アビドスの6人目   作:____―--

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【ユウカ】シキナ

 ユウカとようやく時間を合わせられた。今日は一日中彼女の予定が空いているということで、一緒に気ままに出かけるということに。

 

 待ち合わせ場所は私の家。ユウカはたびたび私の部屋に来たことはあるし、合鍵も持っているので勝手に入ってきてもいいことになっている。なのだがインターホンが鳴らされ、『先生、来ましたよ』と彼女の声が。別に入ってきても良かったのにと思いながらドアを開け、彼女を招き入れる。

 

「いらっしゃい」

 

 私は普段通りのオフィスカジュアルな服装で、ユウカもカジュアルな私服で来ていた。彼女は家の中にあがったら私の部屋を隅から隅までチェックをし始める。

 

「相変わらず殺風景な部屋ですね。冷蔵庫も水しかないですし、ちゃんと食事とれてますか?」

 

「一応……。コンビニ弁当か、外食で済ませてる」

 

「ちゃんとしたもの食べてくださいよ……。身体壊しますよ? 料理もできるんですから、自炊してください」

 

「うーん。誰かが居ないとやる気が起きなくて」

 

「一人でもちゃんと料理してください! あれ、テーブルの上に領収書が……ってなんですかこれ!?」

 

 ユウカがテーブルを指さす。テーブルの上にはこの前の服、バイク買った時の領収書が置いてあったのだ。

 

「先生っ! この桁外れな出費はなんですか!? このお金があれば優に数ヶ月分の生活が送れますよ!?」

 

「新しい趣味ができちゃって……」

 

「もう! 消費は計画的にしないとダメですよ! 家計簿はつけているんですか!?」

 

「つけてない……」

 

「もう……。今から領収書を整理して消費をチェックしますので、レシートとかあったら全部出してください」

 

 私はユウカに言われるがまま、レシートの束を彼女に手渡す。ほとんどはエンジェルで飲み物や食べ物を買ったときのものだ。彼女は椅子に座り、持参の電卓やタブレットで計算をし始めた。

 

「もう……何か好きなことを見つけるのは良いですが、小遣いをもらってパーっと使っちゃうような子どもじゃないんですから」

 

 片肘つきながらレシートを計算していく彼女にそっとコーヒーを差し出し、私は彼女の向かいに座る。お金の使い方について、ふと振り返ってみる。今までは最小限の出費しかしなかったし、食事も家電、生活用品などもこだわりは無かった。でも今は……バイクに、服にと出費がかなり増えた。

 

 前世界線だと、実はノートとペンで家計簿をつけていたのだ。修理バイトの収入にアビドスの借金返済に差し出すお金、シロコを養う為の出費、色々計算していた。今は全く気にしなくなっているし、私は誰かが居ないとやる気にならない人間なのだろうと改めて思った。

 

「いいですか? 復唱してくださいね。消費は計画的に!」

 

「消費は計画的に……」

 

説教も終わり、レシートの集計が終わる。ユウカはタブレットにメモして内容を記していく。

 

「はい、終わり。あとでファイルを送りますので、しっかり確認してくださいね!」

 

 "しっかり"の部分を彼女は強めに強調していってきた。

 

「はい、ごめんなさい……」

 

「さて、今日はどこに行きますか? 色々考えては来たんですけど……」

 

ユウカはバッグから色々書かれたメモ帳を取り出し、私に見せてきた。映画プラン、ゲーセンプラン、ショッピングモールプラン、などなど様々な案があった。その中で私が選んだのは……。

 

「……映画、かな」

 

「分かりました! では早速行きましょう!」

 

 ユウカはバッグにメモ帳をしまい、立ち上がって玄関に向かう。私も彼女の後を追っていくのだった。出たら彼女が狙ったダイヤぴったりのモノレールに乗って、彼女が狙った時間に映画館があるモールに辿り着いた。

 

 ユウカが選んだのは恋愛映画。私もユウカもあまり恋愛映画は観ないのだが、彼女がどうしてもと押してきたのだ。チケットを二枚、席は隣同士で購入し待ち時間ができる。次に彼女はファミレスへ行こうと提案してきたので店に向かうのだが……。

 

「すみません現在満席となっておりまして、お待ちしていただくことになりますが……」

 

「ええっ!? ど、どれくらいかかりそうですか!?」

 

「二三組ほどお待ちいただいておりますが……一時間待っていただければと思います」

 

「これじゃ、上映時間に間に合わない計算に……」

 

 恐らく計画が崩れたユウカはがっくりと肩を落としていた。

 

「フードコート行こう?」

 

「そうですね……」

 

 とフードコートに向かったものの……。

 

「嘘、全部行列じゃない!?」

 

 バーガー屋、ラーメン、定食系、さまざまな店が行列で埋まっていた。恐らく近い時間帯に映画を見るであろう人々が、同じ時間を行列を作っているのだろう。

 

「ど……どうしよう」

 

 ユウカは焦りながらスマホで何かを調べていたが、私は構わないと彼女に言う。

 

「もう並んじゃおう? 映画館で食べ物買って食べれば、映画も楽しめるよ」

 

「いえ先生、一階にあるサンドイッチ屋さんに向かいましょう! 回転率も高めで、軽食なので今から行けば上映時間に間に合うはずです!」

 

 焦るユウカに腕を引かれ、フードコートを離れてサンドイッチ店へ。確かにすぐ料理ができて、割と手ごろな値段だ。しかしテーブル、カウンター席が埋まっており、人が多くて座れそうにない。結局上映時間が迫ってきていることもあり、立ちながらサンドを頬張るという食べ歩きを実行する。食べ終わったら彼女が狙う時間に映画館内へ。

 

 ポップコーンとドリンクを二人分買おうとユウカが売店に並んだのだが……。ここもまたすごい行列。

 

「これじゃ、上映時間に間に合わない計算に……!」

 

「ユウカ、大丈夫だよ。上映時間五分ぐらいは過ぎても問題ない。本編上映前に大体広告や映画の予告が入ってくるから、このまま並ぼう」

 

「は、はい」

 

 行列が前へ進むのを私はのんびりと待ったが、ユウカは落ち着きがない様子。指で計算したり、スマホを取り出したりチケットの上映時間を何度も確認している。ようやく売店の前まで来ると、ユウカが見せて注文をし始めた。

 

「えっと、カップルセットください! 先生、飲み物は?」

 

「コーラでいいよ」

 

「はい、コーラとコーヒーで! ポップコーンは塩とキャラメルのハーフで」

 

と店員に注文し、私が前に出てさらっとお代を支払った。ユウカが慌ててバッグから財布を出そうとするが、私はそれを制した。

 

「はい、私が早かった」

 

「せ、先生! 私が誘ったんですから、これぐらい私が出します!」

 

「私、大人だから。せめて映画代は出させて」

 

「うう……」

 

 不満げな彼女を横目に、心の中でしてやったりと笑う。ポップコーンの紙バケツとドリンクを受け取り、チケットをもぎって劇場内へ。

 

 スクリーンの座席は真ん中の奥側だった。視界の端から端までちょうどスクリーンが見切れる位置で、恐らく彼女は計算してこの座席を取ったのだろうと推測する。

 

 座ったところで映画本編が始まり、ちょうどいいタイミングで着席できた。ユウカはポップコーンを一つづつ食べてはコーヒーを静かに飲んでいくが、私はコーラに手をつけることはしなかった。炭酸が抜けてしまうが、飲まない理由があった。

 

 あんまり惹かれない恋愛映画の中盤にて、ユウカの様子がちょっと変わった。

 

「すみません、ちょっと席立ちますね……」

 

 と彼女は立ち上がり、すみませんと連呼しながら鑑賞中のお客さんの前を通りスクリーンの外に出て行ってしまった。コーヒーと映画館の相性は悪いんだよねと心の中で呟きながら、片肘ついてスクリーンをずっと見つめていく。

 

 正直言うと、私には合わない恋愛映画だ。ロマンスの片方が寿命でうんぬんかんぬんというありふれた展開に何の捻りもない。ただ、ユウカはこういう映画が好みなのかと新たな一面を知ることができたのは収穫かもしれない。少し経ってユウカが戻ってきたが、ポップコーンのバケツはまだ山盛りだった。

 

 結局、クライマックスまで私の琴線が動くことは無く、恋愛映画はエンドロールを迎えた。クレジットが流れた瞬間、ようやくコーラに手を取り、ポップコーンを口に放り込んでバケツの中を空にしようと躍起になる。彼女は感動してくれただろうかとユウカの方を見たら……。

 

 真顔でエンドロールを見つめていた。なんか心を動かされてなさそうな表情で。思わず吹き出しそうになってしまったが、それは失礼だ。バケツを空っぽにし、劇場を後にする。

 

「先生は楽しめましたか?」

 

「うーん、どうかな」

 

「……そうですよね」

 

彼女はちょっとがっかりしたような様子だった。彼女のご希望に添えなかったのは申し訳なく思う。実は上映前にレビューサイトを見てみたのだが、評価は普通の少し下。まずくはないけれど、良くもない。そんな評価だった。

 

「ごめんなさい、先生……。数日前から計画は練っていたのですが、上手く計画通りにならなかったり、あんまり満足のいく映画じゃなかったり……」

 

彼女はしょんぼりとしながら私に謝罪する。私は彼女の頭をそっと撫でて、優しく微笑みかけた。

 

「大丈夫。一緒にいるだけで楽しいから」

 

「先生……」

 

ユウカは私を見上げて、少し目を潤ませていた。

 

「今から私がユウカを振り回しても良い?」

 

「えっ、もう夜ですよ?」

 

「知ってる。私の家で夕食食べたり、泊まったり……どう?」

 

彼女は少し悩んだ後、頷いてくれた。

 

「いいですよ。久しぶりにお泊まり会しましょう」

 

「うん。じゃあ、行こう」

 

 再びモノレールに乗って帰路に。今度は私がエスコートするような形になって。途中夕食用の食材を買って、私の家に。

 

「ユウカはゆっくりしてね、私が作るから」

 

 あまりに綺麗すぎる台所に初めて立って、色々食材を切ったり調味料を取り出していく。

 

「先生って好きな料理とかあります?」

 

「肉料理が好きかな。ハンバーグ、ステーキ……。そういうのが好き」

 

「へえ〜」

 

 雑談しながら料理は進めていき、ユウカがテーブルをセッティングして私が出来上がった料理をダイニングテーブルに運ぶ。

 

「先生の料理はやっぱり家庭的ですね。誰かに振る舞うことが多かったのですか?」

 

「そうだね。今はそうでもないけど、昔は一緒に住んでいる人とかにね」

 

「一緒に住んでいるって……まさか恋人とか!?」

 

「ううん、妹みたいな……妹が居たから」

 

 妹みたいと言ってしまったら逆に誤解を招くから断言するような言い方に直して続ける。

 

「本当にやんちゃで、手がかかる子だった」

 

「やんちゃって、モモイぐらいですか?」

 

「ううん、モモイ以上。だからああいうやんちゃな子には慣れてるの」

 

「モモイ以上のやんちゃって、ちょっと想像つかないです」

 

 くすりと笑うユウカに私もくすりと笑って返した。

 

 ダイニングテーブルに並んだのは三品ぐらい、バランスもしっかり考えて作っておいた。

 

「いただきます!」

 

ユウカは手を合わせて、料理に手を付けていく。私も彼女の反応が気になってじっと見ていたら、彼女は一口食べて……。

 

「美味しいです! 先生って本当に料理上手なんですね」

 

「でしょ? モモイにママって言われちゃった」

 

「ふふっ、ゲーム開発部にいる時の先生は本当にママみたいですね」

 

「えーっ、ユウカまで?」

 

 そういうと声上げて彼女は笑った。お墨付きもいただいたことで私も安心して食べ始める。

 

「ユウカは私の食事事情気にしてるけど、ちゃんと食べてるの?」

 

「私はカフェテリアが主な食事ですよ」

 

「そうなんだ。料理は?」

 

「……経験ないです」

 

「うわー、人のこと言えない」

 

「ううっ、それは……先生が先生だからですよ! 料理なんて色んな化学反応があってそれも含めて計算しなきゃいけないじゃないですか!?」

 

「それは考え過ぎ」

 

「うう……」

 

「時間があったら、教えてあげてもいいから。ね?」

 

「じゃあそのときは……お願いします」

 

食事を終えてゆったりとした時間が流れる。食器洗ったり、シャワー浴びたり、着替えとか。ユウカは何故か事前にパジャマを準備しており、もしかすると元々泊まるつもりだったのでは無いかと勘ぐった。

 

 私が風呂から上がると、ユウカはソファーに座り何もせずぽーっとしていた。

 

「ごめんね、この部屋に何も無くて」

 

「いえ、大丈夫です。せめてゲーム機とか置いてくれたら良かったですけど」

 

「そうだね。モモイ達が来た時用にね」

 

「あ、買う前には私に必ず相談してくださいね。大きな出費になりますから」

 

「あはは、私の財布ユウカに握られてるようなものじゃない。そろそろ寝る? 眠い?」

 

「眠く無いというか、あまり寝付けないんですけど……。でももう横にはなりましょう」

 

「じゃあ、ベッド使って。私はソファーで寝るから」

 

「ダメです。一緒に寝ますよ」

 

「へっ?」

 

「えっ?」

 

 思わず変な声が出てしまった。一緒に寝る?

 

「何を言っているんですか? 以前も一緒に寝たじゃ無いですか」

 

「いや、でも……。あの時は」

 

「ほら、早く寝ますよ!」

 

ユウカに手を引かれて私はベッドに連れられる。こういう時にベッドが大きくて良かったと実感する。彼女を私の隣に寝かせて、部屋の照明を消す。

 

「先生、覚えていますか? 私が先生の家に初めて泊まった日のこと」

 

「私がなんか途中で起きたのは覚えている」

 

「先生が午前三時に突然起きて家を飛び出して、私焦りましたからね。どこに行ったかと探し回ったら、まさかの射撃訓練場でずっと一人撃ち続けていたなんて」

 

「それは本当にごめんね、心配かけて」

 

「もうあんな事しないでくださいね? 急に消えて本当に心配したんですよ?」

 

「もうしないから……」

 

「約束ですよ!」

 

ちょっとムッとした表情のユウカに約束すると伝える。すると彼女は微笑む。

 

「さ、もう寝ましょう」

 

「そうだね、おやすみユウカ」

 

と眠りに着こうとしたのだが、彼女の寝息が聞こえない。そっと隣で寝ているユウカの方へ顔を向けた。彼女はやはり上手く寝付けないのか、布団のモゾモゾという音がずっとしている。

 

「ユウカ、眠れないの?」

 

と小声で彼女に声をかける。すると彼女はこちらに身体を向けた。

 

「すみません、やっぱり寝付けなくて……」

 

「そっか。……夜の散歩する? 近くのエンジェルまで」

 

「そうですね、気晴らしに行きましょう」

 

 部屋の明かりをつけて二人で布団を飛び出すと、軽く外に出る準備をしていく。終わったら夜の街に繰り出していった。街頭が照らす中、二人で並んで歩いて数分でコンビニことエンジェル25に。二人でホットミルクを注文し、近くの公園でホットミルクを飲みながら歩く。

 

「眠れないとき、こういう風に温かい飲み物を飲むのいいですよね」

 

「そうだね」

 

他愛もない会話を交わしながら、ホットミルクをちびちび飲みつつ公園を歩く。

 

「先生は眠れないときってどうしていますか?」

 

「根も蓋もないことだけど、薬を飲んでるかな」

 

「そうですか……」

 

 彼女の声が少し沈む。心配させてしまったかもしれない。

 

「私はコタマ先輩からの勧めでラジオを聴きながら寝ています。あとは……ノアには言えないことですけど、彼女が書いた詩集を読んでいると自然と眠くなるんです」

 

「あー……。ミレニアムプライスで受賞されたあれね」

 

「ええ、でも本人に言っちゃうと傷ついちゃうので秘密にしておいてくださいね」

 

と彼女はくすりと笑った。

 

「わかった。……眠れないってことは、何か安心できないとか、心配事があるの?」

 

「いっぱいありますよ。セミナーの事、トラブルだったり。色んな事が頭の中を巡って寝付けないって感じです」

 

「そっか……」

 

 ホットミルクに口づけして、ふぅと一息つく。

 

「私もね、眠れないときがあるの」

 

「……先生も?」

 

「というか、このキヴォトスに来た時からずっと。ほぼ毎日悪夢にうなされていた。睡眠時間も安定しないと思ったら突然気絶するように寝ちゃうし」

 

「……」

 

彼女はじっと私を見ていた。そして何か答えようとしたのだが……。

 

ぐぅううううと、彼女のお腹から大きな音が鳴ったのだ。

 

「あ……」

 

ユウカは顔を真っ赤にしてお腹を抑えている。私は思わず笑ってしまった。

 

「もうっ! 笑わないでくださいよ!」

 

「ごめんごめん。さて、夜食でも買って帰る? エンジェルチキン割引だって」

 

「……か、買いません!」

 

「そう? 私は買うけど」

 

 ホットミルクを飲み干し、ゴミ箱に捨てて再びエンジェルに向かう。

 

「私は買いませんからね!?」

 

 と彼女は私を追いかけてくる。結局、チキンの誘惑に彼女は負けてお揃いでチキンを頬張ることになった。二人で雑談しながら家に戻ると今度はすんなりと寝付けることができたのだった




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