クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ大統領(偽) 作:けつだけせいじん
アクション仮面は俺の懸念通り、アクションストーンが無ければアクションビームが放てない様子だった。
むべなるかな。
実はアクション仮面がメインとなったのは映画アクション仮面VSハイグレ魔王だけではなかったりする。
アクション仮面がメインで出たのは二回。
現在進行形で発生している物語とは別に、嵐を呼ぶジャングルという作品で。
ヒーローではなく、超人でもなく、“俳優”として登場する。
……そう、あくまでも俳優として、だ。
まるで映画一作目の存在等無かったかのように、立ちはだかる敵と対峙した際。
アクションビームといった超常の力を一切使わず。
あくまでも人間として習得しえる技術のみを以て戦闘を行うのだ。
ハイグレ魔王と正々堂々勝負する為に自らアクションビームを封じ、剣戟に興じた事もあるが、人質がいる状態でわざわざ自分の矜恃を守る為に武器を縛る程愚かでもない筈だ。
よって嵐を呼ぶジャングル編のアクション仮面は一作目とは違い、本当に超常現象を起こせない極々普通の一般人と考えるべきなのだ。
これだけなら世界線が違うパラレルワールドなんだな。
と思いきや、冒頭シーンに野原しんのすけと面識がある素振りを見せる。
ただのファンと芸能人というには余計な感情の発露は見受けられない。
二度や三度遭遇した所ではない。
まるで苦楽を共にした冒険をした事があるかのような親密度。
そんな風に明らかに一作目の系統を継ぎながらも、超人ではなく常人として振舞っている矛盾が生じる。
現実と地続きになってしまった今。
おそらくアクション仮面は嵐を呼ぶジャングル編にてアクションストーンを所持していないからアクションビームが使えない、といった判定になるのだろう。
良く出来ている。
でもそんな訳で世界がハイグレ魔王に支配されるかもしれないんだけどね。クソがよ。
矛盾とかバグとかあっても良かったからハッピーエンドで終わらさせてくれよ。
何が悲しゅうて男のハイレグ姿が世に溢れかえらなきゃならないんだ。
「本当に行かなきゃダメかなこれ」
そう口にするも、本心では行かなきゃ色々な意味で終わると思っている。
何せハイグレ魔王はアクションストーンなしでも世界を移動する事が出来るのだ。
第二地球を制圧したら第一地球へと侵略してくる事が容易に想像出来る。
ぶっちゃけ、第二地球で誰がどうなろうと一向に構わないのだけれど。
俺が今拠点としている第一地球にまで害が及ぶとなれば話は別だ。
重い腰を上げて動かねばなるまい。
俺のかけていた保険がこうも早く活きる事になるとはな。
野原一家が第二地球へと到着してから翌日。
世の中がハイレグ一色に染まっている中。
時空間移動装置まで潜り込ませ、野原一家を監視させていた使い魔を一旦離れた山中へと飛び立たせる。
さて。始めるか。
「時空座標捕捉。アンカー固定」
言の葉を紡ぐ。
天使の詩を模して作った使い魔。
大統領の詩(プレジデントリート)とでも言うべきか。
魔術式は最低品質。
初心者が無理くり形だけを整え具現化した最低最悪の粗悪品。
その使い魔に込められた魔力量は並の英霊七騎分にも相当するだろう。
聖杯にも匹敵する莫大な魔力リソースを使用し、運用期間はたったの十日間。
その機能は実にシンプルで、搭載されているのはたったの二つだけ。
一つ目は主人との五感完全リンク。
二つ目は転移を行う際の要石になる事。
そう。つまり。
今から行う事はマスターが令呪を以って命じる転移と同じことだ。
魔力の繋がりを辿り、擬似的なマスターとサーヴァントのような関係を作り出している、と行ったら分かりやすいだろうか。
これが俺のかけていた保険だ。
本当に気は進まないが、バッドエンドに到達する可能性に気付いてしまったからには行かねばなるまい。
「我が名のもとに命じる。大統領の詩よ。道を示せ」
膨大な魔力を消費し、俺は第二地球へと飛び立った。
「ふう、成功したか」
先程まで繋げていた視界と同じ場所に立ち、安堵の息を吐く。
地下世界で短距離転移は何度も練習してはいたが、異世界への転移は初めてだ。
少しばかり失敗するかもと緊張した。
ぶっちゃけこれ、平行世界への移動という観点で言えば第二魔法みたいなもんだしな。
宝石翁ゼルレッチが所有する第二魔法。
平行世界の観測・運用。
世界線を移動するということはその領域に片足を突っ込んでいる。
要石の役割を果たす大統領の詩が無ければ、幾ら魔力を用いたとして転移が叶うことは無かっただろう。
無論、勝算はあった。
それは人類悪たる獣が持つ単独顕現だ。
FGOでカルデアに召喚されていた大統領は召喚事故で呼ばれた際にこのスキルを消失してしまったが俺は違う。
霊体化が出来ない以上、本家本元。
カルデアと敵対していた頃の完全な肉体を所持している。
だが肉体と精神の一致が完璧でない以上、殆どの権能は扱えない。
勿論、単独顕現のスキルも例外ではない。
しかしながら、カルデアに召喚された殺生院キアラはこれを封印しながらも恩恵を受けている部分がある。
すなわち、時空間攻撃の無効化である。
権能は扱えずとも、肉体には耐性が宿る。
それ故にこの移動方法は安全だと推定した上で、転移を実行した訳だ。
結果はご覧の通り無事成功。
俺の推論は正しかったらしい。
にしてもこれを技術化した第二地球側の科学者が凄すぎる。
いくらギャグ漫画が原作とはいえレイシフトを編み出したカルデア並の特異点となってないかこれ。
ハイグレ魔王?
あいつはもう存在自体がバグみたいなもんだし……。
「ん?」
ぐしゃ、と不意に足が何かを踏みつけた感触がした。
何かと思えば大統領の詩の残骸が辺りに散らばっていた。
長距離転移により負荷がかかり過ぎたらしい。
内蔵していた魔力が尽きて自壊したようだ。
まあこんな非常事態は滅多に起きない。
改善はしなくても問題ないか。
ぶち、と髪の毛を数本抜き新たな使い魔を作成し、再び野原一家監視の任務に付けさせる。
これからの方針だが、既に決めている。
その目標は単純明快。
ハイグレ魔王の弱体化作戦だ。
要するに二人分のアクションパワーが無ければ倒せないほどハイグレ魔王が強いのであれば。
発想を逆転しよう。
二人分じゃなくても、一人分のパワーでも倒せる様に弱体化させれば良いのだ、と。
使用する魔術も至って単純なもの。
それはガンドだ。
遠坂凛によってガンドは物理的攻撃をしているイメージが強いが、実際は指差した相手を呪う事が主な呪術である。
ゲームでも英霊、精霊、魔獣、神霊と種族は問わず精神耐性持ってないやつは尽くスタンされているし。
魔力が少ないと評されている主人公。
礼装の補助があれど、それでも強大な敵を一瞬とはいえ動きを止めることが出来る。
ましてや大統領程の魔力を用いてのガンドとなれば、結果は火を見るより明らかだ。
いくら超能力っぽい力を持つハイグレ魔王と言えど、膨大な魔力を使用したガンドに加え、アクションビームを浴びせられたらひとたまりもないだろう。
勝ったなガハハ。
最終決戦が起きてアクション仮面とハイグレ魔王が対峙する時。
それ迄の間スタンバっていよう。
絶対にハイグレ光線なんて浴びたくないからな。
今着用しているワンピースくらいならギリギリ許容範囲内だけれども、ハイレグ姿は精神的なアウトラインを余裕で飛び越している。
必要最低限の事以外はせずに隠れているに限る。
さて、野原一家の様子はっと。
早速先程作り直した使い魔とのリンクを開始する。
果たして、そこにあったのは。
野原しんのすけを除き。
カスカベ防衛隊、幼稚園の先生、野原一家。北春日部博士。桜リリ子。それ以外の面々。
居並ぶ全員がハイグレ化した姿だった。
ーーーーは?
野原しんのすけは、現在窮地に陥っていた。
「アクションストーンは何処にあるの?」
北春日部博士の研究所。
Tバック男爵の襲撃に合い、避難場所として逃れた場所だったが。
既に洗脳されていた松坂先生が裏切り、ハイグレ魔王の手先となっていた為。
避難先の研究所の場所も突き止められ、研究所を守護していたバリアも解除され。
陥落の憂き目に遭っていた。
いち早く反応した桜リリ子はとある秘密兵器に野原しんのすけを搭乗させようとしたものの。
辿り着く前にハイグレ光線をその身に浴びてしまい、ハイレグ姿となってしまっていた。
「そ、その子が……食べてしまって。今お腹の中に……」
そう口にしたのは北春日部博士。
歳をとり新陳代謝も衰え中年太りをした身体。
着用したハイレグがミチミチと悲鳴を上げている。
どうやらハイグレ光線には洗脳効果もあるらしく、多少は抗っている表情も見せるが、松坂先生同様に何れはハイグレ魔王の下僕となるだろう。
「へえ、そう。この子が」
ハイグレ魔王の手下。幹部である彼女達。
ハラマキレディース達がジロリ、と睨めつけるような視線で見やる。
野原しんのすけは、うっとたじろぎ。
じりじりと後退をする。
「何処にいこうっていうの?」
「ちょっと、お、おトイレに……」
「嘘おっしゃい」
三人いるハラマキレディースの内一人が手にしていたハイグレ銃を放ち、眼前にいる少年に当てようとするが、小さな身体を活用し、ひらり、ひらりと紙一重で避けられて行く。
「ちっ、ちょこまかと……!」
他の二人はこんな子供相手に何やってんの、と傍観しており手を貸す様子は無い。
「うっ、おっ、……ッ」
野原しんのすけは暫く避ける事が出来ていたが、ふとした拍子に転んでしまう。
それはつまり。この短い戦闘の決着を示していた。
「ふふ、これが年貢の収めどきってヤツかしら?」
スチャ、と銃身を構えて。
今度は光線を外さないように、と狙いを定めて行く。
絶対絶命のピンチ。
もはや逃れようの無い最悪の光線。
野原しんのすけはギュッと目を瞑って、恐怖から逃れようとした。
当然敵対している子供を見逃すはずもなく。
ハイグレ銃がいざ放たれようとしたその時。
『ちょっと待ったあーーー!』
何処からか響いた声。
何者かとハラマキレディース達が視線をさまよわせていると。
『もう大丈夫。何故って?』
頭上にあった天井から、ズドン、と勢い良く誰かが落下して来た。
ガラガラとコンクリート片が崩壊により落ちてきて、埃が舞い落ちる。
『私が、来た!』
その場に聞き覚えのある声が響き渡る。
埃が収まり、野原しんのすけが目をひらくと。
自分が憧れたヒーロー。
どんな時にも輝く一番星。
大胆不敵な笑みを浮かべ、庇護するべき子供を安心させる存在感。
そこに居たのは、アクション仮面。その人だった。
「何故アクション仮面がここに!?」「ええい、丁度いい。やっつけてしまえ」「アクション仮面、覚悟!」
『しんのすけ君。話は後だ。ここは危険だから早く脱出するぞ』
そうやって差し出された手を握り、立ち上がって走り出す。
零しかけていた涙をぐっと拭い奮起する。
「馬鹿め。何処へ逃げている。そっちは壁だ」
しかし、入口は敵が塞いでいる。
反対方向に逃げたはいいが、出口はなく。行き止まりしかない。
『ないなら作れば良いだけの話だ』
しかし、アクション仮面はこんな危機的状況下においても笑みを浮かべ、壁に向かって腕を大きく振るう。
『アクショーン、パァーンチ!』
ドゴォッ! と軽く放ったような一振りだけで壁を殴り壊し、脱出口を無理やり作り出したのだ。
あんぐりと口を開けている敵達を尻目に、二人は脱兎の如く逃げていった。
暫く走っているうちに、追っ手は居なくなった。
どうやら無事に逃走する事に成功した様だ。
はぁ、はぁ、と切らした息を整え。
野原しんのすけは出会った当初から気になっていた疑問をぶつけることにした。
「ねぇねぇ、アクション仮面」
『なんだい』
テレビに出ていた“うそんこ”のアクション仮面のような違和感はない。
身体も、声も、顔つきも。ありとあらゆる要素がアクション仮面そのもの。
自分を助けた事といい、アクション仮面自体を疑う事はない。
しかし、このアクション仮面には普段と違う点がただひとつあった。
「その頭らへんにある、ツノってなに?」
それは彼の頭の周囲に白い角が二本、浮遊している事である。
一体何頭領クション仮面なんだ……!