アビドスの6人目   作:____―--

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【ワカモ】ハートに火をつけて

 前世界線でのある出来事だった。アビドスの皆でリゾート地に訪れて、皆で花火やバーベキューを楽しんだ次の日。突如リゾート地の防衛設備が起動し、大砲などが海の向こう側に向けたのだ。そして多彩な兵器を載せたホバークラフトがこちらへと迫ってきた。

 

 ドンパチの末にヘルメット団を撃退しながらもホバークラフトは上陸し、面被った狐の女が姿を現わす。彼女は私達アビドス対策委員会への明確な敵意を示し、こう言ったのだ。

 

「あなた様……。このワカモが悪い獰猛な狐たちから救い出して見せます!」

 

 彼女こそが災厄をもたらす七囚人、狐坂ワカモだった。

 

 当然、あのときの私は迷惑な女だとしか思ってなかったし、『滅茶苦茶にしやがって、ぶっ飛ばす!』と血気盛んな私は怒り狂っていた。

 

 しかし今の世界線、先生となった私と彼女の関係は妙なものに変わっていた。

 

 ある日のこと、車椅子を一人で動かしてシャーレ近くの公園を散歩していると、チンピラ達に当然のように絡まれる。シャーレの先生という立場、身体が不自由、非武装、車椅子……などなど、チンピラ達は私をカモだと思い込んでしまうのだろう。

 

「シャーレの先生だろう? ちょいとあたし達にお小遣いを恵んでくれねぇか?」

 

「そうそう、あたし達困ってるんだ。ちょっとくらいいいでしょ?」

 

チンピラ達は私の車椅子のハンドルに手をかけて揺さぶってくる。私は思わずため息を吐いたが、すぐに先生としての対応をする。

 

「いくら? あまりこういう事はしちゃダメだよ」

 

「へへ、話がわかるねぇ。じゃあ……」

 

 チンピラ達が財布をごそごそと探ってお札を取り出そうとするが、私は思わずため息を吐いてしまう。こういうトラブルに巻き込まれているとわかった瞬間、色んな生徒が飛び出して私を守ろうとするからだ。

 

 次の瞬間、爆発が複数回起こり、チンピラ達はぶっ飛ばされてノックアウトした。こんな荒々しいやり方をするなんて、一人の生徒しか思いつかない。

 

「……先生に手を出そうとした不届もの、このワカモが全て始末しました」

 

「ワカモ……」

 

「先生、お怪我はありませんか?」

 

 そう、彼女に別の意味で執着されるようになってしまった。

 

「うん、大丈夫だよ」

 

 物陰からお面を被った和装の少女が姿を現した。狐坂ワカモ、おそらく彼女は私に変な愛情を向けているようだった。彼女は私の前に寄ってくると、屈んでギブスと包帯が巻かれた右足を優しく撫でてくる。

 

「あなた様……このお怪我は?」

 

「ちょっとね。でも大丈夫」

 

「……心配です。あなた様がこのお怪我を負った経緯は存じ上げませんが……。もしあなた様をこのようにさせた輩が居たら……わたくしがこの手で……」

 

「それはめっ、だよ」

 

「めっ……?」

 

 私はワカモの額を指で軽くつつく。彼女は私の指を振り払うことなく、そのまま額に手を当てていた。

 

「先生……。あなた様は本当にお優しい方です」

 

「守ってくれるのは嬉しいけど、他人を傷つけるのはダメだよ。それに、私はこの怪我を負ったことに後悔はしていないよ」

 

「先生……」

 

「でも……。まあ、ありがとうね」

 

 複雑というか、戸惑いの方が強く出てしまう。前の世界線では敵対していたはずの彼女が今となっては一目惚れみたいな形で私を慕っている。それが私を混乱させた。

 

「では、あなた様の車椅子を私が押して差し上げます」

 

「え? ああ、うん」

 

 ワカモは私の車椅子のハンドルに手をかけて押し始め、公園の中を歩いていったのだった。

 

――

 

 時は流れてバレンタインデーを目前に控えたある日。ヴァルキューレ警察学校生活安全局の中務キリノ、合歓垣フブキからの軽めのお願いでパトロールの協力をすることになった。といっても私ができることは二人について行くだけ。道中、セナと合流して彼女もパトロールに加わってくれた。

 

 それでパトロールの途中にワカモが暴れているのを見かけたと思いきやあっさり確保されてキリノ達と護送されていったり。大騒ぎの予感しかないのだが、セナと一緒にパトロールを続行する。

 

「セナ、ありがとうね。調印式で私が撃たれた時、わざわざトリニティまで運んでもらって」

 

「いえ、救急医学部として当然のことをしたまでです」

 

「あともう少しで死体が見られるところだったんだってね」

 

 そうブラックジョークのようなものを入れてみると、セナは沈黙してしまった。

 

「先生、それは冗談だったとしても……。あまり口にしてはいけません」

 

「あ、うん……。ごめんね」

 

 セナは私をジト目で見つめてくるので私は思わず視線を逸らすのだった。そしてしばらく沈黙の時間が続いた後、ある生徒に声をかけられる。

 

「あれ、先生」

 

 メガネを着けているミレニアムサイエンススクールの制服を着けた女の子だった。認識は無く首を傾げていると、彼女の方から自己紹介をしてくれた。

 

「あ、ごめん。初対面だったね。私は各務チヒロ、ヴェリタスの副部長をやってるの。よろしくね、先生」

 

「ヴェリタス……。ああ、マキやコタマ、ハレのところの」

 

「そうだね。なんかセミナー襲撃の時にお世話になったみたいで」

 

「うん、大いに助かったよ」

 

 そこで横からセナが入ってきて、

 

「先生、そろそろパトロールに戻りましょう」

 

 と声をかけてくれる。私は各務チヒロに別れの挨拶をしてからパトロールに戻ろうとした時だった。フブキから通信が入ってくる。

 

『先生、助けて! 災厄の狐が脱走した! 同時に何か色んな奴らが装甲車襲撃して装備とか色々奪ってる!』

 

「ええ? 助けてと言われても……」

 

『ごめん、先生。今手一杯だから……!』

 

「とりあえず、ワカモをどうにかすればいいんだね?」

 

 と通信をしていた時だった。遠くから爆発が連続して起こり、装甲車が猛スピードでこちらへと走ってくる。セナとチヒロが咄嗟に銃を構えるが、その騒動を主導しているのは……ワカモだった。

 

「ふふっ……。匂いますわ。どこにいらっしゃるのでしょうか……?」

 

 もしかすると、彼女を上手くコントロールする方法があるかもしれない。私はセナとチヒロに一言謝ってから、ワカモのいる方向へと車椅子を走らせていく。

 

「先生!? 危ないって!」

 

「危険です!」

 

 二人の注意を背中に受けながらも、私はワカモの方へと近づいていく。

 

「あら、先生……!」

 

「こらー! ワカモー!」

 

 私はワカモに一喝する。すると彼女は少し驚いたのか、身体をビクつかせた。

 

「先生……?」

 

「他人に迷惑かけちゃ駄目だよ!」

 

 そう叱ると、ワカモは申し訳なさそうに頭を垂れる。

 

「申し訳ございません……。自分でも制御できないほどで……。ごめんなさいごめんなさい! どうか嫌いになさらないで下さい!」

 

 彼女はわんわんと泣き始めてしまった。脆いというか、私にかなり依存しているというか。

 

「反省した?」

 

「はい……。本当に申し訳ございませんでした……!」

 

「反省したね。よし、じゃあ今からチョコレートドリンクでも飲みに行こう! 今日はそういう日らしいし!」

 

 車椅子に座った状態で彼女の手を握って引っ張る。

 

「先生……。ふふっ、お供致します!」

 

 ワカモは嬉しそうに表情を明るくして私の車椅子を押してくれた。振り返るとセナは困惑し、チヒロは驚嘆の表情を浮かべていた。

 

「先生? これは……?」

 

「凄いね……。あの災厄の狐を手懐けるなんて」

 

 その後はキリノたちにパトロールを外れると連絡し、ついでに『今日のワカモ確保は諦めて欲しい。そうすれば彼女が暴れないようになんとかする』と連絡を送った。返答は当然困惑していたが、なんとか了承してくれた。

 

「ああ、あなた様と一緒にチョコレートドリンクが飲めるなんて……。幸せです……!」

 

「あはは、大袈裟だよ」

 

私はワカモに車椅子を押してもらいながら、チョコレートドリンクのお店へと向かうのだった。




短いですが、次は黒服です。
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