資格審査の結果として、アリスはゲーム開発部四人目の部員として正式に認められた。結果を聞くまでは動悸が治まらなかったし、聞いた瞬間安堵感により崩れ落ちてしまった。どんなやり取りをしたのかは全然分からなかったが、ミドリやユズの様子からして完璧とまでは行かなかったらしい。もしかするとユウカからの慈悲があったのかもしれない。
とにかくこれで部員人数の規定は達成したが、次に部活動で実績を上げる必要が。そのためにはやはりG.Bibleが必要で、再び廃墟へ赴かねばならない。今度はユズも同行するとのことで、合計五人で廃墟へ。タンク無し、ヒーラー無し、全員アタッカーのアグレッシブな構成で進むことに。
廃墟へ辿り着き、私は指示出す。
「作戦出すね。基本アリスによる勇者無双、モモイとミドリは、アリスが撃ち漏らした敵を倒していって。ユズは私のそばでサポートして。もう隠れる必要なんてない、正面突破でG.Bibleの座標まで行くよ」
「アリス、前列で勇者としてみんなを守ります!」
四人全員が私の方針に納得し、廃墟へ突入。数々のロボット達がアリスたちへ襲い掛かるが、
「光よ!」
アリスが勇者らしく光の剣で薙ぎ払っていく。次々と敵を倒していき、残った敵を姉妹が倒す。やはり光の剣の威力は凄まじく、砂ぼこりでむせそうになりつつもアリスの戦闘を見守る。
結局、座標の工場にたどり着くまで大きな危機には見舞われなかった。
「ありがとう、最高のチームワークだったよ」
安全地帯までたどり着いて、皆に労いの言葉をかけた。モモイは上機嫌なのか、私の背中に手を回してポンポンと叩いた。
「ねえねえ、私たちってもしかして実はすごく強いんじゃない? C&Cとか、他の学校の戦闘集団と戦っても勝てちゃうかも!」
とモモイが調子に乗った発言をするが、いやいや無い。脳裏に真っ先に浮かんだのはヒナとホシノの存在だった。はっきり言って彼女らは単騎でけちょんけちょんにされてボコボコにされそうなイメージが。
「C&Cはわからないけど、他の学校の子たちはもっと強いよ?」
「C&Cは絶対に無理だし、先生が言うなら他の学校の集団も無理そう。でも、先生がいると戦いやすい」
「私は軍師だからね。さて、光の剣のバッテリーが少ないしここからは交戦を控えよう」
そう伝え、四人はコクリと頷く。工場内部を探索し始めたところで、アリスが妙な反応を示す。
「アリス、どうしたの?」
「分かりません……。ですが、どこか見慣れた景色です。こちらのほうに……」
アリスは奥に一人で向かう。慌てつつも、その後をついてゆくことに。彼女は記憶がないと言っていたが、恐らく潜在的、無意識にこの工場を知っているのかもしれない。私も工場の雰囲気や構造を観察してみたが、アリスを見つけた工場とどこか共通点があるような気もした。
アリスの足が止まり、私たちも歩みを停止させる。向こうにはコンピューターが一台置いてあり、電源が点いていた。アリスはコンピューターに近づいていく。
『Divi:Sion Systemへ、ようこそお越しくださいました。お探しの項目を入力してください』
コンピューターを見てみるが、今までにないタイプのコンピューターだった。私の知識では下手に触るのは危険だと感じる。
「アリス、コンピューターにインタラクトしてみます」
「お願い、後ろから見守っているから」
アリスはコンピューターにインタラクトしキーボードを素早く叩いていく。エンターキーが押される前に、画面にメッセージが表示された。
『あなたはAL-1Sですか?』
「アリス、コンピューターは自我を持っているみたい。気を付けて」
コンピューターはまるでアリスに問いかけているようにも見えた。
「……アリスは、アリスです」
『音声を認識、資格を確認できました。おかえりなさいませ、AL-1S』
まさかの音声認識機能に思わず驚きの声を上げる。アリスはコンピューターと会話している、そのことが不思議でならなかった。
「あなたはAL-1Sについて知っているのですか?」
アリスがコンピューターに質問したが、応答がやけに遅すぎる。画面も処理重い状態のように、ぼんやりしたりブラックアウトしたりし、長い沈黙の後再びメッセージが表示された。
『そうで……@!#%潜在@脅威%$排除……#!$%!』
「潜在的脅威……排除……? 妙なワードだね」
その瞬間、コンピューターが緊急メッセージを出した。
『電力限界に達しました、電源が落ちると同時に消失します。残り時間51秒……』
「ええっ!?消えるって、どういうことなの!?」
突然の事に焦りだし、姉妹二人がコンピューターの操作を始める。
「待って、G.Bible廃棄しないで!」
『G.Bibleは私の中にあります。しかし消失寸前、新しい保存媒体への移行を希望します』
「えっと、ゲームガールズアドバンスSPのメモリーカードでも大丈夫?」
『まあ、可能ではあります』
ユズがメモリーカードとコンピューターを繋ぎ、転送を開始する。コンピューターの応答を見て妙に感じたが、やはり人格のような何かを感じた。
メモリーカード内のセーブデータが勝手に削除され、モモイが悲嘆の声を上げる中、電源落ちる寸前、最後のメッセージが一瞬だけ視認できた。
『A______M_____。先生、あなたはこの世界に存在してはいけない』
そのメッセージを最後に、コンピューターは機能を完全に停止した。
「ああぁぁ!私のゲームガールズアドバンスのデータがぁぁっ!!」
「お姉ちゃん、G.Bible転送できた!?」
ミドリが呼びかける中、モモイは放心状態になっていた。ゲーム機の方を見てみると、転送は完了しているようで一安心。
「モモイ大丈夫? せっかくのデータが……」
「だ、大丈夫。また一からやり直すから……。G.Bible起動してみよう!」
モモイがG.Bible.exeを実行する。しかしパスワード要求のポップアップが出て、中身を確認することができなかった。
「何それ! どうすればいいのさ!?」
「ヴェリタスならパスワード解除できるはず……!」
姉妹がヴェリタスに頼もうとしているところで、私は提案をする。
「部室に戻ったらG.Bibleのコピーできないかな。使い捨てのPCでパスワード当てられないか試してみたい」
「本当!? 先生、お願い!」
「一旦、部室へ戻ろう」
まずは全員、学校への帰還を促し隠密行動で廃墟から脱出。私達は部室へ帰還した。
帰還したらゲーム機からG.Bibleを使い捨てのノートPCにコピーしようとするが、セキュリティソフトで防がれる。前世界線での知識を思い出しながらセキュリティファイルを無力化、暗号化は解かず、文字化けした完全じゃない状態でコピーした。パスワードを直接解析するのは不可能だが、ファイルサイズはかなり小さく総当たり形式で行けそうだった。希望はあると伝えるため、ゲーム開発部がいるヴェリタスの部室へ。
部室内は沢山のモニターに、サーバーラックが天井まで伸び、無数の配線が束になっている。テーブルの上はエナジードリンクの空缶が山積みになっており、いかにもネットワーク戦士らしい部屋だった。メモリーカードのセーブデータが戻らないことで絶望しているモモイを横目に、マキと話しているミドリに話しかけた。
「ミドリ、話の途中だけど大丈夫?」
「あ、先生! さっきマキちゃんが解析して教えてくれましたが、私たちが手に入れたG.Bibleは正真正銘の本物、オリジナルです!」
「良かった。でパスワードの件だけど、もしかしたら総当たりで行けるかもしれない」
そう話すと、なぜか部室内が静寂に包まれ、皆がこちらを凝視してきた。
「ええっ!? パスワードわかるの!? どうやって!?」
マキが目を丸くして、私の方へ詰め寄ってきた。他ヴェリタスのコタマ。ハレも興味深そうに私のそばに駆け寄ってくる。
「パスワードはわからないけど、G.Bibleをコピーしてみてみた。完全じゃないけど。ファイルサイズは百数文字程度で、中身が暗号化されている感じだった。総当たりで中身の推測はいけるかもしれないと思って……。あとKeyファイルはどうしても無理だった」
「ええっ!? それはダメだよ! 中にウイルスとか入ってたらどうするの!? これにはツールが必要で……!」
「ミレニアム最新のセキュリティソフトで事前にチェックを入れてみたけど、検出ないよ?」
「でも……とにかくダメ! 鏡が必要なの!」
マキがなぜか必死で止めてくる。そんなに駄目なのだろうか、一体何に怒っているのかさっぱりだった。
「そう言われても、もうこっちで簡単に作っておいた総当たりプログラムを動かしちゃっ……」
「ああああっ!! パソコン頂戴!」
何故かヴェリタス総勢で拘束され、マキが私のパソコンを奪った。プログラムのキルスイッチを押そうとしたところで……パソコンの画面は突然真っ黒になった。そして一つのメッセージが表示され、
『鏡を探し出してください』とだけ。
パソコンを返されて色々操作してみるも応答無し。
「画面ブラックアウト……。キーボードの操作不能……。マウスの操作不能……。導き出される結論は……」
「とにかく鏡が必要なの! ね?」
マキは私にそう訴えかけるが、なぜ鏡が必要なのかさっぱりわからなかった。しかし、ヴェリタスの皆はやけに鏡に執着している。
「鏡って何?」
ノートPCはヴェリタスに没収され、マキから説明を受けた。要約すると、鏡はG.Bibleのパスワード入力のために必要なプログラム。しかし現在は生徒会であるセミナーが押収してしまい所持してなかった。会計係のユウカが押し入り、強制的に没収してしまったとか。ちなみに製作者はヴェリタスの部長であるヒマリとのこと。
ヴェリタスの総意としては、鏡を取り戻したい。だがその鏡はセミナーに没収されているので、ヴェリタスとゲーム開発部の共同作戦でミレニアムタワー最上階に保管されている差押品保管所を襲撃しようと言うらしい。
問題があるなら、保管所を守っているのがメイド部こと『Cleaning&Clearing』というミレニアム最強の武力集団。目をつけられたら「ご奉仕」によって徹底的に「清掃」されてしまうという。
「諦めよう!! ゲーム開発部、回れ右! 前進っ!!」
モモイが大声で撤退命令を出すほどメイド部は恐ろしいらしい。マキがモモイの手を掴んで必死に止めようとする。
「待って待って!! あきらめちゃダメだってモモ!! 取り戻さないと廃部にされるんでしょ!?」
「廃部は嫌だけど、ミドリにアリス、ユズの方が圧倒的に大事! 危険すぎる!」
モモイがわーわー騒いでいる最中、私はどうすべきか迷っていた。
「そのメイド部さえどうにかできれば、モモイはOKなんだよね?」
「それはそうだけど……。でもどうやって……」
するとコタマが間に割り込み、ある情報を教えてくれた。C&Cは現在、「切り札」が欠けた状態であると。美甘ネル、部長にしてコールサインダブルオーのれっきとした最高のエージェント。しかし彼女は現在別任務で不在、今なら最大脅威が欠けた状態で奪えるとの助言。
ポケットに突っ込んである注射器を確認しながら、私はモモイにこう告げた。
「最低一人でも私の方で抑えることができるかもしれない。どう、やれそう?」
「うーん……。でもまだ二人残っているし……」
モモイが悩んでいると、ミドリが前へ出る。
「お姉ちゃん、やってみよう。先生は前に出なくていいです。一番後ろで、軍師として私たちを導いてください」
「ミドリ!? でも相手は……」
「わかってる。でも私たちの居場所を守らなきゃ」
ミドリが姉を説得し、最後にこう加えた。
「先生、やらせてください!」
彼女たちは覚悟を決めている様子だった。私は彼女たちの覚悟に敬意を払いつつ、頷く。
「ヴェリタスのみんな、ゲーム開発部の意見はまとまったよ」
意見を受け入れ、ハレが作戦を立案する。盗聴、EMPショックも必要だが、エンジニア部への協力も必要とのことで、私が自ら彼女らの部室へ。協力を要請していることを伝えたら返答は二つ返事でOKとのこと。意外だと感じつつも、彼女らをヴェリタスの部室へ案内する。メンバーがそろったら、作戦会議がスタート。
手順一、アリス単独でミレニアムのオペレーションルームを襲撃。エレベーターの指紋認証システムを破壊し、修理の際にエンジニア部制作のセキュリティソフトを設置。アリスが捕縛され、反省部屋に幽閉。
手順二、マキとコトリが先に最上階へ侵入し、モモイとミドリのフリをしてC&Cのアカネとアスナの注意を逸らす。また厳重なセキュリティを起動し、二段階シャッター全作動させてセミナーとC&Cの移動制限を行う。またウタハとヒビキがC&Cカリンの狙撃を妨害する。
手順三、本隊のモモイとミドリ、そして私が最上階へ侵入。エンジニア部のセキュリティソフトにより私たちに権限が付与され、最上階を自由に移動可能。差押品保管所の鏡を奪取。
手順四、停電を引き起こし反省部屋に幽閉されているアリスを解放。鏡を奪取次第、ヴェリタスの部室へ逃げ込む。
以上が作戦。本隊突入から十三分以内に鏡を確保することが条件。二〇分はデッドライン、早く奪取しないと全員捕まってしまう。針の穴に糸を通せるような精密さが求められる作戦、どれが欠けても失敗となる。
これが会議中に皆で決めた作戦。そして、作戦は既に始められていたのだ。
――
タワー突入準備のため、ゲーム開発部の部室へ戻ろうと通路を一人で歩いているときの事だった。前方に、ユウカが一人待ち構えるかのように立っている。私のほうをずっと見て、来るのを待っていたようだった。
「ユウカ……?」
「先生、今からあなたを学園内規律違反幇助により拘束します」
「詳しく説明してくれるかな。どんな悪いことをしたのか」
「ゲーム開発部と一緒にミレニアムタワー襲撃計画を立てていましたよね? 学園の治安をあなたは乱そうとしました。これは立派な規律違反です」
ユウカの声は冷酷な算術使いの異名にふさわしい声をしていた。私は大げさに首を横に振って抵抗の意思を示すが、ユウカは氷のように鋭い目線を私に突き立てていた。そして持っていたサブマシンガンをこちらに向ける。
「なら、他のゲーム開発部員も捕らえる必要があるのでは?」
「ええ、後でしっかり捕まえておきます。C&Cがしっかりみんなを罰してくれるでしょう」
ユウカはサブマシンガンを構えながら一歩ずつ近づいてくる。私も一歩ずつさがっていく。
「一言いいかな。作戦の内容知らされるのが異様に早い気がするけど、誰から聞いた?」
「さあ? 誰からでしょうね。ほら、はやく手を頭の後ろで組んでください。抵抗しないで」
一歩下がろうとしたとき、背後から何か突きつけてくるような気配を感じた。
「動かないでください、先生」
後ろを振り向くと白く長い髪の生徒がハンドガンを持って私に突きつけていた。見たことない生徒だった。
「紹介が遅れました。二年生、セミナーの書記、生塩ノアと申します。以後お見知りおきを。先生、抵抗しないで拘束されてください」
「もう逃げ場はないわ、先生。大人しく降参しなさい」
前門のユウカ、後門のノア。完全に詰みの状態だった。私は両手を挙げて抵抗しない意思を示すとユウカはサブマシンガンを降ろした。
「賢明な選択ね、先生。さあ、反省部屋まで案内します」
ノアが冷たい手で手を掴み、丁寧に手錠を嵌めていく。拘束されると肩を押されてユウカの後ろを歩くように促された。
「先生、今回の一件はシャーレに抗議させてもらいます。覚悟しておいてください」
「承知の上だよ。……質問いいかな」
「手短に」
「ユウカは私に冷たくなったけど、立場上から? それとも本心から?」
「本心よ。先生がこんなことする人なんて思わなかったから。……心から失望したわ」
ユウカの氷のように冷たい声でそう答えられ、それ以上何も言わなかった。しばらく歩き、反省部屋の前へたどり着く。
「ノアは先生を反省部屋に収容して。私は今からオペレーションルームで襲撃犯を監視するわ」
「わかりました。ユウカちゃん、あまり無茶をしないようにしてくださいね」
ノアはそう言い残し、反省部屋のロックを解除した。
「先生、ユウカちゃんが思っていること、理解してあげてくださいね」
部屋の中に押し込まれ、ノアは去っていった。扉が閉まったあとはしっかりロックがかかり、私は室内に一人になった。
私は一人、『黒崎コユキ』の名前が書かれた布団の上に座り、じっと時間を待つことに。計画が崩れてみんなには申し訳ないこと、そしてモモイ達への心配がずっと心の中にあったのだった。
この章はあと2話で終わらせます