アビドスの6人目   作:____―--

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Arisu in Wonder Underground 2

 アリスの冒険は引き続き続く。行く先々で色々な生徒と会い、可愛がられたりちょっとしたクエストを頼まれる。そしてゲームセンター近くを通った時、特徴的な声が後ろから耳に入った。

 

「見つけた、チビ」

 

 振り返るとネルが不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

「や、野生のチビメイド様が現れました!」

 

「誰が野生のチビだ!?」

 

 アリスが純真無垢な暴言に思わず背の小さい最強エージェントが怒りを露にする。

 

「あ、ネル。どうしたの?」

 

「あのチビにリベンジしに来たのさ。今度は負けねえからな」

 

「ゲームで、だよね?」

 

 恐る恐る聞くと、ネルは頷く。

 

「当たり前だろ、借りていいか?」

 

「うん、しばらく面倒お願いね。私は右足の調子診てもらうから」

 

 ネルの頼みに頷くと、ネルが私より先にアリスの元へ向かう。

 

「うわぁぁあん!? アリス、チビメイド様に捕獲されてしまいました!」

 

「大丈夫だよ、強制バトル程度だし」

 

「んなことよりチビはやめろよ! チビは!」

 

 アリスをゲーセンに引っ張ろうとするネルを横目に、私はエンジニア部のところへ足を運ぶのだった。

 

――

 

 調印式にて受けた大口径の弾丸は右足の様々な部分を破壊した。筋肉、骨、神経など……。最初は歩行すら困難で、鎮痛剤なしでは痛みで夜も寝れない日々が続いた。でもさすがキヴォトスの医療技術というべきか、少しずつ元の身体に回復していった。その過程で助けになったのはエンジニア部が作ってくれた名前のない外骨格アシストスーツだ。これのおかげで右足の負担を最小限にしながら歩くことが可能になったし、走ることだってできる。

 

 最初はサイズが大きくて邪魔になったりかさばることも多々あったが、ウタハ達が何度も改良をしてくれたおかげで、今はストッキングの見た目をしながらアシストスーツの機能も内蔵したファッション性も携帯性も両立する見事な一品に仕上がった。モモイ達には申し訳ないが次のミレニアムプライズは彼女達エンジニア部ではと思うほど素晴らしい出来だ。

 

 エンジニア部の作業室前に立ち、インターホンを鳴らしてみる。

 

「ウタハ居る? 定期メンテナンスをお願いしたいんだけど」

 

「やあ、先生。もちろん良いとも。入ってくれ」

 

 許可が下りるとスライドドアが自動で開き、中に入るとコトリにヒビキも作業中であった。

 

「こんにちは、コトリにヒビキも」

 

「やほ」

 

「こんにちは先生!」

 

 指示されずとも最新機器が備え付けられたゴツゴツした椅子に腰掛けると、ウタハはキャスター付きの椅子を動かしてコンピューターを私の足に近づける。

 

「しばらくの間は何か異常とかあったかい?」

 

「今の所、噛み合わせが悪い感覚は無かったよ。どう、調子悪そう?」

 

「それは診てみないとわからないね。背もたれを動かすよ」

 

 モーター音が静かに鳴り、背もたれがゆっくりと動く。身体が仰向けのような姿勢にされ、天井へ向けられた。

 

「"フェザーステップ"を脱がせるよ」

 

 ウタハはストッキングを脱がせる。アシストスーツの名前はフェザーステップという名前で決まっており、ゲームの魔法の名前から取っている。他の候補としては、祈りと走りを込めて"プレイングラン"というアイデアも出していたが、結局、フェザーステップに決定した。

 

 ウタハはアシストスーツをチェックしながら「うん」と頷く。

 

「……エンジニア部のこと誤解していたかも」

 

 真剣なウタハの表情を伺いながら、私は呟く。

 

「どういうことかな?」

 

「普段は変な方向に実用性が行きがちというか、Bluetooth機能や自爆機能とか付けてくるし、たまに本当に大丈夫なの? ってなるけど……。でも、この外骨格アシストスーツは本当に使ってて楽だし、私の身体の負担を最小限に抑えてくれるから。……本当にありがとう」

 

「それは何よりだよ。……このアシストスーツを開発するのは私達にとって最優先事項だったからね。先生が最初に助けを求めてきたときの事をおぼえているかい」

 

「覚えてるよ、凄い騒ぎだったのは」

 

 冷たい椅子の上で目を閉じながら、私はあの時の事を思い出す。車椅子姿でミレニアムを訪れただけで大騒ぎになり、すぐにユウカとノアが駆けつけて事情を聞かれ、冷静さを失ったユウカがC&Cを動かそうとし、ノアがそれを冷静に諭す。ゲーム開発部は変わり果てた私の姿に涙ぐむし、ヴェリタスではチヒロにすごい心配され、コタマがシャーレに真剣に盗聴器を設置することを議論されたし。何度でも、シャーレの先生という立場の重さを実感する。

 

 ウタハも思い出したように頷く。

 

「右足の銃創を見たとき、思わず言葉を失ったよ。君の話によると命の危険があったと言われたからね」

 

「うん……。医者も初期段階ではアシストスーツ着けることすら反対するレベルだったよ。でも、このアシストスーツのおかげで私はこうして生きているし、歩けるようになった」

 

 それからしばらくの会話はなかった。キーボードの音、コトリとヒビキが何かを開発しようと工具をいじる音、そして私の身体に取り付けられた外骨格アシストスーツのモーター音が静かに響いていた。

 

「先生、そろそろいいかな」

 

ウタハはそう言うと、フェザーステップを元通りに装着する。

 

「ありがとう、また何かわからないことがあったら来るね」

 

「ああ、いつでも歓迎するよ」

 

 椅子から立ち上がり、右足の感覚を確認。違和感は何ひとつない。

 

「先生、お大事に!」

 

コトリが笑顔で送り出してくれる。ヒビキも手を振ってくれたので私も手を振り返す。

 

そして私は作業室を後にし、エンジニア部の部室から出て行くのだった。

 

――

 

 ある日、ヴェリタスに呼び出されて彼女達の部室に向かった。何やら妙な機械を見つけたらしいと。ゲーム開発部のみんなも呼んで盛大な野次馬っぽい感じのことをしよう、と。

 

「あ、先生も見にきたんだ!」

 

 部室前の廊下でモモイ達に出会う。

 

「ヴェリタスに呼び出されてね」

 

「そっか、私も何かアイデアになるかもしれないと思って」

 

 モモイはそういいながら部室の扉を開けると、まず目に入ったのが奇妙な機械が複数体。発見された場所はミレニアム郊外で、聞く限りミレニアムでこんなドローンを作り出した人はいないそう。球体型の機械に垂れ下がる複数のケーブルが触手のような不気味さを醸し出している。ヴェリタスのコタマ、ハレ、マキの三人組がどうにかして解析できないかと様々な手段を試していたがわからないので私が呼ばれたらしい。

 

「ううん、この機械はわからないね」

 

 首を横に振りながら返すとみんなは腕を組んでうんうんと唸る。チヒロかヒマリに頼ってみるか。

 

 横目でアリスの様子を見てみると、彼女は機械の方をじっと眺めていた。そしてゆっくり近づいて、その機械に手を触れる。

 

「アリス、この機械を知っています……」

 

 そう呟いた瞬間、機械が突如紫色の光を放ち起動する。浮遊して、全ての機械が私の方に向いた。

 

 アリスの様子が変だ。起動してから彼女が微動だにしない。私は後ろから彼女の肩に触れながら声をかける。

 

「アリス、どうしたの? 大丈夫?」

 

 機械に触れてから目を閉じていたアリスはゆっくり目を開けながら、こちらを見る。しかしその目はブルーではなく、不気味なパープルへと変わっていた。

 

「……起動開始。……コードネーム『AL-1S』起動完了。プロトコルATRAHASISを実行します。まず最優先排除目標として『ア……………ト』を殲滅します」

 

「……っ!?」

 

 とっさに遮蔽物へ飛び込むと同時に凄まじい爆発音が響いた。アリスが光の剣を発射し、部室をめちゃくちゃにしたのだ。

 

「せ、先生!!」

 

 マキが慌てて近寄ってくる。

 

「マキ、ヴェリタスにゲーム開発部のみんなは正体不明の機械の破壊に集中! アリスの攻撃に最大限の警戒を!」「わ、わかった!」

 

 マキがみんなを誘導し、ゲーム開発部とヴェリタスは戦闘態勢に入る。その時、光の剣のチャージ音が再び鳴り、私は慌てて次の遮蔽物に隠れる。その瞬間、前居た遮蔽物は粉々に吹き飛んだ。アリスが持つ光の剣、宇宙戦艦に載せる想定の大型レールガンの矛先は私の方に向いていたのだ。今のアリスのヘイトは私に完全に向いている。

 

「アロナ、あのレールガンを耐えることは可能?」

 

「一発程度ならなんとか……。でも、連射されたら……」

 

「わかった」

 

 好転するかもわからない。だが、時間さえ稼げれば騒ぎを聞きつけた誰かの救援が来るかもしれない。私とアリスの対決が幕を開けた。

 

「アリス、目を覚まして!」

 

 私は遮蔽物から飛び出して光の剣の射線を予測しながら回避する。しかし、私の動きに反応し、光の剣が向きを変える。攻撃は仕掛けられない以上、防戦一方だ。

 

 隠れられる場所が一つずつ潰され、やがて逃げ場をなくしていく。

 

「アリス、聞こえているなら攻撃を止めて!」

 

 もう後がなくなり、遮蔽物もなくなった。光の剣は私に狙いを定め、発射される。レールガンは被弾コースだったがアロナが展開したバリアで防がれた。しかし、そのバリアもだんだんと耐えきれなくなっているのかヒビが入り始めた。

 

「アロナ、もっと耐えて! お願いだから!」

 

「ごめんなさい、先生。なんだかもう眠くて……」

 

「アロナ!」

 

 バリアは砕け散り、私は弱体化されたレールガンの威力に身を宙に舞わせた。

 

落下の衝撃で床に叩きつけられ、私は思わず呻いたが痛みを我慢してすぐに立ち上がる。シッテムの箱はスリープモードに。次被弾したら、身がえぐれるほどの被害は避けられないだろう。

 

 最後に残ったのは最悪の選択肢だけ。ポケットに入ったアセンションを掴み取り出すと今まで言われた言葉を思い出させる。

 

『もう使わないでね。きっと良くないものだと思うから』

 

『多くて残り数回でしょう。それ以上は虚無の力があなたを蝕み、やがて"再反転"が完遂するでしょう』

 

 いま使って、私が私じゃなくなったらどうする。でも、使わないでこのまま死ぬのは嫌だ。まだ誰かが助けにくる気配も感じない。

 

 再反転? そのリスク意味がわからないが、今はそれに賭けるしかない。私はアセンションを高く掲げ、首筋に目をつむって打ち込んだ。意識の混濁。そして私のヘイローが一時的に修復された。

 

 だが、以前よりも自分の身体のコントロールが効かない。おそらく私の中にある虚無が今まで以上に肥大化しており、制御が効かなくなっている。黒服からもらった抑制剤を欠かさず飲んできたが、もしかしたらもう抑制が効かなくなっているのかもしれない。

 

「……まったく、司祭もお粗末なものを寄越してきたものだ」

 

 私の言葉ではないものを口から発しながら、手を光の剣に向けて掲げ、力を込める。そして発射された追撃の弾は超現実的な力によって私の身体を避けるように逸され、背後の壁が砕ける。

 

 そのまま自分の身体を浮遊させ、跡地と化したそこら辺から飛び出すと、散らばった瓦礫を浮遊させ、アリスに向けて投げつける。だがアリスは動じない。

 

 どうして身体がいうことを効かないのか。アリスを傷つけたいわけじゃないのに。私の中にある色彩のようなものが冷徹に私の身体を動かしている。

 

 本気で排除しようとするアリスが何度も撃ってくる光の剣は、私の前で弾けて衝撃波を周囲にまき散らす。

 

「先生……!? どうして空に浮いて……」

 

 戦っているミドリが私を見つけて驚く。違うんだミドリ、今の私は私じゃないんだ。

 

『先生! あの変な機械倒したから、私もアリスを止めるよ!』

 

 モモイの通信が入っても返答する余裕はない。光の剣の弾がまた飛んでくると手かざすだけで動きが止まる。そして向きを真反対に変え、アリスに向けて跳ね返し、彼女は避けていく。

 

 するとアリスに向けて横槍が飛んでくる。マキにモモイたちだ。彼女らはアリスを止めようと攻撃するが、今度はアリスの注意が彼女らに向けられ、光の剣が彼女らに向く。

 

 生徒たちが危ない。早く身体動けるようになれと必死に願う。アリスを生徒たちを傷つけさせるわけにはいかない。

 

 アリスの光の剣がモモイに向けられ、チャージが始まる。動け、動けと虚無から身体の制御権を奪おうとするが、こちらが制御する前にアリスの手から光の剣が発射される。

 

 その瞬間だった、私は咄嗟にモモイの前に立っていた。

 

「せ、先生っ!?」

 

 モモイの驚愕する声が耳に入り、自分の身体が光に飲み込まれて焼けていくような感覚が。視覚も聴覚も、五感全てがしばらくの間シャットアウトされる。

 

 そして気づいたときには、私の身体は瓦礫の上に横たわっていた。目の前には涙目のモモイとミドリが私を見つめていた。

 

「先生、しっかりして! 先生!」

 

「ミドリ、モモイ……。大丈夫だった?」

 

「私は大丈夫ですけど、先生が……!」

 

 身体が動かない。まもなく意識が途切れていく中、真っ赤な手をモモイの頰に当てる。

 

「ねえ、モモイ。アリスは……アリス、だよね?」

 

「うん! アリスはアリスだよ! 傷つけたくてやったはずじゃないもん!」

 

モモイは泣きながら私に抱きつく。ミドリも目に涙を溜めて私を見ていた。

 

「……よかった」

 

 私はそう呟き、意識を失った。

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