アビドスの6人目   作:____―--

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Face My Fears

 たったの十秒。アビドス対策委員会四人を倒すのにかかった時間だった。あのホシノすら手も足も出ずにただやられるがまま。ノノミも、セリカも、アヤネも地に伏している。彫刻家に乗っ取られたミコトは無表情のまま私のほうを向いた。

 

「シャーレの先生、いえ本物の先生。あなたは素晴らしい人間でした。しかしなにも持ち合わせてはいなかった。だからあなたは殉教者となりうる器ではなかったのです。単なる俗側の人間でしかなかった」

 

 ミコトの手に何らかのエネルギーを込め剣のようなものを生成した。天に向かってそれを振ると空に亀裂が走りだした。

 

「今、全ての未来は断絶された。これより先の物語は新たなる神によって紡がれる。彼女の望み通りこのキヴォトスは楽園となる。彼女のような十字架を背負った殉教者が生まれることは二度となく、生徒という存在が平穏に暮らせる世界としよう。ヘイローも無く、銃や兵器は簡単に手に入らず、犬耳猫耳など先天的特徴を消し、動物達が二本足で人間のように振舞うのを消そう。極端な未来技術も全て消し去り、大人が子供達を見守る世界へと作り替えましょう。大人ももっと増やし、男性らも存在する世界へと。そして……この"青春の色"を完全に消し去りましょう」

 

"そんなことをしたら、生徒たちは……!"

 

「安心を。先生も先生としてまだ生きられる。あなた達の生徒も生徒のまま。ゲマトリア、贋作家達こと無名の司祭はノイズのため消滅していただきます。そしてこの世界は続くのです。世界を滅ぼそうとするのではありません、世界を創り変えるのです」

 

"そんな、そんなこと……!"

 

「先生、あなたも彼女を追い込んだ一人でもあるのですよ。なら彼女のために罰を甘んじて受けるのも先生としての役割では?」

 

"……っ!”

 

 ミコト*アセンションは無表情から穏やかな表情へと変わり、私の元へと手を差し伸べる。

 

「今まで主人公だったものの特権とします。私のそばで新しい世界が作り出されるのを見届けましょう。それがあなたにできる最後の贖罪です」

 

"……断る。"

 

 私はミコトの手を取らず、一歩後ろへ下がる。

 

"そんな世界、誰も望んでない!"

 

「そうですか」

 

 ミコトは無表情に戻り剣を消した。

 

「なら、あなたから消えてもらいましょう」

 

 そのとき誰かがミコトを背後から撃った。何発も何発もその銃弾はミコトの身体へ。

 

「先生から離れて」

 

 撃ったのはシロコだった。私たちのシロコがミコトに向かって銃を構えていた。

 

「シロコちゃん……!」

 

「ん、ミコトは私には勝てない。二回戦って二回とも私が勝ったから。先生、指示できる?」

 

 私は頷き、シッテムの箱を取り出した。

 

"ミコトを救ってあげて!"

 

「ん、任せて」

 

「……無名の司祭が生み出した『アヌビス』か。ですが、贋作家達が生み出した神なぞ小細工に過ぎません。ましてや近い未来に誕生する『十文字の神聖なる偽神』すら矮小な存在に過ぎない」

 

 シロコが引き金を引いた瞬間、ミコトは姿を消した。そして次の瞬間にはシロコの後ろに現れ、回し蹴りでシロコを吹き飛ばす。

 

「っ……!」

 

「アヌビス、一つの加えておきましょう。三度目はありません」

 

 ミコトは指先から雷をシロコに放つと、シロコの銃は弾き飛ばされる。

 

「っ……!」

 

 そして予想もしないことが。上空からレールガンの弾丸がミコトに向かって放たれた。

 

「……誰だ」

 

 ミコトは軽く回避するが、そのレールガンの弾道から全く知らない少女がミコトに向かってレールガンを何発も放ち続ける。

 

「王女の願いです! 先生を、返してください!」

 

 その少女はアリスと似た雰囲気の、白色の髪をした少女だった。

 

「王女……。ああ、AL-1S。つまりあなたは修行者にして従者の"Key"であると。……苛立たしい、無名の司祭も粗製濫造が過ぎる」

 

"もしかして、ケイ!? でも……。"

 

「先生、その話は後です! 私たちの先生とあの彫刻家を分離させる方法は無いんですか!?」

 

 ケイとシロコがミコトと戦ってい間、私は必死に考えていた。二対一のはずなのに、ミコトが常に圧倒していており、まるで未来が見えているかのように銃弾を躱し、二人の攻撃を全て受け流している。

 

「……そこらに贋作ばかりで腹立たしい。そろそろこの劇も終わりにしましょうか」

 

 ミコトが指をぱちんと鳴らすと、彼女から強烈な冷気が放たれた。

 

「そんな魔法みたいな攻撃、ありなんですか!?」

 

「私からすれば超現実的な現象の行使など造作もないことです」

 

 ケイの叫びにミコトはそう答え再び指を鳴らした。

 

「っ!」

 

 ケイの足元に向けて氷の槍が飛びだし跳躍して回避する。ケイの着地地点にミコトが先回りし回し蹴りでケイを吹き飛ばす。

 

「うあっ!!」

 

"ケイ!"

 

「大丈夫です。まだ……! っ!」

 

 ケイが受け身を取ってミコトのほうを見た時彼女は既に目の前にいた。ミコトが持っていたリボルバーの銃口がケイの額に押し当てられる。

 

「これは慈悲です」

 

 一発。ケイはヘイローで守られたものの、起き上がれないほどのダメージを受けた。

 

「にしても、無名の司祭の作品にしてはあまりに脆い……。未来、彼女は人間としての肉体を得るからか。しかしその未来は近々断絶する」

 

 彫刻家に乗っ取られたミコトはそう呟き、私の方へゆっくりと歩いてくる。

 

「最後に、人々の業が生み出したもので終幕としましょう」

 

 私は必死に考えていた。そして彼女に助けを求める。

 

"アロナ、ミコトと彫刻家を分離させる方法はないの!?"

 

「ミコトさんの神秘を取り除く方法があるかもしれません」

 

 と私のアロナが答えると、隣に水色のアロナが姿を現した。

 

「大人のカードはあらゆる因果律を捻じ曲げる力があります! なので、大人のカードを私の先生に届かせられれば……あるいは!」

 

 私は真っ黒の大人のカードをポケットから取り出し強く握る。

 

「先生! そのカードをミコトさんのほうに! どうか私たちの先生を助けてください!」

 

 私は頷いて走り出すがミコトの手元には小さな火が灯った。

 

「先生、下がって!」

 

 シロコが私に向かって叫ぶと同時にミコトの火はくすぶり始め、不穏な音を出し始める。

 

"……みんな、離れて!"

 

 そこでようやく倒れていたアビドスの四人が立ち上がりホシノが盾を持って私の前に立つ。

 

「先生、私の後ろに!」

 

 私はホシノの盾に隠れケイも含めみんな盾の後ろへ。火はくすぶってはいるものの、それはまるで……巨大な爆弾のようにも見えた。シロコもホシノの横で一緒に同じ盾をかざす。

 

「ホシノ先輩と一緒に先生を守る」

 

「シロコちゃん……。うん、わかった!」

 

 そして、ミコトが詠唱をし始めた。

 

「これはプロメテウスの火である。神から火を盗んで人間に与え、その罪に永遠の責苦を負わせた」

 

 火がしずくのように落ち爆ぜた。

 

「我は死なり、世界の破壊者なり」

 

 その瞬間、世界を焼き尽くすほどの業火がホシノ、シロコ、そして私たちに向かって放たれた。

 

「先生っ!」

 

 爆風を盾が防ぐ。しかし盾の表面が溶け、長くは持たないように感じた。

 

「先生! 大人のカードを私たちの先生へ!」

 

「私たちのバリアで先生を守ります……!」

 

 私は二人が守る盾より前へ一歩ずつ出る。

 

「先生、ダメ!」

 

 私の前に立つ二人のアロナが必死にバリアを張って炎を防いでいる。一歩ずつ、ミコトのほうへと。

 

「げほっ……! あと、もう少し……!」

 

 アロナたちが咳き込みながらも炎を防ぎ続ける。しかしミコトの火は止まらない。

 

"もう少し……!"

 

 私は一歩ずつ進む。そしてアロナたちのバリアが限界を迎え始めたときだった。

 

「やめて! 私の大切な人たちに手を出さないで!!」

 

 プロメテウスの火が突然中断された。誰が止めたわけでもない。ミコト*アセンション自ら火を止めたのだ。

 

"ミコト……?"

 

「何故ですか? 私はあなたの願いを叶えようというのに」

 

「私は、先生を……みんなを傷つけたくない。だからもうやめて……!」

 

 希望はあるんだ。ミコト*アセンションの中にミコトと彫刻家が共存している。その両方を引き離すことができれば。

 

「先生、大人のカードを……!」

 

 カードをミコトへと届けさせた瞬間、光が放たれ私の視界は光に包まれた。

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