アビドスの6人目   作:____―--

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【ミカ】HONEY 2

 シャーレで仕事をしていたある日の事だった。スマホが着信音を鳴らして震え出すといつものように掴んで耳に近づける。すると聞こえてきたのは聞き覚えのない声であった。

 

『すみません、先生。正義実現委員会の仲正イチカというんですけど、今お時間大丈夫っすかね……? ちょっとミカ様の事でトラブルがありまして……』

 

「ミカが? どうしたの?」

 

 すぐに声色を変えて応対する。

 

『実は……。ミカ様が生徒に手を出してしまいまして……。正直どっちもどっちとしか言いようがないんですよね』

 

「……すぐトリニティに向かいます」

 

『本当ですか? 助かるっす!』

 

 通話を切るなり、すぐさま準備に取り掛かった。

 

――

 

 現場に着くとイチカが出迎えてくれた。

 

 彼女が言うどっちもどっちとは、陰湿な嫌がらせをしようとした生徒が居て、その子はミカの水着をめちゃくちゃに破いてゴミ箱に投げ捨てようとしたらしい。それでミカが怒って手を出してしまったのだそうだ。

 

 見事なトリニティ仕草だと心の中で皮肉りながら、私はその現場に足を踏み入れた。

 

「ミカの事は私が引き取っていい?」

 

「あー、頼んでいただけると助かるっす……」

 

「じゃあ任せておいて」

 

 そう言ってミカが居る反省部屋へと入っていく。

 

 中に入ると彼女は三角座りで顔を伏せていた。

 

「ミカ、大丈夫?」

 

「……うん」

 

いつもなら元気よく返事をするのだが、今日は弱々しい声で返ってきた。

 

「あはは……また、こんな風になっちゃった。ガッカリした? でも、知ってるもんね、私が不良生徒な事」

 

「何回もガッカリしてるけど、今更でしょ。それにミカが不良生徒だったらもっと制服着崩してギャルっぽい格好になってると思うし。要するに、またやっちゃったのかって呆れてるの」

 

「……見捨てないの?」

 

「当然でしょ。言ったことは変えないよ。……あーあ、ミカは我慢できる子だと思ってたのに」

 

わざとらしくため息をつくと、ミカは私の顔を見上げた。

 

「ごめんなさい……。でも、先生が買ってくれた水着だったから……」

 

「買ってあげたっけ? ああ、この前一緒に買い物行った時の……。でも、何も特別な水着では無いでしょ」

 

「ううん、先生に買ってもらったっていう思い出があるだけで嬉しかったんだもの。だから、その思い出を汚されたくなかったの」

 

「それでカッとなっちゃったんだね」

 

「……うん」

 

 私は彼女の隣に座って頭を撫でてあげる。すると、彼女は私の肩にもたれかかってきた。

 

「いじめてきた生徒が何を思ったのか分からないけど、手を出させたいからってあんな事をやったのだと思う。だからやった時点で、駆け引き的にはミカは負けてるんだよ」

 

「……でも、あの子達は『抵抗すらできない腰抜け』だって言ってた」

 

「え、やり返されること考えてなかったの? なんて腰抜……。ごほん」

 

 危ない危ない。つい口に出してしまいほうになる。ミカは手で口を抑えて笑いをこらえているようだった。

 

「ふふっ、先生もそんな事言うんだね」

 

「……とにかく、撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけって事! はい、あいつらのことは忘れる!」

 

「……うん。でも水着、どうしよう……。今日のプールの授業見学しちゃったし、この水着で泳ぎたかったんだけど……」

 

「そっか。……ミカは、私の『補習』受けてみる?」

 

「え、補習!? それってどういうこと?」

 

「休日、プールに行って私と一緒に泳ぐの」

 

「本当に!? ……あ、でも、お休みが潰れちゃうよ?」

 

「私の休日は様々な生徒によって潰されてるから今更だよ」

 

「わーお。でも、うん。行きたいな」

 

「じゃあ、水着を直しに行こうか」

 

 ミカを連れてトリニティの指定服売ってある店行く前に、イチカと状況の整理をすることにした。

 

 まず、ミカの水着を破いた生徒らは正義実現委員会に身柄を任せることに決まった。私の方からナギサの方にも報告お願いするように頼むと、快諾してくれた。

 

「ミカ様はどうでしたか?」

 

「私の方で叱っておいたよ」

 

「そうっすか。あのー、私が言うのも変ですけど、あんまりキツく言わないであげてくださいね。なんというか、私的にはあの人達の方がタチが悪い気がするんですけどね……」

 

「そこは大丈夫だよ。でも手を出すのはダメ」

 

「それはそうっすね。いやー、ミカ様は先生に任せて良かったですよ。先生ってやっぱり器用ですね」

 

「そんな事無いと思うけど。……ミカの事だったからかな」

 

「ふーん。まぁ、そういう事にしときますかね。さて、私はそろそろ仕事に戻りますのでこれで失礼しますね」

 

 イチカは私に一礼して離れていった。

 

――

 

 それからミカを連れてトリニティ指定の服屋へ。水着を直してくれないかお願いしたところ、すぐに対応してくれる事になった。

 

 修繕されたミカの水着は縫い跡が残るものの、普通に着る分には問題なさそうだ。

 

「直ってる……。ありがとうね、先生」

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うん!」

 

 ミカが元気よく返事をしたところで、私たち二人は学園から少し離れたプールへ向かった。

 

 ウォータースライダーとか流れるプールがある普通のプールだ。本当ならエーギルというウォーターパークに行きたかったが、まだオープンしてないらしい。

 

 更衣室ではラッシュガードを着けて、トリニティ指定の水着に着替えたミカと一緒にプールサイドへ向かうと既に人が多く集まっていた。

 

「じゃじゃーん☆ どうどう? 似合う? 学校指定の水着でもいいカンジ? ねえねえ?」

 

 すっかり元のテンションに戻ったミカがその場でくるりと回ってみせる。

 

「似合ってるよ。さ、体操しようか」

 

「えぇ~! もうちょっと褒めてくれてもいいんじゃない!?」

 

 そんな事を言っているうちに体操をやって、いよいよ泳ぐ時間になった。と言ってもミカは出来る子だから色んな泳ぎ方を既にマスターしてた。

 

「ミカ! そんなに遠くに行っちゃダメだよ!」

 

「大丈夫だって! ほら先生も歩かないで泳いでこっちおいでー!」

 

 そう言いながらどんどん遠ざかっていくミカを私は追いかけていった。

 

 だけど、突然水深が身長よりも深くなった場所に差し掛かった時だった。

 

 足が底に付かない感覚に恐怖をおぼえたのか、私がパニックになってバタバタと暴れ始めたのだ。

 

「ごぽぽっ!?げほっ! あばばば……ッ!!」

 

「ちょ、ちょっと待って! 落ち着いて! 私が助けにいくから!」

 

 溺れかけている私を助けようとミカがこっちにやって来て私の身体を掴んで近くのプールサイドまで運んでくれた。

 

「けほっ……ありがとね、ミカ」

 

「ううん、いいんだよ。先生ってもしかしてカナヅチ?」

 

「……うん。そもそも泳いだ経験すら無いの……」

 

「ふーん……。そうだ! 私が先生に泳ぎを教えてあげる! 立場逆転だね♪」

 

「ええ……。でも教えてくれるならお願いしようかな……」

 

 こうしてミカによる水泳教室が始まった。まずはビート板を使ってバタ足の練習をする事になったんだけど、これがまた上手くいかない。

 

「先生、身体は真っ直ぐじゃないと沈んじゃうよ!」

 

「でも怖いって! ってあばばばば!!」

 

「ほら、頑張って!」

 

 結局30分くらい練習したけど、水面に浮かび上がれるくらいが限界で泳げるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだった。

 

「一旦休憩しよっか!」

 

「そうだね……」

 

 ミカが離れていって、近くのベンチに座って休憩していると、見知らぬ人に話しかけられた。

 

「先生だろ!? あたし達に泳ぎ方を教えてくれないか!?」

 

 こんな場所でもヘルメット団が居るのかと困惑してしまう。

 

「泳ごうとするとメットの中に水が入って毎回溺れそうになるんだよ〜。どうにかしてくれよ先生〜!」

 

 ヘルメットを外せばいいと言おうとするのを抑え込んで、私は笑顔を作ってこう言った。

 

「申し訳ないけど、私カナヅチで……教える事は出来ないんだよね〜」

 

 すると、遠くから声が。

 

「私の先生に何してるのかな……?」

 

 作り笑顔を浮かべながらこっちへ向かってくるミカが居た。傍から見れば私は見知らぬ生徒にナンパされているという構図に見えているだろう。

 

「げえっ! 聖園ミカ!! トリニティ総合学園の派閥で、武闘派と言われるパテル分派の元首長にしてあの剣先ツルギと並ぶ実力を持つと言われている暴の化身!!」

 

「あんなピンク・ブロッ〇・レスナーとあたし達が戦ったってかないっこない!逃げるぞお前ら!」

 

そう言って逃げていくヘルメット団の人達。

 

「博識なんだね〜……」

 

 そんな逃げる彼女らの後ろ姿を眺めながら私は呟く。

 

「先生大丈夫? 何もされてない?」

 

「何もされてないというか、単に泳ぎ方教えて欲しいって言われただけで……」

 

「そっか……。でももし何かあったらすぐ呼んでね。先生は私が守るから」

 

「その程度なら別に良いけど……」

 

「ダメだよ。先生には指一本触れさせないよ。さて、じゃあ泳ごっか。まずはバタ足の練習からだね」

 

「うん……」

 

こうしてミカにまた泳ぎ方について指導してもらっていった。

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