アビドスの6人目   作:____―--

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ディルのMVはどうしてグロいのだろうか


【黒服】人間を被る

 黒服からの誘いはメールで来た。時刻と場所。そして『お待ちしております』の一言。シャーレのオフィスにいる私は周囲を見渡して誰もいないことを確認する。誰かに見られたら面倒、特にホシノは黒服に対して風穴を開こうとしかねないので、誰にも見られないようにすぐシャーレを抜け出し、外れにある廃墟へ足を運んだ。

 

 車椅子を動かして、指定された廃墟の扉を開けると黒服が佇んでいた。

 

「お待ちしておりました」

 

「ぶふっ!?」

 

 思わず吹き出したのは、黒服の格好があまりにも奇抜だったからだ。医者のつもりなのか、漆黒のスーツの上に白衣を何故か着ており、首元には聴診器があった。

 

「ヤブ医者?」

 

「クックック、私は正式なライセンスを持っていませんので、あながち間違いではありませんね。ではこちらへどうぞ」

 

 黒服が案内した場所に進め、机の向かいに黒服は座った。

 

「時間を取らせていただきありがとうございます。まずは経過観察から聞きましょうか。どうでしょう、最近の様子は?」

 

「まずは車椅子になった。脇腹と右脚撃たれたから。次に短期間で髪が急に伸びたり、身長が少しだけ伸びたり、胸が大きくなった。明らかに異常な速さで。最後に、私の中に知らない力が宿っている。二回目のアセンションを使用した時、たまたまそれが分かった」

 

 黒服は頷くだけして、特に記録しようなどする様子はなかった。

 

「では一つづつ、あなたの身体に起こった変化を説明していきましょう」

 

 黒服はそう告げると、私の身体の異常について淡々と説明を始めた。

 

「あなたが歩行不能となってしまったことに関しては、単なる負傷です。幸い、この世界の医療技術なら時間かけての完治は可能です。どうかご安心を」

 

「それは知ってる。次は?」

 

「次に身体の急激な変化ですが……」

 

 黒服はそこで一呼吸置き、続けた。

 

「ゴルコンダの言葉を借りるならば、『テクストの上書き』が始まったというべきでしょう。あなたの身体は『恐怖』に上書きされる過程にあるのです」

 

「神秘の反転、テラー化、その途中だと……」

 

「そうです。もし完全に上書きが完了してしまえば、それは『再反転』の完遂を意味するでしょう。即ちそれはキヴォトスの終焉を意味します」

 

「どうにかできないの?」

 

「それは後で話すとしましょう。今はあなたの身体の異常について、です」

 

 黒服は話を続ける。

 

「最後に、あなたが意図せず発現した力についてですが、これはあなたの中に眠る『虚無』が引き起こしたものです。先生、あの時を思い出してください。アリウススクワッドに右脚を撃たれた時を」

 

「……っ」

 

 傷口が疼く。私は思わず右脚を押さえた。

 

「あなたは誰よりも死に触れた。その恐怖が……引き金になったのです」

 

 黒服は私の目を見つめる。

 

「虚無は私達の想像外の力、その力は未だに未知数です。今分かることは、あなたが完全に『虚無』を行使した場合、キヴォトスは崩壊するということ。そして虚無の発動には『恐怖』が鍵となる事です」

 

「だから、アセンションの使用は控えろと……」

 

「その通りです。ですが」

 

 黒服は肩をすくめた。

 

「あなたはエデン条約調印式にて使用してしまった。生き延びるために。結果として……」

 

 彼の指が、私の胸を指した。

 

「『虚無』の目覚めが加速したのです」

 

「まだ、間に合う?」

 

「ええ、猶予はありますが多くて残り数回でしょう。それ以上は虚無の力があなたの身体を蝕み、やがて『再反転』が完遂するでしょう」

 

 返答は沈黙のみだった。私はこのままだとキヴォトスを滅ぼす。その前に滅びの運命を変えて、再反転を食い止める方法を探さないと。できなければ……自ら『ああいう選択』をしなければならないのだろう。

 

「では、話を変えましょう。マエストロがあなたの事を高く評価していました。『彼女は私の作品の理解者となり得るだろう』と」

 

「あんな化け物を呼び出して邪魔する事が芸術というなら、願い下げね」

 

「クックック、我々ゲマトリアは『崇高』の探究をしています。その手法はあなた達、生徒達にとっては理解し難いものでしょう。しかし、彼にとっての探究があの芸術なのです」

 

「理解し難いね。でも私には関係ない。で、ベアトリーチェとかいう赤い奴は何なの? 夢の中に出てきたけど」

 

 次はこちらからの質問をする。ベアトリーチェについてだ。

 

「彼女はゲマトリアの構成員ですが……。色彩と接触したあなたを強く敵対視しているようです。彼女は我々の中でも先生を排除すべきと強く主張しています。他のゲマトリアと意見はあまり合いませんが、彼女は特にその傾向が顕著です」

 

「手出してきたら、ぶちどめしていいの?」

 

「どうぞご自由に。決着はおそらく近いでしょう」

 

 私は一息つくと黒服が錠剤の入った小瓶を机に置いた。

 

「これは?」

 

「こちらは我々ゲマトリアが作り出した、再反転の進行を抑える薬です。今回はこちらをお渡ししたく、ご足労頂きました」

 

 私は小瓶を手に取り、まじまじと見つめる。黒服は話を続ける。

 

「この薬は虚無の侵食を遅らせる効果があります。副作用はおそらく無いでしょう。ただし服用したからアセンションを使用してもいい理由にはなりません」

 

 ゆっくりしまいながら、私は黒服に尋ねる。

 

「返品は受け付けているの?」

 

「クックック、残念ながらそれは受け付けておりません」

 

 私は黒服を睨みながら、その小瓶を懐にしまった。

 

「ではまた会う機会があればお会いしましょう。先生」

 

 車椅子を動かし、廃墟を出ようとする。

 

「最後に一つ、よろしいでしょうか?」

 

 廃墟から少し離れたところで黒服は私に尋ねる。

 

「何?」

 

「先生は何故生徒達を救うか、答えは出ましたか?」

 

 答えはまだ無い。でもいつか出さないといけないのだろう。私は首を横に振って車椅子を進ませた。




かなり短いですが、次はオリジナル生徒込み魔改造のカルバノグの兎編一章です。
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