【CLATTANOIA】黄昏の超越者(オーバーロード)‐ファイナルファンタジーXIV‐   作:ウルトラナポリタン

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第11話 疾風走破

 

 ブレインが、骨のドラゴンを刀の峰でぶっ叩いて粉々にした。何とも派手な登場である。

 骨のドラゴンのレベルは16……レベル35のブレインとは文字通り天と地の差がある。刃ではなく峰で攻撃したことから、アンデッドらしく殴打攻撃が弱点だったのだろう。

 一方、骨のドラゴンを操っていると思われる魔法詠唱者風の男のレベルは15。王都でも見るプラチナ級冒険者たちとそう変わらない。そうなると、第四位階以上の魔法を使えるとは考えにくい。

 

 霊廟の頂上にて、忍者のかくれるを使い隠密している光の戦士は首を傾げる。骨のドラゴンがやられた時の男の慌てようから、あれがとっておきであることはほぼ間違いない。事実、レベルだけで言えばエ・ランテルにいる冒険者の9割に対して有利が取れるのだ。

 再召喚しない様子からこれで打ち止め。残りは1体であり、ブレインとナーベが協力すれば不意打ちでなくともあの男ごと対処可能なはずだ。

 

 そうなってくると、目的が読めないのだ。エ・ランテルには残りの1割……2つのミスリル級冒険者チームがいる。彼らが出張ってくれば、見えた戦力のみなら鎮圧できるだろう。流石にあの男も失念しているとは思えない。

 つまりこの騒ぎが目的ではなく、別に本命がある。時間稼ぎが狙いであれば納得がいく。

 アンデッドの数は千を優に超える。だがレベルは良くて4から10ほど、特筆すべき特殊な個体も見当たらない。街一つを落とせたとしても、王国から派遣されるであろう精鋭たちの前には無力だ。

 

 ……街を落とす、ということが目的ではない。アンデッドたちは広域を制圧しようとしているのではなく、人が多く住む街の中央に向かって進軍していた。であれば、真の狙いは生者の命だろうか。

 

 光の戦士は感覚を研ぎ澄ませる。

 墓地にあるランドマークはこの霊廟だけだ。当然だが光の戦士が今いる屋根より上は無く、内に構えるのは凡庸。ならば、地下だ。

 

 当たりだ。地上のアンデッドたちは街に向かって南下しているというのに、地下の無数の反応は一切動こうとしていない。まるで何かを守っているかのようである。

 首魁は防御を固めて準備を進め、地上の捨て駒は物量戦術で人を襲う。それならば辻褄が合う。

 

 ブレインの方を再度見ると、ナーベと少々言い争ったあと協力して倒すことにしたようだ。

 

 見ていると言った手前、ブレインを置いてこの場を離れるのは気が引ける。あの男がまだ隠し玉を持っているかも知れない。

 だが本来の目的は異変の解決である。ブレイン1人ならともかくナーベもどこか余裕そうなので、任せてもよさそうだ。

 

 そこまで考えて光の戦士は初めて気付く。彼女のパーティーリーダー、モモンがいないことに。

 

 衛兵は間違いなくモモンも墓地へ乗り込んだことを示唆していた。モモンと組合で話した限り、彼はある程度聡明な人物であるとわかる。このような不確定な状況で、二手に別れて行動などという真似をするだろうか。

 例えばあの男以外に主犯格が居て、それがナーベと相性が悪いと見た、など。あくまで予測に過ぎないため断定は出来ないが、相応の理由があったのかもしれない。

 

 改めて周囲を見渡すと霊廟の後方、ブレインたちが戦っている場所の真反対に、異様に目立つ漆黒の鎧の彼が居た。光の戦士の以前の見立ての通り、一般人の身の丈ほどある大剣を二刀流で振り回している。

 素晴らしい膂力と脚力だ。あれほどの大きさの剣であれば途轍もない遠心力に襲われているはずだが、地に根を張った巨木の様に足腰が安定している。

 

 彼と相対しているのは……金髪のボブカットに、革製の露出が高い軽装。腰には3本のスティレットとモーニングスターのような鈍器。容姿からは20代前半と推測できる女性だ。

 モモンの強烈な連続攻撃を柳のような身軽さで全て躱している。彼女のレベルは、38。今のブレインすら上回る実力である。

 対するモモンは25。モモンのレベル不相応の凄まじい勢いに光の戦士は違和感を覚えるが――それは彼女も同じようだ。様子見に回っているのかと光の戦士は考えたが、彼女の顔に張り付いている笑顔の裏には、強烈な不快感が見て取れる。

 

 力を持て余す赤子とそれに振り回される大人。正しく、この戦いの核心を突く言葉だろう。

 

 しかし、光の戦士もただ見ているわけにもいかない。レベル差を考慮すれば、モモンは彼女に勝てない。見るからに彼女は、戦士系の中でも敏捷性(Dexterity)に特化した一撃必殺タイプ。戦闘が長引きモモンが隙を晒せば一気にカタがつく。

 

 地下の様子も気になるが、将来有望な冒険者を放置するわけにもいかず頭数は多い方が良い。丁度、女戦士は勝負を決めるつもりのようだ。

 一先ずは彼の救出である。

 

 

 

♦♦

 

 

 

 クレマンティーヌは酷く退屈していた。

 

 目の前の漆黒の鎧の冒険者と戦闘を初めておよそ15分。クレマンティーヌは未だ武器を抜いておらず、モモンの斬撃を避けることに専念している。

 モモンは戦士としてあらゆる才覚が欠けている。巨大な剣をそれぞれの手に装備し、身体の自由を大きく制限する全身鎧を纏いながら、クレマンティーヌ自身のスピードについてきているのだ。

 凄まじい身体能力、とても銅級冒険者とは思えない恵まれた肉体。軽装なことも相まって、モモンの一撃がクレマンティーヌに直撃すれば即死は免れないだろう。武技を使えば数発は耐えられるが。

 

 膂力と装備に振り回されている素人。それが、クレマンティーヌのモモンへ対する評価だった。

 

「ねーえ。私、すっごく詰まらないんですけどー?」

 

 欠伸が出るほど素直な横薙ぎを体を後ろへ逸らして避け、クレマンティーヌはバク転でモモンから距離をとる。彼は追撃することはせず振り切った右手をゆっくりと下げ、隙だらけの棒立ちの恰好で、5mほど離れたクレマンティーヌと向かい合った。

 

「身体能力に頼り切ったバカみたいな大振り、即応反射すら使えないのか野生動物ですら晒さない後隙、2刀であることを一切活かさない戦士ごっこ……舐めてんのか? お前なんかより、その辺の銅級と遊んだ方がまだマシだぞダボ」

 

 本当に、本当に詰まらない。手の内を探るため回避に専念していたが、見れば見るほど出てくる拙さ。まるで剣を取って数日しか経っていないようなチグハグさ。

 回避に使った体力すら勿体ない。無駄に浪費した時間が恋しい。こんなデクの棒を相手にするぐらいなら、カジットが遊んでいる女魔法詠唱者をいたぶったほうがよっぽど楽しいだろう。

 

「そうかそうか。私からすれば、鼠のように逃げ回るしか能が無いお前の方が詰まらない存在だが? 私もほとほとウンザリしている、さっさとその腰の針とけん玉でお遊戯でもしたらどうだ」

「言ったな――ゴミが」

 

 クレマンティーヌの挑発は、モモンのより攻撃的な返答に搔き消えた。

 不意の一撃を警戒して攻撃に転じられてないのは事実。事実だが、目の前のゴミは元漆黒聖典、疾風走破・クレマンティーヌを侮辱したのだ。

 万力の如き力で上顎と下顎が緘され歯軋りするクレマンティーヌ。握り締められた両の拳の中では手のひらが爪により破れ、ポタポタと鮮血がしたたり落ちる。

 

 その自慢の鎧を削り、人形のように動けなくなったところを嘲笑いながら殺すつもりだったが、クレマンティーヌは計画を変更する。裸に剥き、男性器を切り取り、そろそろ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に殺される女の性器へ捻じ込むところを見せ、耳から脳へスティレットを刺し込んでゆっくりと殺す。

 

 絶対に許さない。クレマンティーヌの瞳が憤怒の色へ濁っていく。

 腰のスティレットを1本右手で抜き放ち、身体を前に倒して左手を地面に添える。モモンは、クレマンティーヌが初めて見せた攻撃の構えに警戒を露わにする。

 クレマンティーヌの武器スティレットは刺突に特化した剣。モモンの鎧の質がハッキリとわからないため、オリハルコンコーティングが施されているとはいえ、構造的に曲がるか折れる可能性がある。

 

 ――急所感知

 クレマンティーヌは対象の弱点を知覚する武技を発動させる。網膜上にハイライトされた箇所は……モモンの頬付き兜。視界を得るため横方向へ開かれているスリット部分なら、スティレットの切っ先を通すことが出来る。

 しかしそれでは即死してしまう。最大限の苦しみを与えると誓ったクレマンティーヌの望むところではない。

 

 ――可能性知覚 ――急所感知

 第六感を強化する武技と重ね合わせる、見えたのは右肩の鎧の摺動部。

 正面からではあの鎧を突破することは不可能。唯一の道は、側面から鎧の可動部へ向かって切っ先を滑り込ませるほか無い。

 文字通り針の穴に糸を通すような繊細な技術が必要だ。モモンがクレマンティーヌの思うように動いてくれるとは限らない。

 しかし、クレマンティーヌならば出来る。英雄の領域に到達した者に不可能は無い。

 

 ――疾風走破

 小回りはクレマンティーヌの方が利くが、体格差による稼働距離の違いは事故の要因になる。相手の反応から迎撃に移るまでの隙を完全なものとするため、移動速度と俊敏性を上昇。

 ――超回避

 仮に迎撃が間に合ったとしても、即座に避けられるよう瞬発力を上昇。

 ――能力向上 ――能力超向上

 総合の身体能力ではモモンが上。少しでもその差を埋められるようにすべての能力を上昇。

 

 あと2回分の武技が発動できるよう集中力を残しクレマンティーヌは盤石を迎える。モモンがどのような対応を行ったとしても、それら全てをねじ伏せるシミュレーションは既に終わっている。

 

 対して、モモンは動かない。両手を下ろし棒立ちのままだ。何らかの秘策があるのは確実だが、様々な策で痛い目を見てきたクレマンティーヌは回避できるという絶対的な自信があった。

 

「じゃ、くたばりなぁ!」

 

 これ以上時間は与えない。真っ直ぐ接近し、大剣を動かす仕草を見せた瞬間に左へ跳ぶ。そのまま全身の筋肉をバネにして反転、右肩の鎧の隙間を貫く。

 

 肺の空気をすべて吐き出し、クレマンティーヌは突進する。常人では視認する事すらできない速度……世界を置き去りにしながら、眼前のゴミへと駆けていく。

 あと三足でクレマンティーヌの間合い――といったところでモモンは行動を起こした。

 

「ナーベラ――」

「もう遅いんだよ!」

 

 モモンの行動は迎撃ではなく言葉。仲間の女を呼ぼうとしたのだろうが、遅すぎる。

 その致命的な隙をクレマンティーヌが見逃すはずなく、予定通り左へと跳躍し――

 

「ぐぎゃっ」

 

 ――クレマンティーヌは、大木を思わせる巨大な壁に衝突した。

 全身に掛かる凄まじい衝撃。自身の力すべてが反射され、左腕の骨との左肋骨3本が砕けたクレマンティーヌは、潰された蛙なような声を上げた。

 

「は?」

 

 その疑問の声はモモンのものだ。クレマンティーヌは想像を絶する激痛に口をパクパクとさせ空気を取り込んでおりそれどころではない。途轍もない速度であったにも拘らずクレマンティーヌは跳ね返されることなく、ぶつかったその場で腰から崩れ落ちた。

 クレマンティーヌは朦朧とする中、武技を使用し痛覚の遮断を試みる。2つ重ね掛けしても消えない痛みに全身を脂汗で濡らしながら、衝突先のナニカを見上げる。

 

「そこまでだ。彼を殺させるわけにはいかない」

 

 鈍い鉄色の、羽の装飾が施された全身鎧。武器は抜いておらず無手、ただその場にいるだけ。

 胸にはミスリル級を表す冒険者プレート。薄い黒のウルフカットに無精髭。そして――なんの感情も感じさせない、美しい空色の瞳。

 

 折れた肋骨が肺に刺さったのか、血の泡が口の端から流れていく。

 

 鎧を着ていたとしても、先ほどの衝突で一切ダメージを受けていないなどあり得るのだろうか。

 加えて、クレマンティーヌは衝突の際はじき返されなかった。まるで空から地上へ落下したかのような感覚だった。体幹の差では片付かない、圧倒的なフィジカルの隔絶――

 

 男はそれ以上言葉を発することなく、左腰のロングソードを抜き放つ。

 殺される。頭では理解していても、クレマンティーヌの体は動かない。死にたくないと涙が溢れるが、ガタガタと震える体は生を諦めきっていた。

 

「ごぁ、べっ、さぁい。ごべんぁ、なざ」

 

 あっけない幕引き。

 男の剣はまるでバターを切るかのような滑らかさで、クレマンティーヌの頸を斬り飛ばした。

 走馬灯は無い。ただ彼女は最期に、自身の頸が地に墜ちる音が聞こえただけだった。

 

 

 

♦♦

 

 

 

 アインズ・ウール・ゴウン扮する新米冒険者モモンは、混乱の極みにあった。

 

 表の世界で健全に情報収集を行うため冒険者の真似事を始め、アンデッドの大量召喚という一大イベントが幸運にもやって来た。これを颯爽と解決し名声を上げれば数段跳びで昇級することも夢ではない。

 加えてクレマンティーヌというこの世界においても強者に分類されるであろう戦士と戦えば、まだ見ぬ未知の技術を目にすることが出来るかも。良いことづくめである。

 

 事実、クレマンティーヌは武技というこの世界独自のスキルを使用していた。大きな膂力差があるというのに大剣が弾かれたのは、間違いなく武技によるものだろう。

 見たいものも見れたし、あまり時間をかけるとアンデッドが墓地を突破して市街地に流れ込む可能性が高くなる。そうなると完璧なミッション達成とはいかない。

 そう考え、クレマンティーヌが勝負を決めに来たタイミングでナーベラル・ガンマに制限を解除するよう命令しようとしたのだが――そう、彼が現れた。

 

 知らない顔ではない。2日前、冒険者組合で登録を行うため列に並んでいた際に、親切にも時短のアドバイスをしてきたミスリル級冒険者だ。王都を拠点としており、エ・ランテルには組合間の協力依頼をこなしに来たと言っていた。

 面倒見が良い先輩冒険者……アインズはその程度に考えていたが、その評価は修正する必要があるかも知れない。

 

 クレマンティーヌは、ミスリル級であっても手に余る存在だった。それを、赤子の首を捻る程度の手間で殺して見せた。

 詳細なレベルを確認するすべはないが、俊敏性(デクスタリティ)に特化した戦士職と考えた場合、彼女は推定で30レベル後半。難度50前後のモンスターが適正のミスリル級では役者不足のはずなのだ。

 アインズは戦士としての真の強さ、特にこのようなリアルな戦闘行動についての知識は乏しいが、レベルの絶対性を考えるならば異常事態である。

 

 そして何より――アインズは、男の接近に一切気付くことが出来なかった。アインズは生命感知の魔法を常に発動しているが、男はそれを搔い潜ったのだ。

 生命感知(ディテクト・ライフ)は隠密系の職業か対情報収集魔法での対抗、何らかのスキルかアイテムしか破るのは不可能。職業特性や魔法、スキルについてはレベルが離れる程対抗手段としては意味がなくなる。

 つまりアイテムによる対策の可能性が高いが……それは非常に貴重なものなのだ。この世界の住人が持っているというのは、警戒に値するほどに。

 

 男のステータスを知るために情報魔法を使いたいのは山々だが、敵対していない相手に対象指定の魔法を使うことは悪手である。気づかれた場合敵対行動と見なされる危険性がある。

 加えてアインズはこの世界について、まだ何も知らないと言って良い。下手な真似は自分の首を絞める結果に繋がる。

 

 状況証拠的に、この男はアインズを守るためにやって来た。銅級が見て解るほど洗練された戦士と対峙していたのだから当然のことだ。

 

「待たせて悪い、モモン。霊廟の表側で戦っているナーベの方には連れを向かわせてる、多分大丈夫だぜ」

「助太刀感謝します。ですがナーベは魔法詠唱者……私たちもすぐに合流しましょう」

 

 ナーベラルは未だ第三位階魔法までの制限で戦っている。部外者がいる以上、不審に思われる行動は慎むしかない。

 

 男が先陣を切って走り出す。

 アインズは正体不明の存在に対して、今後どのような対処を行うか思案しながら後に続いた。

 

 




「忍者」
FF14におけるMelee DPS(近接物理火力)ロールの一つ。他ジョブより速い移動速度、管理しやすいバーストタイミング、豊富な遠距離攻撃とかなり扱いやすい。忍者らしく印を結んで忍術も使える。
対象に被ダメージアップという最強デバフを付けられるので最強のシナジーを持つ。しかも本人の火力も高い。見た目は暁月AF。

「かくれる」
忍者のアビリティ。姿を隠し、自身よりレベルが10以上高い相手以外から感知されない状態になる。かくれる自体はバフ扱いで、かくれる状態になると上記の最強デバフが使えるようになる。
なお使用中は移動速度が低下するが、光の戦士はフィジカルで何とか出来る。
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