の命がかかっているのだ。

 

 とはいえ。

 さっきのアクシデントで解決策は既に見えた。

 他の権能を併用出来ないのであれば、使える状態にすれば良いのだ。

 

 つまり彼ら二人を地面に落とせばいい。

 

 

 勿論、さっきのように重力操作を解いて落とす訳ではない。

 そんな事をしたら落下の衝撃で死んでしまうし、助けに来た意味もないからな。

 重力操術を維持しつつ、高度を下げていって地面に彼らを下ろしたのち、転移させる。

 

 焦りで冷静さを失っていたが、少し考えて見ればなんてことはなかった。

 

 それはそれとして余裕が無いのは事実なので高速で地面に向かって進むのは変わらないが。

 

 

「うわあああああああ!!!」

「ほっほーい!」

 

 

 叫び声はシャットアウト。

 何か一人能天気な五歳児がいるが気にしない。

 

 こっちだって割と限界ギリギリで耐えているのだ。

 ちょっとやそっとの落下くらい我慢して欲しい。

 

 

 ひゅるるる、と風を切って進む事暫し。

 大して時間が経たない内に底が見えるようになった。

 

 これでもう大丈夫、と気を緩めたのも束の間。

 

 

 その全貌が明らかになった事でうげぇ、と俺は顔を顰めた。

 

 

 良くよく見ると、槍っぽい突起物が地面全体に等間隔で設置しており、このまま素直に降り立てば串刺しになる事受け合いだ。

 

 地上から落下しただけでも十分に死ねる高さだと言うのに、試練に失敗したものは何がなんでも殺すという殺意が見える。

 

 

「ヒエッ」

「あれ? もう終わりぃ? ……おわぁッ!」

 

 

 ちょ、ちょっと……不味い……かも……。

 

 漸く地面に近付いたと錯覚したせいで緊張の糸が途切れ、重力操作が甘くなっている。

 

 ロデオマシーンの如く上下に暴れ回る野原ひろし達。

 

 ほんとゴメン。

 俺が下手に介入したせいで一番割りを食ってる姿には同情を禁じ得ない。

 

 多分今だけは君が世界一不幸な男だと思うよ。

 

 

 しかし、どうするかなぁ。

 

 もう俺の我慢のダムは決壊寸前。

 地面に降ろそうとしても一面槍だらけの罠地獄。

 

 遅まきながら、地下に向かって進むのではなく、地上に戻れば良かったと思うものの、やってしまった事は仕方ない。

 こうなりゃ、一か八かで転移を試してみるか……? 

 

 いやダメだ。流石にリスクが高過ぎる。

 失敗したら即死する状況で試せる手段じゃない。

 

【いしのなかにいる】になんてなったら目も当てられない。

 現実にカント寺院があれば無いのが悔やまれる。

 まあ、あったとしても蘇生失敗する事が多いからどの道ダメだけど。

 

 

 壁でも殴ってそこに一時避難すれば……いや、それもダメだ。

 地形的にこの遺跡は海に囲まれている。

 

 万が一壁を破壊して海水が流れ込んできた場合、この遺跡は海の底に沈んでしまう。

 最終的にはそれでも良いのだが、秘宝を回収してない以上、その選択肢は取れない。

 

 

 万事休す、か。

 

 

 ……まてよ。何かで地面を埋める。

 その発想でいいんじゃないか? 

 

 大統領の魔力を使い、何かを想像して地面を埋めれば。

 

 

「おわああああああ!!」

「うおーーーー!」

 

 

 絶叫マシンもかくやという叫び声を上げ続ける二人。

 悪いな、もう時間が無い。

 追加でフリーフォール体験もプレゼントだ! 

 

 最後に思いっきり上に向かって飛ばすように重力操作した後、直ぐに解除。

 

 次に眼下に広がる槍っぽい罠達を排除する為、大量の土を創造する。

 土砂降りのように産み出された土はあっという間に地面を覆い、槍のような突起物を埋め立て、危険だった罠地帯を安全圏へと変貌させる。

 

 そして、丁度上に打ち上げた二人が落ちてきた所を重力操術で確保。

 

 埋め立て地へとリフォームした地面にそっと降ろしてやる。

 すると三半規管にダメージを負ったのか、地面の上に立つなり、ぐったりと倒れ伏す二人。

 

 

 ーーとりあえず、何とかなった。ヨシ! 

 

 

 一時期はどうなるかと思ったが、主人公達を助けれて良かった。

 いやまあ、俺が元の世界に戻れるならぶっちゃけこの世界の住人がどうなろうが余り関係ないけど。

 

 俺が変に介入したせいでバタフライエフェクト的に死ぬのは気分悪いしね。

 

 立つ鳥跡を濁さずとも言うしな。

 

 

 それじゃあパパっと後片付けをしますか。

 

 二人が回復しきらない内に、ブリブリ王国の大使館へと転移させる。

 次いでに潜水艦で放置されていた野原みさえも回収。

 

 眠りの呪いも解除して、先に送還した二人と同様大使館へと転移させる。

 

 これにて野原一家の冒険は終了だ。

 

 時間的にはまだ猶予はあるだろうが、チンタラしているとアナコンダ伯爵にブリブリ王国の秘宝を使われかねない。

 

 巻きで行かないとな。

 

 

 ……そういえばこれ、スンノケシ王子と一緒に帰還しないから、最後に受けたはずのブリブリ王国の宴とかも無視して帰るルートになるな。

 

 マジで良いとこ無しの最悪旅行になるのか。

 

 うん、マジでゴメン。

 命が助かっただけでも儲けものと思ってくれ。

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 ……そろそろだな。

 

 アナコンダ伯爵を追跡させていた大統領の詩と視覚共有を行い、待ち構えること暫し。

 

 ついにその時はやって来た。

 

 アナコンダ伯爵率いる一行が辺り一面、黄金で建造された巨大なホールケーキ擬きがある場所に辿り着いた時。

 その場所へ転移を開始した。

 

 

 ……途中から再度アクシデントが起きても対処出来るように、迷彩化してストーキングしていたのだが、大統領の角が思ったより邪魔で無理だった。

 

 遺跡の壁にガリガリとひっかけてしまい、折角透明人間になっていたのに音で気付かれそうになるとか、我ながら滑稽過ぎる。

 

 迷彩化していたお陰で、気の所為かと判断されたのだけれども。

 ふとした拍子に俺の存在がバレては元も子もない。

 

 大人しく諦めて、使い魔である大統領の詩だけを飛ばし様子を伺っていた。

 

 

 さて、そんな四方山話はさておき。

 ここからが正念場だ。

 

 アナコンダ伯爵が必死こいて階段を登って行くのを尻目に、光学迷彩で透明になっている俺は空中を悠々と飛んでいく。

 

 

 頂上付近まで行くと開けた平面があり、その中央には古めかしい壺が一つ鎮座していた。

 

 これこそがブリブリ魔人を眠らせている“ブリブリ王国の秘宝”。

 

 見た目はただの小汚い骨董品といった印象を受けるが。その実、ホワイトスネーク団が一つの国家を敵に回してでも欲した魔法の壺であり、俺が元の世界に戻る為に恋焦がれた願望器でもある。

 

 そんな願望器が原作では芸能人のサインを貰うために使われたってよ。

 神龍にギャルのパンティを願うくらい実に勿体ない使い方だ。

 

 ……そういえばあのギャルのパンティって誰のだったんだろう。

 態々ギャルの、と指定を付けていることから地球に現存する人物のパンティだったんだろうが。

 神龍がパンツ泥棒という字面だけで割と面白いな。

 

 

 そんなくだらない考えで暇を潰していると、やっとこさアナコンダ伯爵が頂上へと到着して、封印を解く例のダンスをし始める。

 

 これから手に入れる予定の栄誉、栄光を前にアドレナリンが出ているのか。先ほどまでゼェハァと息を切らせていたのに、良く踊れるものだ。

 

 だが、その気持ちは分からなくもない。

 

 何しろ、ブリブリ魔人はおよそ全能といっていい。

 願いさえ叶うのならば、地球全土を支配することが可能な程の力。

 

 それを目の前にして冷静になれ、というのが酷だ。

 

 かく言う俺も、これでようやく元いた世界へ帰れると、精神が高揚している。

 

 

 そして。

 疲れを一切見せない華麗な踊りを完遂させたアナコンダ伯爵が手を合わせると、ボワンと煙が出てブリブリ魔人が現れる。

 

 

 何百メートルもある地下空間。

 その天井に頭が届いてしまうんじゃないかと錯覚する程の巨体。

 

 威風堂々と腕を組み、此方を睥睨する姿は圧巻の一言。

 

 魔人と名乗るだけの気風を、並ならぬ上位者ということを。ただ立ち尽くしているだけと言うのに嫌でも感じ取ってしまう。

 

 

「おお、ブリブリ魔人よ……我が願いをォッ」

 

 

 させるか。

 

 早速願い事を口にしようとしたアナコンダ伯爵に向けてガンドを打ち込み気絶させる。

 そして近くまで来ていたオカマ二人組のサリーとニーナ。

 ついでにスンノケシ王子に邪魔されないように準備していた遮音と防御を兼ねた結界を張り、姿を現す。

 

 この時を待っていた。

 願いを叶えるこの千載一遇の機会を。

 

 邪魔者は排除した。

 横入りが出来ないように妨害対策もバッチリ。

 これでこの空間で言葉を発せられるのは俺とブリブリ魔人のみ。

 

 

 

「ブリブリ魔人よ。俺を元の世界へ戻してくれ!」

 

 

 魔人に対する願いは先に言ったもん勝ちなのだ。

 だから魔人解放の儀式を行った者に願いを叶えられる権利が与えられる、という訳では無い。

 

 ブリブリ魔人の眼前に居て、願いがその耳に届きさえすれば対象者は問わない。

 

 

 さあ、ブリブリ魔人よ。

 

 俺の願いを叶えてくれ! 

 

 

 そしブリブリ魔人は鷹揚に頷き。

 間髪入れずにこう言った。

 

 

「ーー具体的にはどこの世界に?」

 

「えっ」

 

 

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