アビドスの6人目   作:____―--

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Lies and Truth 2

 

 補習授業部のみんなと夜のトリニティを歩く。夜でも賑やかな街並みで、二四時間営業の店もちらほら見える。眠らない穏やかな街を歩きながらみんなの話に耳を傾ける。ヒフミの場合はモモフレンズのグッズショップの事情について詳しかったり、コハルが校則を破ったことで怯えていた。コハルによると、ハスミが優しくも厳しい先輩であるとのこと。最近彼女が怒ったことがあり、ゲヘナとの会談で身体的コンプレックスを突かれて激昂したらしい。

 

 散策をしていたら、スイーツ店が目に入る。ちょうど夜食を摂っていなかったので、ここで何か甘いもの食べようかとみんなで店に入ることにした。噂によると限定パフェが絶品とのこと。

 

 入店した私たちは席に案内され、限定パフェを注文しようとしたのだが、すでに売り切れだった。さっき三つ注文した客で最後だったらしい。そしてその客とは……。

 

「あら? ……せ、先生!?」

 

 ハスミが席で限定パフェ三つも一気に頬張ろうとしている姿だった。

 

「ハスミ、こんばんは」

 

「こ、こんばんは……。先生に、補習授業部の皆さん……」

 

 コハルが大焦りで涙目になっている。校則破ってハスミと遭遇してしまったからなのだろう。私はコハルの頭を撫でて落ち着かせる。

 

「ハスミさん、奇遇ですね♡ あら、真夜中にパフェを三個も……たしか、ダイエット中だと伺いましたが?」

 

「こ、これはですね、その……」

 

「ハスミ、また無茶なダイエットしようとしたんでしょ?」

 

 私は両手に腰当ててハスミの方に向き直る。

 

「先生、これは……その……」

 

「この前、眠れなかったり頭痛もひどくなったりしたのがダイエットが原因かもってあなたの口から聞いたよ? わざわざ生活リズムをぶっ壊すような真似してまでダイエットするのは、本当に正しいことなの?」

 

「そ、それは……」

 

「私はね、そのままのハスミでいいよって言ったでしょ? どうしてそうまでしてダイエットしようとするの?」

 

「それは……。その……ゲヘナのせいです! 万魔殿との会議にてあの議長が私のことを……」

 

「大丈夫、気にしなくて良いよ。……ヒナにお願いしてしばいてもらおうかな」

 

「え?」

 

「でも、本当に無理しないでね。私はハスミが元気でいてくれたらそれで良いから。ということで、校則破ったこと黙ってくれないかな? パフェ食べたこと黙っておくから」

 

 ハスミに口止めを頼むと、了承してくれた。次にハスミの目線はコハルの方を向く。

 

「コハル、お勉強頑張っていますか?」

 

「あ、えっと、それは、その……」

 

 あわあわと口が回らなくなるコハル。私はコハルの頭を撫でて落ち着かせる。

 

「頑張ってるよ。試験の成績三○点も上がったんだよね」

 

「それは何よりです。言ったではありませんか、コハルはやればできると」

 

「彼女は何としても正義実現委員会に復帰させるよ。これは私の仕事でもあるから」

 

「すみません、先生。これからもコハルをよろしくお願いいたします。……コハル、お勉強は大変ですか?」

 

「え、えっと……」

 

「もしわからないことがあれば、先生を頼ってください。彼女はとても優しいですから」

 

「は、はい……!」

 

 ハスミはコハルに優しく微笑みかけた。その時、ハスミのスマホが震える。

 

 相手は正義実現委員会の人。イチカというらしい。トラブルがあったらしく、ハスミの表情は徐々に険しさを増していく。電話が終わると彼女は口を開いた。

 

「突然のことですみませんが、みなさんの力が必要です。お願いできますでしょうか?」

 

 ハスミからトラブル対処の協力を求められた。大まかには、トリニティ領内で展示されていたゴールドマグロがゲヘナの生徒に強奪されたので、その生徒らを捕まえて欲しいとのこと。犯人はゲヘナのテロリストである美食研究会という四人組。そしてボスは黒舘ハルナ。本来なら正義実現委員会のみで対処するところだが、エデン条約前の緊張状態もあり、第三者である『シャーレ』として対処してほしいとのこと。

 

「わかった。手伝うよ」

 

「ありがとうございます。では、行きましょう」

 

ハスミはパフェの器を空にして立ち上がり、私も補習授業部らを連れて現場に向かうことにした。

 

――

 

 現場に急行すると、逃走しようとする四人の生徒を発見した。

 

「先生、指揮をお願いできますか?」

 

「わかった。みんな、行くよ。アズサは前に出て、ハスミは後方から狙撃を。コハルはハスミの側に。ヒフミはアズサの援護、ハナコは私と一緒に」

 

 全員から了承の返事が返って前進へ。

 

「増援の到着ですね……。さあ、包囲網を破って退却です! 一刻も早くフウカさんに、新鮮なマグロのお造りを作っていただかねば!」

 

 ハルナらも抵抗してきたので、戦闘態勢を取らせてもらった。

 

「交戦を開始する! ……先生、拘束された生徒を一人確認。恐らく人質だろう」

 

「了解、気をつけて」

 

 銃撃戦が開始する中、戦況を確認していく。

 

「ハスミ、金髪の子を積極的に狙って!」

 

「わかりました」

 

 戦況はこちら側が優位で、すぐに美食研究会を追い詰めて行った。

 

「うーん、どうやら囲まれてしまったようですね★ どうしましょう?」

 

「はっ、バラバラに逃げたら生存率上がるんじゃない!?」

 

「なるほど、良いアイデアですねジュンコさん★ 足の速さ次第ですが、弱肉強食ということで♪」

 

「ふふふ、そうですわね。運任せとなりそうですが、それもまたスパイスのようなもの! それでは!」

 

「えぇっ!? ちょっと待って! 私だけ置いていかないでー!?」

 

「分散して逃げられちゃったね……」

 

 困りながら髪を触っていると、ハスミが正実の子らに指示を飛ばした。

 

「散り散りになった美食研究会を全員捕まえます! 各自、分かれて追撃を! 先生はこの辺りで大丈夫です。ありがとうございました」

 

「うん、気をつけてね」

 

 としばらくハスミと一緒に待機していたのだが、お互いにやることがなくなってしまったので、雑談をすることに。

 

「夜中に良い運動になったんじゃないかな?」

 

「ええ、ですがこの時期にはやめていただきたいものです。書類手続き的にも政治的にも面倒ですから」

 

「そうだね。……ハスミ、ダイエットはどういう方法でしているの?」

 

「え? ……それは、その……食事を一回だけにして、間食を控えています」

 

「無茶だよ、食事は三回にして少量を複数回に分けて摂る方が健康的だよ」

 

「ですが、それは……」

 

「それに、ハスミは重くないから。身長が高いとそれに見合う体重になるものだよ。身長なんてどうこうできるものじゃないし、気にしなくても良いと思う」

 

「で、ですが……」

 

「重くない! ほら、ジタバタしないでね。一緒に雨宿りした仲でしょ?」

 

「あっ、先生……。ちょ、ちょっと……!」

 

 私はハスミをお姫様抱っこして持ち上げてみる。

 

「ほら、軽いでしょ?」

 

 と、そこに……。

 

「くひひっ……きゃははははははぁぁっっ!!!」

 

 正義実現委員会の制服を着けた生徒が美食研究会三人を見事にボコボコにして身柄をこちらに引っ張ってきた。彼女が委員長の剣先ツルギ。金髪の子は潰れた空き缶のごとく、地面に横たわっている。

 

「ちょっと先生! 降ろしてください……!」

 

 私とハスミで騒いでいるところをツルギが目撃してしまう。一秒後、彼女は真っ赤にして両手で顔を覆い隠して叫んだ。

 

「きええええええぇぇぇぇっっっ!!!」

 

「ツルギ、だっけ。ハスミは重くないよね?」

 

「お、重くないと思うぞ。ハスミ、ダイエットをするのもいいが、食事は三食きちんと摂った方が良い。でないと健康に悪い」

 

「そ、そうですか……。わかりました……」

 

「で、では……失礼しますー!」

 

 ツルギは顔真っ赤のまま、三人の身柄を置いて飛ぶように去ってしまった。

 

「先生、降ろしてください」

 

「ごめんね」

 

 ハスミを降ろし、部員の子らと一緒に美食研究会の身柄を拘束していく。終わったところで、ハスミが話しかけてきた。

 

「先生、ありがとうございました。以前お会いした時よりも安定して指揮をされていたので、安心しました」

 

「ハスミが言うなら良かった。でも、みんなのおかげだよ」

 

「いえ……。ところで先生にもう一つお願いが」

 

「なに?」

 

「拘束した美食研究会の身柄の引き渡しを先生にお願いしたいのです。本来なら私たちの方で処遇を決めるのですが、条約前なのでゲヘナの風紀委員会へ引き渡したいのです」

 

「わかった。じゃあ、今から行ってくるね」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

私は美食研究会の身柄を引き渡しに、外郭の大橋へ向かうのだった。

 

――

 

 真夜中の大橋にて、私一人で美食研究会の三人、人質のフウカを乗せた車を停車させて、風紀委員会の到着を待機していた。待機中は四人らと雑談を交わし、銀髪の子がハルナ、金髪の子がアカリ、ちょっと生意気な子がジュンコだということがわかった。逃げ切れた子の方はイズミ、フウカは給食部らしく、料理の腕前がかなり高いと聞いた。

 

 しばらく待っていると、黒い救急車のようなものが到着した。見た感じ、風紀委員会ではないだろう。

 

「お待たせしました、死体はどこですか?」

 

「死体はありませんよ?」

 

「……失礼。死体ではなく負傷者でしたね。納品リストには新鮮な負傷者三名と人質一名と書かれていましたが。……ところであなたは? 正義実現委員会ではなさそうですが……?」

 

「えっとね……」

 

 私は救急医学部の氷室セナに経緯を話すことにした。その時、救急車からもう一人出てきた。

 

「その方は、シャーレの先生」

 

 聞き覚えのある声に、私は目を丸くしながら振り返る。

 

「ひ、ヒナ……?」

 

「久しぶりね、先生。いつぶりかしら。……ところで、ここで何をしてたの?」

 

「知り合いでしたか、風紀委員長」

 

「うん……。セナ、身柄の引き渡しをお願いしてもいいかしら? 先生と少し話がしたいから」

 

「わかりました。死体……。いえ、身柄は私の方で預かります。先生は風紀委員長と一緒に」

 

 車から離れ、橋の外から見える景色を堪能する。

 

 ヒナには美食研究会引き渡しの経緯について話したところ、風紀委員会も波風を立てたくないらしく、今回ヒナは救急医学部の付き添いとして行動していたとのことだった。

 

「ところで、シャーレは中立的な組織だったはず。この時期にトリニティにいると、条約の件で向こうに加担していると勘違いされかねないけど、大丈夫なの?」

 

「……かなり難しい出来事に巻き込まれていてね」

 

「そう……。機密情報にならないなら、聞かせてもらえるかしら?」

 

「うん、いいよ」

 

「わかったわ。じゃあ、聞かせて」

 

 まず話したのは、補習授業部の顧問になるまでの経緯と部の役割、ナギサの陰謀、ミカとナギサの密かな対立、水着パーティーのことなど。

 

「なるほどね……。待って、水着パーティーって何? まあいいわ。本当に複雑な立場ね、先生」

 

「うん。みんな本音を隠している、建前で着飾っている。真実なんかもね」

 

「私の意見を言わしてもらうわ。エデン条約は軍事条約ではないと思う。れっきとした平和条約と私は考えているわ。そしてナギサ単独で軍隊を統制できるようにはできてない。万魔殿のリーダーであるマコトも、同等の権限を持つことになるから。……彼女は誰かと足並みを揃えられるような質ではないわ」

 

 ヒナの見解が正しければ、ミカは嘘をついていたことになる。眉が微かに強まるのを私は感じた。

 

「エデン条約を推進したのは、私の方よ。締結されれば、ゲヘナの治安も改善される。そうなったら、私も風紀委員長の座をようやく手放せるわ」

 

「面倒くさい、もんね」

 

「ええ、本当に」

 

ヒナはため息を吐くとセナの方から声がかかる。

 

「風紀委員長まだですか?そろそろ時間です」

 

「わかったわ、今行く。……先生、あなたは補習授業部を守るの?」

 

「私が巻き込んだ責任を持って、最後まで。何があっても信じる」

 

 その言葉を聞いたヒナは何も言わず、セナの車両へ乗り込んだ。救急医学部の車両はスピードを出しながらゲヘナ方面の夜の闇へ消えていった。

 

――

 

 二次試験まであと二日、模擬試験の結果に並べられた四つの合格に私はようやく安堵の息を吐けた。

 

「よ、よかったぁ……」

 

 ヒフミも試験結果に安心したようで、机に突っ伏してへたり込んでしまう。

 

「頑張ったね、部長さん」

 

「先生のおかげですよ。本当にありがとうございます」

 

 アズサも張り切り具合がすごく、並べられたモモフレンズの人形の前で挙動不審になるほど喜んでいた。勉強頑張ったご褒美に人形がプレゼントされるのだが、ハナコとコハルは辞退。結局ヒフミの勧めでメガネを付けたペロロの人形をもらうことになった。受け取ったアズサは嬉しそうに人形をぎゅっと抱きしめていた。

 

「アズサ、よかったね」

 

「うん。本当に可愛い。ありがとう、ヒフミ。これは一生大切にする」

 

「あ、ありがたいのですが、そこまで言っていただけるとちょっとビックリしてしまいますね……!? ですが、私も嬉しいです。アズサちゃんがやり遂げたからこそです!」

 

「うん。それでも同時に、友達からもらった初めてのプレゼントだから……」

 

「アズサ……」

 

 アズサは照れているのか、ぬいぐるみを抱きしめて顔をうずめてしまう。アズサに友達はいたのだろうか、いたとしてもそれは本当に友達だったのだろうか。初めてのプレゼントという言葉に、私はアズサの過去を想像していた。

 

「……ヒフミ、アズサを大切にしてね。私もできる限り協力するから」

 

「はい、先生!」

 

 今、ようやく自分の選択を肯定できるかもしれない。四人を退学の危機に晒してしまったが、その中で彼女は居場所を見つけられたのだ。

 

 そして、試験前日。私はナギサに呼び出されたのだった。

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