クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ大統領(偽) 作:けつだけせいじん
ハイグレ魔王関連の情報が全然ないので今話はあれだけの技術力があったらこれくらいは出来るだろうな、という憶測で書いています。あしからず。
その日、ハイグレ魔王は困惑していた。
「アクション仮面が、此方の地球へ来たですって……?」
「はっ。間違いなく」
眼下で片膝を立て跪く腹心の部下。
ハラマキレディース達の報告は自分の正気を疑う程に、ありえないモノだった。
「誰かが変装していたとか」
「いいえ。声、顔、身体。ありとあらゆる要素を鑑みても、本人で間違いないかと」
もしや、と別の可能性を提示してもきっぱりと言い切られた。
直接現場で見た彼女達がこうも断言するほど似通っているなら、やはりそれは本人でしかないのだろう。
「妙ね」
「と、いいますと?」
「アクション仮面はまだ向こうの地球にいる」
ハイグレ魔王がわざわざ第一地球まで赴き、アクションストーンを強奪したのは世界征服の邪魔をされないようにするため。
この世界で唯一対等に渡り合えそうな危険人物を遠ざけるための作戦だった。
それゆえ、警戒レベルは高い。
別世界を逐一覗き込み、彼の動向を確認するほどに。
「ごらんなさい」
ホログラムを利用した大画面を空中に広げ、第一地球側のテレビに接続をする。
そこでは呑気にテレビ撮影しているアクション仮面の姿が見受けられた。
勿論、襲撃した後みたく代役の役者ではない。
郷剛太郎という役者。アクション仮面本人が出演していることは調査済みだ。
「やっぱりかっこいいなあ」「嘘、あんなのが好みなの?」「分かる。絶対イケメンよ彼」
途端に美形か否かを判定仕出した彼女達。
「誰が雑談しなさいと言った!」
上司として一喝して雑談を止めさせる。
ゴホン、と咳払いをして一言。
「まあわりとタイプの顔だったケドね」
ズコ、とズッコケるハラマキレディース達。
冗談よ。と訂正し本題に移る。
「問題なのは、何故第一地球側にいる彼が此方にもいるのか、ということよ」
そう。どちらも本物ということは有り得ない。
何故なら現実に第一地球へと追いやったまま、アクション仮面は動けずにいるからだ。
ならば、こちらにいる第二地球側に出現したアクション仮面が偽物、ということになるのだが。
彼女達もこの映像を見て益々本人と確信を得たのか、間違いないわよね。と囁きあっている。
「あのーすみません」
「なにかしら」
「アクション仮面って、そもそも二人いるんじゃないんでしょうか」
その言葉を聞いて。
ハイグレ魔王は内容を吟味し、考えた上で、否定した。
「ないわね」
すぐさま意見を退けた事に疑問を感じたようで、小首を傾げる彼女達。
はあ、と溜息を吐き訥々と理由を語ることにした。
「そもそもの話なんだけど」
「はい」
「アクション仮面が二人いるなら、テレビ撮影の為に第一地球なんかへ出向しないわよ」
「……あっ。確かに!」
仮にアクション仮面が二人いるとすれば、それぞれ第一地球と第二地球で役割分担をこなせば良いだけの話。
テレビ出演も大事と言えば大事だが、そんなのは別世界の自分に託せば良い。
事実、こちらの世界でアクション仮面に纏わる情報を収集して来たが実は彼が二人いる、なんて話は聞いたことがない。
だからこそ、今回の報告は寝耳に水の出来事だった。
「じゃあクローン技術とか」「馬鹿ね。この世界だとそこまで技術が発展してないわよ」「わかんないなあ」
一向に此方に出現したとされる彼の正体が分からず、場に暗雲が立ち込めていると。
「簡単ですよハイグレ魔王様」
そう言い、現れたのはTバックを着用している身なりが汚い大柄の男。
これまた腹心の部下であるTバック男爵だった。
「要するに、あんなの倒しちまえばいいんですよ」
腕の骨をパキポキと鳴らし、力自慢であるアピールをする彼。
単純な力技でどうにか出来ないと判断したからこそ、こうして対策を練ろうとしているのだが。
彼は忠節を尽くす部下なのは間違いないが、いささか脳筋過ぎるのが悩みの種だ。
「こんな女共のように、取り逃がすヘマは犯しませんぜ」
当てつけのように、北春日部研究所を襲撃したのにも関わらず、二名もの人員を逃がしてしまったハラマキレディース達を詰る。
「アンタだって同じことでしょ」
「俺のは奴らのアジトを突き止める作戦だったろうが!」
当然黙って居られる彼女達でもない。
お互いのミスをつつき合い、罵りだす。
こうなったら誰かが介入しなければ終わらない。
そろそろキツイお灸を据えるべきか、とハイグレ魔王が判断した所で、異変に気が付いた。
「侵入者が来たわね」
途端に、言い争いを止めて居並ぶ部下達。
新宿区にて降り立った宇宙船。
この宇宙船には許可なきものが立ち入った場合。
主であるハイグレ魔王に通知が届く仕組みになっている。
「しかし、変ね。こちらへと向かう反応はなかったというのに」
宇宙船には探知レーダーも搭載されており、一定以上のスピードで接近する生命体、及び無機物があれば感知する機能がある。
だのに、一切レーダーに引っかかる事なく、宇宙による探知をくぐり抜け突如出現した。
まるで、ワープしたかのような唐突さだ。
「ちょうどいいや」
くるりと反転し部屋を出ていこうとするTバック男爵。
嫌な予感がして呼び止めようとするが。
「その侵入者、どうせアクション仮面なんでしょう? だったら、俺がちょちょいとやっつけて見せますよ」
ハラマキレディースによって溜められたストレスを発散しようとしているのだろう。
軽い口調とは裏腹に、怒気が込められている。
「待ちなさい」
「先程はコイツらに任せたでしょう。だったら、今回は俺の出番のハズ」
身振り手振りを加えて、鬱憤を晴らしたい一心で主人であるハイグレ魔王に訴えかけてくる。
「アクション仮面は強敵よ」
「心配症ですな、魔王様は」
やれやれ、と肩を竦めるジェスチャーをして、向き直る。
何故そんなに呼び止めるのか、と彼我の力量差を理解できていない様子。
確かに、パワーだけで言えばTバック男爵の方が勝っているかもしれない。
しかし、戦闘とはなにも力技だけで終わる話ではない。鍛えられた技もまた、脅威なのだ。
アクション仮面は力も技も兼ね備えていると聞く。
ハイグレ魔王はほぼ直感的にTバック男爵単独では勝てないと判断を下していた。
それでも自惚れが強い彼はまさか、と手を振り有り得ない、と否定する。
続けて言い募ろうとするが。
「心配なさらずとも、ちょちょいのちょいで」
『アクショーン! キィーック!』
「ぶべらっ」
ズドン、と床を蹴りぬいて登場した人物により、Tバック男爵は腹部を蹴り抜かれてて意識を失った。
それを尻目に、ド派手な登場をかまし、降り立った侵入者はこう言った。
『アクション仮面。ただいま推参!』
★ ★ ★
「うふ、歓迎するわ。アクション仮面」
うっとりとした表情でそう口にするハイグレ魔王。
とても整った顔立ちをしており、身にまとっている着衣はその名の通りキワキワのハイレグ。
二次元という画面を超え、三次元となった存在として、絶妙な色気を放っている。
ーーだが男だ。
「待ち侘びていたわ。この時を……」
流し目で感情を込めて。
静かだけれども、よく通る声で語りかけてくる。
耳触りの良い声は実に情熱的で、蠱惑的。
こんな女性にモーションをかけられたら靡く男は後を絶たないだろう。
ーーだがオカマだ。
だからそこの少年。
綺麗なお姉さん、と興奮するのは辞めなさい。
ガーン、とショックを受けている野原しんのすけを放っておき、ハイグレ魔王と対峙する。
『大人しく出ていく、というのなら見逃してやるが?』
「それは無理な相談ね」
一応、前座として会話をしておく。
正義の味方のコスプレをしている以上、無言で殴りかかる蛮行は出来ない。
どうせ無理だとは知りつつも、勧告するポーズは重要なのだ。
『なら実力行使だ』
「こっちは四人もいるのよ。反して貴方達はそこのボウヤを含めて二人。いや、足手まといを抱えてる以上もっと不利かしら」
そう俺達を、というよりしんのすけを挑発しているが、オカマショックにより呆然としている以上彼に効果は無かった。
この主人公は普段のマイペースとは裏腹に、大事な物を貶されると逆上する事がある。
もし正気のままなら、無防備に突っ込んで行ったかもしれない。
周囲の人を利用し、罠に嵌めようとする悪辣な戦術。さすがはハイグレ魔王といった所か。
ならばこちらにも考えがある。
『例え四人相手だろうと、正義は勝つ!』
そう高らかに宣言しながら、ハイグレ魔王達を指差して。
こっそりガンドを放った。
「う、お腹が」「あいたたた」「ヤバイヤバイヤバイ」
途端にぎゅるるるる、とお腹を鳴らして蹲るハラマキレディース達。
力こそが正義。良い時代になったものだ。
このガンドは勿論非殺傷性の呪い方面に特化しており、内容はご覧の通り腹下しだ。
「「「すみませんハイグレ魔王様! 乙女の尊厳がヤバいので離脱させていただきますッ!」」」
「ちょっと貴女達ッ!?」
ハイグレ魔王が呼び止めようとするも。
彼女達はスタコラサッサと乙女の園(トイレ)へと向けてお腹を抱えて逃げ去っていった。
「…………絶対アンタなんかしたでしょ!」
『いやなんの事だかサッパリ分からん』
白々しくも知らぬ存ぜぬを通して押し通す。
会えて原作通り、タイマンで戦う為に敢えてハラマキレディース達のみ呪いをかけた。
便所ワンキルなんてした暁には死ぬほど恨まれそうだしな。
経緯はどうあれ、これで邪魔者は排除出来た。
『さあ勝負だハイグレ魔王!』
何も悪い事をしていませんよ。と言わんばかりに堂々と声高に宣言する。
こういうのは引いたら負けなのだ。
案の定、偶然かしら……と、ハイグレ魔王も呟いているので大丈夫だろう。
よもや正義の味方がこんなこすっ辛い戦法を取るとは思うまい。
「でも、ちょっと良いかしら」
『何か?』
でもまだやっぱり疑問に思っているのか、未だ戦闘へと移行しようとしない。
卑怯な攻撃を表向き出来ない以上、こちらからは仕掛けることが出来ない。
「アナタ、本当にアクション仮面なの?」
『見ての通りさ』
どうやら俺の存在自体を疑っているらしい。
だが今の俺に隙はない。
ハイグレ魔王の不意を付くため、と理由を付けて二本の角を隠しているからな。
外面上は完璧なアクション仮面である以上、変装を見抜ける筈もない。
「ねえ、そこのボウヤ」
「はっ……な、なに!?」
これ以上俺に何を質問しても無駄と悟ったのか。
矛先を変えて、呼びかけられた事で漸くオカマショックから目覚めたらしく反応するしんのすけ。
「もしかしてだけど、“助けて、アクション仮面”て言ったら、アクション仮面が現れたりした?」
「いいや。それは違うゾ」
原作にてアクション仮面を呼び込んだキーワードを口にするハイグレ魔王。
ナンバー99のカードと、アクションストーンを同時に持つことによりアクション仮面を呼び出すことが出来る呪文が“アクション仮面”なのだ。
本来であれば、ハイグレ魔王が付けている耳飾り。
そこに強奪したアクションストーンが収納されており、運良く奪還に成功した折に呼び出すのだけれども。
今回は俺がいる以上、アクション仮面は呼び出さない方向で行く。
アクション仮面が二人もいるとか混乱の元だ。
真でも偽でも登場するのは一人だけで十分である。
「オラ、“助けて、アクション仮面”なんて言わずとも、お助けしてもらってーー」
当時の心境を思い出してか。
拳を力強く握り熱弁をするしんのすけ。
ハイグレ魔王は律儀に何かヒントがあるかも、と膝をついて相槌をうち、拙い会話を拾っているようだ。
あっ、いつの間にか近付かれてる。
すわ、しんのすけを人質に取るつもりかと思いきや、真面目に耳を傾けている。
……そんなに俺の正体が気になるのかな??
「だからアクション仮面はカッコイイ!」
『しんのすけ君、もうそこら辺で……』
そうして、しんのすけの振り上げた拳が、ハイグレ魔王の耳飾りに当たってしまい。
コロリ、と盗まれていたアクションストーンが地面に転がる。
「あ、これ“アクション仮面”のアクションストーン!」
そうして止める間もなく、アクションストーンを拾い上げ、ズボンのポケットにしまい込んだしんのすけ。
すると、しんのすけのズボンから光が灯りだす。
あっこれは……ダメみたいですね……。
トゥアッと掛け声と共にズボンのポケットから出てきたアクション仮面(真)。
「あ、アクション仮面が二人来ちゃった……!」
そう恐れおののくハイグレ魔王。
ついでにしんのすけ。
「お待たせ、しんのすけ君……って私がもう一人いる!?」
今更気付いたのか俺の方を見て驚愕するアクション仮面。
あーもう滅茶苦茶だよ。
どう収拾付けたらいいんだこれ。