アビドスの6人目   作:____―--

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2026/3/28 整合性に合わせて修正


【プロローグ】abnormalize 2

 気がついた時には、建物の屋上と青空が視界中に広がっていた。

 

「先生、大丈夫ですか?」

 

 次に視界に入ってきたのは心配そうな表情を浮かべるチナツだった。

 

「う、うん……。私はなんでここに……」

 

「覚えてないのですか?」

 

「全然……」

 

 チナツは事の経緯を教えてくれた。それでようやく自分が何をしたのか理解できた。あの時は銃声や爆発音を聞いた瞬間から私の記憶が途切れている。何故そんなことをしたのか、自分でもわからない。

 

「先生、さっきのは異常です。前線に出るなんて……」

 

「私でもわからない……」

 

 周囲の音は静まり返っており、戦闘はもう終わったようだ。ハスミ、スズミ、ユウカらが集まってくると、チナツが説明した。

 

「先生は覚えてないようです……」

 

「とりあえず、代行に報告したほうがよさそうね」

 

「そうですね。先生、立てますか?」

 

ハスミに手を差し伸べられ、立ち上がる。

 

「大丈夫……」

 

「首席行政官は部室の地下で待ち合わせするようにと。私達は地下に入れないので、先生一人で行ってもらうことになります」

 

「ちょっと!? 先生一人で行かせるつもり!?」

 

「ユウカさん、落ち着いてください」

 

 チナツが制止する中、私はホルスターの拳銃を取り出して弾数を確認する。

 

「行ってくる」

 

 そう告げてシャーレのビルへ走り出す。背後の心配の声を振り切り、私は地下への階段へ足を踏み入れる。

 

 先客として一人の生徒が佇んでいた。見覚えがある。百鬼夜行らしい格好に狐のお面、孤坂ワカモだ。思い出すのに時間はかからなかった。前の世界線にて、アビドスの皆とリゾート地復興させようとした時に武力で妨害してきた奴だったから。

 

「……あら?」

 

「……」

 

 ワカモは私を見て少し驚いたような仕草を見せた。銃口を向けようとしたが、ちょっと待てと直感が私に語りかける。過去の経験上、ワカモは先生を見ると逃げ出すような仕草を見せていた。それに私は先生なのだから、いきなり銃口を向けて発砲するのはどうなのかと。だからいきなり敵対的なことをするべきではない。

 

 拳銃をホルスターにしまいこみ、冷や汗を隠しつつワカモに歩み寄る。

 

「……こんにちは」

 

「あら、あららら……」

 

 ワカモはお面越しでも分かるくらい動揺している。そして少し後ずさりして……。

 

「し……失礼いたしましたー!!」

 

 彼女は突然大声を上げて逃げてしまった。直感は正しかった。ため息をついて額の汗を拭いリンの到着を待つことに。

 

 リンがシャーレの部室へ到達したのは、数分後のことだった。彼女は私を見るなり安心したように息をつく。

 

「先生……無事で良かったです」

 

「なんとか」

 

 彼女は部屋内を見渡し、あるタブレットに手を伸ばした。

 

「傷ひとつなく無事ですね。先生、受け取ってください」

 

 これが先生が常に持っていたタブレット端末だったのか。シッテムの箱と呼ばれたものを確かめるようにゆっくり手を触れ、手に取った。説明によるとただのタブレットではなく正体不明の機能を持つ物だそうだ。連邦生徒会長がそれを私に託し、タワーの制御権を回復させる鍵となるとのこと。

 

 一通り説明を終えたリンが邪魔にならないようにと離れていき、私はタブレットを起動した。

 

 まずはシステム接続パスワードを要求される。導かれるかのように脳裏に浮かんだパスワードを入力する。

 

"……我々は望む、七つの嘆きを。

 

……我々は覚えている、ジェリコの古則を。"

 

 入力した瞬間、私の意識は不思議な空間へ引き込まれた。

 

 一部が崩れた教室に立っており、外側には青空と広がる海、山積みの机と椅子があった。そして教室の中心には、少女が机の上にうつ伏せで居眠りしている。その姿はあの電車で見た少女の姿と重なる点があった。

 

「むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……」

 

 甘い夢を見ている彼女のそばに私は歩み寄っていく。

 

 肩を軽く叩いてみる。

 

「……うぅぅぅんっ」

 

 今度は肩を掴み揺らして見ると、ガタッと机を揺らして彼女は飛び起きた。

 

「ありゃ、ありゃりゃ? あれ、あれれ? せ、先生!? この空間に入ってきたということは……もうこんな時間!?」

 

「えっと……、こんにちは」

 

彼女は慌てて立ち上がり、私に一礼する。

 

「こ、こんにちは! あ、あの……その……」

 

「落ち着いて。私は先生で合ってる?」

 

「は、はい! そうです! 私はアロナです!」

 

 アロナはこのシッテムの箱に駐在するシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから私の秘書になるらしい。

 

「早速だけど、このタワーの制御権を回復させてほしい」

 

「わかりました! ですがその前に生体認証をお願いします!」

 

 アロナは私に近づき、人差し指を差し出してきた。

 

「私の指に先生の指を当ててください!」

 

 しゃがみこんで彼女の身長に合わせたら、私の人差し指を当てる。

 

「なんか、映画でこういうの見た気がする」

 

「これで生体認証の指紋を確認するんです! ……はい!確認終わりました♪ では、制御権のadmin権限を取得します……。はい! 制御権を回収できました! 今サンクトゥムタワーは、私アロナの支配下にあります。つまり、今のキヴォトスは先生の支配下にあるのも同然です!」

 

 今、私がキヴォトスの支配者になっているという事実。実感は湧かないが、恐ろしい事態になってるのは確かなようだ。

 

「先生の承認があればサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できますが、どうしますか?」

 

「……移管して」

 

 恐らく先生ならこの選択をとっただろう。先生はキヴォトスの王となるような人ではないから。それに移管してなかったら、もっと強い力を振るって独裁者っぽい感じになっていたはず。私としてもそうはなりたくないし、連邦生徒会に管理を委ねた方がいい。

 

「本当に大丈夫ですか……?」

 

「承認する。お願い」

 

「わかりました! サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」

 

 移管作業は一瞬で終わったらしい。これでアロナに対する用は済んだのだが、去る前に一つだけ確認しておきたいことがあった。

 

「アロナ、一つ聞きたいことがあるんだけど」

 

「はい! なんでしょう?」

 

「……電車の中の女性について、何か知っている?」

 

「電車の中……ですか?」

 

アロナは首を傾げた。やはりあの女性はただの夢か幻覚の類だったらしい。

 

「ううん、知らないならいいよ」

 

 私はアロナから離れ、この空間を立ち去った。

 

――

 

 部屋が明るくなったシャーレの地下に戻ってくると、リンもすぐに私に気づいて近づいてきた。

 

「先生、サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。これにてあなたの初仕事は完了です。お疲れ様でした。そしてありがとうございました。連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。では、これからあなたの新しいオフィス、シャーレの部室を案内します」

 

「わかった」

 

リンに連れられ、私はシャーレの部室へ足を進めた。そこで彼女からさまざまな説明を受ける。

 

 シャーレ、連邦捜査部。権限はあるだけで、特に目的があるわけではない。私の権限で自由に動けるようにと、連邦生徒会長がこの組織を私に与えた。

 

「……以上がキヴォトスでのあなたの組織です。何か質問はありますか?」

 

「大丈夫」

 

「わかりました。……申し訳ありませんが、先生として仕事に取り掛かかる前にいくつかのテストを私の方から受けていただきます。ユウカさんから報告を受けたあなたの異常な行動についての調査で、いくつかの医療機関で精密検査を受けてもらいます。数日間はかかると見てください」

 

「うん、わかった」

 

「ではシャーレの外へ出ましょう」

 

 外へ出たら一緒に戦った四人に囲まれる。怪我は無かったか、学園へ来訪するときはよろしくなど、いろいろ話をされる。話を終えたら、シャーレへ戻って準備の作業に取り掛かることにした。

 

――

 

 リンからの指示で、ここ数日間は色んな医療機関に検査を受けていた。全身の検査に血液検査、心理的なテストから脳波検査までありとあらゆるものを。全てを終えてから、私はリンに呼び出されて連邦生徒会へ。

 

「先生、検査結果ですが……。日常生活に支障が出るほどの異常が確認できました」

 

リンから深刻そうな様子で続ける。

 

「話せればいいので、この状態にまで至ってしまった原因に関して心当たりはありますか?」

 

 心当たり……。私の知る限り、その答えは一つしかないだろう。

 

「……十分にあるよ。でも現実離れしたようなものに聞こえてしまうかもしれない」

 

「構いません。大丈夫なら話してください」

 

「私はキヴォトスが滅びた世界線からやってきたんだ。元々はアビドス高等学校の生徒だったけれど私は死んだ。そして今の世界線へ」

 

 リンはメガネを直し、「なるほど」と呟いてPCのキーボードをカタカタと打ち込んでいく。

 

「あなたはキヴォトスの外側から来た人間では無く、元々内側の住人だったわけですね。……どのようにキヴォトスが滅びたのか、教えてもらえませんか?」

 

 私は覚えている限りのキヴォトスが滅びた経緯をリンに伝えた。そして私がどのようにして死んだかもぼかしながら話す。リンは引き続きキーボードを打っていく。

 

「連邦生徒会長があなたを選んだのも、もしかすると前世界線の記憶を持ったあなただからかもしれません。未来を変えるために」

 

「私は未来を変えるための柱にされたのかも」

 

「……今あなたが話してくれたことはやはり現実離れしているように感じます。ですがあなたのその異常性に説明がつきました。未来を変えるために連邦生徒会を動かすのは難しいですが、私個人としてあなたに協力します」

 

「ありがとう、リンちゃん」

 

「リンちゃんはやめてください。……では今後の対応についてですが、シャーレに当番生徒というシステムを導入します。シャーレの業務を手伝う生徒を当番として任命し、その業務に当たらせます。先生が業務を行う際は必ず当番生徒を配置するようにしてください」

 

「私が何かしないか監視するため、でもあるんだよね」

 

「ええ。当番生徒はサンクトゥムタワー復旧作戦に参加してもらった生徒四人にお願いしていますが、都合上当番に来れない場合も考えられます。ユウカさんが積極的な志願をしてくれたので、彼女が頻繁に来るつもりでお願いします」

 

「ユウカ……ミレニアムのだっけ」

 

「ええ。あとは私生活の補助目的で先生の住居の合鍵を渡そうか考えていますが、これは先生の意向を伺おうかと」

 

「合鍵?」

 

「ええ。先生の私生活で支障が出た場合、すぐに助けに行けるように。誰か生徒一人に合鍵をお渡しします」

 

「ユウカでいいよ」

 

 即答するとリンは少し驚いたような表情を浮かべた。

 

「よろしいのですか? プライバシーに支障が出ることを懸念していましたが」

 

「大丈夫。問題ないよ」

 

「……わかりました。ではユウカさんに後ほど鍵をお渡しします。医師から説明があったように、定期的な通院、投薬は欠かさずにお願いします」

 

「うん……」

 

「では今回の件はここまでです。どうか気をつけて、先生」

 

ーー

 

 冷たくなったコーヒーカップを指に引っ掛け、まだ窓から見える景色を眺めていた。

 

「まだ完全には治ってないけど、少しずつ良くなってるよ」

 

「良かったです。この前はミレニアムサイエンススクールの方にも訪問しに行ったようですが」

 

「そうだね。部の問題を助けに行ったんだ。友達、と言っていいのかな。新しくできたし」

 

「そうですか。……キヴォトスの危機となる兆候は見えましたか?」

 

「ううん、まだわからない」

 

 リンはコーヒーを口に含みながらロビーにあるテレビに目を向けた。クロノススクールの報道番組にてエデン条約と呼ばれる条約の動向が報じられていた。

 

「エデン条約……。連邦生徒会長が主導で進めているものだったよね」

 

「ええ。ですがその連邦生徒会長は行方不明、連邦生徒会としても干渉は行わないつもりです」

 

「上手くいくと思う?」

 

「わかりません。ですが、もしかすると先生が関わることになるかもしれません」

 

 エデン条約、リンからの説明によるとトリニティ総合学園とゲヘナ学園の間で武力的な協力関係を結ぶ条約。しかしトリニティとゲヘナの間には根深い対立があり、私から見ると上手くいきそうにない条約に見えていた。

 

「私が関わる、トリニティとゲヘナの間に……」

 

 自然と気が引き締まるような、少し不安になるような。身体がすこしこわばる感覚を覚えた。




早くエデン条約編入りたいですが、次はネルです
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