クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ大統領(偽)   作:けつだけせいじん

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ブリブリ王国の秘宝 5

 

 

 ブリブリ魔人の拳が触れた瞬間、世界が裏返った。

 殴られたという認識が脳に届く前に、身体はすでに空を飛んでいた。

 

 足が地面を離れ、視界が高速で回転する。

 チカチカと脳内に火花が浮かび、風圧が全身を叩く。

 

 痛みに苦悶の声を上げる間もなく、地下世界の森林を盛大に巻き込み、薙ぎ倒し。何百メートルか進んだ所でようやく地面に着弾した。

 

 

 ーーいったい、なにが。

 

 

「頑丈だな。まだ死んでいないか」

 

 

 続けざまに迫る拳。

 

 立ち上がる前にブリブリ魔人は現れ、その巨体からは似つかぬ速さで俺の身体を殴打する。

 

 ドズン、と腕を振り抜かれる度に嗚咽が自分の口から漏れる。

 この世界に大統領の肉体を与えられ、暫く時を過ごしたものの。

 どんな事があろうともダメージを受けなかった無敵のボディが、ブリブリ魔人の猛攻に耐えれず悲鳴を上げている。

 

 

「う、がああぁッ!」

 

 

 受け身のままだと死ぬ。

 

 直感的に選択した行動は重力操術。

 空間を歪める程の重力を最大出力で解き放ち、我が身に降りかかる拳を排除しようとした。

 

 結果、ブリブリ魔人は咄嗟にバックステップをして、重力による攻撃を回避。

 

 だが、重力操術は俺の意思によって発生する権能だ。

 発動するまでは何の前触れ、予兆すらなく、ひとたび起動させれば重力の網にかからない存在などいない。

 

 ブリブリ魔人は致命傷こそ避けたものの、攻撃に使用していた両腕は見るも無惨な有様となっている。

 上腕骨より下は捩じ切れ、濁流のような血をドバドバ流し地面を真っ赤に染め上げていく。

 

 

 何が何だかよく分からんが。

 とりあえずこれで両腕は使い物にならなーー

 

 

「ふんっ」

 

 

 ブリブリ魔人は一声気張り。

 ずりゅりゅ、と。失った両腕を秒速で再生させた。

 

 

 はああああ!? そんなのアリかよ!! 

 何処ぞのナメック星人を彷彿とさせる再生をするな! 

 

 

 一瞬でもぎ取った両腕を再生したブリブリ魔人。

 対して痛痒を感じていなさそうな風貌に、より一層恐れの感情が深まる。

 

 

 だ、だが、こっちだって重力操術のバリアがある。

 展開中、奴も迂闊には近付けはしない。

 両腕を再生したというのに、即座に攻撃へ移らないのがその証拠だ。

 目の前にいる黒いブリブリ魔人は何時でも襲いかかれるように身構えてはいるが、俺の重力操術を警戒してか近寄る真似はしなかった。

 

 冷静な判断だ。

 未だかつて使用したことの無い全力全開の権能の解放。

 密集していた木は砕け散り、草花は崩壊し、地面一体は更地と化した。

 迂闊に近寄れば全身挽肉になること受け合いだ。

 物理攻撃が俺に通用しない以上、向こうは打つ手ナシとも言える。

 

 このまま時間稼ぎをして何らかの打開策を練る。

 

 ……いや、なんならむしろ攻勢に出るべきか? 

 今の俺は攻防一体。

 あれだけ叩き込まれたブリブリ魔人の拳でさえ、容易く破壊することが可能な強さだ。

 

 今なら重力操術を展開したまま接近するだけで大ダメージを喰らわせられる。

 

 幸いブリブリ魔人が使用するのは拳のみ。

 新手としてビームやらなんやらを使われないうちに重力操術で一気にカタを付ける。

 

 すーっ、ふーっ、と、深呼吸を行う。

 初めて自分を殺しうる存在との決闘に、いつの間にかガタガタと震えていた手を抑える。

 

 大丈夫。俺はやれる。俺は出来る。

 

 

 

 だが、そんな俺の甘い目論見は、次の瞬間あっさりと打ち砕かれる事になった。

 

 重力操術の過剰負荷により権能が機能不全を起こす、といった事故によって。

 

 

「は?」

 

 

 いや待て待て。オカシイだろッ! 

 なんで、こんな。唐突に。

 

 いや。FGOでも思えば大統領は重力操術を主に自分の体を浮かせるといった事でしか使用していなかった気がする。

 

 その原因が、機能不全による停止が発生するからだと。……そんなの分かるわけ無いだろ! 

 

 

 余計な思考を巡らせてしまう。

 戦場では一瞬の隙が命取り。

 

 ブリブリ魔人は重力操術を解除した今を好機だと思ったのか、地を蹴り進み、再び俺へと拳の乱打を仕掛けようと飛びかかった。

 

 

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 

 

 

 ブリブリマウンテン島遺跡。

 その地下深くにある黄金郷にて、俺は腰を抜かして座り込んでいた。

 

 

「あ……っぶなッ!」

 

 

 ブリブリ魔人が再び攻勢に出た時。

 俺は咄嗟にアナコンダ伯爵を追跡させていた大統領の詩を通じ、転移を発動した。

 

 マジで危なかった。

 あとほんの一秒でも転移が遅れていれば重力操術が使え無くなった以上、為す術なくタコ殴りにされる運命を辿っていた事だろう。

 

 

 クソッ。俺が一体何をしたっていうんだよ。

 

 

 ブリブリ魔人の殺意に晒され、恐怖した心を誤魔化すように壁へと手を叩きつける。

 黄金で形成された壁が窪み、そこからいく筋もの亀裂がピシリと走る。

 

 パラパラと空中に金粉が舞う最中、グッと歯を噛み締める。

 

 こんな行為をしている場合ではないのは分かっている。

 だが初めて迎えた死の恐怖。

 与えられた極限のストレスを無視し、気丈に振る舞えるほど、俺は人間が出来ていない。

 

 理不尽に与えられた境遇に対し感情を発散せずには居られなかった。

 

 

 ……その甲斐あってか、少し落ち着いた。

 茹だった頭も冷静さを取り戻し、緩やかに回転をし始める。

 

 

 今回は危うく難を逃れた訳だが、どの道対して時間を稼げないだろう。

 

 ブリブリ王国と日本は海を隔て、何千キロメートルもの距離があるが。

 映画ではサインを貰う時間を含め、異常な速さで日本からブリブリ王国へ帰還してきた。

 こうして日本からブリブリマウンテンの遺跡へと転移しても、ホンの数分時間を稼げるかレベルだ。

 

 だが、その数分あれば十分。

 

 何故ブリブリ魔人が攻撃してきたか分からないが、俺のやるべき事はただ一つ。

 

 結びの鍵を使い、ブリブリマウンテンの遺跡を葬り去ることだ。

 

 何故遺跡を葬りさる結論に至ったのかというと。

 実の所、ブリブリマウンテンの遺跡崩壊とブリブリ魔人が収められた壺は連動している。

 

 この冒険活劇の元となった映画では結びの鍵を使い、遺跡が崩壊しだした途端。

 封印の壺に吸い込まれるようにしてブリブリ魔人は消え去った。

 つまるところ、ブリブリマウンテンに現存する遺跡は崩壊すると同時に、願いを使用した時と同じく、現存する壺が黄金の中へと沈みゆくのだ。

 

 正常な状態で召喚された訳ではない黒ブリブリ魔人も、この手法ならおそらく通じる。

 

 壺が黄金の中に埋もれる以上、再度這い出して来る。なんて事にはならないハズだ。

 

 それゆえ遺跡を何としてでも海の底に静めねばならない。

 

 今の所俺にある勝機はそれだけだ。

 大体、大統領ボディにダメージを与える奴とかマトモに相手取りたくないし。

 

 楽に打倒しうるならそれに越したことはない。

 

 

 そして肝心要の結びの鍵について、だが。

 

 

 遺跡を崩壊させる為には鍵が二つ必要だったりする。

 一つは紛失していたが、野原しんのすけに代わり俺が探し出し。

 もう一つはブリブリ王国の王家が代々伝承しており、今を生きる最新の血筋。スンノケシ王子が所持していた。

 

 

 そう、所持していた、だ。

 

 フフン。

 

 こんなこともあろうかとスンノケシ王子をブリブリ王国に飛ばす際、鼻の形をした石をスリ取って胸元に収納していたのさ。

 多分使うことは無いだろうと考えてはいたが、万が一、といった事もある。

 現在進行形でその万が一が起こっているので、事故に備えた判断は良かったのだろう。

 

 ごそごそ、と胸元に収めていた石を掴み取り、バッと外に取り出す。

 

 

 ブリブリ魔人よ。

 なぜ俺に殺意剥き出しで襲いかかって来たかは知らないが、残念だったな。

 

 お前の封印方法なんてこっちはハナから履修済みなんだ。

 念の為に探し出しておいて本当に良かった……! 

 

 

 ーー果たして。

 広げた手の平にあったのは粉々に砕け散った石の破片だけだった。

 

 マジマジと手の平を見つめても、其処には見事なまでに破壊された石だったものがあるだけ。

 パラパラと指の間から捉え続けれなかった破片が地面へと向かって落下して行く。

 

 

 おわーッ! ワーッ! ワーッ! 

 重要な鍵が砕け散ってるやんけぇ!? 

 

 

 わなわなと震え、思わず取り乱してしまう。

 どうやらブリブリ魔人の猛攻撃を受けた際に、石の耐久値は削れ切り、粉々になってしまったようだ。

 

 これでは鍵の役目を果たせそうにない。

 

 

 どーすんだ。コレ! 

 

 豚の鼻石がないと遺跡が崩壊出来ないんですけど!? 

 

 

 悪い事は重なるもので。

 

 あたふたと狼狽している内に、黒いブリブリ魔人がザッと追いついて来た。

 スタイリッシュに片膝を立て着地した彼は有無を言わさず俺に向かって飛びかかる。

 

 

「盗掘者には死を」

 

 

 うわ、ちょっ、不味いって! 

 再び攻勢を仕掛けて来た相手に対し、いつの間にか復活した重力操術を用いてガードする。

 

 先程の焼き増しのようにブリブリ魔人は後方へとステップを刻み、失った腕を再生させる。

 

 先程行った失敗は荷重負荷による権能の不活性化。出力は大分絞ってあるので、体感で言えばこのままだと約一分は持続可能だろう。

 

 

 ……また春日部の地下世界にでも逃げるか。

 いや、一分も時間があれば平行世界にも逃げ込めるか? 

 

 アクション仮面VSハイグレ魔王の戦闘があった際、大統領の詩を向こうの世界に派遣し続けている。

 

 いずれ役立つ機会があれば、と考えていたが。

 今がその時では? 

 

 流石に平行世界ならいくら魔人の力と言えども進出はーー出来そうだな。ウン。

 

 

 平行世界の移動は辞めておこう。

 いくら大統領の魔力と言えども無限に汲み取れる事はない。

 世界の移動には膨大な魔力を捻出しなければならないので、向こうの世界まで追ってきた場合の事を考えると、魔力の浪費は惜しまざるを得ない。

 

 とはいえ、このまま魔人に攻勢を仕掛けるってのも当然ナシ。

 

 重力操術は今の俺の命綱。

 切れた途端なぶり殺しにされる危険性を孕んでいる。

 無限に使い続けられると錯覚していた時分ならともかく。倒し切れる保証も無しに、一か八かの特攻をするのは早すぎる。

 

 本来の大統領ならブリブリ魔人相手と言えども余裕で渡り合えたんだろなぁ。

 だが、生憎と俺は偽物。

 強大な器に対する中身を伴わない。

 

 だからこうして無様に逃げ回ってるワケで。

 

 

「いい加減、逃げ回るのは辞めたらどうだ。その強靭な肉体がありながら、なんと軟弱な精神性か」

 

 

 穴熊を決め込んだ俺に対し、そう煽ってくるブリブリ魔人。

 その狙いは魂胆は重力操術を切らした後の撲殺だろう。

 

 

 はっ、そんなの言われなくても分かってるさ。

 

 俺は本当の大統領なんかじゃない。

 ただの凡庸で平凡な一般人だ。

 

 でも、どうしろって言うんだ。

 

 抗うすべが重力操術しかない以上、無様に尻尾を巻いて逃げるしかないというのに。

 

 

 ーー本当に、そうか? 

 

 

 自問自答する。抗うすべがない。

 確かにその通りだ。

 

 ただし、“現状”はの話だ。

 

 元の大統領なら。

 俺じゃない地球国家元首の彼女なら。

 一体この状況にどう対処しただろう。

 

 ……決まっている。

 不敵な笑みを浮かべ、「こんなの大した事ないわね」と言いブリブリ魔人を殴り倒すに違いない。

 

 

 俺は何故そうしないのか。

 

 

 ……決まっている。

 大元の大統領のような力を引き出せないからだ。

 大統領ボディを上手く扱えないからだ。

 

 

 思い出せ。

 目の前にいる黒のブリブリ魔人の言葉ではなく。

 白いブリブリ魔人が言った言葉を。

 

 

 過剰な負荷をかけていた重力操術が切れる。

 

 

『同調し、同化し、同意するのだ。その器に。さすれば道は開かれるだろう』

 

 

 最大出力で行っていたような空間の歪みはない。

 対峙する黒いブリブリ魔人は重力操術が切れた事に未だ気付かず、臨戦態勢のままだ。

 

 ああ、いいとも。やってやるさ。

 

 

「俺が……いいや、()こそがッ!」

 

 

 カチリ、と歯車が脳内で噛み合う幻聴が聞こえた。

 

 肉体は精神と同調し、新たなる権能を引き起こす。

 

 

 黒いブリブリ魔人はそこで重力操術が切れたことを察知し、宝を盗んだ不届き者を今こそ殺めんと迫り来る。

 

 

 そんなブリブリ魔人の殺意満点の攻撃を。

 

 

 対等に成長した目線で。

 巨大で強大な重力操術なしには防げなかった拳を。

 

 

 同じく“巨大化”した手の平で掴み取る。

 

 

 俺が新たに獲得した権能。

 それは徳用大景観(グランチェンジ)。

 

 大統領が持つ七つの超権能が一つ。

 効力は見ての通り、肉体の巨大化で。

 

 

「私の名は地球国家元首にて人類の友……」

 

 

 グググッと掴み取った右手とは反対の左手を引き絞り、勢いを付けて振りかぶる。

 

 

「U-オルガマリーであるッ!!」

 

 

 意表を突かれて、一瞬隙を晒したブリブリ魔人。

 その顔に向けて今迄の鬱憤を晴らす為。

 

 左手の拳を顔面に叩き込んだ。

 

 

 

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