虚ろな君は、透き通る世界で何を見る?   作:ginnsyake

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沈みゆく命 差し込む光

強い光が瞼に刺さり、たまらず目を覚ます。

窓を見るとカーテンが閉じ切ってなく、その隙間から入り込んだ日差しのようだ。

 

身体を動かすのも怠いが、寝起きの倦怠感が付き纏う体を動かし時計を確認する。

見てみると針は6時辺りを指していて、窓を覗くと太陽が明るく照らしているのが分かる。

 

睡眠薬のおかげか、今まで太陽よりも先に起きていた僕が、ぐっすり眠ることが出来た。

身体の方はこれまでにないほど元気だったが、何もしたくなかった。

 

何も考えたくなかった。

 

『長く生きれない自分には生きている意味は無い』

これまで生きてきた人生の中で何度も思ったことがあった。

薬を服用する時、病院に向かう時。

生活してるどんな時でもこの思想が僕に付き纏った。

それでも僕は行動に移すことは無かった。

死にたくなかったから。

僕はそれからは少しでも前向きに考えようと必死になった。

 

『あと3か月で死ぬ…?』

その結果が今に至った。

病院で言われた事を寝起きの頭でも鮮明に浮かぶ。

白衣の男から刻まれた宣告を。

 

ただ自分の行動なんて関係なく、やがて来る終わりが見えただけなのに、僕が飲み込んだ本音が自分の心を蝕み続ける。

ついさっき目覚めたせいで、冴えてくる頭は現実を自分に押し付ける。

耳をつんざく酷い耳鳴り、胃の中から込み上げてくる今までため込んできた何か。

逃げたい。

苦しい。

生きたい。

消えたい。

僕の心から漏れ出た言葉が反響し頭の中をぐちゃぐちゃに掻きまわす。

 

受け止めようとしても、押しつぶされる。

目を瞑っても頭の奥から漏れ出てしまう言葉が、胸に刺さる。

直視することも背を向けることもできない自分に逃げ場などなかった。

それでも僕は必死に虚空に向かって助けを願った、返ってくる声なんて無い事なんて分かりきっているのに。

 

涙の滲みなんて気にせず。

布団の中で胎児のように丸まり、襲ってくる苦痛を忘れようとする。

けれど、僕には何もできない。

乱れ始めた心音も頭に刺さる痛みもどうすることもできない。

 

気分の波が和らぐ頃には、酷い倦怠感だけしか残らなかった。

首を絞められたような窒息感で、浅い呼吸が止まらない。

 

 

ある程度呼吸を整えた僕は、ベッドから立ち上がり、安定しない足取りで歩き出す。

取り憑かれた様な酷い顔で目的の物に手を伸ばす。

 

「…」

言葉を発する気力も今の僕には無かった、

机の上に置いてある薬が入った瓶を手に取り、錠剤を手のひらに転がす。

 

『これを呑んだら後に戻れない』

最期に残った僕の本能が叫ぶ。

心臓の薬の様な強力な効果と即効性を持った薬をこれほどの量を摂取してしまったら助からないと。

手のひらを覆う勢いで出された薬を眺めて、僕は過去を想いふける。

見た事のある幻想が頭に過る、胸を押さえ倒れる自分、動かない心電図を映した画面とベッドに横になる僕の身体。

何度も僕の意思を捻じ曲げた映像、今の僕には立ち止まる理由にはならなかった。

 

僕は真実を拒絶していた。

死から逃げようと生を求めているのに、求めてるものはどこにもない事を。

今まで僕が受け入れようとしなかった事が苦痛をここまで育てた事を。

僕は苦悩に気づかされた。

永遠にも思える苦しみを味わって死ぬくらいなら。

最初から受け入れる事こそ、真の救済だと。

僕が救われる道は最初からあったんだと知った。

 

「もう、やめよう…」

そう呟いて僕は、手のひらを口に運ぶ。

 

飲み終わった直後にやって来る、全身の麻痺してる感覚と眠気に僕は体を預けた。

大きく視界が揺れ、強く打ち付けられる僕の身体、けれどその痛みは感じない。

僕はそっと瞼を閉じる、ドタドタと、慌ただしい足音が聞こえて扉が強くノックされる。

 

でもその返事を返すことは僕にはできない。

もうまともに呂律も回らない、声を張る程の空気を肺に溜めれない。

次第に聞えていた音も遠のいていく、やがて聞こえていた自分の荒い心音も聞こえなくなっていった。

 

 

ああ──

僕の胸に今も宿り続ける渇きよ。

成長と共にいつの間にか僕に芽生えた貴方は、

何時でも僕を惑わす濃い霧に、

時には道を照らしてくれる街灯になってくれた。

そんな貴方が持つ欲望を、僕は満たしてあげたかった。

けれど、僕が何をしても貴方は反応を変えず、平然として不定形な何かを求め続けた。

貴方が求めるものはきっと。

僕が手を伸ばしても届かない所にあるのでしょう。

ベッドに縛り付けられた僕の人生では一生潤せない渇き…

貴方の器を満たせない人生が僕は悔して。

それでも愛おしい──

 

 

これが僕が恐れていた死ぬ、という事なのだろうか。

瞼が開かない、世界に音が無い、体が水中に浮かんでいる様な浮遊感。

だが、今の僕はこの感覚に心地よさまで感じる、今まで背負っていたものを下ろした後の様な解放感が堪らなかった。

もう上がる事は無い深淵に沈む、次第に思考まで鈍くなっていく。

僕はこのまま沈んで、このまま意識も消えて、存在自体が消滅する、はずだった…

 

暗くなっていくだけだと思っていた視界に光が差し込んできた。

瞼越しにでも見える光に、僕は無意識のうちにその光に手を伸ばす。

抱擁を受けたような温かさを感じた後、僕は意識を手放した──

 

 

 

何処からか聞こえる工事音が耳をくすぐる。

部屋に広がる油の匂いを嗅いで僕は顔を顰める、その匂いは確かに死んだはずの自分が、生きていると実感できる感覚だった。

目を覚まし周りを見ると照明が暗い、何処か怪しい雰囲気を帯びた部屋で、僕は寝ていた。

生きている事や、この部屋について、知りたい事は山の様にあるが、やや目つきが悪い少女がこちらの顔を覗いているのに気づいた。

その少女は特に特徴もないつなぎを着ており、おでこの辺りにゴーグルを止めている。

だが、その少女の頭上には天使の輪っかの様なものが浮いていて、雰囲気にあっていない特徴に僕は目を引かれた。

 

目覚めてから驚きの連続で、混乱しそうになるが、現実は僕にまだ衝撃を与えたいらしい。

 

視界の端の自分の腕に包帯が巻かれているのが目に映る。

顔を下に向けると服は着ておらず、肌が見えている所全てに、赤く滲んだ包帯で巻かれていた。

他にも髪が長くなっていたり、視点が低くなっていたり、様々な異常が見られたが、一番驚いたのは。

僕の心音が安定していた事だった。

 

 

「これは…」

明らかにおかしい出来事の連続、けれど目に映るのは全部現実。

あまりにも非現実的な出来事に、脳が真っ白になりそうになるが、僕は生き返っただけでなく、僕の身体自体が変わっていたのだ。

 




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