アビドスの6人目   作:____―--

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2025/09/02 原作世界観と違う点があった為修正


Chapter1 対策委員会編 1章・2章 -Vivid Colors-
piece of a broken heart


 

 それはよくある日常の一つだった。

 

 昼のアビドス高等学校、誰も居ない教室でノートPCを開いて無数の変数を相手に、私は髪をかき乱しながらプログラムを弄ろうとしていた。手元にある数学書を時々見ながら、ただひたすらにキーボードを打ち続ける。

 

 アビドスの生徒在籍数は6人。億の借金を抱えている以上、廃校は時間の問題。でも、抗おうと皆がそれぞれの青春を必死に生きている。

 

「うへ〜、___ちゃん何してるの?」

 

ホシノ先輩があくびをしながら入ってくる。

 

「基板の改造を試しているの。スピードリミッター外せないか試してるけど、ミレニアムめ。余計で複雑なものを組んでる」

「へぇー……。そういえば、シロコちゃんまた高台行って双眼鏡覗いてたよ〜。また何か企んでるのかな?」

「はぁ、銀行強盗のことでしょ。後で連れ戻すよ。飽きないね、あの子。アヤネにも沢山叱られてるのに」

 

私はそう言って笑うと、先輩も笑みを浮かべる。

 

「ね〜。で、おじさんにもパソコンの画面見せてくれないかな」

 

先輩は前かがみになって私の横に立った。

 

しょうもない、ありふれた日常だった。

 

ずっと、続いて欲しかった日常だった。

 

――

午前4時、アラームも無いのにふと意識を覚醒させた。シャーレの部室に向かうにしても早すぎる時間に起きてしまったのだ。二度寝をする気も起きず、錠剤瓶の横にある拳銃を手に取って、洗面所とシャワールームがある部屋に向かった。

 

 そして、鏡の前で自分の顔をじっと見つめる。笑う顔を忘れた平坦な表情筋、生気の無い瞳、不健康な白い肌。問題ないことを確認して、蛇口を思いっきり捻り水を出す。冷たい水が頭に降り注ぎ、眠気が吹き飛んだ。出勤に時間がまだある以上、殺風景な部屋で栄養バーをかじり、水を含みながらノートパソコンの書類や資料を読み漁っていた。

 

 書類仕事の残りを終えてもなお、手が空いており、空虚に壁を眺めていた。生徒からはゲームをしよう、本を読もうなど様々な趣味を勧められていたのだが、気力すら湧かず隅のダンボール箱は積もっていく一方。

 

そんなことをしているうちに時間は過ぎていき、時計を見ると出勤の時間が迫ってきていた。ビジネスパンツ、シャツに着替え、ホルスターに拳銃。まだアロナが寝ているシッテムの箱をバッグに入れて。最後に、入館証を首に下げてから家を出た。

 

「行ってきます。先生」

 

入館証には、私の顔写真、Age19と書かれていて、その下には連邦生徒会所属と書かれていた。

始発のモノレールには眠たげなロボットや生徒が席に座っており、その中の一人として紛れ込む。窓の外ではまだ街灯が光っており、ビル群が朝日を浴びて輝いていた。

 

連邦生徒会の部活である捜査部、通称シャーレ。突如、彼女に託されて私はこの部活の顧問として、先生として、生徒を導く立場になった。そういう運命の定めなのか、それとも単なる偶然か。私は部室の椅子に深く腰掛けた。

 

「先生、おはようございます!」

シッテムの箱から、少女の声がした。

「おはよう、アロナ」

「先生、今日のお仕事はいっぱいですよ。まずはこの書類から片付けていってください!」

ノートパソコンに資料を表示され、返答は頷き。マウスを動かし2回ボタンを押した。

 

午前8時、当番の生徒が部室にやってきた。

 

「おはようございます。先生」

 

ミレニアムサイエンススクールの制服を着けた早瀬ユウカが部室の扉を開けた。

 

「おはよう、ユウカ」

 

 彼女は慣れた手つきで書類を仕分けし、整理していく。その間も私はパソコンに向き合い、キーボードを叩き続けた。

 

「先生は朝、何を食べましたか? ……また栄養バーとか言いませんよね?」

「栄養バーだけど」

 

素っ気なく答え、彼女の怒号がまた飛んできた。

 

「先生!またそんな食事で済ませて! いつも言ってますよね? しっかり栄養を摂ってくださいって。朝は一日の活力を決めるんですよ!」

 

 彼女は怒りながら書類を片付けていく。私は苦笑いを浮かべ、謝罪を口にしながら髪をかいた。

 

「もう、今度から朝食を持ってきますから。電子レンジで温めるだけで食べられるものを」

「電子レンジ、家に無かったな」

「ええっ、無いんですか!? どんな生活をしてるんですか!」

 

 彼女は呆れ声に再び苦笑いを浮べる。ユウカはお世話好きの女の子だ。自己管理が破綻した私の生活を見て、手を出さずには居られないのだ。

 

 彼女の言葉を返しながら書類を進めていき、昼休み頃。彼女に手を引っ張られて、ビル近くのファミレスに連れて行かれた。

 

「先生は何か食べたいものありますか?」

「ユウカが食べたいものでいいよ」

 

そう答えればまた怒号が飛ぶ。

 

「あのですね! 先生が食べたいものを聞いているんです! 私が引っ張っておいて何ですが、先生の意見も尊重したいので!」

 

メニュー表にあるおすすめと書かれたものを適当に指差した。ユウカはそれを店員に注文し、料理が来るまでの待ち時間、私は窓の外を見ていた。

 

「先生」

 

と、ユウカが口を開いた。

 

「ここに来てから、ずっとこんな調子ですよね。なんというか、感情を表に出したことがあまり無いというんでしょうか。……その、私は先生が心配なんです」

 

 不安そうな小さい声が彼女の口から放たれる。

 

「笑ってはいても、心は笑っていないというか。ずっと、何かに囚われているような気がして」

「そうかな? 私はいつも通りだよ」

 

 そう答えても彼女は納得しない様子だった。

 

「先生って、いつも一人で抱え込みすぎなんです! ……その、私で良ければいつでも相談に乗りますから!」

「ありがとう。ユウカ」

 

 そう返すと料理が来たので話は中断された。

そうだ。私は抱え込んでしまっている。でも、打ち明けることが出来ない。与えられた使命、トラウマ。それはこの世界ではあまりにもアンリアルで、重すぎる。それに、大人の私が生徒に弱音を吐くなんて、情けなくて先生らしくもないことだった。

 

気持ちを切り替え、目の前の料理にありつくことにした。

 

 

 午後10時。夜も遅く、ユウカを帰そうとしたが彼女はまだ残ると聞かなかった。画面にはまだ山積みの仕事。書類に目を通し、パソコンに向き合い、キーボードを叩く。

 

「先生」

 

 ユウカの声でキーボードを動かすのを止めた。

 

「今日はここまでです。続きは明日しましょう」

「終わらないと、皆に迷惑がかかるから」

「先生はいつもそればかりですね。他にも連邦生徒会の方たちが居るのですから、先生一人が頑張る必要は無いんですよ」

「他のメンバーも山積みで、助けは借りれそうにない」

「ここの仕事量はどうなっているのよ……。とにかく、 早く帰りましょう。先生」

 

 今回ばかりは彼女の言葉を無視せざるを得なくなった。

 

「ごめん、ユウカ。今日はもう少し残っておきたい」

 

 そう答え、キーボードを再び動かした数秒後だった。

 

「……もう、寝てください!」

 

という言葉と同時に強烈なげんこつが頭に直撃した。

 

「ぐあっ!!」

 

 想定外の一撃に私は椅子から転げ落ち、戦い慣れた私すら痛覚を感じる強烈な反応は、気絶へ追い込むのに十分な威力だった。

視界は瞬間でブラックアウトし、私は意識を失った。

 

――

 

フラッシュバックだ。

 私は死んでいたはずだった。ヘイローが壊れ、朽ちていたはずだった。左胸に手を当てれば、一面の赤が手のひらにへばりついてて、傷だらけの全身、血に濡れた顔。私は死んだはずだった。『彼女』に殺されたはずだった。

なのに身体は動き、運行する電車の中に居た。座っているのは、水色髪の女性一人だけ。

無意識に導かれるがまま向かい側の席に座ると、私の知らない少女が口を開いた。

 

「どうして、何度も何度も失敗するのでしょうか」

 

少女の口からは挫折した人間の言葉が漏れる。

 

「大人の力を持ってしても、変えることは出来ないのでしょうか。やがて運命は残酷で、大人として十分ではないあなたを選んでしまった」

 

「……変えられたら、あの日々は戻ってくるの?」

 

 私は抑揚無く、呟いた。

 

「いえ、もう起きた事は変えられません。でも、あなたはもうそうなるしかない。……大きな穴のあいた心で、無理矢理前に進むしか」

 

 そんな返答に諦念を込めてそっかと呟いた。

 

――

 

 強制的にシャットアウトしていた意識が戻る。目の前には毎日見る天井が広がっていて、いつも通り早朝を迎えているようだった。

 

 私はベッドの上で起き上がり、時計を見た。午前4時となっており、外はまだ暗い。

 

 居間の明かりを点けて、冷蔵庫の中にあるミネラルウォーターを飲もうとすると、ある事に気付く。中に作り置きの食事が入っていたのだ。メッセージも付けられており、『今日中に召し上がってください。くれぐれもお体には気をつけてください』とユウカからのメモ書きが添えられていた。

 

 申し訳ないと思いつつ、それを取り出して、いつの間にか置いてあった新品の電子レンジに突っ込んで温め始める。

 

 ああ、私はだらしないと自嘲しつつ、温め完了の音が鳴ったら取り出す。テーブルの上に置いて手を合わせたら、その温まった食事を口に運んだ。その後は、ルーティング通りに準備を行い、出勤時間まで書類を片付けていた。

 

――

 

 定刻通り、シャーレの部室に着いて、椅子に腰掛けたらノートPC、ファイル、シッテムの箱を取り出して仕事に取り掛かろうとすると、アロナから声をかけられた。

 

「おはようございます先生! 今日は確認して頂きたい手紙が1件あります!」書類の山に紛れる一枚の手紙を指されて、視線を向ける。その差出人は、アビドス高等学校の奥空アヤネだった。

 

 内容は見なくてもわかる。確認した瞬間、天井へ向いてため息をついた。

 

「……今度は私が先生として、ね」

 

 取り出した物をすぐに鞄にしまい込み、席から立ち上がる。携帯電話を取り出し、今日の担当の子に連絡を入れた。

「もしもしスズミちゃん? ちょっとお使いお願いしたいの。……近くのエンジェルから、大きめのバックパック、アサルトライフルのマガシンストック3つ、水1.5Lのペットボトル2本、方位磁針を買ってきてもらえるかな? お代は後で出すから。……ごめんね、急用で出張になったの」

 

 電話を切り、アロナの方を向いて指示を出した。

 

「アビドスに行く」




先生は先生じゃないよ。 先生でもなく、生徒でもないんだ。
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