アビドスの6人目   作:____―--

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 最初に動いたのはサオリだった。ミカを撹乱するように動き回り、彼女へ攻撃を仕掛ける。

 

「先生、離れろ!」

 

 その警告に従い、私は少し距離を取るとミカのところで大爆発が起こった。本来なら使用が禁止されているはずのサーモバリック手榴弾をサオリは投げていた。

 

「あはっ☆ 痛いよー」

 

だが、彼女は無傷で爆炎の中から現れる。

 

「ふーん、サオリはゲリラ戦なんだ。まあ、それが最善だよね。でもその戦い方じゃ私を倒せないよ。……じゃあ、今から二人とも相手にするから全力で抵抗してみてよ」

 

「そうか。聖園ミカ、お前の憎悪を全て引き受けよう。お前をこうさせたのは私の責任だ」

 

 次に私が黒く煤けた盾を左手に出現させ、ミカに向けて駆け出す。盾で押し倒そうとした瞬間、彼女が盾を掴み、私を投げ飛ばした。

 

「あははっ、ムリムリ☆」

 

 壁に叩き付けられるもすぐ受け身を取って復帰。武器を切り替え、アサルトライフルで彼女へ攻撃するも痛がる素ぶりすら見せない。

 

 次にサオリが銃を構え、ミカへ発砲、次に手榴弾を投げ込む。どうやっても彼女には傷一つつかない。

 

「サオリ、先生。もう終わり? なら、今度はこっちから行くよ」

 

 彼女が狙ったのはサオリだった。銃を構えて撃ち放つと、強烈な爆発がサオリを襲い、彼女は吹き飛ばされる。

 

私は再び盾でミカを押し倒そうとするも、今度は振り向きざまに盾に向けて拳が放たれた。その威力は強烈で、盾越しに両腕に強烈な衝撃が走り、骨が軋む音が鳴り響いて激痛が走る。そして盾に大きな歪みが生じた。だがせめて一手をと、とっさに黒く煤けたショットガンを持ち出し至近距離で発砲。

 

「いたっ!」

 

 銃弾は彼女の肩や腕に命中。だがそれでも怯む程度。もう一回と回し蹴りを繰り出すも、彼女はそれを受け止めていた。

 

「ふーん、ここまで戦えるなんて。先生さすがだよ。でも残念☆ せーのっ!」

 

 彼女に足を掴まれ、そのまま私は投げ飛ばされて柱に激突。

 

「がはっ……!」

 

 アズサが言っていた通り、彼女はとても強かった。前世界線のホシノ先輩の戦い方を真似した程度じゃ、勝てるわけがなかった。でも、それでも。戦わない理由にはならない。

 

 サオリが立ち上がって銃を構えていた。

 

「まだだ!」

 

 サオリはミカに向かって発砲する。だが、彼女はそれを避けてサオリに接近。そして彼女の首を片手で締め上げた。

 

「ぐ……っ! がはっ……!」

 

 サオリは抵抗しようともがくが、力が強すぎて抜け出せない。

 

「あともう少しだね。どう? 苦しみながら死ぬのは?」

 

「あ……。 せ、んせい……!」

 

サオリは手を伸ばして私を呼ぶ。悲鳴あげる身体を振り切ってゆっくり立ち上がり、盾を構える。そしてミカに向けて突撃した。サオリに気を取られていたミカに打撃を食らわせ、サオリを解放させる。

 

「先生……!」

 

「大丈夫……。まだやれる」

 

「もう、しつこいなー。……先生、ちょっと黙ってもらおうね」

 

 ミカは柱を掴んで引き抜き、なんと殴打用武器として使い始めた。

 

「嘘でしょ!?」

 

「あははっ、先生! 潰れて!」

 

 柱を振り下ろし、私はそれを盾で受け止める。

 

「ぐっ……!」

 

 だが二発目がすぐさま繰り出され、受け止める力はすぐに尽きてしまう。何度も何度も柱で殴られ、地面には大きな亀裂が走り、やがて盾は限界を迎えて砕け散った。

 

「先生!」

 

 サオリの悲鳴が聞こえた瞬間、私は柱の下敷きにされた。

 

「がっ……。あっ……」

 

「聖園ミカ、もうやめてくれ!」

 

「じゃあ、死んでくれる?」

 

「……わかった」

 

「サオリ、だめ。ミカは……私が止めるから……」

 

 顔が温かく濡れている感覚がある中、掠れ声で私はサオリに伝えるが届かない。

 

「先生はそこで二人の生徒が地獄に落ちるのを見ててよ」

 

 満身創痍のサオリはミカの目の前で膝立ちになり、死を待つ姿勢に。ミカは銃をサオリの頭に突き付け、引き金を引こうとする。

 

「最期に何か言いたい?」

 

「……アズサ」

 

「アズサちゃんがどうかしたの?」

 

「お前には何が見えていたんだ……? お前はどうしてそんなに幸せそうだったんだ……? 教えてくれ……」

 

 ミカはまだ何もしない。静寂の中、サオリの声が反響する。

 

 そして彼女の独白が始まった。

 

 幼い頃のサオリはミサキとヒヨリを生かすために盗みを働いていたこと。アリウスの幹部に暴力を振るわれ、ヒヨリがヘイロー破壊されそうだったのを庇ったこと。ミサキが刃物で自身を傷つけようとしたのを制止しようとしたこと。牢獄の中に入れられて、慈悲を乞おうとしたこと。

 

 そして、ミカと初めて出会ったとき。ミカはアリウスとの和解を申し出たが、サオリそれが本心なのかを疑っていたし恐らくミカの善意を悪意として扱ってしまったこと。

 

「全て、私が招いたことだった。ミカの心を踏みにじり、騙し、この地獄に突き落とした。……姫が声と顔を隠して生きなければならなくなったことも、ヒヨリとミサキをスクアッドに引き込んだことも。お前が言っていた『和平の象徴』ではなく『人殺し』として欺いてトリニティに送り込んだアズサのことも。全てが私のせいだ。疫病神だ。だが……あれだけのことを押し付けたアズサが、どうして……。どうして晴れやかで幸福に満ちた青空の下にいる? 私は否定した。何度も。でも最終的には、私は認めざるを得なかった。アズサの幸福を」

 

「……」

 

「ないものねだり、なのかもしれない。もしかすると私たち、私にも違う未来が待っていたのかもしれない。でも、私自らその手でその選択肢を潰した。……でもアズサならどう選んだのだろうか。きっと正しい道を選べたのかもしれない。……話が長くなってしまったな、好きにしてくれ」

 

「……」

 

 ミカは銃の引き金を引かず、そのまま下ろした。そしてサオリに問いかける。

 

「サオリも、どこかで救われたいと願っているの?」

 

「ああ……。ようやく、わかったんだ」

 

「そっか……」

 

 何も起きず、長い時間が過ぎた。

 

「……できないよ」

 

「聖園ミカ……?」

 

「サオリ、あなたを殺すなんてできない。……私だって、どこかで救われたかった。帰る場所が無いし、トリニティの裏切り者で、みんなの敵で、何度もセイアちゃんを傷つけた。……それでも慈悲を祈ってしまう。セイアちゃんに手を出したその時から私は、どこかで救われたかった。だから、サオリの願いはわかるよ。あなたは……私だよ」

 

 ぽつりと言葉を零していき、声も表情も涙で濡れていく。

 

「……先生を助けてくれないか、彼女は今も柱の下敷きで苦しんでる」

 

「そうだね……」

 

二人は私の元へ駆け寄ってくる。ミカが柱をどかし、真っ赤な身体をサオリがひきずって柱から解放する。

 

「先生、大丈夫か?」

 

「ごめんね、先生。私、また……」

 

「……ミカのバカ、そしてごめんね」

 

「え?」

 

「何回も助けるって言ったのだから、助けるよ……。だから……泣かないで」

 

「先生……」

 

ミカは私を強く抱きしめた。そしてサオリも、そっと私の肩に触れた。

 

「……ミカ、ごめんね。ずっと悔やんできた。補習授業部のことで、ナギサもミカも助けられなかったことも。ナギサに限っては私から見捨てると言ってしまった。……だから、私はずっと後悔していた」

 

 声を出すのも辛いが、伝えなきゃと私は言葉を絞り出す。

 

「サオリも……自分のせいじゃないよ」

 

「先生……。私は、お前を撃ってしまったんだ」

 

「自分のせいじゃないよ」

 

 繰り返し、私は伝える。サオリは私を強く抱きしめてくれた。

 

「陽のあたる場所に行けるまで、ずっと生きてて。十分な罰を受けて……いずれ誰かが許したなら、きっと行けるから。それまで、私は生きるし助けるよ。約束」

 

「先生……。うん、約束」

 

 ミカの抱きしめる力が強くなる。サオリも私も、それに応えるように抱きしめ返す。

 

『戯言もそこまでになさい!』

 

 赤い奴の忌々しい声が響き渡った。ホログラムのベアトリーチェが現れ、冷たい目を向ける。

 

『あなた達の位置を知らないとでも? いいえ、私はただ見守っていただけ。こんなつまらない余興は終わりにして、今から全力で相手して差し上げます。特に先生、あなたに限っては生かしてはおけません。この場で死んでいただきます』

 

 私は立ち上がり、ホログラムを睨みつける。

 

「あなたにこの言葉を送ろう。『サクラコ様の言葉、三章十六節、お前のケツを蹴り飛ばしてやる』と」

 

『……なんですって? まあいいです。ロイヤルブラッドを生贄にする儀式もすぐに始めます。早く助けに行かねば手遅れになりますよ』

 

「……姫! アツコ!」

 

 ユスティナの亡霊達が包囲するように現れた。その中に一人、際立つ存在がいた。

 

『ユスティナの聖女バルバラ、先生を抹殺しなさい』

 

 バルバラ、ガスマスクにキャノン砲とガトリングを携える幽霊。

 

「先生、ここは私が」

 

サオリが前に出ようとするのを私は手で制する。

 

「サオリ、早く助けに行って。……彼女達も、備えて呼んでおいたから」

 

「彼女達って……」

 

 サオリが困惑している中、私は二人の名前を呼ぶ。

 

「ホシノ、ヒナ」

 

 二人が私を守るように現れた。

 

「先生、指示を」

 

「傷、大丈夫?」

 

「大丈夫」

 

 後ろのミカは突然現れた二人に困惑していた。

 

「どうしてゲヘナの生徒がアリウスに……? カタコンベを通り抜けるなんて不可能に近いはずなのに」

 

「……指示出すね」

 

 私は二人に指示を出す。

 

「彼女は錠前サオリ、調印式で私を撃った生徒」

 

 そう告げると二人の表情は険しくなる。

 

「助けてあげて。この奥に、彼女みたいな生徒をたくさん生み出した赤いクソ女がいるはず。……奴をぶっ飛ばして。片付けたら、私に連絡、次に離脱して。いい?」

 

「任せて」

 

「先生はどうするの?」

 

 ホシノに聞かれ、ミカの方に私は目を向ける。

 

「無邪気なお姫様をちょっと助けないと」

 

「先生、無茶だよ。その傷で……」

 

「私は死なない。……お願い」

 

「……約束だよ。行こう」

 

 サオリを先頭に、ヒナとホシノはバシリカの方面へと駆けていった。

 

「先生、ここに残って良かったの? ベアトリーチェ、先生を殺す気だよ」

 

「ミカのことが心配で。……それに、私はまだ死ねない。約束があるの」

 

「……先生、さっき私のことをお姫様と言ってくれたけど、私は『魔女』だよ?」

 

「それは他人が決めつけたことだよ。本当は何になりたい? 自分で決めていいんだよ」

 

 その言葉にミカは目を丸くし、そして微笑んだ。

 

「私は……やっぱりお姫様になりたいな」

 

「うん。……ミカって本当にしょうがない子だから。見てないと不安になっちゃいそう」

 

「先生、それひどいよ。でも、ありがとう。……ね、先生」

 

「何?」

 

「ごめんね、嫌いとか言っちゃって。本当は助けてと言いたかったはず、なのに私……」

 

「気にしないで。……追い詰められると周りが見えなくなって、助けの呼び方すら忘れてしまうのは私も同じだよ」

 

 二人で並んで、ユスティナの複製らに向けて銃を構える。私はもう一度アセンションを取り出し首筋に打った。

 

 そして私はまた一歩を踏み出した。

 

「一緒に背負うよ、ミカの罪も罰も」

 

 誰かが居てくれる日常を尊び、突然奪われることのない未来を享受しよう。

 

 祈りを捧げて、私達は駆け出した。

 

 ガトリング型マシンガンを取り出し、群れに向けてばら撒くように発砲した。

 

「全弾、発射!」

 

 多くのユスティナを巻き込んで、銃弾は着弾。しかし、奴らは怯むことなく押し寄せてくる。

 

「ここから先は通さないよ」

 

 ミカが前に立ち、銃を構えて発砲。一撃でユスティナを消し飛ばす。

 

「大丈夫?」

 

「まだ、やれる……!」

 

 マシンガンからショットガンとハンドガンの二丁持ちに切り換え、私はユスティナの群れに突っ込んでいく。撹乱するように動き回り、奴らの注意を引く。やはり問題はバルバラ、いくら攻撃しても怯むことなく突っ込んでくる。

 

「先生、危ない!」

 

 バルバラのキャノン砲が私に向けて放たれる。だがミカの援護射撃によってそれは防がれた。

 

「ごめん!」

 

 回廊の壁を走ってバルバラの背後へ。ショットガンを連射し、手榴弾を彼女の足元へ。大爆発を引き起こしてもなお、バルバラは私に向かって突進してくる。

 

「ミカ!」

 

「任せて!」

 

 ミカが銃を構えて発砲。彼女の足元を撃ち抜き、転倒させる。マシンガンに切り替え、鈍器として扱って砲身をバルバラの頭部に叩き込む。ようやく奴は倒れ、消滅していった。

 

「先生、やったね!」

 

「まだだ!」

 

 複製の恐ろしさとは、その数が無限に増えること。ベアトリーチェを止めない限り、この戦いは終わらない。向こう側に、複数のバルバラがこちらに銃口を向けていた。

 

「……ホシノ先輩、まだ見たことの無いユメ先輩、力を貸して」

 

 私がそう呟くと、左手に再び黒く煤けた盾が出現した。

 

「先生、それ壊しちゃった盾じゃ……」

 

「うん。でも、向こうが使う『複製』と似たようなものだよ。まだ行ける?」

 

「うん、いけるよ」

 

 左手に盾、右手にマシンガンという超重量の装備で私は回廊を駆け抜けていく。盾の上にマシンガンを載せて乱射という攻防一体で攻めれば、ミカが援護射撃でバルバラを足止めしてくれる。

 

 盾でぶん殴れば、マシンガンの銃身で薙ぎ払うように振り回し、ひたすらに戦いつづける。

 

 身体はというとかなり疲れているし、立っているのもやっと。でも、どこまでも戦えるというガッツだけが私を奮い立たせる。両腕もミカのせいで骨をやっているかもしれない。盾を持つのもマシンガンを持つのも辛い。だけど頭の中は静寂で、何も聞こえない。

 

「先生! 危ない!」

 

 バルバラのキャノン砲が私に向けて放たれる。だが盾で弾き返し、お返しとして壁を蹴って宙を飛び、盾を地面に叩き付けて亀裂が入るほどの衝撃を周辺に与えてやった。

 

 そしてミカと背中を合わせ、マシンガンとショットガンを構える。

 

「ミカ、ボロボロじゃん」

 

「先生だってボロボロだよ」

 

 せっかくのお姫様が台無しだ。髪も制服もボロボロで、血も流している。私だってワイシャツが真っ赤で所々破けてる。でも、アドレナリンのおかげか痛みは感じないし、まだまだ戦える。

 

「行くよ」

 

「うん」

 

 また二人で駆け出す。ホシノ達はまだベアトリーチェと戦っているだろう。でも私達のタイムリミットは一刻と迫る。いつまで立っていられるかわからない。やはり私の指揮で奴を倒せば良かったのか。自分の判断を疑いながら、私は引き金を引き続ける。

 

 降り注ぐ弾丸はヘイローが軽減してくれる。でもアセンションの効果が切れた時、私のヘイローは消えて、私はただの人間になる。そうなれば今度こそ死が待っている。

 

 その直後、私の足元で爆発が起きて私は吹き飛ばされた。

 

「先生!」

 

「構うな!」

 

「でも!」

 

 盾もショットガンも吹き飛ばされ届かない。スコープ付きのアサルトライフルを取り出しばら撒くがやはり火力が足りない。

 

「頼む……! 早く、早く終わって!」

 

 その時だった。

 

『先生、倒したよ。離脱するね』

 

 ホシノからの通信が耳に入った。ベアトリーチェを倒してくれたのだ。

 

『先生、アツコは無事だ。……今から全員で助けにいく』

 

 サオリもそう伝えてくれた。私は安堵の息を漏らすも、まだ敵に囲まれたままだ。でも……これならどうにかできる。

 

「ミカ、もう大丈夫だよ」

 

「先生……?」

 

 私は武器に投げ捨て、大勢のユスティナの幽霊の前に出た。アリウスの一夜を過ごすうち、いつの間にか資格を受けていた『それ』を取り出す。

 

 カードを取り出し、天高く掲げる。

 

「大人のカードを使う」

 

 そう宣言した瞬間カードは光を放ち、複製されたユスティナ聖徒会は一斉に苦しみだし、その身体は消滅していった。やがて回廊には静寂が訪れた。

 

「先生、今のって……」

 

「……大人だけが使える、奇跡だよ」

 

 その直後、反動が私を襲った。

 

「かはっ……!」

 

 吐血と鼻血が止まらず、私のヘイローが消失する。短時間で二回のアセンションを使ったことによる副作用だ。

 

「先生!」

 

「壁に……休ませて」

 

 壁にもたれかかり、私は呼吸を整える。ミカが私の身体を支えてくれて、なんとか座り込むことができた。

 

「嫌だ……。先生、死なないで……」

 

「死なないよ……! 絶対に、死なないから」

 

 ミカが私の胸に飛び込みそして嗚咽を漏らす。私はそんな彼女の頭を優しく撫でていた。

 

「ごめんね、こんな悪い私で……!」

 

「知ってる。でも……一生懸命にやり直そうとしてるから。見守ってあげるよ」

 

 意識が朦朧とするなか、四人揃ったアリウススクアッドも駆けつけてきてくれた。

 

「先生! しっかりしてくれ!」

 

 サオリも私の前でしゃがんで肩を揺さぶる。

 

「サオリ、アリウススクアッドのみんな……まだ逃げてなかったんだ」

 

 傷だらけのアツコが声をかけてくれる。

 

「私たちを助けてくれてありがとう」

 

「マスクは? 格好よかったのに」

 

「残念だね、身体を守るためのものだから、危険じゃない時は付けないようにするつもり。今まではマダムの指示で付けてただけ」

 

「そう……。でも、マスク無い時も似合ってるよ」

 

「ありがとう。先生こそ大丈夫?」

 

「うん。疲れただけ」

 

 次に私はサオリに対して言葉をなんとか紡ぐ。

 

「サオリ、これからの話、しよっか」

 

「ああ。……好きにしてくれ。どんな罰でも受ける覚悟はできている」

 

「じゃあ、サオリの罰は……生きること。言ったよね。陽の当たる場所に行くまで十分罪を償って、その時が来るまで生きろって」

 

「でも、私は……!」

 

「ちゃんと聞いて。……今回は見逃してあげる。だから、みんなと一緒に逃げてみて。きっとどこでも指名手配されて追われるだろうけど、アリウスの外側という新しい景色を見たら、何か変わるかもしれない。……いつか、同じ空の下で、また会いましょう」

 

 私の言葉を聞いたスクアッドのみんなは重く頷いた。

 

「わかった」

 

「ほら、見つかる前に早く行って」

 

 アリウススクアッドらが歩き出そうとしたとき、ミカがサオリを呼び止める。

 

「サオリ」

 

「聖園ミカ……」

 

「私はあなたを許すよ。だから……また会ったら今度は素敵なスイーツ屋巡りをしようね☆」

 

「ああ。……ありがとう」

 

 四人は去っていき、やがて見えなくなった。まだ吐血も鼻血も止まらない。意識も朦朧としている。

 

「先生……」

 

「ミカ、お願いがあるの」

 

「何……?」

 

「歌、聴きたいな」

 

 私は笑ってミカにお願いをする。

 

「う、歌? 何聴きたい!? 先生のリクエストならなんでもやるよ!」

 

「うん。……なんか、宗教的なもの。聖歌とか、讃美歌みたいで、子守唄のような、そんな歌」

 

 わがままなお願いはすぐに応えてくれた。彼女の膝の上に頭が乗せられ、彼女の歌声が私の耳に届く。真っ白になっていく視界のなか、天使の羽が降り注いてくる。

 

「もうすぐ助けが来るよ。だから……今はおやすみなさい」

 

 私はそのままゆっくり、瞼を閉じた。




※ホシノとヒナは大人のカードの力によって呼び出されました。
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