アビドスの6人目   作:____―--

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Chapter2.5 Days II
【プロローグ】abnormalize 1


 昼間の連邦生徒会室のロビーにて。私はたまたま休憩中のリンと遭遇していた。書類提出目的でこの場所に来たが、時間があるということでついでにリンと雑談をすることにした。彼女の方からコーヒーを淹れてくれたので、ありがたく頂戴する。

 

 タワーの外に見えるメトロポリスを二人で眺めながら感傷的な言葉を呟いた。

 

「リンちゃんと出会ってから、時間が経ったよね」

 

「そうですね。……出会った当初はどうなるかと心配していましたが、今ではここまで回復して本当に良かったです」

 

「リンちゃんにも感謝してるよ、本当。私を助けてくれたし、居場所もくれた。……今ここにいるのは全部リンちゃんのおかげだよ」

 

「いえ、私は連邦生徒会長の代行として先生を補佐しただけです」

 

 リンはきっぱりとそう答える。少ししてから今度は彼女の方から口を開いた。

 

「今ちょうど、サンクトゥムタワー復旧作戦に関する報告書を纏めていました。……あなたが先生になってから最初の仕事ですね」

 

「ああ……」

 

「まだ時間がありますので、少し振り返ってみませんか?」

 

 返答は頷きで返し、過去を遡って思い出し始めた。

 

ーー

 

 最初に先生の姿が発見されたのは、D.U.シラトリ区内の裏路地でした。市民からの通報があり、『衰弱した女性が倒れている』と。身柄は病院へ搬送され、無事命に別状はありませんでした。しかし身元不明の記憶喪失の女性で、意思疎通が出来ない状態でした。

 

 その時期、連邦生徒会長が失踪した時期と重なり多忙を極めていましたが、その生徒会長が先生として指名した女性だったということで私が直々に病院へ足を運びました。

 

 女性は一般の病室に運ばれ、点滴を打たれている状態。私はその病室に入り、寝ている彼女に声をかけましたが声を出すことが難しいようでした。私はその女性を一通り観察してみると、肉体が全体的に痩せ細っていることがわかりました。髪も長く手入れがされていない様子で、全体的に気力が感じられないような状態です。

 

 筆談も試みましたが文字の大きさがバラバラ、何の文字かすら分からない有様でした。

 

 その日の会話は諦め、私は何度かその病室に足を運んで彼女と話をしようと試みました。ですが結局声を出すこともなく、意思疎通も困難のままに終わりました。

 

 やがて連邦生徒会の状況、キヴォトス全体の状況が悪化。時間は無いと悟り、私は病室の女性にある言葉を告げました。

 

「あなたはこのような状態ですがいつか『先生』になってもらわなくてはなりません。行方不明となった連邦生徒会長があなたに託したのです」

 

 その言葉が引き金になったのか、彼女は初めてある言葉を口にしました。

 

「せん、せ……い……」

 

 言葉は発することはできたものの、コミュニケーションは未だに困難でした。次の日、再度訪れると私は驚嘆の光景を目の当たりにしました。

 

「リンちゃん、おはよう……」

 

 女性は明確に言葉を発するようになっていたのです。

 

「おはようございます。自分の名前はわかりますか?」

 

「なまえ……、わからない。でもわたしは先生になるって、リンちゃんが……」

 

 驚きました。この短期間で言語をほぼ完全に回復していたのです。筆談も難なくこなし、会話の受け答えもできるようになっていました。

 

 それから数日のリハビリの後、彼女は退院しました。急激に社会的機能も回復しており、身だしなみも整えられ清楚な印象に変わっていました。恐らく『先生』になるという自覚が彼女の回復を早めたのでしょう。

 

 彼女は連邦生徒会の制服の着用をやんわりと拒否し、ズボンスタイルのスーツに着替えました。理由を尋ねると、「先生らしい格好だから」と。

 

 まだ名前の無い女性が先生になるのは性急すぎるのではと私が判断し、しばらくの間、彼女は私の下で動くことにしました。そこで書類仕事のやり方など、彼女が先生として必要なスキルを学ばせました。またキヴォトスの現状も説明しましたが、その点に関しては異様に飲み込みが早かったです。

 

 そして彼女を先生に任命する日、彼女の異常性が初めて明らかになったのでした。

 

ーー

 

 連邦生徒会室のロビーからエレベーターでレセプションルームへ移動すると、着任したばかりの先生が四名の生徒に詰められており、困惑して立ち往生していました。

 

「ちょっと! 連邦生徒会の人でしょ!? 連邦生徒会長を呼び出してきてよ!」

 

「無理なら首席行政官でも構いません」

 

「連邦生徒会長をお願いします。風紀委員長が今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

「……リン、ちょっと助けて欲しいんだ」

 

 先生は困り果てた様子で、助けを求めるような目で私を見てきました。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん」

 

 先生に向けられた注意を一手に引き受けるべく、私は前に出ました。各学園の代表者が不満を露わにして連邦生徒会長への面会を要求してきますが、生徒会長は不在であることを告げます。そして連邦生徒会の行政機能が現状停止していることを伝え、対処方法として先生がシャーレの部室の地下にある物を手に入れ、それを使ってキヴォトスの混乱を収束させるという計画を説明しました。ですが……。

 

「シャーレの部室? ……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?」

 

 モモカからの連絡で矯正局から脱出した生徒達が騒ぎを起こし、現在戦場になっているという報告を受けました。中には巡航戦車を乗り回して戦っている生徒もいるらしく、事態は急を要するようです。

 

「り、リン……?」

 

 先生が不安げな顔で私を見つめるほど、我を忘れているようでした。

 

「……だ、大丈夫です。少々問題が発生しましたが、大したことでは……」

 

「大したことあるよ。……大丈夫?」

 

 先生から心配されてしまいました。どうすればいいのかと思案していると、ちょうど暇を持て余した生徒四人が目につきました。

 

「先生」

 

「どうしたの?」

 

「危険を承知でお願いがあります。先生の初仕事がこのトラブルの対処です」

 

「えっ?」

 

「先生、シャーレに急行してください。そして問題の解決をお願いします」

 

 先生は少し考え込んだ後、頷きました。

 

「わかった。最善を尽くすよ」

 

「あとはここにいる生徒達も同行させます。うまく指揮して事態の収拾に力を貸してください」

 

ーー

 

 D.U.外郭地区、シャーレの部室付近にて。

 

「なんで私たちが不良達と戦わなきゃいけないの! 私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!」

 

 吹き荒れる銃弾に爆風、そして戦車の砲撃。何故か代行の指示で暴動の鎮圧に駆り出された私は愚痴をこぼしていた。

 

 弾が当たれば痛いし、これから規則で違法となる銃弾も使われている。それなのに何故、私達が戦わなきゃいけないのか。

 

 遮蔽物に身を隠している先生に目線を向けてみる。生徒と見違えるほど若い女性の大人はこんな状況下でも据わった目をしていた。先生は私達よりも脆弱で一発の銃弾で生命の危機に晒されるはずなのに先生は冷静さを維持している。

 

「大丈夫?」

 

「大丈夫ですけど……!」

 

「戦術指揮やるよ。勉強してきたんだ」

 

「え?」

 

 先生は遮蔽物から顔を出して戦況を確認するという危険極まりない行動を取り始めた。

 

「先生! 危ないですよ!」

 

「大丈夫。……指示出すね。ユウカは前へ、スズミはユウカの後ろでフォロー、ハスミは後方で狙撃、チナツは私と一緒に最後方で待機。……どう?」

 

 指示に私達は思わず頷いた。すると先生は満足げに頷き、チナツさんと一緒に遮蔽物へ身を隠す。そこから戦闘指揮を執り始めた。

 

 私も先生の指示通り、前方へ出てサブマシンガンを発射する。それに呼応するように後方から閃光弾や狙撃が飛んでくる。先生の指揮のおかげか、私達が劣勢になることは一度もなく部室に向かって前進する。道中、この騒動を巻き起こした人物が通信で明らかになった。百鬼夜行連合学院のワカモ、停学処分を受けて矯正局送りにされていたが、脱獄してシャーレの部室を襲撃しているとのこと。

 

 対峙するも逃げられ、私達はシャーレの部室へ。

 

『ユウカ、前方に多数の不良が見える。シールドを展開して』

 

「わ、わかりました!」

 

 先生の指示通りシールドを展開。すると前方から弾丸の嵐が飛んできてシールドで対応して進んでいく。

 

『ユウカさん』

 

 突然、チナツさんからの連絡が来た。

 

『気のせいかもしれませんが、先生の様子がおかしいです』

 

「えっ?」

 

『先生は戦闘中、戦況をみて指示を飛ばしているのですが……、その先生の目線がおかしいんです。落ちている銃をずっと見つめていて、まるでその銃で戦おうとしているように見えます。……先生、何してるんですか!?』

 

「チナツさん!?」

 

 先生が居たはずの後方を振り向くと、先生が銃を拾って全力でこちらへ走ってくる。

 

「先生!?」

 

 先生はアサルトライフルを不良生徒に向けて発砲し始めた。一発で気絶させ、次々と不良を薙ぎ倒し私よりも前へ出て突撃していく。

 

『ユウカさん! やむを得ません、先生に追いついて気絶させてください!』

 

「は、はい!」

 

 全身に絶対零度が駆け巡った。ヘイローが無い先生が前線に出て戦っている。理解できない。

 

「先生、止まってください!」

 

 止まらない。聞いてないのか、正気を失ったのか。銃弾飛び交う中、全力疾走で背中を追い続ける。

 

「先生!」

 

 先生は足を止め、私の方を振り向いた。その瞬間身体を押し倒し、ごめんなさいと思いながら拳に力を込めて先生の頭に叩き込んだ。

 

「っ!?」

 

 なんとか気絶させ、先生が持っていた銃を取り上げる。

 

「先生を保護したわ! スズミさん、先生を後ろに!」

 

「はい!」

 

 スズミさんが先生の身体を支えて後退。私は銃を構え、不良達を牽制する。戦っている時の先生の表情は、今までの印象とは真逆の雰囲気を感じ取れた。怖いほどに冷たく、無感情で、まるで別人のよう。なにかトラウマに囚われているようにも見えた。いや、今はそんな場合じゃない。部室へ何としてでも近づかなきゃ。

 

『先生は私の方で保護しました。基本的な指示を守って戦闘を続行しましょう』

 

 チナツさんからの通信に応え、目の前の不良達に集中した。




フェスで初めて時雨見ましたがかっこよかったです
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