アビドスの6人目   作:____―--

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 夢を見ていた。

 

 意識が目覚めた時、聞こえてきたのは波の音だった。押しては引いていく波の音に私は耳を傾ける。

 

「__先輩、目が覚めましたか?」

 

「うん、おはよう」

 

 ビーチベットの上で私は寝かされていたらしい。格好は黒ワンピースの水着の上にパーカーを羽織っただけ。そばのアヤネが心配そうに私を見ている。

 

「テントやパラソルの設営などが終わった直後に横になっていましたが、あまりに長かったので心配しました」

 

「ごめん。……でも、いい夢を見たよ」

 

 周囲を見渡している。そばにいたアヤネの他にも、ノノミ、セリカ、そしてホシノ先輩がいた。みんな砂浜で遊び、海を満喫していた。だけど、誰か忘れているような……。頭に手を当てて考えてみる。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

「……アヤネ、もう一人居たよね。どこに行ったの?」

 

「……シロコ先輩のことですか?」

 

 彼女の名前を聞いた瞬間、強烈な頭痛に私は襲われた。

 

「う……っ!」

 

 頭を抑えて、その場に蹲る。どうしてなのか分からない。でも、シロコという名前を聞いた瞬間、私の頭の中で何かが起きた。拒否反応に近い何か。

 

「先輩、無理しないでください」

 

「……うん、大丈夫。……探しに行かないと」

 

「先輩ならあっちの岩場にいましたよ。なんかシュノーケリングで貝を採ってくるとか、言ってました」

 

「ありがとう。行ってくるね」

 

「心配なので、私も一緒に行きます」

 

 頭を抑えながら、私はアヤネと一緒に岩場の方へ向かう。サンダルは灼熱の砂を踏んでも熱くない。

 

「ヘリの修理は大丈夫?」

 

「はい。資材などは足りているので、あとは修理するだけです」

 

「そっか。……悪いね、ヘリとかは専門外で」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

 機械のこととかなら、アヤネの方が圧倒的に詳しい。彼女が入学した頃は自転車やバイクの知識を彼女と共有する程度だったが、いつの間にか彼女が万物の物知り博士になっていた。

 

 サンダルがごつごつとした岩場を捉えるようになる。ときどき足ツボを刺激され悶絶しそうになりながらも歩き続ける。

 

「海岸の石ってきれいだよね。丸くて、すべすべしてて」

 

「そうですね。自然の力で長い時間を経て研磨されて、美しい形になっていくんですよね。最初は角ばっていた石も波によって角が取れて、やがて丸くなる」

 

「ある意味、ずっと傷ついてきたから綺麗な石になったのかな。砂や石と擦れ合ってきたから」

 

 岩場を歩いていったそのときだった。突如何者かが私を襲撃して押し倒したのだ。

 

「うぐっ!」

 

「……先輩!?」

 

 押し倒したのはペロロだった。白い鳥の着ぐるみっぽい質感のあるマスコットは何度も顔面に向けてパンチをしてくる。

 

「先輩、大丈夫ですか!?」

 

アヤネが駆け寄ってくる。私はペロロの両手を抑えて、何とか押し返した。

 

「……何するのよ!」

 

「う、うう……」

 

ペロロは私から離れる。だが、その目は何かを訴えているようにも見えた。立ち上がって改めてペロロに向き合う。すると突進してくるので両手を掴んで抑え込む。

 

 そのまま取っ組み合いになって、私は奴を豪快に消防士担ぎして巨体を持ち上げた。バタバタ抵抗されるが、そのまま投げ技で岩場に叩きつける。

 

「どうだい!」

 

 しかしすぐ起き上がってタックルをかましてくる。受け止めきれずぶっ飛ばされるが、すぐに受け身を取りペロロの腹部にパンチをお見舞いした。

 

「もう、しつこい!」

 

 咄嗟に距離をとると、アヤネが銃を構えた。

 

「先輩、下がってください!」

 

ペロロの顔面に弾丸が命中する。そして奴は倒れて動かなくなった。

 

「さて、着ぐるみの中身は?」

 

 そう言ってペロロの着ぐるみを脱がす。だが、中には誰も居なかった。

 

「自立型?」

 

「誰も居ないなんて、不思議ですね」

 

 すると、またも襲撃を受けた。今度はペロロ二体同時にだ。

 

「なんなのよ、もう!!」

 

 頭から飛んで突っ込まれるタックルを喰らって押し倒されると、往復ビンタを喰らった。

 

「痛い、痛い! 顔はやめて!」

 

 ペロロの猛攻は止まらない。しまいにはピコピコハンマーを取り出し、私の頭を叩き始めた。

 

「痛い! アヤネ、助けて!」

 

「先輩!」

 

 アヤネが助けに入ろうとしたとき、ペロロはハンマーを放り投げて、抵抗できない私を二体で持ち上げて海に投げ込んだ。

 

「うそ!? 私、泳ぐの苦手……!」

 

 どういうわけか、ペロロは遥か遠くに投げ飛ばしてしまい、アヤネが助けにいくのを躊躇してしまうほど。下手にもがいてしまい、私はアヤネに助けを求めた。

 

「アヤネぇ! 助けて!」

 

「先輩……!」

 

 だが次の瞬間、何者かが私の足を巻き取り、海の中に沈められた。呼吸も無くなり、私は意識を失いかけた。だが目を開けてみてみると、深く暗い世界が広がっていた。

 

 誰も届かない、深い海の底。身体がだんだん穴の中に沈んでいき、私は海の底へと誘われる。

 

手を伸ばすも、誰も掴むことはできない。やがて私の身体は深く沈み、そして……目覚めると荒れ果てた世界に居た。

 

 周囲を見渡すと、そこは廃墟となった街だった。高層ビル群が立ち並び、地面はアスファルトがひび割れて所々隆起している。空は灰色で、陽の届かない世界。

 

 そして、向こう側にシロコの後ろ姿が。

 

「シロコ!」

 

 私は彼女の名前を叫ぶが振り向かない。駆け寄っていき、彼女の肩を掴む。

 

「帰ろう」

 

 振り向いた彼女の顔はノイズだらけで詳細が分からない。そして片手には拳銃が握られており、銃口が私に向けられる。

 

「なんで……?」

 

 そして彼女は引き金を引く。弾丸は私に命中し、私の身体がボロボロと崩れていく。

 

 ノイズの隙間に、虚げな瞳が見えたような気がした。

 

 これが、夢の終わりだった。

 

――

 

 アリウスのある一夜の顛末である。

 

 ベアトリーチェは倒され、アリウス分校は奴の支配から解放された。だが身柄は別のゲマトリアに回収され、どうなったかは私達には分からない。せめて会わせてくれるのなら、蹴っ飛ばしてやりたかったが。

 

 アリウススクアッドは私の言葉通り、姿をくらませていた。なのだが、彼女らは三人と一人に分かれたのだという。いつの間にかサオリがスクアッドから離れ、自分探しをすると単独行動を始めた。そしてミサキに新しいリーダーの座を譲り、彼女に生きるための鎖が一つ繋げられた。

 

 彼女らは指名手配されて追われる身だ。でも、どうか生きて欲しい。

 

 私は今、救護騎士団の病院にて厳重に拘束されている。前に脱走した件もあってか、より拘束は厳しくなっているし、抜け出そうものならミネによる武力行使がきっと待っている。

 

 私が意識を失った後、トリニティが大挙してアリウス自治区に侵入し、あのカタコンベを突破して私とミカを保護してくれた。ナギサが根回しをしてくれたらしく、彼女は正義実現委員会、シスターフッド、救護騎士団に頭を下げて総動員でアリウス自治区に侵入したのだ。ミカのために、全てを捨てて。

 

 その時、セイアも回復しており彼女もまたアリウスに足を運んでいた。セイアとミカは言葉を交わし、ようやく和解した。どうやって回復したかというと、ある人物と狭間の中で出会い、取引をしたのだ。その取引の影響で彼女は予知夢の能力を失ってしまったが、それでも構わないと。

 

 最後にミカ。彼女は聴聞会に三人一緒に出席し、自分の口で話したと。勿論、ティーパーティーの資格は剥奪。謹慎処分が下された。でも退学は辛うじて免れた。

 

 綺麗なハッピーエンドじゃないのは、みんな知っている。補習授業部の一件から始まった大きなヒズミに関わった者の多くが、綺麗なままで終われる訳がない。ガタガタのティーパーティー、指名手配されているアリウススクアッドなど。まだ解決できてない問題もある。

 

 それでも、なんとか取り返しのつかない事態は避けられた。

 

 補習授業部と関わる前の自分を振り返ってみた。あの頃は、まだ純粋だった。だけど、その純粋さはいつの間にか失われていた。

 

 歪んだ憎しみ合いに目を背け、絶望した。

 

 いっぱい傷つき、いっぱい傷つけた。失われたものもたくさんあったし、壊れてしまったものもたくさんあった。

 

 私の肉体も心もボロボロだ。だけど、何かが生まれてくるものを心の中から感じとれる。なにか温かくて、優しいもの。

 

 病室のベッドで身体を起こして外を眺めていた。窓から見える景色は灰色で、無数の水滴が流れている。しばらくは止むことが無いだろう。

 

 それでも。

 

 包帯に巻かれた両腕をゆっくり持ち上げ、指一本ずつ、ゆっくりと折りたたんで組んでいく。親指、人差し指、中指、薬指、小指。

 

 組んだ両腕を額に当てて、目を瞑る。

 

 誰に対してでも無く、何に対してでも無く。

 

 雨上がりに生まれるもの、生まれ続けるもの全てに向けて、祈りを捧げた。




ラルク35周年ツアーが楽しみ。
次はセイアのお話です。
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