今月中にオリジナル生徒込み魔改造カルバノグの兎編1章を完結させ、エデン条約編4章に入れればと思っています。
右足が使えない状態で日常生活を送るというのは意外に難しい。松葉杖で歩くのは慣れたが、それでもまだ不慣れである。
ベッドの上で意識を覚醒させると、時刻は午前六時前。首を横に向けると、すぐ横にホシノがクジラのぬいぐるみを抱いて寝ていた。何故彼女が私の部屋で寝ているのかというと、彼女は私の介護のために泊まり込んでいるからだ。彼女には合鍵を渡し、出入りも自由だ。
なんとか病室で寝たきりになる日常から脱し、自室での生活ができるようになった。でもまだ松葉杖は手放せないし、車椅子無しに一人で歩くのも難しい。
まったく、私はいつからおばあちゃんみたいになったんだろうと自嘲しながら、隣の少女の肩を軽く揺する。
「起きてる……?」
「……ん〜、うへぇ、おはよ。先生」
彼女は眠たそうに瞼をこすりながら私を見つめる。私は『おはよう』と返してから、身体をゆっくり起こす。
「先生起きる?」
「うん」
するとホシノも起き上がって、私の身体を支えてくれた。そしてそばに置かれた車椅子へと座らせてくれる。
「ありがとう」
「うん、じゃあ朝ご飯持ってくるから待っててね〜」
彼女は寝室から出ていった。料理、やりたかったなと彼女の後ろ姿を見送りながら思う。直立、両手を使うのが必要な料理は今の私にはできない。
できないことは多い。シャーレでの業務もデスクワーク程度だったら問題ないものの、各地へ出張するのは危険ということでリンからある程度回復するまで控えるようにと言われている。
「先生、ご飯持ってきたよ」
ホシノが朝食を持ってきてくれて一緒に食べる。
「美味しいよ」
「うへえ、良かった〜。先生、今日はどうする?」
「今日は休みだからヒナと一緒にショッピングモールに出かける予定」
「ふーん……。おじさんも混ぜてよ」
「それはヒナに聞いてみないと」
私はスマホを取り出してヒナにメッセージを送ると、『いいわ』という返事がすぐに来た。続いて、『家で待っていて。迎えに行くから』と。
「いいって」
「やった〜!」
ホシノは嬉しそうに両手を上げて喜びを表現していた。
「じゃあ、食べ終わったら準備しよっか」
「うん」
私は朝食を食べ終わり、ホシノに手伝ってもらいながら身支度をする。助けてもらいながらシャワーを浴びて、着替えに。まだ黒のバイカーコーデを除いてはカジュアルな私服は無いので、ワイシャツにズボンと、いつものオフィスカジュアルな格好に。上は何とか変えられるものの、下着などは助けがないと難しい。
「不便……」
「仕方ないよ。ほら、おじさんにもっと頼っていいからさ」
ホシノが手伝ってくれて、何とか身支度を終わらせた。ヒナが到着するまでまだ少し時間がある。ソファに座って時間を潰そうとした時だった。
「先生、ちょっといい?」
ホシノが私の前にしゃがんで、ギブスと包帯の巻かれた右脚を見る。そしてギブスの上をそっと撫でた。
「痛かったよね」
「……前と比べると和らいだけどね」
「ごめんね。私がもっと早く駆けつけていたら……」
彼女は申し訳なさそうに言うが私は首を横に振った。
「ううん……。ホシノは悪くないよ。……いつかこんな事になるって、わかってた」
「でも苦しいよね? 夜中に呻き声が聞こえちゃったし。……鎮痛剤飲んでないと眠れないよね」
「……それは、うん」
心配かけたくない気持ちもあったけど、素直に白状する。彼女の前で無理して堪える必要なんて無いから。
「ホシノは、撃った連中が憎い?」
「憎いに……決まってるよ。先生を撃って瀕死にまで追い込んで。……あの場に私が居れば、全員撃ち抜いてやったのに」
ホシノは拳を握りしめて怒りを露わにしていた。私は彼女の手の上にそっと自分の手を置くと、彼女は私を見つめた。
「先生……?」
「憎しみの連鎖はもう嫌だから。だから、もう忘れて。私は平気だから」
「でも……」
「ホシノ。私が撃たれて怒ったのはわかるよ。でも、憎しみで人を傷つけたら駄目。それはきっと……いつか自分自身を傷つけるから」
「……うん。わかった」
彼女はようやく頷いてくれた。それから何も話をせずに二人でソファに座って、ただヒナを待っていた。
――
インターホンが鳴って、ヒナが迎えに来た。ホシノが玄関まで行って彼女を出迎える……のだが、ヒナとホシノが目を合わせた瞬間、一瞬だけ緊張が走ったような気がした。
「先生」
「おはよう、ヒナ」
「おはよう。準備はできている? じゃあ行きましょう」
「うん。行こうか」
ホシノにお姫様抱っこされて車椅子に座らされる。そのまま彼女に押されて、ヒナの後ろをついていった。
「先生、痛みはどう?」
「大丈夫だよ、ありがとう」
「先生のうそつき。夜中に呻き声あげてたよね」
「それは、まあ……。痛いよ」
「……そうよね。無理しないで」
徒歩で行ける距離のショッピングモールに着き、まずはベンチが並んである広場で作戦会議となったが、私もヒナも特に目的を決めてなかった。というより、私たち二人は必要なものを買ったらすぐ帰ってしまうタイプなので、そのままだと日用品買って小さい袋を持って帰るという味気ない結末になりかねない。
「……ごめん、誘ってくれたのは嬉しいけど、こういう場所でどうすればいいかわからない」
「だよね。私も」
ヒナは困った顔を浮かべると、ホシノが早速ベンチの上ですやすやと寝始めた。
「ちょっと、小鳥遊ホシノ……何も買ってないのにいきなり寝るって」
「うへえ、ごめんごめん。で、何するか決まった?」
「そうね……。……どうする、先生?」
「どうしよっか」
決断すらできない私たちにホシノはやれやれと呆れていた。
「もう、二人とも……。じゃあさ、まずは服とか見に行かない?」
「服……?」
「そうそう、年頃の女の子といえば服でしょ!」
「そう言われても……制服があるから」
「もう、委員長ちゃんはお堅いんだからー! はい、早く行こう先生!」
ホシノに車椅子を押されてアパレル系を売っている店へと連れていかれ、ヒナはやれやれとついてきてくれた。
「ねえ先生、これとかどう?」
ホシノはどんどんカジュアルな私服を持ってきて、服などを私の身体に当ててサイズ合うかを確認したりしていた。彼女のチョイスならいいかと、カゴにポンポン入れていくとヒナが止めに入る。
「小鳥遊ホシノ、ちょっと多すぎない……? 先生も他人に選んだものばかり買わない」
「うーん……」
私一人で私服を選ぼうとしたって、可愛らしい系は避けてしまうというか、似合わないから選ばない。基準が趣味のバイクに合うかどうか程度で選んでしまう。そして後から第三者のナンセンスぶりを指摘されて、少しへこむというのがいつものパターンだ。
「じゃあヒナだったら何がいい?」
ヒナに尋ねると、彼女は少し考えてから色んな品を手に取り始めた。
「これとかどうかしら」
彼女が手に取ったのは白のワンピースだった。清楚な雰囲気のする服で、私なんかが着てもいいのかという不安感があった。スカート部分が短いのは苦手だが、これは長めなので安心できるのだが。
「じゃあこれでいっか」
「本当に他人任せなのね。はぁ……」
「まあまあ、委員長ちゃん。先生はこういうのがいいんだよ」
ヒナは呆れたようにため息をつきながらも、服を選んでカゴに入れてくれた。そして私がカードを出して会計を済ませて店を出ると、ホシノが私の車椅子を押してくれる。
「それにしても先生、髪伸びたよね」
「ここに来て、ずっと切ってなかったから」
後ろのホシノが髪を撫でてくる。
「髪切らないの?」
「いつかお願いするかも」
調印式でアセンションを使用した後からだろうか、身体に急激な変化が起きていた。短期間で髪が伸びたり、身長も少し伸びて、下着のサイズが合わなくなったりしていた。まるで私が別人に変化していくような、そんな感覚。只事ではないと思うので、近いうちに会うだろう黒服にこの事を相談してみようと思う。
「先生、どうしたの?」
ヒナが私をじっと見つめていた。私は首を振って何でもないと伝えると、彼女は少し訝しんでいたがすぐに視線を戻した。こうしてアパレル巡りをした後、次にフードコートで昼食を食べることにした。
――
フードコートで三人の席を取ったら、二人から何食べたいか聞かれる。
「先生は何食べたい?」
「うーん……。じゃあラーメン」
「おじさん、クレープとポテト食べたいな〜。あとはメロンソーダ」
「私はなんでもいいわ。じゃあ並んでくるから、先生は待ってて」
二人は席を立って注文しに行ってしまった。私は一人、車椅子で二人を待つことに。休日だからか、フードコートは人でごった返していた。家族連れやカップルが楽しそうに談笑している姿が目立つ。……そういえば、ホシノが食べたいと言っていたクレープやポテトって、何となく青春らしい食べ物だなとふと感じた。懐かしいというか、そんな気分にさせられる。
「お待たせ、先生」
ヒナが戻ってきて、ホシノも戻ってきた。注文した品がテーブルに置かれて三人で食べ始める。ホシノが持ってきたメロンソーダはサイズが大きく、ハートのストローが二本刺さっていた。
「せーんせ、一緒に飲もう?」
「いいの? いただくね」
二人でストローを吸う。ホシノの顔が近く、少し気恥ずかしかった。
「うへえ、青春だね〜。カップルサイズというのを試しに買ってみたけど、こういうものなんだね」
「た、小鳥遊ホシノ……! 先生と二人でそんな顔を近づけて……!」
横目に見えたヒナが顔を赤くしてわなわなと震えていた。
「委員長ちゃん拗ねてるの? 一緒に飲む?」
「……っ! そ、それは……。私はいいから!」
ヒナは水をごくごくと飲んで、ため息を吐いて咳払いをする。忙しい様子だった。
「委員長ちゃん恥ずかしいの?」
「余計なこと言わないで」
ストローから口を離すと、ホシノの次の攻撃が来た。彼女はクレープを手にして、私の口元に持ってくる。
「うへへ~、先生も食べて食べて~。美味しいよ?」
「え?」
「ほら、あ〜んして?」
私は素直に口を開けてクレープを頬張る。クリームの甘さとバナナの味が口いっぱいに広がって美味しかった。
「どう? 美味しいかな?」
「……うん」
「ちょ、ちょっとホシノ! 先生……!」
ヒナがまたしても顔を赤くして、わなわなと震えている。
「どうしたの?」
「……わ、私も……その……」
ヒナはもじもじしながら何か言いたげだった。すると、ヒナもポテトを一本持って私の方に突き出してきた。
「あ、あーん……」
ヒナが顔を真っ赤にしながらポテトを私の口元に近づけてくる。
「うへ~、委員長ちゃんったら大胆だね~」
「い、いいから食べて!」
ヒナがポテトをさらに近づけてきたので、私はそれを口に含む。クレープの後味の甘さとポテトの塩がミックスされて妙な味わいだった。
「美味しい?」
「うん、ありがとう」
「……そ、そう。良かった……」
と思いきや、ホシノがさらにクレープを私の口元に近づけてきた。
「うへー、はい先生。おじさんも負けてられないよ」
「せ、先生……もう一本食べる?」
ヒナもポテトを私の口元に近づけてきた。二人の食べ物が食べなさいと言わんばかりに、私の口に迫ってくる。
「ちょ、ちょっと二人とも……」
私は二人を交互に見る。二人は何故か真剣な顔をしていて、私が食べるまで引き下がらないという意思が伝わってきた。
「も、もう! 私は餌やりされてるペットじゃないんだから〜!」
「うへ〜、いいじゃん。ほら、先生。食べて?」
「わ、私のも……!」
結局私は二人から差し出される食べ物を交互に食べさせられたのだった。甘味と塩味のミックスは後で水で全て流し込んだ。
――
次に訪れたのはゲームセンターだった。今度はヒナに車椅子を押してもらいながらゲームセンター内を散策する。すると目に入ったのはモモフレンズの人形が獲れるクレーンゲームだった。一番欲しいのはウェーブキャットの抱き枕だが、私の視線に気づいた二人が、
「先生、あれ欲しいの?」
「うへえ、取ってあげようか〜?」
「え、いいよ。お金かかるし」
「遠慮しないで。取ってあげるから」
二人が財布を取り出し、クレーンゲームに百円玉を投入する。
「おじさんと委員長ちゃんで、交互にクレーンを操作しよう」
「そうしましょう」
私はクレーンゲームに食い入る二人を見つめる。まずホシノがアームを操って三本爪のアームを下ろす。ウェーブキャットの頭をがっしり掴んで持ち上げた。しかし持ち上げた途端にアームの力が弱くなり、ウェーブキャットが元の位置に戻ってしまった。
「うへ〜、難しいな〜」
次にヒナがアームを操作する。今三本爪のアームを操作して、人形のタグを引っ掛けようと試みる。しかしアームの回転がランダムに動いてしまい、空を掴んでしまった。
「む、難しい……!」
ムキになった二人が交互にクレーンを操作して、百円玉をどんどん消費していく。
「二人とも……これ以上は沼だから」
私は止めに入るが、二人はクレーンゲームに熱中するあまり私の声は耳に入らない。両替機に二人が百円玉を交換に行ってしまう。そして、二人の愚痴がとうとう聞こえてきた。
「もう! しっかり掴んだはずじゃん!」
「このアームがいけないのよ! 不良品じゃないの!?」
あのね、多分これはある程度お金を入れた途端にアームの力が強くなるタイプだから。そう言いたいが、二人はクレーンゲームに夢中で聞く耳を持たない。
「もう一回! 今度は委員長ちゃんやって!」
「わかったわ」
結局かなりの回数プレイをされて、ようやく三本爪がウェーブキャットの頭をがっしり掴み持ち上げた。
「よし、そのまま……!」
そして抱き枕が穴に落ちていった。
「やった!」
「やったわね」
二人はハイタッチして喜び合うと、抱き枕を取り出し口から私の元へ持ってきてくれた。
「……二人ともありがとうね。寝る時はこれを抱きしめて寝るよ」
「うへ、それはそれでなんか複雑だな〜」
ウェーブキャットを両手に抱きながら二人にお礼を言う。次に向かったのはシューティングゲームの筐体だった。
「これ二人がやっているの見てみたいな。はい、お金」
「委員長ちゃんと一緒に?」
「先生の頼みというなら、いいけど」
私が百円玉二枚を投入し、二人はハンドガン型コントローラーを握る。
「おじさんゲーム苦手なんだよね〜」
「こういうゲームは初めてだけど……頑張る」
というものの、圧倒的なプレーだった。顔を出した敵兵が一瞬でヘッドショットされて倒れていく。そして最後のボスも、
「ヒナちゃん、右は私がやるね」
「ミサイル攻撃は全部私が撃ち落とすわ」
そして二人はノーダメで最後のボスを倒してしまった。息ぴったりすぎる連携に私は思わず拍手した。
「すごいね、二人とも」
「うへ〜、実戦だと思ったら結構楽しかったよ」
「実は……ゲームも時々やってきたから。コツ掴めば簡単よ」
「さすが実力者って感じだね」
「さてと、先生は満足したかな?」
「満足。夕暮れ時だし、そろそろ帰ろうか」
三人でゲームセンターを出て、ショッピングモールの外へと出る。そろそろ帰る時間だ。ヒナが車椅子を押して帰り道を進んでいくと、ホシノがヒナに声をかける。
「ヒナちゃん、今日は先生の家に泊まる?」
「ええっ!? な、何を急に……」
「先生と一緒に寝たくないの?」
「そ、それは……」
ヒナは顔を真っ赤にしている。私はそんな二人のやり取りを見て、思わず笑ってしまった。
「ええー、この前ヒナの家に泊めてくれたのに」
「それは先生が危なかったから……」
「うへ〜、ヒナちゃん先生と一緒に寝たことあるんだ」
「いいわ……。私も泊まるわ」
「やった〜!」
ヒナが折れて、ホシノは嬉しそうにしていた。背中を押されながら、そんな他愛もない光景を私は楽しんでいた。
――
三人で私の自宅へと帰ってきたら、色々なことをした。二人が夕食を作ってくれたり、助けを借りながらシャワーを一緒に浴びたり、ヒナが私の髪をドライヤーで乾かしてくれたり、三人でゲームしたり……。
「うへ〜、もうこんな時間だね」
「そうね……」
時計を見ると午後十時を回っていた。色んな錠剤を水と一緒に飲み込んだら寝室へと移動しベッドに横たわる。そして二人も寝室へ入ってきて、私が眠るまで傍に居てくれた。
「今日は楽しかったね、先生」
「また三人でどこかに出かけたら……いいわね」
「そうだね。じゃあ、おやすみ二人とも」
私がそう伝えると二人は微笑んでくれた。私は瞼をゆっくり閉じる。今日は楽しかったな……と思いながら、私の意識は夢の中へと誘われていった。今度は足が治った状態で、また三人で出かけることができたら嬉しいな……と願いながら。
――
ヒナちゃん、先生、私で川の字になっているベッドの上で私はふと意識を覚醒させる。目の前には先生の寝顔があった。しかし汗をびっしょりかいていて、表情もあまりよくない。うなされているのか、寝言なのか、先生は小さな呻きを上げていた。
「シロコ……どうして……」
「先生……」
近くのタオルで慎重に彼女の汗を拭ってあげる。悪夢はすぐに覚めなさそうで、先生はずっとうなされ続けていた。そんな彼女に申し訳ないと思いつつもベッドから離れ、水を飲むためにリビングへと行く。何にもない冷蔵庫を開けて、飲料水ペットボトルを一本取り出す。蓋を開けたら一気に傾けて浴びるように水を飲んでいた。
「ホシノ……。起きていたのね」
ヒナちゃんも眠れなかったのか、寝室からリビングへとやって来ていた。彼女にもう一本ペットボトルを渡すと、彼女はお礼を言って受け取ってくれた。
「先生、うなされていたわね」
「うん……。ヒナちゃんは先生の過去って知っている?」
「ええ、彼女が崩れた時に全て聞いたわ。元々はアビドス高等学校の生徒だったことも」
「そうだね」
ヒナちゃんも蓋を開けて少し傾ける程度に水を飲む。それから少しだけ沈黙の時間ができてしまった。次に話しかけたのは私の方からだった。
「ヒナちゃん、ありがとうね」
「え?」
「エデン条約の調印式だっけ。撃たれた先生を助けてくれてありがとうね」
「別に、あれは……。私がもっとそばに居てあげれば……。それに、あの時は自分のことで精一杯で……」
ヒナちゃんは少し俯いて、言葉を詰まらせていた。私はそんなヒナちゃんに優しく語りかける。
「でも、ヒナちゃんが居なかったら先生は死んでいたかもしれない。本当にギリギリだって聞いていたよ」
「……」
「ヒナちゃん、先生を助けてくれて本当にありがとう。先生が無事でいてくれるのは、全部ヒナちゃんのおかげだよ」
私がそう言うと彼女は黙ってしまった。私は続けて彼女に語りかける。
「先生はさ、ちょっと無茶をしすぎるところがあるよね。だからこれからもヒナちゃんと一緒に先生を守れたらいいなって思うんだ」
「ホシノ……。そうね、一緒に先生を守れたら……」
ヒナちゃんの表情が少し柔らかくなった。私はそんなヒナちゃんに微笑みかける。
「じゃあ、先生をこれからもよろしくね。ヒナちゃん」
「ええ、もちろん」
私たちは密かな誓いを胸に秘め、寝室へと戻る。先生はまだうなされていたけど、二人で挟み込むようにして先生の側で横になる。ヒナちゃんは先生の身体に手を回して、私は先生の頭を優しく撫でる。
「先生、大丈夫だよ……」
「ホシノ……せん、ぱい……」
先生の寝言が次第に穏やかなものになっていく。私はそんな先生の頭を優しく撫で続けるのだった。
「いつか、ぐっすり眠れる日が来たらいいね」
次はワカモのお話です。