クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ大統領(偽)   作:けつだけせいじん

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アクション仮面VSハイグレ魔王 4

 

 

 

『…………』

 

「アクション仮面……?」

 

 

 俺が無言でいる事に疑問を感じたのか、首を傾げて名前を呼んでくる野原しんのすけ。

 

 

 ツノ、ねぇ。

 

 視線を左右に走らせると、そこには夢や幻などではなく、しっかりと二本の白い角が存在している事が分かる。

 

 ……やべ、隠すの忘れてた。

 

 

『こ、これかい? これは今回の秘密兵器さ』

「秘密兵器!?」

 

 

 多少声を上擦りながら返答する。

 それに対する反応はと言うと、キラキラと目を輝かせて適当に吐いた嘘をすっかり信じている様子である。

 

 やはりアクション仮面の“ガワ”を纏っているお陰か無条件の信頼を得ているみたいだ。

 

 咄嗟の判断だったがベターな選択だったのでは無いだろうか。

 

 

 

 あの時、野原しんのすけを除いて春日部の面々が全滅している所を見て。

 すぐさま救助に向かう為、大統領の詩における転移を実行していた。

 

 

 そして転移をする数秒間の猶予の中で、ふと思った。

 

 

 仮に助けに行った所で、なんて説明すれば良いんだ、と。

 

 

 俺からしてみれば野原しんのすけは世界の主人公であり、それなりに愛着のある存在だ。

 

 それ故に監視を行い、陰ながらサポートする気でいた。

 

 しかし反対に彼の視点からすれば、急に何か出てきた知らない女、としか思われないだろう。

 出会った当初、唐突に地面にめり込み続けて居なくなった前科もある。

 

 そんな圧倒的不審者感満載の女が唐突に現れ、君を守りに来たと抜かすのは恐怖でしかない。

 

 ……いや、割とあの助平心丸出しの五歳児なら大統領の見た目に惹かれて何とかなるかもしれないが。

 

 

 ともかく。円滑な手助けを果たすためにも。

 

 俺が取った手段はご覧の通り、アクション仮面の肉体、声、顔を模倣した“ガワ”を魔力で形成し、身に纏う事だった。

 

 その際、隠密魔術を解除した時に、うっかり角にかけていた方も含めて全部解いてしまっていたらしい。

 

 なんとか誤魔化せたかな、と思ったのも束の間。

 

 

「どんな機能があるの」

『え!?』

 

 

 しかしながらそこは子供らしい好奇心で秘密兵器の内容を知りたがって来た。

 

 

 

『す、すまないが、それは言えない』

「ええ……なんで……?」

 

 

 秘密兵器でもなんでもない身体的特徴でしかないからだよ。

 

 そう言いたい気持ちをぐっと堪えて、さも真剣な顔ですよ。と言わんばかりのキリッとした表情を作る。

 

 

『監視の目が何処まで広がっているか分からない。だから使う時まで誰にも秘密にしなくちゃあいけないんだ』

 

 

 こう言うと、多少むっつりした感じではあるが納得してくれた。

 

 普段の日常回であればもっと知りたいとオネダリしても可笑しくは無いのだけれど。

 余程自分以外の人達が全滅したのが堪えたのだろう。

 

 実際、さっきもハイグレ銃を向けられてハイグレ化する一歩手前まで行ったのだ。

 

 ハイグレ魔王の恐ろしさを身を持って知ってしまっている。

 

 

 何より、憧れの存在であるアクション仮面に対し、比較的素直になるのが野原しんのすけだ。

 

 ハッキリと言えないと宣言された以上。

 迷惑をかけられないと思い素直に引き下がったのだろう。

 

 まあ俺ってば偽物なんだし、秘密兵器ってのも事実無根の嘘なんだけれども。

 ちっとばかし純粋な子供を騙すのは胸が痛むね。

 

 

 というより、今更だがなんで全員全滅したんだ? 

 映画のままだと桜リリ子がスーパー三輪車の元まで無事誘導出来ていたハズなんだけど。

 

 

 映画通りなら研究所の襲撃は既定路線で。

 

 三十キロ未満の人しか乗れない色々機能が搭載された三輪車に主人公が乗り、ハイグレ魔王の幹部達と空中戦を繰り広げ、ハイグレ魔王の拠点まで向かうのが本来の流れだった。

 

 しかし現実はこの有様。

 

 研究所にいた全員ハイグレ化しているし、しんのすけも危うく後一歩の所でハイグレ化してしまう所だった。

 

 

 ……そういやアクション仮面達が選定したアクション戦士って、もしかしてスーパー三輪車に乗ること前提の単騎特攻だったんじゃないか。これ。

 

 

 第二地球の交通機関は麻痺しているし、公道にはハイグレ光線によりハイグレ化した人達が元気にハイグレしている。

 

 とてもじゃないが普通の移動手段なんて取れやしない。

 

 車を運転し、ハイグレ魔王の拠点である新宿に向かおうとするなら、何人もの人達を弾き飛ばす位の覚悟を決めて望まなきゃ到底無理だ。

 

 その点、スーパー三輪車で空中を移動するなら自由に動けるし、ハイグレ化した人達を轢き殺す心配も無い。

 

 ハイグレ魔王は日本各地に手下を派遣しているようで、本拠地には誰も手下がいなかった。

 道中の手下達を無視すれば体力を温存出来るし、数の暴力で叩き潰される心配もない。

 

 後はハイグレ魔王の拠点でアクション仮面を呼び出し、タイマン勝負に持ち込めれば勝機が生まれる。

 

 

 そう考えると、アクション仮面カードを集めるのなんて大半が幼児だろうし、理にかなっているのか。

 アクション戦士を決める選出基準は改善した方が良いとは思うものの、決して間違った判断と言えないのかもしれない。

 

 

 まあそんな考察は一旦置いてこう。

 今は何故、スーパー三輪車に乗れずに全滅しかけたのか、という話に焦点を当てる。

 

 

 とはいえ、目の前にいる彼に状況説明を求めようにも、流石にそれは酷というもの。

 

 原典の知識を保持しているのは俺だけ。

 どんな差異があったかなんて答えようがない。

 

 

 ふむ。丁度良い。あの機能を使うか。

 上空にて浮かぶ迷彩化させていた大統領の詩を見やる。

 

 

 先程、この大統領の詩には機能が二つしかないと言ったが。

 

 厳密に言えば大統領の詩には隠された第三の機能として録画機能がある。

 

 そう、あるのだけれども。

 全く実用性がない死にステータスと化していた。

 

 

 見聞きした情報を見返せるように録画機能を作ったは良いが、どんなに改良しても一時間までしか情報が保持出来なかったのだ。

 

 それでもどうにかならないか、と苦心して魔術式の改良に励んでいたんだけど……。

 

 その作業は大統領の魔力パワーによって、唐突な終わりを告げた。

 

 大統領の魔力を用いれば、過去に見聞きした情報などは幾らでもプロジェクター風味に映し出す事が出来る事が判明してしまったのだ。

 

 一気に産廃と化してしまったゴミ術式。

 あれほど苦労して弄り回した魔術式を廃棄するのも勿体なく思い、とりあえずそのままにしておいたのだが。

 

 目を離していた時間。

 この間に何が起きたのか判明する事を考えたら、やっぱり残しておいて良かった。

 

 日本人特有の勿体ない精神に乾杯。

 

 

 という訳で。早速録画を再生していこう。

 

 

 えいやっと念じ、派遣させていた大統領の詩の一体から記録を読み取って行く。

 

 

 途端に脳裏へと刻まれていく過去の映像。

 

 

 場面としてはちょうど北春日部研究所が襲撃されている最中のこと。

 

 そこには思いもよらぬ、衝撃的な真実が隠されていた。

 

 

 松坂先生が裏切った後。

 研究所への侵入に対し、いち早く反応した桜リリ子。

 

 起死回生の切り札となるマシン。

 スーパー三輪車の元へ案内しようと駆け出すが。

 

 

「こっちよ、こっちにいけぶべっ」

 

 

 彼女は何も無いはずの宙に顔面をぶつけ、強打したかのような反応を見せる。

 

 一瞬怯んだ隙を見逃さず瞬時に放たれるハイグレ光線。

 

 見るも無惨なピンクのハイレグ姿になってしまった彼女は何にぶつかったのか分からず、終始困惑していた。

 

 

 よもや、と思いつつ。

 別の大統領の詩からも記録を再生する。

 

 

 そこに映っていたのは、急に走り出した桜ミミ子の顔面。それを定点で動かずしっかりと捉えており。

 

 段々と顔がドアップしていった所で接続を切る。

 

 

 

 ーー全てを察してしまった。

 

 

 

 ……コレ、もしかしなくても俺が派遣した使い魔に衝突しちゃってるなあ。

 

 

 無言で天を仰ぐ。

 

 嘘だといってよ、バーニィ。

 周囲から認識されない様にしていた事が裏目に出るとか思わないじゃん。

 

 

 え、つまり。北春日部研究所のメンバーが全員ハイグレ化したのは俺の責任ってコト!? 

 

 

 たらり、と冷や汗が流れる。

 

 

「どうかしたの? お顔悪いよ」

『いやいやいや。何でもないともッ』

 

 

 やばい。一気に罪悪感が湧いてきた。

 俺が何もしなかったら普通に脱出していたかと思うと、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

 

『その……迷惑かけてすまない……』

「オラ、元からアクション仮面をお助けする為に来たんだゾ。これくらいヘーキだ」

『いや……ああ、うん……』

「?」

 

 

 そういう事じゃないんだけど。

 ほんとゴメン。

 

 アクション仮面の“ガワ”を被っている以上、敵の襲撃に巻き込んでしまっている事への謝罪、と受け取られているのだろう。

 

 

 辞めてくれカカシ。その術(信頼)は俺に効く。

 

 

 

「これからどーするの?」

『……ハイグレ魔王を倒しに行く』

 

 

 なし崩しに一緒に脱出してしまったが、本来俺は最後の最後まで傍観者で居るつもりだった。

 

 しかしながら、今回の件。

 俺のせいで原作が破綻してしまったと言うならその責任は果たさなければ。という義務感が目覚めていた。

 

 ぶっちゃけ、ハイグレ魔王を倒すのは簡単だろう。

 基礎性能からして大統領の力の方があらゆるスペックを上回っている。

 

 問題となるのはただ一点。

 ハイグレ化という良く分かんない催眠術だ。

 単純にハイグレ魔王をぶちのめしただけで催眠が解けるかは不明瞭なのだ。

 

 だからこそ、俺は傍観者である立場を選択した部分もある。

 

 何せ原作ではハイグレ魔王を倒した途端ハッピーエンドで終わったのだ。

 

 誰もが幸せで終わる道が舗装されているなら、手出しをする必要もあるまい。

 余計な手出しをしてハイグレ化後遺症を患ったら、それこそ目も当てられない。

 

 自分で言ってもハイグレ化後遺症ってなんだよ、と思うけど、マジで原作からしてハイグレ化の説明もしないまま終わるからな。

 

 何があっても不思議じゃない。

 

 

 だからこそ、しんのすけに基本的に任せる方針だったのだけれども。

 

 ちらり、と反応を伺ってみる。

 

 

「オラも連れてって」

『良いのかい? これから先はもっと危険な事が沢山あるんだぞ』

「モーマンタイ!」

 

 

 意思は固いようで。ふんす、と鼻息荒く言い切る彼。

 

 流石はこの世界の主人公。

 その言葉が聞きたかった。

 

 

 大人の立場からすれば止めるべきかもしれないが、俺単独で赴いても上手く行く保証がないしな。

 あるかどうかは分からないが、二次元らしく、漫画の主人公補正に頼らさせて貰おう。

 

 

 で、だ。

 どうやって埼玉から東京にある新宿区へ行くかについては、大統領の詩を用いた転移を使う事にした。

 

 重力操術によって空を飛べなくもないが、万が一重力操作をミスったら汚い花火が青空を飾ることになるし。

 

 危ない橋は渡らないに限る。

 

 魔力を更に倍プッシュで消費しなければならないものの、他人を含めた転移を行うことは出来るので、これが一番安牌なのだ。

 

 本来あった危険な空中戦は丸ごとスキップしてやろう。

 

 

 後はしんのすけへの説明だ。

 当然、アクション仮面に転移魔術なんてものは使えない。

 いきなり転移を使っても不自然が過ぎる。

 

 だが、それについても問題ない。

 完璧な言い訳を用意してある。

 

 

『しんのすけ君。しっかり掴まっててくれたまえ』

 

 

 軽くしゃがみ、小さな身体を抱き抱えた後。

 肩車の体勢になるように姿勢を整えさせる。

 

 ついでにちょっとした小道具も創造する。

 

 

『移動手段に関しては、この“北春日部七号”を使う』

 

 

 そう言い、片手に握ったリモコンを見せる。

 勿論これはただの小道具。

 

 赤と緑と黄色のボタンが付いた見せかけだけの代物だ。

 

 

『北春日部六号はしんのすけ君も知っている通り、世界線の移動用に使うものだ』

「えっと、オラそんなの知らないんだけど」

『この世界に来る時、変な機械に乗っただろう?』

「ああ、オラ知ってる!」

 

 

 嘘を上手く吐くコツは虚実織り交ぜてやること。

 前例として時空間移動装置“北春日部六号”があるのも丁度良かった。

 

 時空間を移動出来るのならば、単に空間だけを移動出来る機械があっても不思議じゃない。

 

 そういう風に思考を誘導させていく。

 

 

『アレとは違い、この“北春日部七号”は空間を移動出来るんだ』

「ほうほう」

 

 

 良し、通ったな(確信)

 この説明に納得したようで、疑問を出さず、相槌を打ってくれた。

 

 これで後は転移を実行するだけだ。

 

 

 

『これを使ってハイグレ魔王の拠点へと飛ぶ。準備は良いかな? しんのすけ君。地球の未来は私達の双肩にかかっている』

「……うん。オラが……とーちゃん、かーちゃん。風間くんにボーちゃんにネネちゃん。園長先生に吉永先生、松坂先生をお助けする!」

 

 

 サラッとマサオ君省いたな。こいつ。

 

 ちょっと突っ込みかけたじゃないか。

 アクション仮面としては野原しんのすけの交友関係を知っている筈が無いので堪えたけども。

 

 

 ーーいつの間にか、肩に入っていた力が抜けていた事に気づく。

 

 そもそもが喧嘩をろくにした事の無い一般市民。

 幾ら大統領の力を得たといっても、本気の殺し合いなんて怖いに決まっている。

 

 色々と考えていたのも、恐怖を紛らわすため。

 

 

 それでも、いつも通りの。

 テレビで毎週見ていたお馬鹿な主人公といると、何もかもが適当でも。

 何とかなる気がしてしまう。

 

 少し笑い声を漏らすと、どうしたの? 

 と、顔を覗き込んで来たので、なんでもない、と返す。

 

 

『では、ハイグレ魔王討伐作戦開始だ!』

「ブ、ラジャー!」

 

 

 こうして俺達はハイグレ魔王の元へと飛び立ったのだった。

 

 

 

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