アビドスの6人目   作:____―--

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Love Somebody

「青島……! お前どうやってここまで……」

 

「普通に外壁をよじ登ってきたんです。……尾刃さん、指示をお願いします。SRT特殊学園のRABBIT小隊、逮捕します」

 

 ぼろぼろの身体で、サクネは淡々と述べる。

 

「正気か!? 暴いてほしかったのはサクネの方だろう!?」

 

 サキが叫ぶ。サクネはカンナの方に視線を移すが、彼女は意気消沈したのか俯いていた。

 

「……すまない、青島。お前に指示を出すことは、もうできない」

 

 カンナの言葉に、サクネは豹変して怒りを染めた。

 

「私は……私は、誰なんですか!? 私はヴァルキューレ警察学校の生徒で、公安局で、汚職が許せなくて……!」

 

 錯乱しているのか、支離滅裂に言葉を並べるサクネ。

 

「でも、尾刃さんが何とかしてくれると信じて……。それなのに、あなたは……!」

 

 判断を他人に委ねてしまっている。いや、もう自分では判断ができないほど疲弊しきっている。

 

「青島!!」

 

 カンナが大声をあげるが、サクネはミヤコの方に向き直す。

 

「ここは、私達のヤマなんです……! RABBIT小隊、あなたたちを逮捕します!!」

 

 銃がミヤコに向けられる。同時にRABBIT小隊も、サクネを取り囲んだ。

 

「RABBIT2、RABBIT4、手出しは不要です。彼女は私が」

 

 ミヤコが前に出て、サクネを見据える。

 

「魂を売って手に入れたい力なんていらない」

 

 とカイザー製の銃を投げ捨て、拳銃をミヤコに向けた。

 

「……逮捕だっ!」

 

 サクネはミヤコの方へ駆けながら拳銃を撃つ。ミヤコはとっさに側転して弾を避けた。

 

 私はドローンのカメラ越しにただ見ていることしかできなかった。サクネの必死な表情に、ミヤコの揺るぎない目。止めなければならないはずなのに、何もできないでいる。

 

 サクネがでたらめに拳銃を撃てば、やがて接近戦へ。

 

「私は……何にもできないから! 何もできないからこれしか無い!」

 

 感情のままモッズコートの少女は身体を動かしている。しかし、ミヤコはそれを見切ったかの様に攻撃を回避していく。

 

「サクネ、落ち着いてください!」

 

「純粋な水に墨が一滴でも入れば、黒く染まる! だから……! もう私は戻れない!」

 

 サクネは叫び拳銃を発砲、彼女はかわす。

 

「サクネ、あなたは……!」

 

 ミヤコが言い終わる前に、サクネは再び発砲。しかしそれもかわされてしまい、空を切る。するとサクネは拳銃をしまって拳で攻撃し始める。普段の冷静な彼女とは違う、取り乱した姿だった。ミヤコも素手で対応し、彼女の振りかぶった腕を受け流して、足を引っかけて倒す。そして銃を奪い取りサクネの額に銃口を当てて拘束した。

 

「ぐあっ……!」

 

「もうやめましょう」

 

 長い抵抗も徐々に力が弱まっていき、やがてサクネは抵抗をやめた。ミヤコも銃をしまい、彼女と向き合おうとする。

 

「……ヴァルキューレで、何があったのですか。あなたがこんなことをした理由も、話せるなら話してください」

 

 サクネは顔を伏せていた。そしてぼそぼそと話し始めた。

 

「ミヤコちゃんが……羨ましかった。SRT生として残り続けるあなたがずっと羨ましかった。私はヴァルキューレに魂を売って、自分の正しさすら捨ててしまった。汚れ仕事も平気でやる、そんな自分が嫌で仕方がなかった。でも、もう戻れない」

 

 そう告白した。彼女はヴァルキューレ警察学校に編入するという妥協の代償として自分の信念や正義を捨ててしまったのだ。

 

「私は……あなたのように正しさを貫きたかった! こんな事になるなら私もRABBIT小隊に入りたかった!」

 

 彼女は涙を流しながら、必死に自分の感情を吐露する。ミヤコはただじっと聞いていた。

 

「……サクネ、あなたはまだ正義を失っていません。だから内部告発をしてくれたのでしょう?」

 

 サクネは頷く。

 

「あなたはできる範囲のことをしました。そして……先生に伝えてくれたおかげで、先生は私たちに頭を下げてまで協力してくれました。だから、まだ戻れます。あなたの正義は、私が持っていないものだから」

 

 ミヤコのその言葉にサクネはゆっくりと顔を上げた。

 

「RABBIT小隊は四人です。ですが、サクネもヴァルキューレの中で少しずつ、正義を貫けるようになっていってください」

 

 ミヤコは顔をカンナの方に向けた。

 

「きっと、あなたの信念に共感してくれる人もいます」

 

 カンナはゆっくり立ち上がり、サクネの側でしゃがみこみ、彼女の肩に手を置いた。

 

「すまなかった、サクネ。今までお前にこんな事をさせて、本当にすまない」

 

 サクネはカンナの目を見て、静かに涙を流した。カンナは続ける。

 

「今度こそ公安局長として、お前みたいな奴がこれ以上出ないよう、公安局を正す。だからお前も一緒に戦ってほしい」

 

「尾刃さん……」

 

「今は休んでおけ。戻ったら面倒な書類仕事が山ほど待っている」

 

 カンナがそう告げ、肩をポンと叩いて立ち上がった。

 

「早く行け、青島は私が面倒みる。……二人分の始末書を用意しておくか」

 

 カンナが急かすとRABBIT小隊は撤収準備を始める。各隊員がロープを使ってヘリに登っていき、最後にミヤコが登ろうとすると手招きで私を呼んだ。

 

「先生も私と一緒に」

 

 ドローンを操縦し、ミヤコにしがみつくようにヘリに搭乗した。やがてヘリは飛び立ち、ヴァルキューレ警察学校を後にしていった。

 

――

 

 私の足の方は多少良くなった。医師からも良好だと言われ、ミレニアムサイエンススクールのエンジニア部に歩行補助具が無いか相談したところ、下半身アシストスーツを無償で提供してもらえることになった。トレーニング部の乙花スミレという子にもリハビリコースを依頼してみたところ慎重に検討した後、引き受けてくれた。今のところ、車椅子無しでもアシストスーツあれば歩行程度できるまでに回復してきている。

 

 そして……クローバー作戦の余波だが、後日ヴァルキューレ警察学校の癒着問題が公になり、クロノススクールが大々的に報じることになった。子ウサギタウン再開発の件も白紙になり、RABBIT小隊は再び子ウサギ公園での生活を再開した。

 

 気になる点としては、モエも指摘した通り癒着問題発覚後の連邦生徒会の対応の異様な速さだが、全容がつかめない以上、憶測の域を出ないし何をすることもできない。

 

 しばらくしてから、再びヴァルキューレ警察学校に向かってみた。そろそろサクネは復帰しているだろうと踏んで公安局のオフィスに出向いてみる。

 

 しかし、サクネが居た机はまっさらな状態になっており、彼女の姿は無かった。

 

「……先生、お疲れ様です」

 

 カンナに声をかけられ、振り向く。片手にはコーヒー入りのマグカップ、もう片方には書類の束があった。

 

「サクネは?」

 

 そう聞くと彼女の表情は曇った。

 

「彼女は……生活安全局に左遷されました」

 

「え!? どうして?」

 

 まさかの行動に驚く。カンナはため息交じりで続ける。

 

「建前は評価が低いからとのことですが、本当は上とスポンサーからのご意向です。……私もコノカも彼女を必死に庇ったのですが」

 

 カンナは思い出したのか、拳をぎゅっと握り、今にでも衝動があふれ出そうだった。

 

「責任者である私を飛ばせばいいものを……!」

 

 怒りに震えるカンナを、私はなだめた。

 

「先生……ありがとうございます。彼女はいませんが、この公安局をより良くして、彼女のような人が二度と出ない様にしたいです」

 

 カンナは決意を新たにし、書類の束を持って自分のデスクに戻っていこうとしたが、その直前に思い出したかのように立ち止まった。

 

「先生、申し訳ないですが、私からのお願いを聞いてくれますか」

 

「どうしたの?」

 

「青島の様子を見てきてほしいのです。私の方から行きたいですが、多忙につき行けそうにないのです。そこで先生に頼めないかと」

 

 私は頷き、了承する。

 

「うん、見てくるよ」

 

「ありがとうございます。私は仕事があるので、これにて失礼します」

 

 カンナが立ち去り、一人になった。サクネの居場所を探すべく、まず同じ生活安全局であるキリノやフブキに聞いてみることにしたのだが、彼女らは交番の方にいると聞いたので行ってみた。

 

交番に入ると、まずキリノが出迎えてくれた。

 

「あ、先生。お勤めご苦労様です!」

 

「お疲れ様。サクネを探しているんだけど、どこにいるか分かる?」

 

「サクネさんなら、今お昼休憩中です! 本官が案内しますので、ついてきてください!」

 

 そう言ってキリノは案内を始めたのだが、すぐに見つかった。彼女は椅子に座ってインスタントのネギラーメンをすすっていた。隣にフブキがだらけながらドーナツを食べている。

 

「フブキさーん、代わりに書類仕事やってくださいよー」

 

「えー、頼む相手違うでしょ。面倒くさいし、私にはお昼寝という仕事があるしさ」

 

「頼みますよー。ドーナツ、買ってきてあげますので」

 

「マスタードーナッツのグレーズド・ドーナッツ五個」

 

「いや三個で」

 

「交渉する気ならやらないよ?」

 

「あーはいはい、五個ですね。って先生!?」

 

 生活安全局に移されたサクネはトレードマークのモッズコートが無くなり、普通の制服を身にまとっていた。ただし、雰囲気は相変わらずだった。驚いたサクネはラーメンのスープをすすりながら挨拶した。

 

「元気そうでよかった」

 

 私はそう返すと、彼女は少し照れくさそうにしていた。そして麺を食べ終えスープも飲み干すと空のカップをゴミ箱に捨てた。

 

「では、本官、パトロールに行って参ります!」

 

「何かあったら、すぐ呼んでねー。銃が必要な時は特に!」

 

 キリノは先にパトロールに出かけ、残ったのは私とサクネとフブキだけになった。フブキは既に寝息をすーすーたてている。

 

「カンナから様子を見に来るように頼まれてね」

 

「尾刃さんが……」

 

「で、どう? 生活安全局は」

 

 そう聞くとサクネは苦笑した。

 

「……相変わらずです。そうだ、先生も一緒にパトロール行きませんか? 車椅子も押してあげますから」

 

「ううん、走るのは無理だけど歩けるようになったから大丈夫」

 

「いえいえ、まだ完治してないんですから。さあ、行きましょう!」

 

 すっかり元気になったサクネに圧倒されつつ、私はキリノとは別の区画を一緒にパトロールすることにした。

 

「生活安全局来た当初はやっぱり悔しいとか、悲しいとか、色々ありました。でも今は何というか、楽しいです。キリノさんにフブキさんとも仲良くなれましたし、パトロールも色々あって」

 

「そっか」

 

「公安局の事は……尾刃さんにお任せしますよ。私は政治とかそういうの、苦手ですから」

 

 こうしてしばらくパトロールを続けていくと、おばあさんが横断歩道を渡ろうとしていたのに気づいたサクネが駆け寄って、手を貸していた。

 

「一緒に渡りましょうか?」

 

「ああ、悪いねえ」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ」

 

 そうしておばあさんと談笑しながら、横断歩道を渡っていった。

 

「いつもパトロールありがとうね、おかげさまで夜もぐっすり眠れるよ」

 

おばあさんは笑顔でサクネにそう告げると、彼女は満面の笑みで返す。

 

「お役に立てて光栄ですよ。また何かありましたら、いつでも言ってください!」

 

「そうかい?これからも頼むよ。あ、そうだ。いつもお世話になってるしこれをあげるよ」

 

おばあさんは鞄の中から一つのお守りをサクネに差し出した。

 

「これは……。すみません、本当にありがとうございます」

 

「いいんだよ。じゃあまたね、お嬢さん」

 

 おばあさんは笑顔で手を軽く振りながら歩いていった。サクネはそれをじっと見つめて見送っていた。その後、彼女はもらったお守りをじっと眺めていた。そしてお守りを胸に当てて、ぎゅっと握りしめた。

 

「……公安局とか、SRTって今まで犯罪を打ち砕くことが仕事だったじゃないですか」

 

 サクネは急に話し始めた。私は頷いて返すと、彼女は続ける。

 

「でも、今は周りの人を助けることが仕事……。なんというか、新しい正義のようなものを見つけたんです」

 

 サクネは嬉しそうにそう語り、お守りをポケットにしまった。

 

「そういえば思い出した。ミヤコとは、どうなの?」

 

「ミヤコちゃんとは、友達というか。今度一緒にペットショップを見に行く予定なんです」

 

「そっか、安心した」

 

「SRTはSRT。私はヴァルキューレの人ですから。さ、パトロール再開しますか。帰りにドーナッツ屋さん寄らないと!」

 

 彼女は足取り軽く、私の車椅子を押しながらパトロールを続けた。

 

――

 

 RABBIT小隊と私の関係性も変化していた。彼女らはようやく私を許したのか、時々シャーレにやってくるようになった。今日は別階の大浴場に入るためにやってきており、日頃野外で生活する彼女らにとって、大いにリフレッシュできる場所だった。もっとリフレッシュできないかと、牛乳瓶やフルーツミックス、イチゴオレが飲める自販機を設置できないか検討してみたり。

 

 オフィスで普通に仕事していると、誰かが入ってきた。

 

「先生」

 

 ミヤコだった。シャーレに置いてあったパジャマを着ており、長い髪をバスタオルが包んでいる。

 

「上がったんだね。髪乾かす?」

 

「お願いします」

 

 私はドライヤーを取り出し、彼女の髪を乾かし始めた。しばらく黙ってかけ続け、乾ききったらブラシで丁寧にブラッシングしてあげる。彼女は気持ちよさそうにしていた。

 

「冷蔵庫の中に作り置きしていた四人分のミートパスタあるから、全員上がったらレンチンして食べてね」

 

「ありがとうございます、先生」

 

「いえいえ、どうぞごゆっくり」

 

 それで再び机に向き始めるのだが、ミヤコは何故か私の方をずっと見ている。

 

「どうしたの?」

 

 そう聞くと、彼女は首を傾げながら答える。

 

「いえ、とくには」

 

 それ以降言葉を発さず、何も考えずに私は片手で彼女の両頬をむにっと挟んでみた。

 

「うう、何ですか。いきなり」

 

「……何となく。雪見だいふく食べたくなるほっぺだね」

 

「……?」

 

 ミヤコはまた首を傾げていた。私は手を離して仕事に戻る。そしてしばらく時間が経った頃、三人もオフィスにやってきた。

 

「ふぁ……さっぱりした……」

 

「助かった、先生」

 

「えっと……お風呂、気持ちよかったです……」

 

「みんな、冷蔵庫にミートパスタあるから食べてってねー」

 

 他のRABBIT小隊らも、それぞれ冷蔵庫からミートパスタを取り出して電子レンジで温め始めた。

 

「用意周到なのはいいが、ホテルのサービスっぽくないか?」

 

「失礼な、おせっかいな親切心です」

 

「そ、そうか……」

 

 サキの疑問に返すと、彼女は少し引いていた。

 

「先生、ありがとうございます」

 

 ミヤコが改めてお礼を言ってきた。私は頷いて返すと、彼女は微笑んでいた。やがて電子レンジの音が鳴り、みんなそれぞれ食べ始める。その様子を片肘つけながらぼんやり眺めていた。




現状、2章やる予定はありません。
次はエデン条約編4章です。
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