【CLATTANOIA】黄昏の超越者(オーバーロード)‐ファイナルファンタジーXIV‐   作:ウルトラナポリタン

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第二章
第13話 前触れ


 

 強さとは相対的なものである。武器の種類や体格、何を修めているか、どのような戦術や戦略を好むか。相手との関係性、コンディション、何のために戦うのか。それら全てを総合して、最終的に出力される。

 実力が横並びとされている者たちが戦っても引き分けになることは殆ど無く、劣っていると評価されている者がジャイアントキリングを成す可能性もある。

 故に戦士たちは日々研鑽に励み、己を磨き続けるのだ。負けるはずの無い敵に負けない為ため、勝てるはずの無い敵に打ち勝つために。

 

 ブレインは剣の才能に恵まれていた。初めて剣を手に取り1週間で鉄級相当の兄弟子を打ち倒し、1か月が経つ頃には銀級相当の人間でも相手にならなかった。17になってからは成長曲線が緩やかになったと自覚していたが、それでも今の強さはアダマンタイト級冒険者のそれを凌駕するレベルだと自負している。

 

 故に先日、リードからアダマンタイト級のプレートを受け取った際、ブレインの心中では様々な感情が渦巻いていた。生まれて初めて自身の能力を正当に評価された事への喜び、人を斬って得た力に対する怒り、この評価を自慢出来る家族が居ない事への哀しみ、今後の自分はどのように強くなり限界を迎えることになるかという楽しみ。

 厚顔にも、ブレインは己の未来を思い描いた。多くの人々を踏み躙った極悪人である自分が、こんなにも恵まれていて良いのか。

 その答えは誰も持ち合わせていない。武の神である、あの男ですら。拾われた命を燃やし、答えを探すほか無いのだ。

 

 しかし――

 

「あああああぁああぁあああああぁっ!」

 

 ブレインは、腹部の裂傷から溢れ出る臓物の不快感と激痛に絶叫する。並みの傷では痛みを感じることが無いほどに鍛え上げられた精神力であっても、命の危機に瀕すれば生命維持のために痛覚が呼び起されてしまう。

 あまりにも美しい傷からは血がそれほど流れていない。高い生命力によりショック死もできず、失血死すらもできず、ブレインは膝をつき腹を抑えることしか術はない。

 

「刀を離さないのは流石だな、ブレイン」

 

 男はロングソードを片手にブレインへと近づいてくる。いつも装備している全身鎧ではなく、私服の上にブレインの物と似たチェインシャツのみを着用していた。

 ブレインがこれ以上動くことが出来ないと悟ると、ロングソードの切っ先をブレインへと向け「けある」と唱える。瞬く間に死の危険もあった致命傷が塞がっていき、同時に痛みも消え失せる。

 しかし、ブレインはもう戦う気力が残っていない。傷は癒えても心まで回復することは無い。

 

 既に正午も過ぎ、一番暖かい時間帯。人里離れた廃村の倉庫故に、どれだけ大きな声で叫ぼうとも近所迷惑になる心配はない。しかし、早朝から男と本当の殺し合いを繰り広げていたブレインは、限界だった。

 互いに真剣を用いた実戦形式の訓練。どちらかが物理的に動けなくなるまで、ただひたすら戦い続ける。酷く原始的な訓練方法で、実際のところブレインは何かを掴めた感覚は未だに無い。

 

「そりゃあまだ2日目だからな。そんな簡単に強くなられたら困るぜ、いや本当に」

 

 ブレインの心中に気が付いたのか、男は笑いながらそう言う。

 2日間、ブレインは男から何も教わっていない。ただ斬り合っている……というより一方的に切り刻まれているだけだ。小さな隙を見せれば軽傷を負わされ、致命的な隙を晒すと先ほどのように本当に殺しに来る。当然ブレインからは一発も攻撃を当てられていない。

 あらゆる強者に師事してきたブレインだが、このような訓練は初めてだった。

 

「こんなことで、俺は本当に強くなるのか……?」

 

 男を疑うつもりは無いが、それでも不安になるのは当然である。技術的なことはもちろん、戦略や戦術に関しても一切の指導が無い。言い方は悪いが、ただただサンドバックにされているだけだ。

 ブレインは見て盗めという師弟関係があるのは理解している。しかし、男の動きは防戦しつつブレインの隙を誘う戦い方だ。まんまと釣られているブレインに非があるとは言え、手ごたえが無いというのは嫌が応にも不安になるというもの。

 

 そんなブレインの不安も見透かしているのだろう。男は壁のフックに引っ掛けられていた革の水筒を手に取りブレインに投げつける。

 1時間ぶりの給水。血液は回復魔法である程度賄われたが、汗による脱水は酷いものだ。縋るように中身を煽ったブレインの身体に、塩が溶かされた水が染みわたる。

 

「お前はこの世界じゃ相当強い。だが、なんでそこまで強くなれたか解ってるか?」

 

 男の言葉に、ブレインは少し考える。強くなれた理由……数多くの死線を潜ってきたから、血反吐を吐くほどに辛い鍛錬を乗り越えてきたから、強くなりたいという信念があったから。数多く思いつくが、それは男の欲しい答えでは無いのだろう。あまりにも在り来たりなものだ。

 

「この鍛錬は――実験のようなものだ。もちろんお前を強くするという目的が第一の実験だが……オレもこの世界で理解していることは少ないんだ。だからこそ、"得意"を伸ばすことを考えた。ま、強くなれているか解らない、っていう実感を覚えられただけマシか」

 

 そう言うと、男の体から眩い光が発せられる。一瞬ブレインが目を細めると、その間に男の姿が変わっていた。

 ブレインには覚えがある。そう、ブレインが3度目の誕生を果たしたあの洞窟での一閃。忘れられるはずがない。

 赤と黒を基調とした胴着のような服装、左の腰にはブレインと同じ刀。

 

 瞬間。先ほどまでの親しみやすい雰囲気から、まるで無機物かと見紛うような佇まいに激変する。空気が無くなってしまったかと思う錯覚、ブレインの身体から体温が飛散していく。

 男は刀を抜き、体の周囲を切り刻むかのような舞を見せた後、鞘に納めて左足を引き腰を落とす。ブレインの領域と同じ構えだ。しかしその様は、ブレインのそれとは比較にならないほどに完璧で、洗礼された芸術品を彷彿とさせる。

 

「波切」

 

 ブレインに、それは見えなかった。瞬きを忘れ、見逃すまいと穴が開くほどに見入っていたというのに、何も見えなかった。須臾の間に、男は鞘から刀を抜き放ち、残心にだけがそこに在る。

 周囲の物的変化は何もない。あれほどの速さで刀を振り切っているのであれば、凄まじい風圧で倉庫自体が吹き飛んでいても何ら可笑しくは無い。それほどまでに必殺の思念が込められた一撃であるとブレインは思っていた。

 

 ――違う。あれは、全ての魂が刀身に注がれていた。

 

 衝撃波や破壊力などといったものは余分なのだ。ただ、目の前の敵を必ず殺すための技。ブレインの領域・神閃とは似ているのは構えのみで、その在り方は全く違う。

 攻めの技と守りの技。彼の今の奥義は前者であり、ブレインは――

 

 そこでようやく、ブレインは気が付いた。その様子を見た男は纏っていた雰囲気を霧散させる。

 

「折角お前より強い奴が居るんだ。まずは、お前の得意を極めてみろよ。話はそれからだぜ」

 

 今のブレインが今のまま強くなるのであれば、攻めは不要。守りの必殺を志したのであれば、攻めはその次で良い。ただひたすらに、一振りの刀の如く、全てを収斂させる。

 

「……もう一本、頼んでいいか?」

 

 革袋の塩水を飲み干して、ブレインは立ち上がる。先ほどまでの様に剣は抜かない。ただ、男が攻めてくるのを待つのみ。彼と出会ったあの時のように。

 

 男は待ってましたとばかりに先程までの装備へと換装、満面の笑みでブレインへ斬りかかった。

 

 なお、ブレインは反応できず胴体を横へ真っ二つにされた。辛うじて即死はせずに息はあった。

 

 

 

♦♦

 

 

 

 ブレインとの2週間目になる訓練を終えた光の戦士は、心を躍らせながら王都の通りを歩いていた。まさか、早々に収穫があるとは思いもよらなかったのだ。

 

 以前のガガーランとの会話や鍛錬でわかったことは、この世界にも職業という概念があること、職業の習熟度が上がれば難度……つまりレベルが上がると考えられること、職業は複数獲得できジョブチェンジの必要がないこと、個人によってレベルキャップのようなものが存在すること。

 それらの予測から疑問が産まれる。職業は幾つ取得できるのか、習熟度とは何なのか、職業ごとに相性はあるのか、レベルキャップとは先天的な物で後天的な事象で変動するのか。

 

 レベルキャップが有るのなら、便利だからと言って複数の職業を取得するのは非常に危険だ。器用貧乏はプロに勝つことが出来ない。ソロでの行動が絶対では無いのなら、類種の職を極めた者同士でパーティを組む方が絶対に良い。

 そう考えた者が過去に居ないのはあり得ない。つまるところ、職業自体にもレベルキャップが有るのでは? というのが光の戦士の推測だ。

 向き不向きも必ず存在する。だからこそ、ブレインには居合に関係する道をまずは極めさせる。経験で職業のレベルが上がるなら、使わせなければレベルが下がる可能性もある。

 

 そんなことを考えながらブレインを半殺しにし続けていると、なんと本日ブレインはレベル36になった。上手く嚙み合ったのか、レベルアップ間近だったからか定かではないが、得手不得手については関係が深そうだ。

 しかし、ブレインは才能の塊である。光の戦士の意図を理解した彼は、攻めの手を一切収めて守りに徹したのだ。光の戦士の手応えではあるが、明らかに鍛錬の質が向上した。試行時間は少ないとはいえ、ブレインの成長の一助となったのは間違いなさそうである。

 

 あとはブレインの肉体がどこまで耐えきれるかである。上限的にも体力的にも。光の戦士は死に際で成長することを信条としているので、容赦なく死にかけてもらう。死んでもブレインにはレイズが使えるので問題無しだ。

 

 さて、"暁"は王国で3番目のアダマンタイト級冒険者チームだ。アダマンタイト級にもなれば、割り当てられる仕事は本当に少ない。そして、少ない仕事でも豪遊できるほどに単価が凄まじく高い。

 しかし光の戦士はそれを良しとしない。今まで冒険者として戦ってきたのは金や名声の為ではなく、見聞と人助けのためである。

 故に光の戦士は、条件を付けた。張り出されて1日間受けられなかった金級以上の仕事は、暁が受けられるようにすることだ。それも含めて色々と複雑な契約になったが、リードには認めてもらった。

 

 しかしまぁ、本日はアダマンタイト級の仕事である。ブレインは少ししごき過ぎたので宿で爆睡中、1人での任務となる。モンスターとの戦いも慣れてきたようなので連れて行きたかったが、残念だ。

 今回の行先はエ・ランテルから少し南西に向かったところにある少し大きな森。そこに、正体不明のモンスターが出現したとのこと。

 エ・ランテルから出した調査団は全て戻らず死亡扱いとなり、詳細な情報は無し。元プラチナ級5名が全滅のため、大事を取ってアダマンタイト級への依頼となった。

 

 ……正直、きな臭い話なのだ。依頼主はエ・ランテルの貴族らしいが、聞き取りの結果これまでに冒険者組合へ依頼したことが無いという。件の森を開拓するためとのことだが、近辺の村を管理し細々と管理している弱小貴族がそのようなことをするのだろうか。

 商人の三男として生まれた光の戦士の常識では有り得ない話だ。開拓してもしばらくは何の実りも無いため、ただただ金が飛ぶだけである。金の無い貴族がそのような暴挙に出るとは考えにくい。

 その辺りはリードも承知しているのか、十分注意するように警告された光の戦士。ソロで行くのは少々心もとないが、逃げるだけなら単独の方がやりやすい。

 

 いつものようにパッといってガッとやれるような依頼ではなさそうだが、不可思議な出来事は帰還への糸口になるかも知れない。とりあえずやってみるまでだ。

 

 特に準備するものも無い。光の戦士が懇意にしている馬屋へテクテク歩いていると、見知った顔が通りの壁に依りかかっているのが見えた。彼女は、足を止めた光の戦士へ気怠そうに右手を挙げる。

 

「遅かったな」

 

 小柄な体躯に真っ赤なマント、奇怪な面。つい最近協力関係を結んだ、蒼の薔薇のイビルアイである。

 

 




「体の周囲を切り刻むかのような舞/意気衝天」
侍のアビリティ。侍の独自リソースである"剣気"を50上昇させる。追加効果として自身に"奥義波切実行可"と"残心実行可"を付与する。

「波切/奥義波切」
侍のウェポンスキル。1.5秒の詠唱の後、対象に向かって前方扇範囲物理攻撃。
このアクションは必ずクリティカルヒットする。クリティカルヒットの発動率を上昇させる効果を受けている場合は与ダメージが上昇する。
このアクションがヒットした場合、全く同じ効果である"返し波切"が使用できる。
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