アビドスの6人目   作:____―--

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Chapter1.5 Days I
【ホシノ】Mouthless Dream


 最初一目見た時から何か抱えている人だと一瞬でわかった。

 

 シャーレの先生、連邦生徒会からやってきた大人。初めて彼女の姿を見たのはヘルメット団と戦っている時で、まだ青いところがある大人が何故か拳銃を持って生徒達と戦っている。そんな戦う先生の瞳は恐ろしいまでに冷たいものだった。

 

 私自身大人相手に気を許すことなんて無く、彼女も同じ程度のことだと思っていた。しかし彼女は今まで見てきた誰よりも異様だった。

 

 普段先生と接する時、彼女は明るくて優しい先生だった。でも時々何か違う雰囲気を醸し出す時がある。焦点があっているようで向こう側を見ているような、私たちを見ているようで見ていないような。不器用に明るく開いた目の向こう側には冷たさを通り越して虚しさが見えていた。

 

 笑顔もどこかぎこちなく、いつ見ても作り笑いをしているように感じてしまう。

 

 そんな大人が私たちアビドス高等学校を救おうとしていた。彼女には申し訳ないけど、最初は何か裏があるんじゃないかと疑っていた。いや、彼女の本当の言葉を聞くまでずっとそう考えていた。

 

 まるで自身が生徒かのように戦おうとする姿、不自然なほどに準備周到な場面を見てしまえば、そう思いたくもなる。

 

 ある日のこと。私が黒服との取引を進めている最中、先生が風紀委員会と戦っていると聞いて必死に駆けつけようとしていたんだっけ。駆けつけた時は先生が倒れていて、風紀委員長相手に睨みつけた。後に誤解だったけれども。

 

……そして私がやろうとしていた黒服との取引を彼女に先越されたこともあった。先生を連れ去るヘリが飛んで行った光景は今でも思い出す。

 

――

 

 走っていた。届かないはずと分かっているのにヘリに手を伸ばして走っていた。

 

「先生……!」

 

 先生を失うのが怖かった。

 信用出来ない大人のはずなのに、怪しい人なのに、彼女を守らなければならないと強く思っていた。どうして取引を先越したのか、どうして私じゃなかったのか、聞きたいこと、怒りたいことは沢山ある。そんな事よりも、彼女を失うことに対する恐怖が遥かに上回っていたのだ。

 

こんな事、先生がわざわざやる事じゃない。私がやるべきだ、私で良かったのに。そんな後悔が頭から離れなかった。

 

「どうして……!」

 

 ヘリは遥か遠くへ飛んでいく。私はただその空を眺める事しか出来なかった。

 

 それから私はひたすらヘリが飛んでいった経路を夜いっぱいに探した。寝る暇もなく夜の砂漠を走り続け、カイザーPMCのパトロールから隠れてただヘリが飛んできた方向に向かっていた。

 

 ヘリが飛んで行った先は、前に対策委員会の皆で踏み入れたカイザーPMCの基地がある場所だった。こんなところ一人で襲撃しても良かったのだが、先生を守りながらと考えるとリスクが大きすぎる。

 

「ごめんね、先生。必ず助け出すから……!」

 

 そう呟いたあと、もうすぐ日が昇る砂漠を再び走り出した。アビドスへ戻ろうと走ったものの、道中で疲れが溜まり近くの岩陰で倒れ込むように眠ることも。

 

 少し眠ったら走り出し、学校へ着いたのは既に遅刻ギリギリであった。廊下を走り、対策委員会の部室のドアを勢いよく開ける。四人の驚いたような目線が私を迎えた。

 

「ホシノ先輩……? 制服も汚れて、何かあったの?」

 

 セリカちゃんが心配そうに私に声をかける。肩を上下に揺らし、口で呼吸しながら私は答えた。

 

「先生が……カイザーPMCに連れ去られた。私のせいで……!」

 

 力無くした私はすぐそばの壁にもたれかかるように座り込んだ。

 

「ホシノ先輩、ひとまず落ち着いてください。何があったんですか?」

 

 ノノミちゃんが声をかける。少しした後、私から事の顛末を四人に話した。やっぱり皆に話さずに独断行動した事で皆から散々叱られた。

 

「それでホシノ先輩、どうするの?」

 

「先生を助けに行く。今すぐに」

 

「私たちだけでですか!?」

 

「行かないなら、私一人だけでも行く」

 

 するとシロコちゃんが私の胸ぐらを掴んだ。

 

「ホシノ先輩、もう一人で背負うのはやめて。……今まで私たちに大事なこと話してくれなかったホシノ先輩を、私は許さない。……他の皆もそう思ってるはず」

 

 シロコちゃんはそう告げると胸ぐらを掴んだ手を離した。

 

「……じゃあ、どうしたらいいのさ」

 

 またも私は壁にうなだれる。

 

「……先生からの置き手紙がありますね」

 

 ノノミちゃんの手には置き手紙があった。それを受け取り内容を読むと、先生から対策委員会へのメッセージが書かれていた。

 

『カイザーPMCの基地を襲撃するなら、仲間をいっぱい集めて。便利屋68やヒフミ、そしてゲヘナの風紀委員会。彼女達にお願いするなら"足を舐める覚悟"は持って欲しいかな。 私は皆を信じてるよ』

 

「先生はこんな状況を見越して、手紙を残してくれていたのですね」

 

「ホシノ先輩どうする? それでも一人で行く?」

 

「ううん……皆で行くよ。先生の言葉を信じる」

 

私はそう伝え、立ち上がって皆に向き直った。

 

「うへ、その前におじさんにちょっと休憩する時間貰えないかな? ちょっと眠れなくててー」

 

「そうですね、少しだけ休憩にしましょう」

 

 皆が遠出の準備をする中、私はちゃんとした睡眠や身だしなみを整えることにした。そして長い髪を結び、ボディアーマーを制服の上に着用。ハンドガンにショットガン、ユメ先輩の盾、手入れを終えたら装備した。

 

「先生、待っててね。……皆で助けに行くから」

 

――

 

 まず最初に訪れたのはトリニティ総合学園だった。ヒフミちゃんが門前で待っており、私達を見つけるとすぐに駆けつけてくれた。

 

「アビドスの皆さん、元気そうで安心しました!」

 

 そこにノノミちゃんが前に出てきて対応する。

 

「お久しぶりですヒフミちゃん。ちょっとお願いがあって助けて欲しいことがあるのですが……」

 

 事情を話すとヒフミちゃんは快く引き受けてくれた。

 

「分かりました。シャーレの先生が現在幽閉中なんですね。これは大きな問題だと思うので、ティーパーティーに話してみようと思います!」

 

 ヒフミちゃんはそう告げると、そのまま校舎に戻っていった。

 

 先生、これでよかったんだねと心の中で呟いた。

 カイザーローンの一件の時、先生はヒフミちゃんに報告をするようにお願いをした。そして私もヒフミちゃんに託すことにした。

 

 しばらくしてヒフミちゃんが戻ってきた。

 

「すみません、伝えてみたもののすぐに回答は得られませんでした」

 

「いえ、ありがとうございました」

 

「もし先生を助けに行くのであれば、私も一緒に戦います!」

 

「そうですね、お願いします。助けに行く時はヒフミちゃんに必ず連絡します!」

 

 ノノミちゃんとヒフミちゃんが約束をした。

 

 そして次に私たちが向かったのはゲヘナ学園風紀委員会……なのだが事件が発生した。

 

「きゃあああ!! アビドス生が私の足を舐めてくる!!」

 

「ん、先生を助けたいの。だから協力して」

 

 シロコちゃんが手紙の内容をそのまま受けとってしまい、風紀委員の片っ端から足を舐めるという奇行に走っていた。アヤネちゃんがあたふたとシロコちゃんを引き剥がそうとする中、私はまっすぐ風紀委員長が居る部屋へ向かおうとする。しかし風紀委員のイオリちゃんが待てと私達に告げる。

 

「騒ぎはお前たちか、何の用だ!」

 

「いやー、風紀委員長ちゃんと話がしたくてね」

 

「風紀委員長に容易く会えると思っているのか? 今多忙だから後にしろ」

 

「お願い。一大事だから風紀委員長ちゃんが居てくれれば話が早いんだ」

 

「ダメだ! そんなに会いたいというのなら……そうだな。土下座して足でも舐めてもらおうか」

 

「シロコちゃん、聞いた?」

 

「ん!」

 

シロコちゃんが即座にイオリの元へ駆け寄り、ブーツや靴下をぬがした。ノノミちゃんが刹那の速さで背後に回りイオリちゃんを押さえつける。シロコちゃんは彼女の足にしゃぶりついた。

 

「ひゃんっ!?」

 

一人の風紀委員が悲鳴を挙げる。

 

「おじさんはもう片方やるね」

 

 私も片方のブーツと靴下を脱がし、シロコちゃんに続いた。

 

「あくまで例えであって実際にやれとは言ってない!……やめろぉ!! アビドスの品性はどうなってんだ!」

 

 風紀委員ちゃんは腕で離そうとして抵抗するが、私たちは負けじと足の裏を舐めた。

 

「先生を助けて欲しい、緊急事態なんだ」

 

「おじさんもこうやるからさ、お願い」

 

 奇行が広く知れ渡ったのか、目的の人物はすぐに現れてくれた。

 

「さっきから何か騒がしいけれど……。これはどういう状況なの?」

 

 風紀委員長、空崎ヒナが私たちを見て困惑している様子だった。

 

「まず砂狼シロコ、小鳥遊ホシノがイオリに深く頭を下げている時点で深刻な状況だと把握できる。でもどうしてこんな事を?」

 

「委員長? この二人は頭を下げているというより、その……」

 

「委員長ちゃん、お願いがあるんだ。先生がカイザーPMCに連れ去られた」

 

「先生が……? 助けが欲しいのね」

 

「カイザーの基地から助け出す。その手助けをして欲しい」

 

「お願いだよ、委員長ちゃん。これってキヴォトス全体に関わる問題だと思うんだ」

 

 風紀委員長ちゃんは少し考え込んだ。そして私たちにこう告げた。

 

「わかったわ。大隊は送り込まないけど、少数の生徒を同行させる。私やアコ、イオリやチナツ」

 

「風紀委員長ちゃん来てくれるなら心強いね〜」

 

「あの、委員長! この二人私の足舐めてる!!」

 

 イオリちゃんの言葉でようやく彼女は私たちの奇行に気がつく。

 

「え、ええっ?……どうして?」

 

 ヒナちゃんの顔は真っ赤で困惑していた。

 

「じゃあ、約束取り付けたし次行こうか。風紀委員長ちゃん、またね〜」

 

「ええ? ……本当に何だったの?」

 

 そんな言葉を置き去りにしながら、私たちは風紀委員会の建物を後にした。

 

 その次が便利屋68だったけれど、どこを探しても彼女達の事務所は見つからなかった。家賃が払えなくて退去させられたらしい。

 

 先生、こんなに私達を振り回すくらいなら早く報酬を渡せば良かったのに。心の中でそう呟きながら復活した柴関ラーメンにふと立ち寄ってみた。するとお探しの便利屋68を発見。彼女らは既に食事を終えたようで、お金を置いて席から立とうとした所。

 

「あなた達はあのアビドスの……」

 

「うへ、便利屋ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけどさ」

 

「依頼かしら? ならまず見返りよ」

 

 社長ちゃんは見返りをしっかり要求してきた。払ってあげてもいいのだが、それよりも良い説得材料を思いついた。

 

「先生がカイザーPMCに連れ去られたんだ。だから助けに行く。便利屋の皆も助けてくれるとおじさんとしては嬉しいな〜」

 

 そう提案するが、最初に反対されたのは課長の子だった。

 

「どれだけ出すかにもよるけど相手が悪い。私としてはリスクが大きすぎるから、この話には乗れない」

 

「カヨコちゃん、アルちゃん見てみなよ。あの顔、『依頼料なんて、このラーメン一杯で十分よ!』って顔してるよ! くふふ」

 

 室長ちゃんの言葉に目線を動かすと、真剣そうに考えている社長ちゃんの表情が。更に牽制をするように話しかけた。

 

「風紀委員会との件、先生からちゃんと報酬受け取ったかな? たぶんまだでしょ? だからさ、まだ依頼は続いているはずなんだ」

 

そう告げると表情は真剣さをより増して、じっと考え始めた。

 

「それに先生の身に何かあったら報酬も受け取れないんじゃないかな? 成果次第では報酬上乗せと言ってたし、これはチャンスだよ。報酬もまた先生と交渉すればいいし」

 

「……わかったわ。その時になったら教えて頂戴。さあ、皆も私と一緒に地獄の果てまでついて来てもらうわよ!」

 

「は、はいアル様!」

 

 彼女の少し演技がかった口調に皆もやる気になってくれた様子だった。

 

 これで先生が言った通り、集められるだけの戦力は集められた。次は先生救出だ。

 

 ……と言ってもここまでの戦力を揃えてしまえばもはや蹂躙劇であった。

 

 風紀委員長ちゃんがあっさり敵を薙ぎ払い、ファウストさんが謎の支援砲撃をしてくれて、理事が乗っていたゴリアテも私一人で破壊した。最後に地下の実験区画から先生を救出して、この騒動は幕を閉じた。

 

これが先生を助け出すまでのお話だった。

 

――

 

 救出後からいくつか経ったある日、先生のボロボロの車に乗せてもらって砂漠のある場所に連れて行ってもらった。確かめたいことがあったので、いつか二人で来ようと約束したのだ。

 

 車を降りたら私が先導して砂の上を歩き続ける。たどり着いたのは何の変哲もない場所。

 辺り一面が砂ばかりで何もない場所だった。しかしここが私の全てを変えてしまった場所でもある。

 

「聞きたいことがあるんだ。向こうの世界でもユメ先輩は居たのかな?」

 

「居たみたい。私の世界線での先輩の口から聞いた程度だけど。私が入学した時点で故人だった」

 

「そっか。私が一年生の頃、ここでユメ先輩の遺体を見つけた。アビドスをちゃんとしたやり方で復興させようとするユメ先輩が好きで、ちょっと抜けているけれどいつも前向きに明るくて、大好きな先輩だった」

 

 先生は沈黙して私の話を聞いてくれる。

 

「でも最近思うんだ。ユメ先輩のこと考えすぎて引きずるのはそれこそ不誠実じゃないのかなって」

 

 先生は少し驚いたような表情を見せた。でもすぐにいつもの表情に戻って私の言葉に耳を傾けてくれた。

 

「それで先生はどう思う?」

 

 彼女は少し考えてからこう答えた。

 

「……引きずらないなんて無理な話だと思う。失った傷は一生癒えない。でもどう向き合うかは人それぞれだから、ホシノがそうしたいならそうすればいいかな。……私の先輩は引きずりすぎて皆が大変な目にあっちゃったから」

 

「分かった。もう一つ聞いていい?」

 

「うん」

 

「私がアビドス生徒会長の席に座っていいのか考えてて。ユメ先輩が居た席を私が奪っていいのかなって」

 

 先生は少し間を置いてから、こう告げた。

 

「……ホシノがそうしたいならそうすればいいと思うよ。でも酷いこと言っちゃうけど、故人が生徒会長だと組織の機能として不便なところはあるからね。誰かが席に座った方がいいとは思う」

 

「……そういう言葉が欲しかった。ありがとうね、先生」

 

「そう? どういたしまして」

 

 彼女は不思議そうな顔をして答えた。私の表情は相変わらずだとは思うけれど、少しだけホッとしていた。大丈夫だよみたいな慰めの言葉よりも、そう言ってくれたほうが前を向けるような気がする。

 

「先生を見てて気づいた事が一つあるんだ。先生と私って、何となく似てる気がする」

 

「その言葉、他の人にも言われた事があったね」

 

「うへ、そうだったんだ。じゃあ皆からそう思われてたのかもね。……先生は無茶なことしないでね。先生はみんなに頼られてるから」

 

「ホシノ先輩も無茶しないでね。前の世界線では先輩に滅茶苦茶振り回されたから」

 

「うへへ、おじさんも気をつけるよ。帰ろう、先生」

 

 そして私達は車に向かって歩き始めた。

 

 砂に足を取られないように気をつけながら一歩ずつ踏みしめていく。歩きながら目を閉じてユメ先輩のことを思ってみる。思い出すのは優しい笑顔の先輩の姿だったが、私の選択をどう思うかは言ってくれない。ただ過去にあった優しい温もりから手離して、今を生きようと決意した。




対策委員会編3章をやる予定はありません。ここでフラグを潰しておきます。
次はヒナの話です。
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