アビドスの6人目   作:____―--

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Arisu in Wonder Underground 3

 前世界線の夢を見ていた。

 

 夕暮れのアビドス高等学校の教室、辺りには誰もいなくて、窓から差し込むオレンジライトが教室に舞う埃を白く照らし出す。夕暮れという、昼と夜の狭間の世界。

 

 バッグを背負って教室を出ようとしたところで、小さな鳴き声が私を引き留めた。

 

「ペロ……ペロォ……」

 

 私の足元サイズしかないペロロが私の足に縋り付くように鳴いていた。今まで夢の中で敵対してきたペロロが、今は止めんとばかりに必死に鳴いている。

 

 先生の時は巨大化してビームを撃ってきて、セリカと一緒に居た時は群れを組んで襲ってきて、アヤネと一緒に居たときは私を持ち上げて海に落としたりしてたのに、今は私を襲うわけでも攻撃するわけでもなく、ただ必死に鳴いていた。

 

 ……ようやくわかったような気がした。この子は私を止めたかったんだ。私が夢の世界の中に飲み込まれないように、私を襲うことで現実世界へ引き戻そうとしていたんだ。でも虚無が私を蝕み戻れないところまで来てしまった。

 

「……ごめん、気づけなくて」

 

 目を背けて小さく呟いた。そのとき廊下から足音が聞こえてきて、『___ちゃーん、どこに居ますか? 一緒に買い物に行きますよー?』とノノミが私を探す声が。

 

「今行くよ」

 

 そう返事をしたとき、ペロロは小銭ポーチになって足元に転がっていた。私は小銭ポーチをバッグにしまい、教室を出ると、ノノミが私を見つけて駆けてきた。

 

「あ、見つけましたー☆」

 

「ごめん、忘れ物しちゃって。行こうか」

 

「はい!」

 

 静かな廊下を歩き、学校の駐車場に停めてあるボロボロのピックアップトラックに向かう。乗り込む前に私が運転席、助手席を掃除して、ティッシュ箱やバーガーの紙袋などをまとめてゴミ袋に放り投げ、合図したところでノノミがそこに座る。

 

「ごめんね、いつも汚くて。あんまり人を乗せることがないからさ」

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。それに___ちゃんらしいというか」

 

「そう。いつもの大きいスーパーでいいよね?」

 

「はい、お願いします!」

 

 私はエンジンをかけて、ノノミは助手席でシートベルトを締めた。

 

 学校を出発して、大きめの道路をしばらく走っていく。カーラジオに入れたカセットが音楽を垂れ流して、ノノミが鼻歌を歌っている。

 

「___ちゃん、最近は大丈夫ですか?」

 

「うん、ノノミのお陰で」

 

「そうですか。ちょっと前、シロコちゃんのことで相談をされたので、ちょっと心配だったんです。バイトにシロコちゃんの面倒を見るので、本当に大変そうだったので」

 

 ノノミはそう言いながらハンドルを切る私の顔を見る。

 

「大変だから、ときどきノノミに助けてもらってるじゃん。代わりに面倒見てもらったり」

 

「はい! でも、シロコちゃんだけじゃなくて___ちゃんも心配ですよ」

 

「ダメな時はダメって言うから、まだ大丈夫。シロコも力で価値観決めるような感じじゃなくなって来てるし。……この前の時は本当にヤバかったから」

 

「___ちゃん、ずっと泣いてアビドスの保健室に篭ってましたね。でも、もう大丈夫そうで良かったです」

 

「うん。またお願いするから」

 

 ノノミは笑顔で頷いた。

 

「はい! シロコちゃんのこと、よろしくお願いしますね!」

 

「もちろん」

 

 そんな会話をしているうちにスーパーに到着した。このスーパーはそこらのスーパーよりも大きいというか、品物も豊富だ。一人では確実に消費しきれないサイズばかりで、みんなでバーベキューするとなったら買いに行くような商品がごろごろ並んでいる。

 

 私は会員証を端末にかざし、ノノミはカートに動かして店内を回る。

 

「弾薬、箱買いしておくね。ノノミは何箱欲しい?」

 

「どうしましょうか。両手の指あれば足りると思うんですけど」

 

「予算に余裕あるし十箱持ってくるね」

 

 カートから離れて、荷台に弾薬箱を積んで、ノノミのカートに載せる。

 

「これだけでいっぱいになりそうだね。ノノミ、大丈夫?」

 

「大丈夫です☆ ダンベルでいっぱいトレーニングしているのでまかせてください!」

 

「うん、頼むね。……でも、あまり無理はし過ぎないように」

 

 次に食品コーナーへ立ち寄る。

 

「そうだ☆ 今日は調理実習室を借りて六人で夕食にしましょう! 六人で集まれる機会はあんまりないですし」

 

ノノミの提案に私は少し考えてから頷いた。

 

「そうだね、主に私のせいだけど……。なら、海鮮ものも買って行こうか。あとはあらびき100%ハンバーグも。……高いけど、食べてくれるし」

 

「はーい☆」

 

 ノノミはカートを押しながら食品コーナーを巡り、食材をカゴの中に入れていく。冷凍ミックスベジタブルに揚げる用のポテト、スープ作るための缶詰、大容量のアイスクリーム、帰りにノノミとこっそり食べる用のアイスチョコバー。

 

「別にたくさん作ってもいいかな。別の日に作り余ったっておじさん先輩に差し入れすればいいし」

 

「はい。ホシノ先輩夜も動き回りますから。それにシロコちゃんやセリカちゃんも、よく食べるので」

 

「そうだね。……でもノノミも結構食べるじゃん」

 

「あ、バレました? 最近ちょっと体重が増えてしまって……」

 

「大丈夫。ノノミならしっかり筋肉になるから、少しくらい太っても問題ないよ」

 

「もう、___ちゃんはデリカシーがないですね。女の子にとって体重は一大事ですよ」

 

「ごめんごめん。なら、自制だね」

 

「はい! あとトレーニングの回数を増やそうかなと☆」

 

 そんな会話を交わしながら買い物を進めていく。レジで精算を済ませた後はフードコートでチョコアイスを二人で食べてシロコに関する雑談をしていく。

 

「でも、シロコちゃん。以前と比べて___ちゃんに対して素直になってきましたよね」

 

「うん。おじさん先輩の教育が効いたのかも」

 

「それもそうですけど、___ちゃんがしっかり向き合おうとしたからだと思いますよ。変な言い方ですけど、なついているような、そんな感じです」

 

 溶ける前にアイスバーを一気に食べる。外側はチョコでコーティングされているが、中には美味しいバニラがたっぷり入っている。

 

「そうかな」

 

「そうですよ☆ ___ちゃんが居ない時なんて、耳がしゅんとしたり、しょんぼりしてたりしてますから」

 

「そっか。……バイトのしすぎもよくないかも」

 

 なぜか、シロコの話をするたびに胸がずきずきと痛むような、そんな感覚をおぼえた。

 

「___ちゃん?」

 

「ん? どうしたの」

 

ノノミが私の顔を覗き込んでいた。私は慌ててアイスバーを食べきってゴミ箱に捨てる。

 

「いえ……、なんだか少し辛そうにしていたので……」

 

「……ううん、大丈夫」

 

そう答えると、ノノミはそれ以上何も言わなかった。

 

買い物を終えてスーパーを出ると、外は既に日も落ちていて、夜になっていた。

 

「あ、もうこんな時間ですね。早く帰らないと、みんな校舎の中で待っていますね」

 

「そうだね。早めに帰ろうか」

 

 ノノミがカートを動かし、自慢の力で買ったものをピックアップトラックの荷台に積み込む。胸の痛みが癒えないまま、私は向こう側にいるノノミに声を飛ばす。

 

「ノノミ」

 

 彼女は手を止めて、こちらに振り向いた。

 

「……どうしたんですか、___ちゃん?」

 

「私も……ノノミ達のところへ行きたいよ」

 

 ぽつりと呟いた。

 

「え?」

 

 ノノミは目を丸くしながら、私を見る。でもすぐに目を変えて、穏やかそうな微笑みを私に向けた。

 

「まだダメですよ。……シロコちゃんが居ますから」

 

「でも私は……!」

 

 彼女はゆっくり首を横に振る。

 

「きっとあの子もどこかで___ちゃんのことを待っているはずです。ですから、しっかり向き合ってあげてください」

 

「ノノミ!」

 

 私は走り出した。ノノミのところへ向かおうとするも見えない壁が拒んできて、彼女が、世界が少しずつ遠くなる。

 

「ノノミ! ホシノ先輩! アヤネ! セリカ!」

 

 叫んでも届かない。意識が遠のく中、最後に見えたものはノノミが笑顔で手を振っている姿だった。

 

――

 

 目を覚ますとそこは白い天井が見えた。薬品の匂いと私の腕に繋がっている点滴、周囲の雰囲気からして保健室だろうか。横を見ると、ノアが椅子に座りながら私の様子を見守っていた。

 

「先生! 目覚めたのですね。良かったです……」

 

 彼女は安心したように息を吐いた。

 

「ノア……? なんでここに……」

 

「記憶にないのでしょうか? ……どこまで覚えているか、言うことはできますか?」

 

 ノアの質問。十秒ほど唸ってようやく最後の記憶を手繰り寄せる。

 

「……最後に覚えているのは、私がモモイを庇ったところかな」

 

「はい、その通りです。……先生はモモイちゃんを庇ってダメージを負い、一週間ほど目を覚ましませんでした。その間に様々なことが起きました。時系列順に話していこうと思いますが、大丈夫ですか?」

 

 ノアはそう言いながら手帳を開いた。

 

「うん、お願い」

 

 ノアは頷き、手帳を開きながらゆっくりと語り始めた。

 

 私が倒れた直後、C&Cが事態の収拾のため介入。その時、アリスが何者かに乗っ取られていた状態は解除され、彼女は意識を取り戻した。

 

 二日後、アリスは自分がした事の重大さを理解しており、そのショックでゲーム開発部の部室に篭りっきりになってしまった。そこにセミナー会長、調月リオ。ミレニアムサイエンススクールのトップが現れ、アリスの真実について語り始めた。

 

 アリスは『魔王』だと。AL-1SはDivi:Sionの指揮官であり、名もなき神々の王女であると。リオはアリスがキヴォトスの安全に害をもたらす存在であると持論を語り、彼女のヘイローを破壊するべきと訴えた。モモイ、ミドリはアリスのヘイロー破壊に反対し、リオは武力で強引にアリスを誘拐しようとする。そこにネルがリオからの命令に反意を示すが、もう一人いたC&Cのトキがネルを倒した。結局、アリスはリオの手によって誘拐されたのだった。

 

 アリスが誘拐された先はエリドゥという、未来やってくる終焉のためにリオほぼ一人で建てられた都市。なお、資金源はコユキの横領に紛れて彼女も横領したらしい。横領で都市を建てるということにクエスチョンマークがずっと浮かんでいたのだが、リオはとんでもなく凄腕とのことらしいので、その手腕が恐ろしい。

 

 その後、モモイ達、ゲーム開発部、ヴェリタスにエンジニア部、ユウカとノア、C&Cらで連合が組まれ、エリドゥに潜入、アリス救出作戦を決行しようとする手前の段階まで来ていた。

 

「そっか。……みんな、アリスの事を信じていたんだ」

 

「そうですね。……先生。ユウカちゃん、そして私からお願いがあります」

 

ノアは声色を変え、真剣な眼差しを私に向けた。

 

「今回の救出作戦は、先生不参加で療養をお願いいたします」

 

「え?」

 

私は彼女の言葉に驚いてしまう。ノアは話を続ける。

 

「先生は……無茶しすぎです。ユウカちゃんは凄い心配していましたし、先生が倒れた時の取り乱しようは見てて辛かったです」

 

「でも、私は……」

 

ノアは首を横に振る。

 

「……先生、今回は私たちだけで大丈夫です。先生は安心して、ゆっくり休んでいてください。私たちが必ずアリスちゃんを連れて帰りますから」

 

ノアはそう言うと、椅子から立ち上がり、病室を後にしてしまった。私は彼女の背中を追うことができずにベッドの上で横になりながら天井を見つめていた。

 

ノアは私を気遣ってくれたのだろう。ユウカはきっと私の事を大事にしているから、倒れた時なんか胸が張り裂けるぐらい辛かったはず。だからこの場所に留めておくことを優先した。でも、それでもアリスの事が心配で、そばに居たかった。動けるなら私だってエリドゥに行きたかった。

 

はぁとため息を吐いて、また枕に顔を沈める。

 

ノアの言う通り、今は休んでアリスの無事を祈ることしかできないと思い私は目を瞑った。

 

――

 

保健室の夜、突如意識が覚醒して、私は目を覚ました。静寂の中に誰かの気配を察知したからだ。誰かがこの部屋にいる。私は目をこすりながら身体を起こすと、目の前にメイド服を着けた生徒が居た。手にはスタンガンが握られている。

 

「……どちら様?」

 

私は思わずそう聞いてしまった。しかし彼女は名乗らない。メイド服ということはC&Cのメンバーだが、ネル、アカネ、アスナ、カリンでもない。となれば、彼女がトキなのだろうか。

 

「……今から先生を拘束させていただきます。リオ様の指示なので」

 

彼女は淡々とそう答えスタンガンをこちらに向けた。でも私は乾いた笑いしか出なかった。

 

「あはは……。私は桃のお姫様なのかな。何回も捕まって……っ!!?」

 

突然スタンガンが私に向かって放たれた。電撃が身体を走り、気絶していく。スタンガンは、私の意識を奪うのに十分すぎるほどの威力だった。

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