Dear Mr. Fantasy 1
定刻通り、シャーレのオフィスに着いて、椅子に腰掛けたらノートPC、ファイル、シッテムの箱を取り出して仕事に取り掛かろうとすると、アロナから声をかけられた。
「おはようございます先生! 今日は確認して頂きたい手紙があります!」
そう言って彼女は一枚の手紙を指した。その差出人は……ミレニアムサイエンススクール、ゲーム開発部の才羽モモイという生徒からだった。ゲーム開発部という響きはいかにもミレニアムらしいなと私は思いながら内容を見てみる。
要約してみると、ゲーム開発部はセミナーの命令によって廃部危機にあるので助けてほしいとのことだった。何を助けて欲しいのか具体的な内容が一切書かれていなかったし、キヴォトスにおける危機でもないと自己判断して見過ごそうと思ったが、あの先生から渡されたノートをふと思い出した。
ノートを最初見た時、白紙で何も書かれていなかった。助けになると言っていたのに、どうやって助けろと思ったが、今なら何かあるかもしれないと根拠ない自信を持ちノートを開いてみた。するとこう書かれていた。
『ゲーム開発部を助けてあげて』その一文がいつの間にかノートに書かれていた。
「先生、どうされましたか?」
「……なんでも無いよ。ミレニアムに行こうか」
信じていいんだよね、先生。
――
『勇者よ、どうか私たちをお助けください!』
ミレニアムに向かうモノレールの中で、手紙最後の一文を思い返していた。
勇者というのはファンタジーのゲーム内で語られる救世主だ。物語の主人公みたいなもので、主人公を勇者と呼ぶのはよくあること。伝説の剣や宝を携え、魔王や強大なモンスターと戦う。
私は勇者なのだろうかと意味も無く深く考えていた。何の為に生徒を救うのか、どうして先生の役割を演じ続けるのか。黒服に刺された言葉が今も頭の隅で響く。もしかすると運命という操り主に踊らされているのかもしれない。そうやって考えれば考えるほど感覚が現実から離れていく。
しかしアナウンスがミレニアムの駅に着いたことを知らせ、彼方へ行こうとしていた意識が戻ってくる。バッグを再び強く握りホームへ降りた。駅を降りて学校へ向かっていくのだったのだが、ある建物から何かがひとつ放たれた。それは放物線を描き……。
「痛っ!!」
私の頭に直撃した。その衝撃はユウカのげんこつと匹敵する威力、つまり意識を失うには十分だった。私は膝から崩れ落ち、ばたりとダウンして気を失った。
――
昔の話である。
私が中学生辺りの時で雪が降りしきる季節の頃だった。
アビドス本校の近くを歩いている時に突然銃声が鳴り響いた。駆けつけてみるとホシノ先輩と当時別の学校に居た同級生のノノミ、そして薄着の少女が居た。
既に喧嘩は終わっており、ホシノ先輩が薄着の少女をボコボコにしていた。容赦無いなと思いながらも輪に加わる事に。
薄着の少女は砂狼シロコといい、記憶も無くどうしてここに居たのかも分からないという。ホシノ先輩から与えられたマフラーをしっかりと巻いた彼女はそう答えた。私も着ていた黒コートを脱いで彼女に着せる。
「これで温まって。私はさっき走ってきたから温まってるし」
彼女は首を縦に動かした。それから校舎の中へ、旧制服をもらい気に入ったシロコを横目に彼女をどうするかと三人で話し合いを始めた。ノノミは事情が複雑なので難色を、ホシノ先輩も面倒見たいけど全部は出来ないと。そして私は……
「私の部屋に彼女住まわせるよ。どうせおじさん先輩に任せたら手が出る子に育ちそうだし」
「うへ〜、おじさんこれでも優しい方なんだけどね〜」
ホシノ先輩はボヤく中、ノノミが明るく喜んだ。
「__ちゃん優しいですね!私も手伝いますので、シロコちゃんをよろしくお願いします!」
とシロコを受け入れたものの……。
『シロコ! このジャンク品は何!?』
『盗みはダメだよ! 目的には手段を選んで!』
『バレないようにするじゃなくて!』
シロコは社会を知らない感じだった。平然と野蛮な行動をするのでかなり手を焼かされたし、深夜ノノミに電話で相談、酷い時は泣きつく事もあった。ピークは彼女が「強い人の言うことしか聞かない」とそこらの銃でボコボコにされて家を追い出された時。ホシノ先輩に号泣して相談したのはこれが最初だったと思う。
今思えば、よく折れなかったなと自分を褒めたい。シロコを受け入れて一年経つ頃にはある程度の分別が身について、私の言うことも聞くようになった。同じ学年ながらある意味、妹のような存在だったと思う。
――
意識がリブートして最初に見た景色は全く知らない天井だった。空気感も今まで感じたことがなく、物が多い部屋にいるという事は分かった。
「おお先生! よくぞもどられた!」
今まで聞いた事のない明快な少女の声がした。上半身を起こしてみてみると、瓜二つの少女が二人。話しかけてきたのはピンク色を基調とした子、もう片方は黄緑色の格好をした子だった。
「急にゲームのセリフを言わないで、先生が困るでしょ」
「セーブデータ読み込んだ時のセリフだったかな、それ」
「先生そのネタわかるんだ! へへっ、嬉しいな〜。あ、先生、ここはゲーム開発部の部室だよ!」
目的地を探す手間は省けたようだった。手紙のことを話したところで、ゲーム開発部の二人が自己紹介を始めた。ピンクの方が才羽モモイ、黄緑の方が才羽ミドリ、二人は双子姉妹でどちらもゲーム開発部として所属している。他にも部長としてユズがいるが、現在は不在とのことだった。ちなみに私の頭に当たった物はゲーム開発部所有のフライステーションだったとの事、なぜ投げた。
手紙に書かれていた通り私は部の廃部を食い止める最後の希望であり、勇者であると。しかし私は否定した。
「私は勇者じゃないよ。どちらかというと皆を指揮して勝利へ導く『軍師』とみてもらいたいな。ほら、戦略ゲームの主人公も軍師って呼ばれるでしょ?」
「おおーっ、確かに! じゃあ先生は軍師先生だ!」
モモイは目をキラキラさせている。その時、入口のドアから強めのノックが聞こえ声がした。
「モーモーイー!!」
聞きなれた少女の怒った声に少しだけ驚いた。返答無しにドアが開かれ入ってきたのは……普段世話になっているユウカだった。彼女はズカズカと入ってきたが、私の姿を見て驚いているようだった。
「先生!? なんでここに」
「ゲーム開発部に頼まれ事をされちゃって」
「ふーん……。でも無駄よ! ゲーム開発部の廃部は避けられないわ。部員規定人数不足、まだ実績が何も無い、部費回収の為の数々の問題行為! こんな部活が認められるはずが無いわ!」
「ぐぬぬ、そんな事ないもーん! 実績だってテイルズ・サガ・クロニクルがあるし!」
「あれは今年のクソゲーランキング1位じゃない! どれだけネット上で酷評されたと思ってるの!?」
その言葉に双子は沈黙した。そこまで酷いなら逆に気になるのだが、それは口に出さないでおいた。結局ユウカは猶予は二週間と言い残して出ていき、モモイは子どものようにプンスカしていた。
ユウカが去ってから、モモイはゲーム開発部を救い出す計画について教え始めた。最初の目標として、廃墟にあるG.Bibleというアイテムを手に入れることらしい。それは過去ミレニアムに在学していた伝説のゲームクリエイターが『最高のゲームを作れる秘密の方法』を書き残したものらしい。それを読めば最高のゲームを作れるとモモイは縋って賭けているようだ。
私観的だが、そんな美味しい話あるはず無いと心の中で思っている。ゲーム開発のみだけではなく、クリエイティブなものにおいて、超簡単に実績出る作品が作れるなら皆そうするに決まっている。と夢をみている子に冷笑的になってもしょうがない。
そっかと笑みを浮かべて同意すると、さっそく廃墟に向かおうということになった。しかし私はそれを制止した。しょうもない理由だ。
「そのテイルズ・サガ・クロニクルってゲームをやらせて欲しいな」
モモイにプレイをせがんだ。彼女はそれが少し嬉しかったのか、満面の笑みで私にゲームを渡す。16bitのRPGゲームっぽかったが、やった所感としては超高難易度で、理解できない芸術っぽいテキストは本当に唯一無二のゲームである感じた。しかし理不尽なゲームオーバーを三桁も食らい、双子が眠った深夜の部室にて私は発狂した。あははと笑みを浮かべモニターに向き合うも、結局クリアはできなかったのだった。