アビドスの6人目   作:____―--

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ODD FUTURE

 シャーレでいつも通り仕事をしていた時、スマホの振動が机に伝わる。手に取るとセイアから。

 

「もしもし?」

 

『先生、今大丈夫かい? ……決心がついたよ。あの最後に見た赤い空について話したい』

 

「わかった。……ただみんなと話し合いたいから、予定を組まなきゃ」

 

『みんなと? 誰を?』

 

「私が信頼するごく一部のみ。予定が決まったら連絡していい? セイア」

 

『ああ、構わないよ。決まったら連絡してくれたまえ』

 

 そう言って電話が切れる。すぐに仕事を中断し、別の方へ電話をする。

 

「リン、今大丈夫? ……キヴォトスの安全保障に関わる話をしたい」

 

――

 

 秘密会議当日、連邦生徒会が所有する黒い高級セダンに乗ってキヴォトス各地を回っていた。まずは連邦生徒会の寮の前、私服姿のリンがすでに待っていたので、ドアを開けて助手席に乗せる。

 

「おはようございます、先生」

 

「うん、おはようリンちゃん」

 

「誰がリンちゃんですか」

 

 挨拶を交わして車を発進させる。

 

 車が進んでいく中、リンはノートパソコンを開いて事前に私が展開した資料を表示させる。

 

「先生、今回の秘密会議に参加するメンバーについて確認しました。相当重要人物揃いですね」

 

「うん。でも……彼女らは全員私の事情について知っている限られた人。だから……私が信頼する、数少ない人間だよ」

 

「わかりました。とはいえ、なぜ場所を連邦生徒会が所有する建物にしないのですか? 連邦生徒会ならセキュリティも万全ですが」

 

「表に出られない人も来るからね」

 

「そう、ですか……」

 

 戸惑いの声を横に次はゲヘナ学園の自治区へ。風紀委員会の建物からまあまあ離れた場所に車を停めると、オフの格好をしたヒナが既に待っていた。

 

「先生、おはよう。主席行政官の七神リンも……」

 

 リンはメガネを光らせながら軽く一礼する。

 

「ヒナ、おはよう。後ろに」

 

と私は挨拶を返すと後部座席にヒナを座らせる。そこでホシノからメッセージが。

 

『シロコちゃんは一時的にアビドスに帰したから大丈夫だよ』

 

 と来た。私はそれに返信して、車を発進させた。

 

 次はミレニアムサイエンススクールの自治区へ。リオと適宜連絡を取り合いながら指定されたルートを進んでいき、最終的にある地点に車を停めた。少しして私服にサングラス姿のリオが周囲を気にしながら車に乗る。

 

「おはよう、後ろに」

 

「ええ……」

 

 タブレットを持ったままリオは後部座席に座る。集まった面々に緊張しているのか、何も話さない。

 

「ミレニアムサイエンススクール、セミナー会長、調月リオ……」

 

「いえ、私はセミナーを辞めた身よ……」

 

 その言葉をバックに私は車を発進させる。そこでセイアからメッセージが。

 

『一足先に君の家に着いた。アビドスの生徒に上げてもらい、待機中だ』

 

 私はそれに返信して、自宅へ車を走らせる。なお、その間三人に会話などは無かった。

 

 そして自宅前に到着すると、セイアの所有物らしき白のオープンカーが敷地内に止まっていた。なんとか黒のセダンを敷地内に入れて車を停めると乗っていた三人が降りる。私が先頭に立って玄関のドアに手をかけて開けた。

 

「ただいまー」

 

「やあ先生、お先にお邪魔しているよ」

 

とセイアがリビングのソファでくつろぎながら言う。その隣にはホシノも座っていた。

 

「先生、おかえり」

 

「ただいま。みんなほら上がって」

 

 三人をリビングに案内したとき、リンとホシノが目を合わせた。ホシノは表情を険しくさせて、リンがメガネのレンズを光らせる。

 

「ホシノ、今は過去の遺恨は置いておこう」

 

「うへ〜、ごめんごめん。リンちゃん、だっけ? よろしくね〜」

 

「誰がリンちゃんですか」

 

 ホシノは笑っているように見えてそうではなかった。彼女の過去を知るヒナはため息を付いて、リオがその空気に戸惑う。ソファに座布団、クッションを集めて六人で連結した二つのテーブルを囲う。次に私がコーヒーを五杯、紅茶を一杯用意する。

 

 そして不穏な空気のまま、会議が始まった。

 

 プロジェクターに用意した資料を写して、それをみんなに見せる。まずは前の世界線にて目撃したキヴォトスの終焉について話す。

 

「このいつかやってくる災厄について、みんなに共有したい」

 

 その一言で場の空気が重くなる。

 

「まずは、その塔がいくつ、どの場所に出現するのか把握しておきたいですね」

 

「塔の破壊に必要な戦力も推測しておきたいわ」

 

 とリンとリオが資料を見ながら言う。私は頷いてから、

 

「塔が出現した位置は記憶頼りになるけど……」

 

 前世界線にて、目撃した塔の周辺にあったものをリストアップして、それをみんなで推測、ネットのマップアプリで表示させる。徐々に出現位置を正確にしていく。

 

「塔から正体不明の敵対者が出現したのね? なら周辺の人々を避難させる必要があるわね」

 

「そうですね。計画書を作成する際に、避難場所や移動手段の確保も……」

 

 ヒナの意見にリンが議事を進行させていく。塔は『虚妄のサンクトゥム』と呼称を統一し、それの出現位置を特定。

 

「まずはそれぞれが使える戦力のカードを一通り挙げてみないかい? 先生」

 

 とセイアが提案してくる。私は頷いてから各学園から出せる戦力をリストアップしていく。

 

「ゲヘナは私たち風紀委員会か万魔殿が正当な戦力となっているわ」

 

「でも戦ってくれそうな指名手配犯はそれなりにいそうだよね」

 

 とか、

 

「トリニティでは正義実現委員会、シスターフッド、救護騎士団が戦力となるかな。ただし救護騎士団は医療面のサポートとして回しておきたいね」

 

「ええ、同意します」

 

 とか……。

 

「ミレニアムはC&Cが主に重大な事件に介入しているわ。ただ基本戦力はドローンなどの自立兵器に依存気味ね」

 

「ただ電子戦ならヴェリタス、特異現象捜査部のヒマリがいますね」

 

 などと各学園の戦力がリストアップされていく。

 

「先生はどう? いろんな学園駆け巡っているからたくさんいるでしょ?」

 

「うん。たくさんいるよ。ゲーム開発部も地味に戦力としてあると思う。元補修授業部……アズサは手慣れだよ。ハナコも頭脳は切れるよ」

 

 私の言葉にセイアは頷く。

 

「あとはアリウススクアッドやRABBIT小隊、指名手配犯のワカモも私の指示ありきで動かせられるよ」

 

「では、今あげてもらった戦力を分割してどの塔を担当すべきか決めましょう」

 

 とリンが言ってそれぞれの担当を割り振っていく。ホワイトボードを取り出し、キヴォトス全域マップを印刷して貼り付け、名前が書かれたマグネットを議論しながら動かしていく。

 

「あと……」

 

 私が口を開くと、みんなの目が私に集中する。

 

「何かがあって、私が指揮できなくなる可能性がある。そんな時でも成功率を上げられるように、私がいない場合での戦術、プロトコルなどを予め決めておきたい」

 

「先生、それは……」

 

 リオが私の言葉を疑うように呟く。私は服を脱いで灰色のあざをみんなに見せる。

 

「このあざが何なのかわからない。でも……きっと私は長くない。……備えてほしい」

 

「先生……」

 

 私は服を着直してから、コーヒーを口に含む。

 

「……わかりました、先生。そのケースも想定して作戦を練りましょう」

 

「うん。ありがとう、リンちゃん」

 

 そして再び議論が始まった。

 

 私の身に何かあった場合はとりあえずリンへ全権限を委譲する、という方針に決まった。それから資料がある程度纏まると、私は一旦休憩を挟む。

 

「おじさん、お腹ペコペコだよ〜」

 

 時計は真昼を回っており、昼食を取ろうか冷蔵庫を見てみたが食材がほぼなかった。

 

「色んな店行って、テイクアウトしようか。みんなのリクエストは?」

 

 と提案してみると、みんなは各々が食べたいものを言う。

 

「ホシノ、手伝ってくれる? みんなも待ってる間はゲームとか勝手にしていいよ」

 

「うへ〜、仕方ないな〜」

 

 私は車を出して近所の飲食店にテイクアウトしに向かう。リオのから揚げ弁当やセイア用のパスタ、ピザやバーガー、牛丼などをテイクアウトし、家に戻る。

 

「ただいまー」

 

とリビングに入るとリンが深刻そうな表情でこちらに来た。

 

「どうしたの?」

 

「先生、あなたが締結してくれたエデン条約が……破棄寸前です」

 

「え? ええ?」

 

 リンがテレビの方に案内してくれると……格闘ゲームに熱心なヒナとセイアの姿があり、怯えるリオがいた。

 

「百合園セイア、その超反応はなに? まさかあなた、チートを……」

 

「いやなに、私は直感が鋭いだけだよ。なぜ技を繰り出したのにカウンターが……!」

 

「立ち回りは素人ね、この技なら有利フレームを取れるわ」

 

 とヒナは難しめのコンボを繋げてセイアから一ラウンドをもぎ取る。

 

「くっ、流石はゲヘナの風紀委員長だね。空崎ヒナ、再戦をお願いするよ……!」

 

「ええ、喜んで」

 

 ゲームごときにメラメラになる二人がいた。

 

「ご飯買ってきたから食べよう~」

 

 そう声をかければ資料を一旦テーブルの上からどかして、みんなで食事タイムとなった。その時はみんな気を緩めてホシノとヒナが仲良くして、セイアがリオに話しかけるという今まででは考えてもなかった光景が。

 

「これほどの方を集められたのも、先生の人望によるものでしょうか……」

 

 隣にいるリンがコーヒーを片手に呟く。

 

「かもしれない。各地の学園の問題を解決していくうち、こんな関係になったから」

 

「……先生、一つだけ聞いてもいいですか」

 

「どうしたの?」

 

 リンの声は微かに震えていた。

 

「もし、先生がいなくなってしまったら……私たちはどうなるのでしょう」

 

「……きっとどうにかなる。生徒たちだけで自立できる、そんな世界になるよ」

 

「そうですか……」

 

 リンはコーヒーを口に含んだ。そして、食事が終わってから再び会議を再開させた。今度は私がホワイトボードの前に立ち、資料の補足説明などを行う。追加議題に、百鬼夜行、山海経、レッドウィンターなどの戦力把握が出来てないこと、自衛できない戦力だった場合のリスクなど。そして前兆が探知された場合はリン主導で緊急会議を動員することに。ただしミレニアム側はリオが退いている以上、不透明。ヒナもゲヘナの主権を持ってないので、マコト次第だと。

 

 内容が固まれば、いよいよ資料作成。デジタルかアナログで出力するかは、即座にアナログとなった。理由はキヴォトスには特A級ハッカーがあまりにも多いから。全員分の資料を印刷機が吐き出すまでかなりの時間があり、そこでゲーム大会が自然と始まった。

 

 次に持ち出したのは六人同時に遊べるすごろくっぽいパーティーゲーム。チーム戦でやろうということで、赤チームがホシノ、ヒナ、セイア。青チームが私、リン、リオという悪意あるチーム分けがされた。

 

「ちょっとアンフェアだよ! セイアとヒナが固まるのはずるい!」

 

「ふふふ……。持たざるものの恨みをとくと思い知るがいい」

 

 セイアが暗い笑みを浮かべる。

 

 実際ゲームを始めてみると、何も知らないホシノがヒナに操作方法を教わって、リンとリオが私に操作方法を教わってくるという……。

 

 地獄絵図が始まったのは数ターン経過してから。

 

「一番目的地が近いのはホシノさんなのでカードで攻撃しましょう」

 

「ええ、その方が合理的ね」

 

「なんでこんなにぃ~……。あ、連邦生徒会だけは絶対に落とす」

 

 ホシノがカード没収させられたり、位置シャッフルで目的地から遠くなったりと集中砲火を食らった。彼女はリンを睨んで舌打ちするという、過去のおじさん先輩の顔が出ていた。と思いきやホシノも報復でリンのカードを没収。

 

「何かホシノさんの恨みを買ったのでしょうか……?」

 

「うへ~、知らないな~。でもリンちゃんに恨みがあるんじゃなくて組織のほうに恨みがあるんじゃないかな~? 助けを呼んだのに先生が来るまで何も支援されないとか~」

 

 ゲーム再開。今度はヒナとセイアが私に向けて集中砲火。

 

「先生をやりましょう。チームの中で一番上手だから」

 

「そうだね。……では、このカードかな?」

 

「待って、ヒナとセイア待って!?」

 

「先生、覚悟して」

 

 セイアがサイコロの出目を1か2にする凶悪なカードに、ヒナが最果てまで飛ばすという極悪コンボで思わず台パン。

 

「先生、ゲームは本気でやるものだよ」

 

 とセイアがニヤニヤする。リオは私のキレ具合におどおどしていた。

 

「先生……?」

 

「あはは、大丈夫。これね、友情をぶっ壊すゲームだから」

 

 とリオに説明をする。結局青チームは大差で負けた。

 

「おや、ミレニアムサイエンススクールは何となくゲームに強い印象があったのだが」

 

「私はゲームには疎いのよ……」

 

 とセイアとリオがぼやく。ホシノは清々したのか、

 

「うへ~、仕返しは済んだからおじさんは満足だよ~」

 

 と満足げだった。ゲーム大会はお開きになる頃には資料は完成していた。

 

 やがて夜が来て、会議はお開きにしようかというところでホシノが提案してきた。

 

「ねえ先生、折角だし夕食もみんなで食べない? ヒナちゃんやセイアちゃんも、みんなで食べたほうが楽しいよ~」

 

「え、でも……うん。みんなは構わない?」

 

 返答は全員OK。ということで、みんなで夕食を摂ることにした。それで外食と決まり、自宅付近の……なんと居酒屋に。

 

 駐車場に黒のセダンとセイアの車を停めて入店。

 

「先生、お酒は飲まないの? 大人でしょ~?」

 

「その口ぶりからして飲ませたいの? ……本当にいいの?」

 

「うん。いいよ~」

 

「先生がどのようになるか見物だね」

 

 セイア、面白い絵面はあまり見せたくないんだけど……。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 座敷についた六人はテーブルを囲んで座る。他の五人はソフトドリンクだがこっちだけビールに。私が音頭を取って乾杯し、色々を食べていく。そのうち、ワインとかウィスキー、焼酎に日本酒とか色んなものに手を出して……私の意識は朧げにすごい感じになっていった。

 

――

 

 先生が酔ってしまった。アルコール種類を変えると酔いが回りやすいと聞いたことあるが、色んな種類を短期間で飲んだことが原因なのか。

 

 とにかく目の前の少し大人の女性は暴走している。

 

「うへ~……。先生、大丈夫?」

 

「だいじょ~ぶだよ~? おじさんセンパーイ~」

 

 ホシノの後ろから先生が抱きつき、ホシノは苦笑いしている。

 

「先生、こういう時は水を飲むべきよ……」

 

 とリオが水の入ったコップを先生に渡すと、一気に飲んでしまった。

 

「……今から逆立ちをします!!」

 

「ちょっとそれはやめなさい!」

 

 咄嗟に立ち上がって逆立ちしようとした先生の肩をホシノと一緒に掴んで止める。

 

「やめろー! 私は逆立ちをして神様になるんだー!」

 

「逆立ちと神様に何の関係があるの!?」

 

 しばらく落ち着かせようと、私とホシノの二人で先生を宥める。

 

「なんかごめんね……」

 

 と謝ってテンションダウンしてきたのでこれで一安心かと思いきや、先生は急に立ち上がった。

 

「頭が賢くない浦和ハナコのモノマネをします!!」

 

「まずい、今すぐ止めたまえ!!」

 

 今度はセイアが慌てて先生を制止した直後、聞くに堪えない卑猥な言葉を壊れた機械のように連呼し始めた。

 

「今すぐ先生の口を塞いでください!!」

 

「言ってないでリンも動いてよ!!」

 

 今度はリンとホシノが口論になり、リオは部屋の隅で小さくなっていた。仕方なく私が動き、ポテトを口の中に突っ込んで黙らせる。

 

「ヒナちゃん、もう一つちょうだーい」

 

「はいはい……」

 

と私はポテトを先生に渡す。先生はそれをリスのようにカリカリ食べながら、

 

「みんな可愛いね~」

 

 と。誰なんだこの大人は。と思いきや先生は私に甘えるように後ろから抱きつき、

 

「ヒナの髪、良い香りがする~。お日様みたーい」

 

 と私の髪を嗅いできた。

 

「先生、それはセクハラよ!?」

 

「今私はおじさんだから責任はホシノ先輩に取ってもらうよ~」

 

「ホシノ!! どうにかしなさい!!」

 

「うああ~! なんでこんなに振り回されるのさ~!」

 

 ホシノは先生を引き剥がそうと、先生は私に抱きつきながら離れようとしない。

 

「ところでさ、イオリちゃんいるじゃん。イオリの足って……舐めたらキャラメルキャンディーみたいな味しそうだよね」

 

「先生もそんなこと言うの!?」

 

「チナツちゃんと一緒に温泉入りたい! アコは……一緒に散歩させる程度ぐらいでいいや」

 

「どうしてアコだけテンション下がるのよ……」

 

 本当にこの人は……。

 

「ほら先生! 落ち着いてください!!」

 

 ホシノの『おじさんの仮面』がとうとう外れたのか、前の口調になっている。

 

「ひぃん! ホシノ先輩の扱いが乱暴になってきてる!」

 

「扱いが荒くなるのは当然です! 先生が酔うとこんなに面倒な人だったなんて……!」

 

 先生の暴走は止まらない。今度はセイアのところへ。

 

「セイア~、耳揉むね」

 

「ふあああっ!?」

 

 と先生がセイアの狐耳を触る。

 

「あ、先生……そこは……! だ、誰か!?」

 

「セイアの車かっこいいね~、乗りたいな~」

 

「帰り助手席に乗せるからやめたまえ……! こら、そこは……!」

 

「このリスのような耳、モフモフだね~」

 

「リスではなくて……! うあっ! あ……。先生、もう……やめっ……」

 

 とセイアがへなへなと床に倒れてしまう。

 

「あ、寝ちゃった」

 

 狩人と化した先生の次の視線は隅で縮こまるリオに。抱きつき、頭を撫でていく。

 

「リオはね~? 実は可愛いんだよ~?」

 

「せ、先生やめてちょうだい!」

 

「リオはね~、ちょっとガサツというか」

 

「ちょっと待ってちょうだい!!」

 

 リオが顔を真っ赤にさせて先生の口を手で塞ごうとするが、先生はそれを躱す。

 

「再会したときなんかゴミ袋にむぐっ!?」

 

 リオは先生の顔を掴んで、今後こそ手で口を塞いだ。

 

「もう喋らないでちょうだい! これ以上辱めを受けるなら私は舌を噛むわ!!」

 

「じゃあ私は吐くよっ!!」

 

「待って、やめて!!」

 

 ビッグシスターと呼ばれていた調月リオの尊厳が、今失われようとしていた。嘔吐か機密情報か。

 

「ん~、そんなに嫌ならやーめるっ」

 

 先生が離れるとリオは魂が抜けたようにぐったりとしていた。最後の標的はリンに。彼女のお膝に頭を乗せる。

 

「うへへ、リンちゃーん」

 

「誰がリンちゃんですか……」

 

 七神リンの表情は疲労困憊なのか、げっそりしていた。

 

「ありがとうね、リンちゃん。リンちゃんのおかげで私は……」

 

「先生、もうやめてください」

 

「リンちゃんは働きすぎ! もっとプライベートを充実させないと!」

 

「先生、私は……。いえ、ありがとうございます」

 

 リンが先生の頭を撫でる。先生は気持ちよさそうにしていた。

 

「は? ちょっと待ってくださいよ」

 

 ホシノが抗議に立ち上がる。

 

「せーんせ、私とリン、どっちが好き?」

 

「うーん、リンちゃんが好き!」

 

「えっ……」

 

 ホシノがショックで崩れ落ちる。まずい、彼女のヘイローに異変が。と思いきや、

 

「で、リオも好き! セイアも好きで……」

 

 追い打ちをかけるように色んな人にハグをしていく。

 

「ヒナも好きで……おじさん先輩も大好き!」

 

 私も巻き込まれ、最後にホシノに抱きつく。

 

「うへ、うへへ~、罪な大人だねぇ~」

 

 許したのか彼女は頬を緩ませていた。

 

「先生は……本当に罪な大人です……」

 

 とリンが呟いた。

 

 先生が落ち着いたところでようやく会計してお開きとなった。店の外に出て先生を除いて帰りをどうするかを相談する。リンは最寄りの駅で帰宅。セイアは先生を助手席に乗せ、リオを届けると。私とホシノで先生が乗ってきた黒のセダンに乗って、セイアの後ろを追尾する形に。

 

 百合園セイアは品格のある学園、トリニティ総合学園の生徒会長の一人である以上運転に何の不安もない。そう思っていた。

 

 なお先生は私たちに呼び出されるまで、なぜかラジオ体操をしていた。

 

――

 

 「さて、先生。特等席に乗りたまえ」

 

 ラジオ体操で、1、2、3、ええやん! と掛け声をやっているとセイアが私の手を引いて、助手席に乗せてきた。

 

「夜のオープンカーなんて新鮮~。さっすがお嬢様!」

 

「お気に召されたようなら何よりだ。さて、リオを送りに行こうか。二人とも、シートベルトをしっかり締めたまえ」

 

「は~い」

 

「わかったわ……」

 

 セイアがアクセルを踏むと、エンジン音が鳴り響いて車が発進した。しかし風を感じる以外に何の刺激もなく寝てしまいそう。

 

「先生、寝ないでくれたまえよ」

 

 とセイアが釘を刺してくる。私は欠伸をしてから、

 

「大丈夫~。でもちょっと眠いかも……」

 

「刺激が必要かな……? では」

 

 ある程度走ると道は山道へ入った途端エンジン音が高鳴り、回転数、スピードが上昇していく。

 

「ちょっと待ってちょうだい!?」

 

「では先生。今夜は君を寝かさないよ」

 

「セイア、飛ばしてくれるの!?」

 

「ああ、私のテクニックに酔いしれるといいさ」

 

「ひっ……! ひいいいっ!!」

 

 リオの悲鳴をBGMにセイアは神業アタックを繰り出していく。急に左折し、ドリフト。

 

「うおおおお! セイア、すごい!!」

 

「もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

 

「すごいよ! セイア、最高!!」

 

「無理よ!! こんな走り方は非合理的よ!!」

 

 とリオが叫ぶ。しかしセイアは聞く耳を持たない。

 

「セイア! 四輪ドリフトやって!」

 

「いいだろう、先生。私の華麗なるドリフトを目に焼き付けたまえ!」

 

 とセイアは急カーブで四輪ドリフトを決める。

 

「うおお! すごい!!」

 

 私は拍手喝采する。しかしリオが泣き叫ぶ。

 

「もう嫌!! 降ろして!!」

 

「じゃあ慣性ドリフト!!」

 

 と私は叫ぶとセイアが急カーブでドリフトを決める。

 

「ああ、お安い御用だ」

 

「降ろしてえええ!!」

 

 こうして数分間のアタックは続いた。リオを降ろす地点に辿り着く。

 

「さあ着いたよ」

 

 とセイアが車を止めるとグロッキー状態のリオが降りてきた。

 

「あ、ありがとう……」

 

「ばいばーい!!」

 

 リオはフラフラで夜の道を歩いてしばらくすると……バタリと倒れた。すぐに待機してたAMASが彼女の身柄を回収し、どこかのアジトへと搬送していった。

 

「セイア、ちょっと私も休憩したい~。降りていい?」

 

「構わないよ」

 

 ドアを開けてしばらく歩き、近くの排水溝に行くと……急激にこみ上げてくるような感触に襲われ、そのまま嘔吐した。

 

「おえええええっ!!……おえええええっ!!」

 

 アドレナリンを出しすぎたのか、私も排水溝の上に倒れてしまった。セイアが駆けつけ、後からヒナとホシノの車も到着する。

 

 そんな中、すごくとても眠くなってしまった。

 

「先生、大丈夫かい?」

 

「えへへ……セイアちゃん、おやす……」

 

 と言いかけたところで私の意識は途絶えた。

 

――

 

 ……とてもひどい頭痛だ。私は頭を押さえながら起き上がる。

 

ここは……どこだろう? ああ、私の家の一階だ。ソファの上に私は寝ていたらしく、他にもホシノやヒナが床に寝ていた。

 

「痛っ……!」

 

 と私は頭を押さえながら立ち上がる。そしてキッチンで水を一杯飲む。

 

「うへ、先生……?」

 

ホシノが目を覚ましたのか私を見てくる。

 

「ホシノ、どういう状況?」

 

「あ~……。先生が吐いた後、そのまま倒れてみんなで介抱してたんだけど……みんな寝ちゃったみたい」

 

 咄嗟に私は土下座をかます。

 

「本当にごめん!  私のせいでみんなを巻き込んじゃった!」

 

「う、うへへ……。ま、まあ良い思い出に……なった、かな?」

 

 とホシノは苦笑いしていた。

 

「先生、起きたのね」

 

とヒナが起き上がる。そして私を見てため息をついた。

 

「先生は……お酒を飲むべきじゃないわ。……でも、楽しかった」

 

「うああああ……やってしまった……」

 

 と私は頭を抱える。まただ、またやらかしてしまった。

 

「今日は気持ち悪いから家でゆっくりします……」

 

 そう言ってソファに戻り、スマホの画面を点けた。リンから心配のメッセージ、リオから苦情のメッセージが。そしてセイアのメッセージは……。

 

『先生、昨日は大丈夫だったかい? あの後、二人に真剣な注意を受けてしまったよ。私はとても楽しかったし、いつか一緒にドライブでもしよう。P.S.これからナギサとミカに怒られてくるが気にしないでくれたまえ』

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