アビドスの6人目   作:____―--

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NO MAP 2

 サオリの案内でヒヨリとミサキを捜索する。するとアリウス生を発見し、奴らが慌ただしく動いているのを見かけた。彼女らの尾行をすると、どうやらヒヨリを追いかけているという事がわかり、サオリが背後からアリウス生を襲撃して気絶させた。ヒヨリはすぐに見つけたが、彼女は私に怯えている様子だった。

 

「どうしてシャーレの先生が……!? もしかして天罰のときが来たんですね……。私は終わりなんだ……」

 

 ヒヨリは私の右足を撃ち抜いて瀕死に追い込んだ主犯格なのだから、怯えるのも無理は無い。

 

「サオリが、アツコを助けたいと。戦力が欲しい」

 

「リーダーが……姫ちゃんを? でも私たちだけで助けられるのでしょうか?」

 

「わからない。でもやらないと。躊躇っている時間はないよ」

 

 ヒヨリは表情をコロコロと変えていく。怯えたり、戸惑ったり。

 

「……実は、リーダーの居場所を教えたらアリウス自治区に戻れるよう、『彼女』から言われているんです。でも、私は言いつけを破りました」

 

「何故だ、一人助かる道も残されているのに」

 

「私一人だけ助かっても、アツコちゃんがいないと意味がないんです。なら、リーダーと一緒に姫ちゃんを救いたいです。リーダーも一緒ですよね? だから私を探しに来てくれたのですよね?」

 

「ああ、そうだ。次はミサキを探す」

 

 ヒヨリはサオリについていくようになった。こうして夜のキヴォトスを三人で探し回る。次に訪れたのはかなりの高さがある橋だった。そしてミサキを見つけた。橋の手すりに腰掛け、飛び降りそうな雰囲気を醸し出している。

 

「ミサキ」

 

サオリが声をかけると、ミサキはこちらを向いた。しかしその表情はどこか暗かった。橋の下で流れる暗い川を、ただじっと見つめている。

 

「この川は水深五メートル。流れも早いし、落ちたら溺れ死ぬだろうね」

 

 ミサキは淡々とそう告げた。彼女は生きるのを諦めているように見えて……そうではないだろう。どこかで助けを求めているようでそうでないような、そんな雰囲気だ。すぐに『そういう選択』をしたいなら、地面がコンクリートのものなどを狙うはずだ。

 

「リーダーにヒヨリ、そしてシャーレの先生か。そういう選択をしたんだね。ちょっと予想外だったかな」

 

「ミサキ」

 

「なに? でも私は考えは変えないよ。無理に決まっている。たったのこれだけの人数で『彼女』に立ち向かおうなんて」

 

 ミサキは身を乗り出し、今でも飛び降りそうな姿勢をとった。私は彼女の方に歩き出し、ミサキの傍で立ち止まった。

 

「何? 私を止めようとしても無駄だよ」

 

「そばに行っていい?」

 

「ダメって言ったら?」

 

「あら、質問を質問で返されてる」

 

「はぁ……」

 

 ミサキはため息をもらす。

 

「で、何?」

 

「……今日の夕食、餃子定食だったんだ」

 

「は?」

 

 唐突な話題にミサキは素っ頓狂な声を上げた。

 

「トリニティで食べてきたの。トリニティって洋食系が多くて、品格があって落ち着かなくてね。ちょっと庶民的な雰囲気な店がないか歩き回ってた。そしたら見つけたんだ、餃子定食を出すお店を。雰囲気も庶民的で、値段も安かった。味は……普通だったかな」

 

「それで?」

 

「……美味しかったというだけ」

 

 そんなくだらない結論にミサキはまたため息をもらした。

 

「はぁ、呆れた。……先生、知らないの? 私たちは先生を抹殺するよう『彼女』から命令されているんだよ」

 

「うん、知ってる。でも、サオリもヒヨリも撃たなかった。だからミサキも撃たない」

 

「そう。……よく分からない人」

 

 それからしばらく沈黙が流れたが、やがて彼女は手すりから降りた。

 

「……姫を助けるんだね。わかったよ、協力する」

 

 ミサキは立てかけていたランチャーを背負って、私たちについてきた。

 

「あと九十分で入口に向かわないと。急ごう」

 

――

 

 カタコンベ。トリニティとアリウスを繋ぐ地下の通路なのだが、不思議な構造をしているのだという。入口は三○○箇所もあり、その中で正しい入口は一つだけ。さらに時間経過で構造が謎の力で変化するという。正しい入口は暗号などで教えてもらうのだが、アリウススクアッドらはもう脱走した用済みの生徒なので、教えてもらうことは叶わない。

 

 サオリらの後ろをついていき、カタコンベの入り口へ。しかし、アリウス生らが待ち伏せて、私たちを妨害してきた。

 

「先生、ここは私たちが引き受ける」

 

サオリがそう告げ、ヒヨリとミサキはアリウス生らに応戦した。私は後ろに隠れて指揮を執り、アリウス生らを撃退していく。ベアトリーチェはこの入口を使うのは想定済みだったのだろうか、多くの戦力がここに集結していた。しかし他の入り口を探す時間も情報もない。できるのは強行突破のみ。

 

「先生、こっちだ」

 

サオリの後をついていき、私たちはすぐさまカタコンベに侵入する。サオリの指示で、安全が確保されるまで後方に待機する。通信越しに指揮をとりながら待ち伏せていたアリウス生らを突破していくのだが、突如通信が途絶えた。

 

「サオリ、ヒヨリ、ミサキ! 聞こえる?」

 

 応答が途切れ、ポケットの注射器を確認しながら彼女らの元へと急ぐ。そして彼女らがいる場所にたどり着いたときだった。

 

「私が失った分だけ、あなた達も失ってよ」

 

 トリニティの檻の中に居たはずの聖園ミカが、アリウススクアッドらを襲撃していた。

 

「何をしているのミカ!」

 

 気絶するアリウス生ら、地に伏せるヒヨリとミサキ。そして撃たれようとしていたサオリ。ミカは私の声に動揺し、サオリから離れた。

 

「先生……どうしてここに? どうして、スクアッドと一緒にいるの?」

 

「サオリにお願いされたからだよ! ミカはどうしてここにいるの!?」

 

「先生、急ごう! あと少しで通路が変化する!」

 

「わかった。ミカ……」

 

 私はサオリ達と共に通路を駆け抜けた。背後にあった通路は構造が組み変わり、ミカとアリウス生らの姿は消えていく。

 

「あともう少しだ。急ごう」

 

 引き続き走り続ける中で考える。ミカはなぜこのカタコンベ内に侵入したのかを。彼女はアリウスと内通していた時期があったから、カタコンベのシステムを把握していてもおかしくはない。でも、この通路に侵入する理由は? アリウススクアッドを襲撃する理由は? トリニティで何があったのか。色々考え事をしていると、サオリが「もうすぐだ!」と告げた。三人が上っていき、合図で私も地上へ。飛び出すと、廃墟が周囲に広がっていた。

 

「ここなら警備の手が薄いはず……正解だね」

 

「ここがアリウス自治区なの?」

 

「……昔はそうだったけど、今はただの跡地だよ。本当の自治区はもう少し先。私たちが向かっていることがバレてるから、そう簡単には近づけないと思う」

 

 ミサキと小声で会話し、私たちは自治区へと進んでいこうとする。

 

「……ここは訓練場でした。どの訓練だったかな……射撃か、爆弾制作か……。大人の命令に従わなかった子が酷く殴られていて……」

 

 ヒヨリの言葉に耳を傾けていく。だからか、アリウススクアッドが自主性というか、自分から何かをすることが無いのは。こんな過酷な環境が、少女兵を生み出し、そして今なおその環境は変わっていない。今まで想像しえなかった、醜い現実がそこにはあった。

 

 サオリの様子を確認する。彼女の呼吸がいつの間にか乱れており、壁に手をついていた。

 

「サオリ、休もう」

 

「大丈夫だ、先生。早く姫を救わなければ」

 

「待って。リーダー、額をかして」

 

 ミサキがサオリのおでこに手をあてる。

 

「……すごい熱。四日も休んでないし、負傷に睡眠不足に疲労……」

 

「私はまだ戦える……」

 

「休ませよう。ミサキもヒヨリもいいよね?」

 

「休ませましょう……」

 

 二人は頷き、サオリを近くの廃墟で休ませることにした。私はバッグから解熱剤を取り出し、水も一緒にサオリへ渡すと彼女は謝罪を述べて、薬を飲み込んだ。ついでに高カロリーのチョコバーも渡すとサオリは「ありがとう」と感謝した。

 

「みんな、休んでていいよ。私が周囲を警戒しておくから」

 

 拳銃を取り出し、不寝番をやろうとしたところでヒヨリとミサキに制止された。

 

「先生は休んでいて。ヒヨリと交代で見張りをするから」

 

「先生も無理しないでください……」

 

「ごめん、恩に着る」

 

 まだストックのあるチョコバーをかじって水と一緒に飲み込む。次に黒服からもらった錠剤を飲み込み、サオリの隣で壁に背中を預けて座り込む。

 

「先生も戦ってきたの?」

 

 突然、ミサキが私に質問を投げかけてきた。

 

「どうしてそう思ったの?」

 

「なんとなく。立ち振る舞い方でわかるよ」

 

「……まあ、そうだね。数年前の話だけど。……休むね」

 

 拳銃を片手に持ったまま、少しずつ深呼吸をして私は目を閉じる。すぐに意識は落ちていった。

 

――

 

 夢の中、いや。夢と現実の狭間と言った方がいいか。真っ白な空間の真ん中に一つ椅子が置いてある。そこには一人の少女が座っていて、私は彼女へ近づいていった。百合園セイアだ。

 

「すまなかった、先生」

 

 最初の言葉は彼女からの謝罪。

 

「セイア……?」

 

「私は過ちを犯してしまった……。君に対しても、ミカに対しても」

 

 セイアは静かに独白をしていく。

 

「まず、私は君との間に結んだ誓いを破ってしまった。予知夢を使い、ゲマトリアとの接触を試み、現実の私の身体は重体にまで陥った。……ベアトリーチェに攻撃されてね。そして、君が言う色彩と接触してしまい、私の存在は不確かなものへとなってしまった」

 

「……セイアの、バカ。ベアトリーチェは私がやるって約束したのに」

 

「すまない、先生。でも、私は君のために何かしてあげたかった。……次に私が犯した過ちを話そう。ミカのことだ」

 

 セイアは真っ白な空間から、セイアの部屋へと景色が変わっていった。そこには過去のセイアとミカが対話をする様子があった。

 

「君はミカが置かれた状況について知っているだろう」

 

 知らないはずがない。ミカは……アリウスと結託してセイアに対する殺人未遂行為、ナギサを襲撃しようとした。彼女はパテル分派から追放され、聴聞会によってティーパーティーの資格の剝奪も決定している。トリニティの全てがミカを憎んでおり、掲示板には断罪せよという落書きが絶えなく、彼女の私物は私罪によって燃やされたり、壊されたりする被害が後を絶たない。子どもに見合わない、多くのものを背負わされていた。

 

 ミカとセイアの会話を、私はただ聞くことしかできない。やがて過去のセイアの顔色が青白く染まっていき、身体が震えだしていく。この時にゲマトリアと接触してしまったのだろう。

 

「アリウスが……先生を狙っている……」

 

 恐慌状態に陥ったセイアは朦朧とした意識の中でミカに告げた。

 

「君が、先生を連れてきたから……!」

 

「……!!?」

 

 それは、ミカにとって最悪の言葉だったのは想像に難くない。

 

「私の、せいで……」

 

 その後、セイアは吐血し倒れてしまった。ミカが慌てて正義実現委員会を呼びに行くところでこの場面は止まった。

 

 次に場面はミカの檻へと切り替わり、ミカは涙を流しながら檻の中で体育座りしていた。檻の周辺の声は騒々しく、様々な声が飛び交っている。

 

『セイア様の容態は!?』

 

『ナギサ様はどちらに!? シスターフッド、救護騎士団は!?』

 

『誰がやったんですか!? 聖園ミカ、あの魔女ですか!?』

 

『彼女がセイア様に何かやったに違いありません!』

 

「どうして……こんな。そうだ、サオリが……」

 

 ミカの瞳が徐々に光を失っていく。

 

「ずっとサオリに利用されて……。だから先生は撃たれたんだし、セイアちゃんも、ナギちゃんも……」

 

 ミカは顔を上げ、ゆっくり立ち上がる。

 

「あの女が元凶なんだ。全部、ぜーんぶ、あの女が」

 

 ゆっくり一歩一歩、壁の方へと歩いていく。

 

「私が奪われた分だけ、同じように奪われなきゃ不公平でしょ。だから、あの女にも同じ目に遭ってもらおう」

 

 壁を凄まじい力で破られ、彼女は外へ。没収されていた銃を回収し、脱獄していった。

 

 一部始終を眺めていたセイアは罪悪感を顔いっぱいに浮かべて、私に謝罪した。

 

「また、彼女を傷つけてしまった。このままだとミカは……取り返しのつかないことを……」

 

「そう、なんだ……」

 

 憎しみの連鎖は終わらない。ミカの憎しみは、サオリらに向けられていたのだ。

 

「私のやることはわかったよ。……赤いクソビッチをぶちのめして、ミカも止めればいいんだね」

 

「ああ。だが先生はもう十分に私たちのために努力してくれている。だから、全ての問題を背負おうとしないでくれ」

 

「私にしかできないことでしょ。なら、私にやらせて。みんながヘマやらかしたんだし、後始末は私がやる」

 

「先生……」

 

 セイアは何か言いたげだったが、私はそれを制止した。

 

「あと、一つ許可を求めたい。ミカが一線を越えようとしたら、『体罰』していい?」

 

 注射器を取り出しながら、私はセイアに告げた。

 

「……先生、これが君に何をもたらすのか知ったうえで使うのかい?」

 

「覚悟はしてる。体張って先生を示さなきゃ、彼女は何も変わってくれない」

 

「……わかった、許可しよう。ただ無事に帰ってきてくれ」

 

「わかってる」

 

 やがて終わりが見えようとしたところで、最後にセイアが一つ呼び止めた。

 

「先生」

 

「何?」

 

「……君は少し見ない間に結構乱暴になったんだね」

 

「そうかな。でも私は『あの先生』じゃないから。私なりのやり方でやらせてもらうよ」

 

 そして私は夢から覚めた。

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