アビドスの6人目   作:____―--

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Dear Mr. Fantasy 5

 収容されてすぐにアリスも反省部屋に収容されてきた。

 

「アリス、大丈夫? 怪我はない?」

 

「はい、大丈夫です。……先生、ごめんなさい」

 

「セキュリティは壊してきた?」

 

「はい! 軍師の指示通りです」

 

「うん、上出来。あとはモモイ達が上手くやってくれるように信じるしかないね」

 

 アリスを褒めつつ、モモイ達が上手くやってくれるのを待った。部屋の外に出る手段は現状無いため、コユキが持っていたであろうクッションを枕にして横になる。アリスも私の真似をするように寝転がり、今進められている作戦とは一切関係ない話を始めた。

 

「この前、先生に教えてもらったアナログなRPGゲーム、楽しかったです。アリス達がレベル1の勇者となって、先生がマスターとして色んなトラップやモンスターを配置する……。とても面白かったです」

 

「分厚い本を複数冊買ってきてたね。私はマスター用の本を広げて、みんなが紙に好きなキャラクター作ってもらってスキルを決めさせたりしてた。聖職者やチーフが居なかったから、バランスどうしようと悩んでたよ」

 

「レベル1なので敵の攻撃が痛かったです。サイコロを振るときはみんなでハラハラしてました」

 

「あのゲーム、アリスは気に入ってくれた?」

 

「はい。またみんなで一緒にやりたいです。なので、先生もまたゲーム開発部へ来てください」

 

「そうだね。またみんなで一緒に。せっかくレベル2になったし、もっと強い敵も出したいね」

 

アリスとのゲーム話を通じて、部屋には穏やかな空気が流れる。しかしその時は突然訪れた。反省部屋の照明が突然落ちて停電する。

 

「先生、電気が消えました」

 

「計画が進んだんだね。アリス、光の剣を取り戻したら差押品保管所へ。モモイ達を助けてあげて」

 

「わかりました。先生も一緒に行きましょう」

 

「ううん、私は後から。今からローグになるよ。正面突破は苦手だけど、こっそり動くのと宝箱を開けるのは大の得意だから」

 

「ローグ……。先生は軍師にして、ローグなんですね!」

 

「そう。だから、みんなで帰れるように行ってあげて」

 

「はい。先生、どうかご無事で」

 

 アリスは立ち上がり、反省部屋の扉を開いた。ヴェリタスのハッキングで開けられるようにしておいたのだ。アリスは駆け出して部屋から遠ざかっていく。そしてワンテンポ遅れてから、反省部屋から飛び出してエレベーターへ。目標は最上階の差押品保管所、気持ち的にはスパイ映画の主人公になったような気分だった。

 

 エレベーターの指紋認証を通したら最上階へ。堂々と踏み入れ、通信機を起動する。

 

「ハレ、コタマ、差押品保管所へ繋がる他のルートはある? 通気口を使えたりとか」

 

「あるよ。エレベーター出て左側の部屋にダクトがある。そこからは直通で保管所へ行ける。シャッターには関係無いから、問題なく行けるよ」

 

「わかった。ありがとう」

 

 通信を切り、ダクトの蓋を開けて中へ入り込む。埃っぽいが通れないほどではなく、私はそのままダクトを進んでいく。しばらく進むと、コタマが言っていた通りダクトは保管所と直結していた。部屋の中に人の気配はせず、誰の気配もない。通気口を開けて、保管所へ降り立つ。

 

 遠くから戦いの音が聞こえてくるが、恐らくモモイ達とC&Cが交戦している。再び通信機でモモイ達に連絡を入れる。

 

「モモイ、ミドリ! 聞こえる?」

 

「先生!? でもこんな忙しい時に連絡は……」

 

「アリスと一緒に撤退して! 繰り返す、アリスと一緒に撤退して! 鏡は私の方で確保するから!」

 

「本当に!? じゃあ、撤退するよ!」

 

 保管所内を漁るが、戦いの影響か一部散乱していた。一つずつ棚を漁ると鏡を発見。大事にケースにしまい込み、それを鞄の中に入れる。ついでに紐がついたバックパックのようなものも背負い込み今度はシャッターを開けて脱出へ。

 

 しかしドローンの一体が私に気づき警報を鳴らした。もう遅いが、ホルスターからハンドガンを抜き振り向きざまに一発。基板部分に向かって命中し、その場に崩れ落ちた。これでセミナーやC&Cらの注意はこちらへ向くはず。

 

 また走り出すと前方にセミナーの生徒が見えてくる。彼女らが私を視認して追いかけると、私は曲がり角を使ってその差を上手く突き放し最上階を駆け巡る。そしてタワーの外周部らへん、アカネ、ノア、ユウカらに追い詰められた。

 

「先生、もう逃げ場はないわ」

 

 ユウカが銃を構えてこちらに近づいてくるが、私は口角を上げてこう答える。

 

「背後にあるシャッターを開けて」

 

 ヴェリタスがシャッターを開けると、背後は夜の摩天楼が写る窓ガラスが広がっていた。

 

「っ、先生!? 何をする気なんですか!」

 

「鏡を持ち帰るの」

 

「やめてください! だから、先生を閉じ込めておかなきゃいけなかったのに……!」

 

 ユウカは銃を下ろし、震えた声でそう答える。

 

「先生はいつもそうです! 目を離したらすぐに無茶して、私達の心配も聞かないで!  いつ死ぬかわからない、そんな危険なことばっかりして! 先生は……。先生は……」

 

「ユウカ……?」

 

「……お願いですから、こちらへ来てください。鏡ならこちらで正式な形で返却します。今回の騒動も極力なかったこととして処理します。ですから……。飛び降りようなんて真似は、やめてください……」

 

 ユウカの訴えに、気の迷いが一瞬生まれかけた。だが、私は首を振り自分を立ち戻らせる。一歩、また一歩と後ろへ下がる。ようやく部屋にメイド服を着た荒々しい小柄な少女が到着したがもう遅い。

 

「ごめんね。……私の帰りを待ってくれている生徒たちがいるんだ。だから、そちらには行けない」

 

 体を翻し、全身で体当たりして窓ガラスをぶち破った。身体が摩天楼へダイブする中、バックパックの紐を掴んで引っ張ると急降下は一瞬で止まった。パラシュートが展開され、ゆっくり地面へ降下していく。

 

 地上に降り立ったらパラシュートを脱ぎ捨て、ヴェリタスの部室へ帰還するのだった。

 

――

 

 作戦が完了し鏡を奪還したことで、ようやくG.Bibleの中身を見ることができた。しかし肝心の内容は要約すると『ゲームを愛しなさい』とだけ。デザイン的なコツや技術的なことは載っていなかった。あれだけ苦労したのだからもっと有益な情報があってもよかったのに。最初の頃は心の中で冷たく見ていた私も、ため息をつくことしかできなかった。

 

 自分の中で最大限手を尽くしたり、努力したとしてもしっかり報われなければかなり心が折れるということを再度思い知らされた。

 

 さて、中身を知ってしまったゲーム開発部は阿鼻叫喚となっている。ユズはロッカーに籠り、双子は魂が抜けたかのように放心状態、アリスはそんな周囲の様子に困り果ててオロオロしていた。世界が終わるのかというくらい空気が重い。

 

「えっと、みんな大丈夫?」

 

「もう終わりだああぁぁぁああ!!!」

 

「終わりじゃないよ、ほらミレニアムプライズまでまだ時間あるでしょう?」

 

「もう作れないよ!! G.Bibleが最後の希望だったのに!! できないよ、もう、おしまいだよ……。ふへ、ふへへへへへ……」

 

 モモイは床に倒れ、廃人のように静かに変な笑い声を出している。そこでアリスが声を絞り出した。

 

「今のみんなの姿は……まるで、正気がログアウトしたみたいです」

 

「うぅっ、仕方ないじゃん、最後の手段だったのに! それが、あんな誰でも知ってる文章が一つ入ってるだけだなんて! 釣りにもほどがある! 知ってた! 世界にはそんな、それ一つで全部が変わって上手く行くような、便利な方法なんか無いって! でも期待ぐらいしたっていいじゃん! うああぁぁぁんっ!」

 

 モモイは大泣きして床に突っ伏し、そのまま動かなくなってしまった。出た言葉は本心なのだろう。突っ伏した彼女のそばに寄り、背中をさする。

 

「私の昔話を軽く聞いてくれないかな、モモイ」

 

 彼女の返事はないけれど、私はそのまま続ける。

 

「数年前、すごい絶望した。避けられない、どうしようもない絶望。何もかもが真っ暗で、希望なんてまるでない日々が続いてた。その時にね、ある考えに辿り着いたんだ。仕方ないんだって諦めることを」

 

 モモイは微動だにせず、ずっとそのままだった。ただうつ伏せになり、腕をだらんと伸ばしているだけ。私の言葉を聞こうとしているのか、それとも何も考えたくないのかは分からない。

 

「どれだけ絶望したって時間は止まらないし、明日が来る。だから目の前でできることを必死にやればいい。諦めて、切り替えて、出来ることをやるだけ」

 

 モモイはゆっくり起き上がり、私の顔を見た。

 

「今できることは二択だよ。廃部を受け入れるか、数少ない時間で足掻いて必死に提出間に合わせようとするか。もし、作るというなら……」

 

 本棚に勝手に置いていたゲームプログラミングの本を持ち出し、どさっとモモイの目の前に置いた。

 

「入門程度に勉強してきた、もしもに備えて。やるなら可能な限りなんだって私は手伝うよ。プログラミング、テストに雑務だって」

 

 モモイはまだ視線を上げようとはしなかった。そこにアリスが目を輝かせて、モモイに声をかける。

 

「アリスは『テイルズ・サガ・クロニクル』をやるたびに思います。あのゲームはアリスに夢というのを教えてくれるのです。モモイが、ミドリが、ユズが愛した、想いが溢れた世界を仲間達と一緒に旅して、戦って、世界を救っていく。苦しいところもありますが、あの世界で旅をすると、胸が高鳴ってしまうんです。そしてできるなら……この夢が、覚めなければいいのにとアリスは思っています」

 

 モモイはアリスのその言葉を聞いて、ようやく顔を上げた。いつの間にかユズもロッカーから出ていて、アリスの傍に居た。

 

「ありがとう、アリスちゃん。……テイルズ・サガ・クロニクルを大好きに思ってくれて。このゲームのプロトタイプを最初に公開したときは、四桁以上の低評価コメントに冷やかしばっかりで辛かった。でも、嬉しいこともあったんだ。モモイとミドリが訪ねてきてくれて、一緒にプロトタイプから完成に持っていってくれて。結果は……アレだけど」

 

 クソゲーランキング一位、モモイとミドリはちょっと落ち込んだ表情を見せる。ユズは続ける。

 

「その後、アリスちゃんが訪ねてきてくれて、面白いって言ってくれた。それでわたしの夢は叶ったの。心の通じ合う大事な仲間たちと、一緒にゲームを作って、それを面白いって言ってもらう……ずっと一人で思い描いてるだけだった、その夢が。これ以上は欲張りかもだけど。叶うなら、わたしはこの夢が……この先も、終わらないでほしい。だからね、作ろう」

 

 その言葉でモモイは完全復活した。

 

「……よし、やろう! テイルス・サガ・クロニクル2の開発始めよう!!」

 

「お姉ちゃん……!」

 

 モモイが復帰し、ミドリも感化されて元気を取り戻した。復活したゲーム開発部を見てアリスは大喜び。

 

「アリス、ゲーム開発部の皆さんが元気になってくれて嬉しいです!」

 

「言ったとおり、私も手伝うよ」

 

「パンパカパーン! 先生がアリスのパーティに加わりました!」

 

 数日間は地獄のスケジュールになるだろうが、覚悟の上であった。

 

――

 

 部室を出て廊下を歩く。窓から差す太陽の光がやけに眩しく見えたが、その時にようやく不思議と視界が潤んでいるのに気が付いた。

 

「眩しいな、みんな」

 

 みんなの夢の話を聞いて、何か思うところがあったのかもしれない。友達、仲間と一緒に何かをする、そんな幸せがずっと続いてほしい。そんな思いが無意識に私の心に染み渡っていたのかもしれない。

 

 私の夢はもう叶わないけれど、みんなの夢は守りたい。自分の中にそんな感情が初めて芽生えたのであった。そしてもう一つ思ったことを独り言で呟く。

 

「この世界で、私の夢は見つかるのかな……」

 

 生徒達から一人離れて歩き出す。誰も居ない廊下がいつもより長く感じた。

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