ゲーム開発部の四人を連れてレトロなゲームセンターに訪れていた。提案したのは私で、アリスにもっと色んなゲームをやらせたいというのは建前の理由。本音はただ単に私の好きだったものを皆に押しつけたかったり、久しぶりに遊びたかったというのが本心であった。
前世界線でもこのゲームセンターに通い、バイト終わりやシロコが居ない日はここで一晩を過ごした。クレーンゲームや景品獲得ゲームがずらりと並ぶ今どきのゲーセンとは真逆で、格闘ゲーム、ガンシューティングゲーム、2Dアクション、レースゲームに音楽ゲーム、メダルゲームと、レトロゲームがひとまとめになったような至福のアトラクション空間だった。
24時間営業ということもありあって、クーラー壊れて部屋で寝れない時はここで一夜を過ごしたこともあった。
店に入った瞬間、皆大はしゃぎで様々な筐体を物色してはマニアックなトークを繰り広げていた。アリスもモモイに引っ張られながら筐体を見て回っている。
「ミドリ見て! 『スチューデントファイター3 サードストライク』が稼働しているよ! 」
「お姉ちゃん! 『カシオペアの拳~ウーパールーパー大列伝~』の筐体も置いてあるよ!」
双子が格ゲーの筐体ではしゃいでいて、すぐさまコインを入れて対戦モードで白熱していた。なおミドリの方が明らかに実力が上らしく、モモイのキャラはコンボによってボコボコにされていた。癇癪を起こさないか心配である。
「両方ともCPUモードクリアするくらいやりこんだね。スト3は難しかったな」
「先生もやっていたんですね。わたしは5や6のオンライン対戦やっていました……」
「ユズはレジェンドです! UZQueenという名前で100連勝したと聞いています!」
「アリスちゃん、それは恥ずかしいから言わないで!」
「ユズ……なんて恐ろしいゲーマーなの」
UZQueenという名前はゲーム内でよく聞いていた。前の世界線にて、色んなゲーム筐体のランキング一位に『UZQ』や『UZQueen』という名前が載っていた。どれも圧倒的なスコアで君臨する謎の最強ゲーマーとして、一定の知名度はあった。その正体が彼女だったのか。
他の筐体も回って、次にレースゲームコーナーへ。
「わあ、レッドレーサーだ! 懐かしい!」
思わず私の方が興奮してしまう。このゲームは最上級コースで一位取るまでたくさん練習した思い出深いゲーム。時間切れが頻発し、ワンミスで順位がガクッと落ちてしまう、手ごたえのあるゲームだった。
「アリス、このゲームやってみます!」
と筐体に座り、座席を調節する。ゲームを始めたら初級コースでいきなり一位。時間切れもありえると思っていたのだが、予想以上に上手だった。
「アリスとっても上手だよ!」
「先生がアリスを褒めてくれました!アリス、嬉しいです!」
ユズを見てみると、一人でガンシューティングゲームをプレイしていた。筐体の左右にはハンドガン型コントローラーが設置されており、下部にはフットペダルがある。流石ユズクイーンというべきか、顔を出した敵兵を一瞬でヘッドショットで仕留めていた。
次に音ゲーコーナーへ。足で遊ぶダンスゲーム、全身でポーズをとるダンスゲーム、ドラム、ギター、キーボードでセッションできるゲーム、DJゲームなど色々ある。
「最近の音ゲーは難しくなりすぎて、もうついていけないね」
とぼやきつつも、モモイはいくつか遊んでみたいと言って音楽ゲームの方へ。ミドリも後を追うように歩いていったのだが、ダンス筐体の前で二人は怪しげな笑みを。
「先生ってこういうダンスゲーム得意そうだよねー!」
「そうだね、お姉ちゃん。先生もこういうゲーム得意なんじゃないですか?」
「え、得意じゃないよ……。やらないよ? 疲れるだけだし」
「まあまあ、やってみるだけだって! ほらアリスも!」
「アリス、先生がダンスしているところ見たいです!」
ユズの方を見てみるが、無言で期待の目を私に向けていた。生意気なゲーム開発部め、心の中で毒を吐いてからコインを筐体に投下した。
ゲームが開始して、音楽に合わせて全身で踊る。選曲は可愛げなしのヒップホップ、ユーロビート中心。振り付けも可愛らしさゼロのダンス。
「はあ、満足した?」
曲が終わると共にそう呟く。後ろ振り向くとユズは拍手を、モモイとミドリは微妙そうな表情。アリスは大はしゃぎで拍手してくれたのだが。
「うーん、見たいのはそういうダンスじゃなくて! アリス、先生を取り押さえて! 私が次の曲選ぶ!」
とモモイが筐体に乱入し、アリスが後ろから私の腕を封じる。ロボットのせいなのか、とてつもない力で解くことが不可能だった。
「はい、先生この曲踊って!」
モモイが曲選択すると、ミドリとユズは拍手した。選ばれたのはなんと電波曲。振り付けも電波色が強い、楽しいけれど私にとっては絶対嫌な曲だった。
「モモイ!? この曲、私やりたくないよ!?」
「大丈夫! 先生ならできるって!」
モモイは曲開始のボタンを押す。もう逃げられない、私は覚悟を決めて踊り始めた。そしてダンスを踊り終えた結果、ゲーム開発部総立ちで絶賛。
「先生、アイドルいけるよ!」
「先生可愛かったです……」
と煽てられる。モモイを無言で睨むように見つめたがモモイは全く怯むことなく、ただご満悦の笑顔で親指を立てるだけだった。
そういえばと昔のことを思い出した。前の世界にて、セリカとアヤネが何故かアイドルをやることになり二人のダンス指導を直々にやったことがあった。二人は恥ずかしがりながら踊る中、私は平然とキレキレのダンスを踊ったので逆にアイドルにされそうになっていた。もちろん全力で拒否し、対策委員会全員相手にヤダヤダと大乱闘を繰り広げた記憶がある。
そんなことを思い出しながら別のゲームコーナーへ。
結局みんなと遊び倒し、かなりの時間滞在していた。私は最後に、縦長モニター高難易度シューティングゲームをプレイし、唯一自慢できる二周目クリアで締めくくった。もちろん、この後ユズが上回るスコアを叩き出し、プライドをズタボロにされたのであった。
ゲームセンターで遊び倒した後の帰路にて、ふとモモイが私に言った。
「先生がゲーム好きで良かった。一緒に遊んでも楽しいし。でも先生というよりは友達と遊んでいる感じが強いんだよねー!」
「ふふっ、軍師の技、人心掌握術というものだよ」
「先生、まだ軍師気取りですか?」
「ずっと気取っていくよ。さて、戻ったらアリスの学生証、武器の問題を解決しないと」
こうして、アリスのレベリングが終わったのだった。
――
「アリスはねんがんの学生証をてにいれました!」
「○してでもうばいとる!」
「先生! アリスちゃんに変な言葉を教えないでください!」
朝のゲーム開発部にて、モモイがヴェリタスにお願いしてアリスの学生証をハッキングして作成して貰ったとのこと。
次はアリスの武器問題を解決せねばならない。そこで調達先としてエンジニア部に相談することにした。
エンジニア部の作業室を一目見ただけで、私の中では密かな興奮が沸き起こっていた。数々の見たことない道具、見たこともないテクノロジーの品々。ユニークな発明品が所狭しと並んでいる。
モモイ達が部長の白石ウタハと交渉している間、目線を泳がしてはワクワクを隠せなかった。しかし、エンジニア部の一人がそんな私の様子を見抜いたのだろうか。眼鏡を付けた一人の生徒が私の元へ。
「あなたがシャーレの先生ですね! 私は豊見コトリです! 何か私たちの発明品を眺めていましたが、説明や解説は必要ですか!?」
「いや、見ているだけだから大丈夫だよ」
「いえいえ、遠慮しないでください! 私たちの発明品を色々解説しますよ!」
コトリにグイグイ引っ張られて様々な発明品を解説された……のだが、彼女の説明は早いし知らない用語を矢継ぎ早に説明され、全く理解が追いつかない。
「待って! まったく分からない! 一回一回聞き返すからゆっくり説明お願い! まずはあの下半身に着ける外骨格アシストスーツはなに?」
「ふっふっふっ、よくぞ聞いてくれました! これはエンジニア部渾身の一作、……名前はまだありません!」
「試作品だからまだないよね……」
「用途として、着用者の体内から発せられる電気信号を読み取り、歩行や運動の補助をしてくれるスーツです! そしてこのスーツにしかない特殊な機能として、自爆機能、BlueTooth機能、パラシュート無しの緊急脱出装置、エアバッグ機能、二段階認証式暗証番号機能、そして何より! ドラム用ツーバスモードが搭載!」
「えっと、一つずつ質問させて。なんで自爆機能がついているの? グレネードとして使うの? 」
「まず自爆機能の歴史について説明しましょう! まずどうしてその機能が誕生したかと言うと……」
「一言でまとめられない?」
「ダメです! 何事も本質を捉えることが大切なんです! 話は戻りますが、自爆機能は軍事的用途から発展……」
その時だった。アリスがいつの間にか大きな大砲のような銃を持ち、砲身を天井へ向けて……。
「光よ!」
轟音とともに、天井が吹き飛んだ。今日も青空が広がっているのを確認できる。
「あーっ!! 部室の天井があっ!?」
コトリが絶叫する。天井には大型の穴がぽっかりと空き、太陽の光を燦々と取り入れていた。穴の淵から小石がパサパサ音を立てて落ちてきており、私も言葉を失くして呆然と立ち尽くしていた。
「えっと、何が起きたか誰か説明できる?」
「私が説明しよう」
とウタハが前に出る。要するにアリスが伝説の武器こと光の剣:スーパーノヴァを引き抜くことに成功、そして試射したら天井を吹き飛ばしてしまったらしい。アリスはこの重量合計200キロ超えの銃を気に入ってしまったようだが、譲渡には条件が。
「その武器を本当に持って行きたいのなら……」
「私たちを倒してからにしてください!」
とエンジニア部三人が前に立ちはだかった。
「アリス! 50%ぐらいの出力でやっちゃって! 」
「軍師から命令を受けました! 光よ!」
「えっ、いきなり不意打ち……?」
ヒビキの嘆きとともに光が三人を包み込んだ。光はすぐさま薄れていき、晴れた視界には手も足も出なかったエンジニア部三人の姿があった。倒れている三人に駆け寄り、しゃがみこんだ。
「なんか……ごめんね」
「構わないよ。光の剣はアリスのものだ」
「本当にいいの?」
「ああ、ようやく相応しい使い手が現れたのだろう」
アリスの方を見てみる。大型のレールガンを入手したことで、彼女はわいわいとはしゃいでいた。
「アリス、光の剣の使い方をもう少し教えてあげる。あと、少し補強しようか」
立ち上がっていたヒビキが手招きし、アリスは目を輝かせながら走っていった。これで、アリスの武器問題は解決したのだった。なお無名のアシストスーツも持って行ってどうかと提案されたが、足が使えなくなったら頼ることにすると伝えておいた。
――
今日のゲーム開発部への出動は遅れてくるようにモモイからお願いされた。理由はユウカが直々に資格審査を行うからとのこと。資格審査というのは、ゲーム開発部が存続可能か、その活動に問題が無いかをユウカがチェックする。
争点となるのはアリスがゲーム開発部四人目の部員になれるかどうかで、彼女は授業に参加してないし、学生証はハッキングで作られた偽物。傍から見れば突然知らない生徒がポップするという謎の現象と見えてしまう。経緯が怪しすぎるため、審査をクリアできるかはかなり微妙だが、モモイは先生が関わらなくてもいいから、とだけ言われた。
不安が大きく、今すぐでも部室内に駆けつけたいがなんとかこらえてモモイに全てを任せることにした。
午後少し過ぎ辺り、ゲーム開発部の部室前へ向かおうとした時、審査を終えたであろうユウカとすれ違おうとした。軽く挨拶をしたら、ユウカは突然動きが止まった。私の姿を見た瞬間、彼女の表情は険しくなり、目線が下を向いた。
「先生って……。ゲーム開発部の子達と一緒にいるときは本当に楽しそうですよね。私と一緒にいるときよりも」
「ユウカ?」
「……いえ、なんでもありません。忘れてください」
何か言いたげなユウカを見送り、私はゲーム開発部の部室へ踏み入れた。
メインストーリーはなるべく高速で進めております。