アビドスの6人目   作:____―--

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誓い

 ……違和感を拭えないままずっと日々を過ごしてきた。何かが足りない、何か忘れている。そんな違和感をずっと感じてきた。

 

 今日はアビドス高等学校の卒業式。おじさん先輩はすでに卒業してて三年生である私とノノミが送り出される側。アヤネとセリカが卒業証書を手渡し私は証書を受け取った。

 

 ホシノ先輩もOBとして駆けつけて私たちを見守ってくれてた。

 

 卒業式も終わり五人で記念撮影。みんな笑顔だけどどこか寂しさも感じる。撮影が終わったら廊下をノノミと一緒に歩く。

 

「借金問題、どうにかして卒業したかったな」

 

「そうですね。セリカちゃんは頑張り屋さんですけど心配なところもありますから」

 

「はあ、私もOBとしてアビドスに通おうかな」

 

 他愛もない話をしたときだった。窓ガラスから見える空に亀裂が走り、空が割れ始めた。

 

「え……? 何が起きてるの!? ノノミ!?」

 

「ひとまず、みんなと合流しましょう!」

 

 私たちは慌てて教室に戻る。でも誰も居なかった。

 

「アヤネちゃん、セリカちゃん!?」

 

「ホシノ先輩!」

 

 世界が終わるような天地がひっくり返る轟音。遠くの砂漠が亀裂に飲み込まれてそして……。

 

「ノノミ!」

 

 二人を隔てるように亀裂が走り私が闇深くへと飲み込まれそうになっていく。

 

「ミコトちゃん」

 

 ノノミが私の名前を呼ぶ。

 

「行ってください、ミコトちゃん。向こうの私たちの未来を……お願いします」

 

「ノノミ! やだ、一人にしないで!」

 

 私は手を伸ばすけどもう届かない。亀裂の中に吸い込まれて意識を失った。

 

 暗闇の向こう側に待ち受けるのは死ではなかった。私はどういうわけかコンクリートに囲まれた部屋に居た。扉もなく孤独にただそこに居た。唯一気になるのは古いテレビとビデオデッキ。そばには山積みのビデオテープ。

 

 ただ吸い込まれるようにテレビをつけて番号が書かれたテープを一番目から一つづつ再生していく。

 

「これは……私?」

 

 テレビに映っていたのは私だった。中学生の頃のやんちゃな私。

 

「私、こんなに馬鹿だったんだ」

 

 三角座りでテレビをじっと観つづけテープを次々と交換していく。

 

「この子がシロコ……」

 

 雪が降り頻る季節、私、ノノミ、ホシノ先輩の三人で砂狼シロコを拾って私中心で世話を焼いた。そうして高校一年、二年生になって後輩二人ができて。先生と出会って、そして……悲惨な事件からのキヴォトスの滅亡、そして私の一度目の死。

 

「そっか……私、死んじゃったんだ」

 

 ビデオテープを再生する手が震える。みんなとの楽しかった日々がフラッシュバックして、涙が止まらない。でもテープは山積みのまま、まだ再生は続く。

 

「今度は……私が先生に」

 

 人間としての機能を欠損してしまった、大人ぶった、名前を忘れた私が今度は先生としてみんなの前に現れた。それからアビドス、ミレニアム、トリニティにゲヘナ、アリウス。色々な学園を奔走する私の姿。

 

 二度目の死のカウントダウンが迫っているというのに、旅を経るうちに人間らしさを取り戻していく私がそこには映っていた。そして私は方舟にて名前を取り戻し二度目の死を迎えた。

 

 なんて惨めな人生だったんだろう。私はただ、みんなと仲良く過ごして大人になりたかっただけ。なのに気づけばみんなと離れていって。そしてまた死を迎えた。

 

 運命だったとしても自分を許すことが……できなかった。

 

 最後のテープを再生し終える。いつの間にか見た目が先生としてのスーツ姿へと変わっていた。

 

 立ち上がり周囲を見渡してみると……アビドス高等学校の制服を着けた私が壁際で三角座りしていた。生徒としての雨宮ミコトが、そこに居た。

 

 一歩ずつゆっくりと歩み寄る。

 

「ねえ」

 

 私の声に反応して、彼女は顔を上げる。私と目が合った瞬間、彼女の顔が憎しみに染まって飛びかかってきて私の首を両手で絞めた。

 

「なんで……どうして! 私を生かしたの!」

 

「くっ……。かっ……!」

 

「どうして私だけが生き残らなきゃいけないの!? みんな死んじゃった! 私を置いて!」

 

「っ……!」

 

「だったら……私はあそこで死んでいればよかったんだ!!」

 

「っ……私だって、私だって……!」

 

 声を出すことすらままならず力を込めて引き離して彼女の胸倉を摑んで壁に押し付ける。

 

「私だって……苦しかった! あの時に出会ったホシノ先輩達だって初めましてだった!!」

 

「だったら、どうして生きてたの!」

 

 腕に力を込め壁に押し当てる。

 

「わからない……なんとなく生きてしまった! なんとなく、使命だけを支えにここまで……。なんで私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだってずっと思ってた! 何度も先生を辞めようかと思った! でも、辞めたあとの私なんて……何もない。先生じゃない私は、もう私じゃない」

 

 腕の力が弱まり私は彼女の胸倉から手を離す。

 

「だから、私……ずっと、ずっと……!」

 

涙が止まらない。私が彼女に何を言おうとしているのか、自分でもわからない。ただ私の感情が溢れだして止まらない。

 

"ミコトのせいじゃないよ"

 

 大人の声に私たちは振り向く。そこにはスーツ姿の先生が立っていた。

 

"でもね、死ぬことは何よりも苦しいことなんだ"

 

「先生……」

 

 先生はしゃがんで私たちと目線を合わせ優しく微笑んだ。

 

"私はもう君に何かを言う権利はないかもしれない。でもミコトの言葉を聞いて思ったことが一つある。ミコトは、愛されることを怖がっていたのかもしれない"

 

「そんなことない!」

 

 制服の私が先生に向かって叫ぶ。

 

"ミコト。君は生徒のときから好きを言うのが苦手だったね。他の子を助けるのは好きだけど、自分が好きと言われるのは苦手だった。ミコトが愛されていることに気づかなかったのかもしれない"

 

「そんなこと……!」

 

「……私が先生になってからも、ずっと引きずっていたかもしれない」

 

 私は静かにそう答えた。先生は頷く。

 

"先生のミコト、君たちの生徒達を見ればわかるよ。みんな君をよく慕っているのが。なのにその好意を素直に受け取れない。ミコトが愛されることに臆病だからかもしれない"

 

「……うん」

 

 少しの静寂があってからようやく先生である私と生徒の私が目を合わせた。向こうの私も怖がりな目をしていた。先に口を開いたのは向こう側。

 

「……アビドスのみんな、六人で私の誕生日パーティーをした時があった。みんなにクラッカーを浴びせられたときトイレに駆け込んだ。泣いている理由がわからなくってでも涙が止まらなくて。でも……みんなはそんな私を受け入れてくれた」

 

 彼女は続ける。

 

「ラブソングが嫌いだった。甘ったるくてふざけた言葉で夢物語を歌っていたから。でも友達が増えて、趣味が増えて。恋をして、学年を経て。大人に一歩ずつ近づくほど両手に抱えきれないほどの大切なものが増えていったとき歌詞の重みをようやく理解できた……」

 

 彼女はそう答え、先生は頷いた。

 

"先生のミコトも何か言葉は見つかった?"

 

「私も、ようやく気づけたことがある」

 

私も彼女と同じように彼女の目をまっすぐ見て答えた。

 

「いっぱい愛を受け取ったはずなのに、受け取り方がわからなかった」

 

先生の時の思い出を振り返りながらゆっくり話す。

 

「この世界でのホシノに『おかえり』と言われた時、ユウカに怒られながら私の生活の面倒見てくれた時、ヒナが厳しくも私を守ろうとしてくれた時……。補習授業部の時だって、ゲーム開発部の時だって、ヴァルキューレとRABBIT小隊の時、アリウスに行った時だって……。色んなものを受け取ったし、助けてもらったのに、『ありがとう』程度の儀式的な言葉しか返せなかった。本当は伝えたいことがいっぱいあったのに。先生の仮面を守るため、照れ隠しで、自分の感情を隠すために。でも、本当はもっと伝えたかったのに。だから……」

 

二人同時に先生の方へ振り向く。

 

「助けて、先生」

 

先生は優しい顔で静かに応えてくれた。

 

"絶対に助ける。"

 

 先生は真っ黒なカードを取り出した。そしてその力を私たちに注ぎ込む。そのうち二人の私が境界を越えて意識が溶け合っていく。

 

 そっか私は……先生の言葉がずっと欲しかったんだ。唯一、大人の保護者として私を愛してくれる先生が。だから、私は……。

 

"ミコト、聞いて。私も、完璧な大人じゃなかった。生徒を救えず、キヴォトスも守れなかった。君に全てを託して逃げてしまった。でもね……"

 

 先生が私に語りかける。

 

"ミコト、君がいたから今の私がいる。そして不器用で頑固で自分を許せない君を私は愛していた"

 

"だから、もういいんだよ。完璧な先生になれなくてもいい。大人の責任も、先生の使命も、全部背負わなくていい。ミコトは……ミコトのままでいい。君は普通の女の子だ。十九歳の普通の可愛い女の子なんだ"

 

”君に最後の宿題をだすね。失われた青春を取り戻して欲しい。今更と思うかもしれない。でも『生徒』に戻ろうとしなくてもいい。ただ、『先生』としてではなく一人の人間として。ミコトの青春を楽しんで欲しい”

 

「……そういう言葉をずっと、ずっと聞きたかった」

 

 私は溢れる涙を拭ううち、生徒としての私も先生としての私も居なくなっていた。

 

 そしてコンクリートに覆われた部屋に亀裂が走り始めた。大きくなっていき、天井から光が差し込み始める。そして崩壊した時、青空が私たちを出迎えた。水面の世界が地平線まで広がり私たちを祝福しているかのように。

 

「アメミット、何をしているのですか!!」

 

 向こうに私の身体を乗っ取った彫刻家が立っている。そして、ずかずかと水飛沫をあげながらこちらへ向かってくる。

 

「……くっ、あなたが砕いたカードのせいであなたを完全に抹消できなかった……。あなたは世界を救った! 全てを捧げ、苦しみ抜き、それでも生徒を守った! なら神として祀られ永遠に讃えられるべきでしょう! あなたの繋がりはもはやこの世界にはない。居場所ももうない! あなたの仲間達はすでに死に絶え、あなたの友人も何もかも全て奪われた! その苦しみから解放すると言っているのです! なぜ神の座で永遠の楽園を享受しないのですか!」

 

 奴が腕を伸ばし私の胸ぐらを掴むがまっすぐに見つめ返す。

 

「居場所もある。繋がりも沢山ある。私の帰りを待っている人もいるし、私のシロコとまだ話したいことが沢山ある」

 

「なぜ!? なぜなぜなぜなぜ!? 完璧だったのに! 神として完成していたのに! なぜ未完成の少女に堕ちることを選ぶのですか!? なぜ、あなたほどの人が! ……なら」

 

「私は、神様じゃなくていい。完璧じゃなくていい。……ただの不器用な十九歳の女の子でいたいんだ!!」

 

 その時、私から『神性』のテクストが剥がれ落ちた。

 

「な、なぜ……!」

 

 彫刻家の身体にひびが入っていく。全身に入ったヒビはやがて身体を覆っていく。

 

「雨宮ミコト……! このまま現実に戻れたとしても、あなたはアセンションの代償、虚無、それらと向き合い続けなければならない。あなたは……まもなく死ぬ!」

 

"それは全て私が引き受けるよ。"

 

 隣に居た先生が再びカードを握る。

 

「そんな都合のいいこと……!」

 

"都合良くても構わない。彼女は理不尽に青春を奪われた。理不尽な運命に振り回され続け大人になる時間を与えてもらえなかった。そのまま死んでしまうなんてとても悲しい。だから、私が彼女の代わりにその運命を引き受けるよ。それが大人の責任だから"

 

 真っ黒なカードが眩い光を纏い、私たちを包み込んでいった。光が晴れるとそこは先生の手には粉々になった大人のカードが握られていた。

 

 私の灰色のあざは完全に消え去っていた。

 

「先生、ありがとう」

 

「なぜ……! なぜ……!!」

 

 彫刻家は壊れた機械のようにそう繰り返す中、ゆっくりと奴に近づいていき言葉を告げる。

 

「きっと、あなたはどこまでも高く飛ぼうとしたのでしょう。誰も到達できない場所へ。誰も理解できない崇高へ。でも……いつか落ちることを知らなかった」

 

 静かに言葉を続けていくと奴が絶望に満ちた声で呟いた。

 

「私の崇高は……誰にも届かないのか。私はただ美を、完璧を追求しただけなのに……。高すぎた、のか……」

 

 その言葉を最期に、彫刻家の作品は砕け散った。

 

「先生、私誓うよ」

 

 静かに澄んだ世界にて、私は先生に語りかけた。

 

「私は先生みたいになろうとした。でもなれなかった。だから私は私のやり方でやっていく。……今度から好きをしっかり言葉にして伝える。だから先生、ありがとう。大嫌いとか言ったけどずっと大好きだったよ」

 

 その誓いに、先生は優しく微笑んで頭をなでてくれた。

 

"それは素敵な誓いだね。他のみんなにも言ってあげてね"

 

「うん」

 

 そして私たちは……第二レイヤーへと帰っていった。

 

――

 

 気がついた時には荒れ果てた建物、灰色の空から差し込む光が視界中に広がっていた。

 

「ミコトちゃん……!」

 

 と思いきや次にアビドスのみんなの顔が視界に入る。

 

「みんな、ただいま」

 

 まずホシノが私を強く抱きしめてくれた。その後ろからアヤネとセリカも。

 

「おかえり、ミコトちゃん」

 

「ミコト先輩……!」

 

 みんなが私にお帰りを言ってくれる中、ノノミが優しく微笑んでいた。

 

「おかえりなさい、ミコトちゃん」

 

「……よかった」

 

 黒ドレスのシロコも安心したように微笑んでいた。それから一人ずつ抱きしめていこうとすると、一人だけ見たことない子がいた。

 

「えっと、あなたは……? アリスに似てるけど」

 

「……ケイ、です。王女を乗っ取ってあなたを傷つけてしまった、そのケイです。……王女の願いが私をここまで導いてくれました」

 

「そっか。あなたがケイなんだ」

 

「はい。……おかえりなさい、先生」

 

 前会った時は敵だったというのを忘れ、彼女に抱きつくと顔を真っ赤にしていた。

 

「っ!? 急に抱きつかないでください!」

 

「ごめん、嫌だった?」

 

「嫌じゃないです! けど……その」

 

ケイが何かを言おうとしたとき、シロコから声をかけられた。

 

「……ミコト、A.R.O.N.Aが限界だから一足先に現実に戻ってる。……待ってるね」

 

「うん、またね」

 

 シロコが光となって消えていく。そして私はホシノ先輩に向き直る。

 

「ホシノ先輩、迷惑かけてごめんね」

 

「ううん。ミコトちゃんは悪くないよ。……よかった」

 

 私はもう一度ホシノ先輩に抱きつくと、彼女は優しく抱きしめてくれた。

 

 灰色の空は少しずつ光が差し込み、夜明けのような空が広がっていく。そして光の方から……アビドスの制服を着た見たことのない子が歩いてくる。ホシノが振り返ってその子を見ると……目を丸くして彼女の方へ飛び出して行った。

 

「ユメ先輩!」

 

「ホシノちゃん、久しぶり。……ごめんね、ずっと一人にして」

 

「ううん、もう大丈夫です……!」

 

 ああ、彼女が梔子ユメ。ホシノ先輩のさらに先輩だったんだ。アフターライフで、ようやく二人は再会できたんだ。あのホシノ先輩が泣いてユメ先輩に抱きついている。

 

 他のアビドス三人とユメ先輩達の様子を見守っていると、ユメ先輩が私の前へとやってきた。

 

「ミコトちゃん」

 

「はい。ユメ、さん」

 

 彼女は優しく私の頭を撫でてくれた。そして微笑みながらこう言った。

 

「一人でここのアビドスも、向こうのアビドスも守ってくれてありがとう。そして、向こうのホシノちゃんも守ってくれて本当にありがとう」

 

 ユメ先輩が両手を広げて私を抱きしめてくれた。ちょっと胸の部分のせいで距離ができちゃったけど、それでも暖かくて優しいユメ先輩の体温が伝わってきた。

 

「この世界のアビドスは……もうないけれど」

 

「ううん。ミコトちゃんに……シロコちゃんだっけ。二人が生きている限りアビドスは生きてるから」

 

「……うん。ユメ先輩、向こう側のホシノはとっても頼りになれる子だよ。強くて、優しくて。なんか相棒みたいな子なの」

 

「良かった。……じゃあ、ミコトちゃん。これからもみんなをよろしくね」

 

「任せて。……じゃあね」

 

 ユメ先輩が他のアビドス三人に声をかけ、やがてホシノ先輩達を連れて光の方へと歩いて行った。みんなが振り返って手を振ったとき、私は笑顔で手を振り返す。そして心の中で約束の誓いを立てる。百年、千年、とても長い時間の果てに、約束の地でまた会おうと。

 

 荒れ果てたキヴォトスに残されたのは、私とケイだけ。

 

「行きましょう、先生」

 

 二人でこの世界をしばらく歩いていると、駅が見えてくる。

 

「先生、ここで乗りましょう」

 

 ケイが駅へと駆けていく。そして、電車が来るのを二人で待った。やがて電車が到着すると、二人で乗り込み、席に座る。

 

 座席は窓を背にして座るタイプ。二人で隣同士に座ると車両が動き始めた。

 

「ケイは、アリスと何を話した?」

 

「多くのことを話しました。何よりも覚えていることが、『ケイはケイのなりたいようになれる』と言ってくれたことです。だから私は私がどうなりたいのか、どう在りたいかをずっと考えています。考えている途中ですが」

 

 ケイは窓の外の景色をずっと眺めていた。

 

「先生は、どうありたいなどはありますか?」

 

「もう、ないよ。今まではあったけど、追いかけるだけ辛かった。だから、これからは何をしようか考え始めようと思う」

 

 電車がトンネルに入っていく。しばらくの間音が反響するし、窓の景色が真っ暗になる。そして通り過ぎた時、水面が彼方まで広がる澄み切った世界が見えた。

 

 そして座席の向かい側に水色髪の女性、連邦生徒会長と先生がいつの間にか座っていた。二人とも穏やかな表情で私たちを見つめている。

 

「ようやく、辿り着けましたね。……彫刻家が消えたことで、無数に繰り返された捻じれて歪んだ結末のループの外へと出ることができます。あなたのおかげです、ありがとうございました。雨宮ミコト」

 

「二人して、無茶苦茶な重荷を押し付けて。本当にひどいよ。でも……なんとかしたよ」

 

 ため息をついてそう答えると、水色髪の女性は微笑んでくれた。

 

「あなたはもう全てのしがらみから解放されました。どのような道を進むかも自由です。先生が言った通り再び青春を歩んでも、大人として歩んでも構いません。だから……未来はあなたの手の中にあります」

 

 連邦生徒会長がそう答えると、電車のアナウンスが鳴り始めた。

 

『まもなく、終着点です。お降りの方はお支度ください』

 

「今から向かうのは捻じれて歪んだ終着点ではありません。あなたが描いた弧の終着点です。あなたが守った世界へと続いていきます」

 

 連邦生徒会長はしばらく窓の外を見つめてから、静かに口を開いた。

 

「私たちは再び始発点へと向かおうと思います。彫刻家が居ない今、新しい可能性を私たちの手で切り開けるはずですので」

 

「ようやく、『ニューゲーム』に立てるんだね」

 

 その言葉に連邦生徒会長は微笑みで肯定する。始発点という言葉の意味をはっきりとしていないが、きっと彼女のことだ。彼女しか見えてない世界があるのだろう。だが隣の先生の表情を見ると、どこか寂しそうな顔をしていた。迷っているような、それでも言わなければならないと思っているような。

 

「先生?」

 

"ミコト、もしかするとこれから私が歩む道にミコトは居ないのかもしれない。"

 

「マルチバース的な話なのかな? ……でも大丈夫」

 

 隣のケイが上手く飲み込めてないような表情をしていた。私は続ける。

 

「大丈夫。激動の果てにここを見つけられたから。……覚えていようと、忘れていようと、きっと。私はここにいるから」

 

 先生は何も言わないでただ、静かに目を細めた。

 

 車両のブレーキ音が響いて、電車が止まる。そしてドアが開いて私とケイは電車を降りる。

 

「雨宮ミコト」

 

 連邦生徒会長に声をかけられ、振り返る。

 

「改めて本当にありがとうございました。そしてまた会いましょう。私たちの物語の果てにある『あまねく奇跡の始発点』で」

 

「うん。行ってらっしゃい、連邦生徒会長と先生」

 

 ドアが閉まった。しばらくして、電車が逆方向へとゆっくりと動き出した。遠ざかっていくは透き通った地平線。そして電車が見えなくなるまで、私はずっと見続けた。

 

「先生」

 

 ケイに呼ばれて振り向くと、早くいきましょうと目で訴えてくる。私は頷いて二人並んで歩いていた。

 

 プラットフォームをしばらく歩き、階段を登って数段、ふとケイが並んでいないの気づいて振り返ると彼女は立ち止まっていた。

 

「どうしたの、ケイ」

 

「……先生、私はもう少しここに残っています。近い未来、キヴォトスで会いましょう」

 

 ケイの表情を伺うと彼女はどこか寂しそうな表情をしていたがそれでも決意に満ちた目をしていた。行きたくてもまだ行けない。でも悲しんでいるわけではない。未来に希望があるような、そんな目をしていた。

 

「わかった。またねケイ」

 

「はい、先生」

 

 私は階段を駆け上がり何段も何段もずっと駆け上がる。そのうち光が見えてそのの中へと飛び込んだ。

 

「先生!」

 

 目を開けると二人のアロナが待っていた。一人はずっと私のそばにいた水色髪のアロナ。もう片方は先生の方にいた白い髪色のアロナ。

 

「ミコトさん、おかえりなさい」

 

 二人が私の元へとやってきて、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 

「もう大丈夫だよ。帰ろう」




残り三話です。

エピローグ編
1話 05/24 12:00
2話 05/26 12:00
3話 06/01 12:00

3話はエピローグ編2話のアンケートの結果により結末を変えます。
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