アビドスの6人目   作:____―--

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Arisu in Wonder Underground 5

「先生!!」

 

 ユウカとノアが部屋に入った瞬間、私の姿を確認して、二人はほっとした様子を見せた。そしてユウカはすぐさま抱きついてきた。

 

「良かったです。本当に……!」

 

「心配かけてごめんね、ユウカ」

 

私は彼女の頭を優しく撫でると、ノアは私に対して一礼する。

 

「ご無事で何よりです、先生」

 

「ノアもありがとう。……急ごう」

 

「先生!? 一体どこに……」

 

 手錠を解除してもらい、拳銃を受け取ったら地下隔離施設から走って駆け上がっていき、二人が私の後ろを追いかけてくる。

 

「アリスとリオの所に行く! 現在の戦況は!?」

 

「はい! 現在C&Cとゲーム開発部がパワードスーツを装着したトキさんと交戦中です!」

 

 その直後、タワーから大きな爆発音が響いてきた。

 

『よお、あいつなら倒しておいたぞ。あたしは少し休む』

 

 二人の通信機からネルの声が。どうやらゲーム開発部とC&Cが無事にトキを打倒したようだ。

 

「戦局は終盤みたいだね」

 

 私はそう呟きながら地上へ出ていくと、武装した変な顔のロボットを修理中のエンジニア部が目に入る。

 

「先生! 無事で何よりです!」とコトリが。

 

「私は大丈夫だよ。今からタワーに向かう!」

 

「なら、これが使えそうだね」

 

 ウタハが何らかのリモコンを操作すると、夜空を駆ける一つの流れ星がこちらへと接近してきた。

 

「これは試作段階の空飛ぶバイクだよ。まだ開発途中でコントロールが不安定だけどね」

 

 バイクのフォルムは曲線的ながらところどころごっつめ。スポーツモデルのようなフォルムだ。

 

「ウタハ。……見た目だけで最高だってわかるよ。ありがとう。自爆機能、Bluetooth機能は?」

 

「勿論搭載してるよ」

 

「パーフェクト!」

 

 ヒビキからゴーグルを受け取るとユウカが止めてくる。

 

「もうやめてください、先生! これ以上あなたが傷つくことなんて……!」

 

ユウカの目には涙が浮かんでいた。でもまっすぐに私は見つめてこう返す。

 

「行かせて。アリスが死ぬかもしれない事態だし、リオとも直接話さなきゃいけない」

 

「でも……先生だっていつ死んだっておかしくないんですよ! ……私は、先生をもう失いたくありません! 最初に出会った時もヘイローが無いのに前線へ出て! 一人でちゃんと生活を送ることだって出来ずに! 私の言葉を無視してミレニアムタワー高層から飛び降りて! 私が見てない間に車椅子に縛り付けられるような大怪我をして! 私に黙ってまた大きな事件に巻き込まれて、モモイを庇ってまた大怪我して治ったと思ったら会長に誘拐されて! もう……やめてください……! お願いだから……もう、私の前からいなくならないで下さい……!」

 

 ユウカは泣きながら訴えかける。私はしゃがんで彼女の手を取り、真剣な表情で語りかける。

 

「ユウカ。人はいつか死ぬ。私もどうやっても死ぬ。でも、逃げたくないんだ。……先生には先生にしかない役割がある。でもそれは誰かがやるべきってことじゃなくて、私がやるべきことなんだ」

 

「でも……! でも……!」

 

「これはたった一人の生徒をかけた単なる大騒ぎなのかもしれない。でも、もしキヴォトスの全てがかかっている事態なら。一人の命で助けられるなら喜んで私は命をかけるよ。私は『殉教者』だから。……だから、ユウカは今すぐにでも備えて欲しい。私が居ない世界でも不自由なく生きていけるように」

 

 彼女の手を握る力が強くなる。

 

「先生……。ユウカちゃんにその言葉はあまりに残酷過ぎます……」

 

「嘘はつきたくなかった。大丈夫なんてもう私は言うことは出来ない」

 

 最低な言葉にとうとうユウカは泣き崩れ、ノアが彼女の背中に手を置いて慰める。

 

「……先生、行ってください。ユウカちゃんは私が」

 

「お願い。……嫌な予感がするから二人は建物の中なり安全な場所にいて。あとはヴェリタスと連携してエリドゥの電源をハックする準備を」

 

 ゴーグルを装着したらバイクに跨ってエンジンを起動させる。そしてユウカとノア、エンジニア部のみんなに片手であいさつしたら、フルスロットルで夜の都市を疾走する。

 

 コントロールは確かにじゃじゃ馬で、高速できりもみ回転しながら加速していくが必死に三半規管を制御し、遠心分離機が如くのGにも耐えながらタワー最上階へと一直線に。正常に着陸できるコントロールではなかったので、機を計らってハンドルから手を離し、機体ごと窓ガラスを破ってタワー内へと侵入した。

 

 侵入したら壁に全身を叩きつけられるも、すぐに立ち上がってよろめきながらタワーの最上階へ上っていく。

 

「いたた、本当に最高だね……」

 

 そして最上階の床へ足をつけると、そこにはゲーム開発部とリオが対峙していた。

 

「会長、まだ戦うつもり!?」

 

 モモイが一歩前に出ると、リオは嘆息しながら答える。

 

「いいえ。トキが倒れた時点で私が持っている手札はすべて消えた。認めましょう。私の負けよ」

 

「間に合ったかな……」

 

 様子を眺めていた私がようやく口を開くと視線が集まる。

 

「先生……! 無事だったんですね!」

 

 ミドリは私の元に駆け寄ってきて、私は彼女の頭を優しくなでる。

 

「うん、なんとかね。ゲーム開発部はアリスのところに行っておいで。……リオは私が引き受ける」

 

 ゲーム開発部のみんなはアリスの元へ向かっていき、空間の中には私とリオだけが残る。

 

「……理解できないわ。なぜキヴォトスに終焉を招くのにそこまでして抗うのかしら」

 

 リオはそう問いかける。私は目を閉じながら深呼吸して、最初の頃を思い返した。色彩と名乗る存在と契約を交わす前に見せられたビジョンを。今振り返るとどう言う意味なのかよくわかる。ヒナが撃たれて死ぬ、ミカが誰かを殺め、返り血を浴びる、セイアが病床の上で途切れる、RABBIT小隊が崩壊する、サオリが生贄にされる、浴槽の中でミサキがそういう選択をする、そしてアリスがプロトコルATRAHASISを完遂する、そんなバッドエンドの未来だったと。

 

 でもそんな未来は回避されているはずだ。奴の言うことを信じたらに限るが。今はそれに賭けるしか無い。

 

「……私には未来が見える。アリスは世界を滅ぼす魔王じゃない。世界を救う『勇者』になる未来が見える」

 

「未来が見える……? そんなの非合理的よ」

 

「そう。でも私は経験と直感で動いているから」

 

「そう開き直るのね。あなたは……」

 

「リオは独断で動き過ぎよ。一人で判断して、反対意見出したヒマリを力で押さえつけて強行する。……そして正しさを他人に押し付けた」

 

「でも先生、あなた自身の危険性は認識しているのでしょう? なら、あなたは私の意見を否定することは出来ないわ」

 

 返答は少しの沈黙だった。シッテムの箱を近くに置き捨てて、拳銃を抜き出す。

 

「言った、言わない。合理性、どれも面倒くさい。意見が平行線の時点で議論が成立しないなら……!」

 

 リオの前にあるテーブルに拳銃を叩きつけ、リオに取るように促す。

 

「まずは私から殺しなさい」

 

「先生、何を言っているの……?」

 

 リオの表情には困惑の色が見え始める。

 

「リオから見れば私もアリスも同じリスクなのでしょう? ならどっちからやったって変わらない。あなたの意見が正しいのなら、私だってキヴォトスを滅ぼせる。だから私を殺すことでリスクが排除出来るのならそうすべき」

 

 リオはゆっくりと拳銃を持ち上げ、震える両手でそれを持ち始めた。

 

「アリスを殺すと覚悟を決めたのでしょう。なら、その覚悟を私に見せて。それとも怖いの? 殺すのが」

 

 拳銃の先が私の額に向かう。私の右手はバレルをしっかり掴み、逃がさないようにする。

 

「……撃て」

 

 リオの手はまだ震えたままトリガーに指をかけ始める。しかしなかなか引けない。

 

「撃て。……何を躊躇っている」

 

 顔には汗が滲み、彼女の手は震えが止まらない。

 

「……撃て! 軟弱者! ミレニアム生は首から下はいらない存在なの!?」

 

 彼女の呼吸が荒くなり、過呼吸のようになっていく。だが撃てなかった。やがて彼女は拳銃を下ろし、床にへたり込む。

 

「撃てないわ……」

 

「そう。あなたにアリスは殺せない」

 

 静かな声でそう告げた。

 

「アリスが救出されれば、この事件は幕を閉じるでしょう。でもこれから目を向けなければいけないのはこれから襲来するキヴォトスの脅威。近い未来、キヴォトスの存亡に関わる厄災が来るはず。だからエリドゥを建てたのはきっと間違ってないはず。……だから、リオの助けが欲しい」

 

「私の?」

 

リオは困惑していた。

 

「そう、私一人ではキヴォトスを救えないから」

 

 返答は無い。俯いて、しばらく考え事をしているように見えた。

 

「ごめんなさい。私はあなたの助けになれないわ」

 

 リオは静かにそう答える。私は表情を変えずに彼女の言葉に耳を傾ける。

 

「私は一人勝手に動いてしまい、大勢の人に迷惑をかけた。この一件が終わったら私はセミナーの会長を辞任するわ」

 

「辞めて、どうするの?」

 

「……隠れるわ」

 

「そう。逃げるの?」

 

「償いをするためにね」

 

「なら、探し出す。どこにいても」

 

「どういう意味かしら」

 

「リオは不器用なのよ。一人で何でもかんでもやろうとしちゃって」

 

 そう告げると彼女はしばらく沈黙した。心身ともに打ちのめされたように、全く動くことがなかった。ゲーム開発部のところへ向かおうとした直後だった。

 

 エリドゥ全域が何者かによって制御権を奪われた。

 

 敷き詰められたモニターにはパープルのバックグラウンドに『Divi:sion』の白い文字が表示されている。同時に私とリオが居た部屋がシャッターで塞がれていく。通信機器は全てシャットダウン。部屋には私とリオだけが取り残される形となる。

 

『私の個体名は<Key> 王女を助ける無名の司祭たちが残した修行者であり、彼女が戴冠する玉座を継ぐ鍵です。AL-1Sは王女であり私は従者にして代行者。私は彼女の意思を代行し、彼女のために玉座をここに作り上げます。現時刻をもって、プロトコルATRAHASISを稼働させます』

 

 冷徹なアリスの声帯を借りた声がエリドゥ内に響き渡り、窓の外は不吉な色に染まっていく。

 

「……!? アトラ・ハシース!?」

 

 リオがそう叫ぶ。

 

「アトラハシースがなんだって!?」

 

「Keyと名乗る存在はエリドゥの全リソースを使用してアトラ・ハシースをここに降ろすつもりよ! このままでは世界が滅びる……!」

 

『王女は鍵を手にいれ、箱舟は用意された。無名の司祭の要請により、この地に新しいサンクトゥムを建立する……』

 

「先生、どうすれば……」

 

リオはリオで狼狽しているが、モニターの前に立ちKeyに話しかけ始める。

 

「なぜあなたは私の命を狙う?」

 

『あなたの存在そのものが王女にとっての最大の障害だからです』

 

「それは私の中にある虚無と関係するから?」

 

『あなたは『階梯』を昇る存在であり、眠る力が王女の存在を脅かすのです。また、無名の司祭の成就にもあなたの存在は障害となります』

 

「それであなたも私が死ねば全て解決だと?」

 

『その認識で間違いはありません』

 

「そう。……世界を滅ぼしたいのだから当然か。……でもあなたの言う王女、アリスはそんなことを望んでいるというの? そんなことをしてアリスが喜ぶとでも?」

 

『無名の司祭がそのために王女を製造したのです。そこに意志や感情は存在しません』

 

「……そう」

 

 モニターに向けて一歩進みだし、私は一息吸ってから口を開いた。

 

「Key、あなたは従者落第よ。アリスへの思いやりも何一つない、ただの言いなり人形よ」

 

『……理解しかねます。しかしあなたの処分は決定しています。危険な存在であるあなたはここで死に絶えるべきです。シャッターを解除。全戦力の最大目標を___に設定』

 

「あーあ、怒っちゃったか」

 

 その時、シャッターが開放され、車椅子姿のヒマリがこちらへと。

 

「ヒマリ……貴女、逃げたんじゃ……」

 

「逃げるだなんて……なんと寂しいことを。それよりも先生、戦況が大きく変化しております」

 

「教えて」

 

 ヒマリは現在の状況について要約してくれる。エリドゥ各地でDivi:Sionのロボットが出現しており、このタワーに向けて進軍中。リオが制作し、撃破された武装ロボット『アバンギャルド君』をエンジニア部が修復し、迎撃に当たっており、タワー入り口ではエイミとC&Cが防衛中。

 

 そしてKeyの中に居るアリスを救い出す方法をヒマリが提案してくれた。機械を使ってアリスの精神世界にダイブし、アリスを救い出すと。ただし私は不参加。Divi:Sionの軍隊が私の命を狙っている以上、タワー最上階で何もせず待機していると。アリスの命運はゲーム開発部に託される。

 

「わかった。……モモイ達にアリスの事を任せるよ」

 

「ええ、では私は彼女達を精神世界にダイブするためのセッティングを行ってきます。先生、この場を絶対に動かないようお願いしますね」

 

ヒマリは別部屋の機械へと向かい、私とリオの二人だけになった。モニターに紫色のまま。何もするな言われた以上、そばの椅子に腰かけ片足をぶらぶらとさせて待つことにした。リオも私の隣に座り、沈黙が場を支配する。

 

「……みんな、私に向かって死ね死ね言いやがって、まったく」

 

 ため息をついて、机に頬杖をついた。

 

「ごめんなさい……」

 

 リオが申し訳なさそうに謝る。

 

「別に、事実だから。そこまで怒ってないよ」

 

「本当の事を言うなら、違う形で先生とは出会いたかった。でも、今はこんな形で……」

 

 窓の向こうで何度も爆発音が響いてくる。きっとアバンギャルド君が暴れ回っているのだろう。今まで合理性の鎧をまとってきたリオが感情を露わにする。

 

「私は……キヴォトスの未来が不安だった」

 

 彼女はぽつりぽつりと話し始める。

 

「だから私独断で全て進めようとした。でもそれは、結果何も進まなかったどころか建てたエリドゥが滅亡を招く結果になってしまった。私は正しかったのかしら……」

 

 半分合ってて、間違っているとも言える。だが私は何も言わなかった。

 

「先生はなぜそんなに他人を信じられるのか、私には分からない。でも今は思う。私ももっと先生と話し合えば良かったと……」

 

「信じてるんじゃなくて、賭けてるだけ。必ずうまくいくなんて保証は無い」

 

「非合理的ね。私には理解しがたいわ」

 

「そうかもしれない」

 

 リオは今までの強硬とした姿勢から、牙を抜かれたように意気消沈した様子だった。完璧主義なのだろうか。それとも長い間独断と合理性で形成された価値観がまかり通ってきたのだろうか。わからない。

 

 その時、Divi:sionと描かれたモニターにノイズが走り始めた。少し乱れる程度だったものが少しずつ激しくなっていく。

 

『王女……あな……た……は……』

 

 Keyの散り際と思われる音声が途切れ途切れに聞こえる。そのときKeyからまたも訳のわからない言葉を。

 

『シャーレの……先生、あなたの……中にいる色彩は……色彩ではない……』

 

 その言葉の直後、モニターの電源が落ちて何も映らなくなった。

 

『先生、Divi:Sion全勢力が沈静化しました』

 

「うん、ありがとう」

 

 ノアからの報告を聞きながら、ゲーム開発部の帰還を静かに待つことにした。少しすると、ゲーム開発部のみんな、ヒマリ、そして水色の瞳の少女、アリスが戻ってきた。

 

「ぱんぱかぱーん! アリスはいきかえった!」

 

「おかえり。ミレニアムの勇者」

 

 ようやく安堵のため息をこぼすことができた。

 

「先生、あの時はこんな目にあわせてごめんなさい……」

 

「……いいよ」

 

 私は立ち上がり、アリスの頭をわしゃっと撫でる。するとアリスは太陽のような笑みを浮かべて、私に抱き着いた。

 

――

 

 エリドゥで起きた事件の後処理がようやく終わった。リオが独断で建てた都市はヒマリが閉鎖することに。ネルもトキとの戦いで重傷を負ったもののすぐに回復。ネルにボコボコにされたトキは後述する事情により主を失い、ヒマリのもとで保護されることに。C&Cと特異現象捜査部を兼部しており、噂によるとトキはヒマリの教育もあってかイイ性格に。

 

 ゲーム開発部はTSC2の開発に向けて色々なアイデアをだしている。なんか『道端の可愛いモンスターを味方にしながら世界を征服する収集型育成戦略RPG』にするとか。

 

 そしてミレニアムサイエンススクール、セミナーの会長、調月リオだが、彼女は行方をくらませた。セミナーの机の上に辞任と謝罪のメッセージが置かれており、ユウカは『謝って済む問題じゃ無いでしょう!?』と。ヒマリはトキを見捨てたことに関して憤慨していた。

 

 朝、シャーレのオフィスに着いたら席に座ってパソコンを起動して書類を広げて仕事を始める。そんな中、リオの行方が気がかりなことを頭の片隅に置いて一日を過ごしていくのだった。




もう少しだけ続きます。
なお、パヴァーヌ2章と最終編の間に一章挟みます
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