【CLATTANOIA】黄昏の超越者(オーバーロード)‐ファイナルファンタジーXIV‐ 作:ウルトラナポリタン
「……」
ブレインが逃げ出して2時間。何度も話題を振るが「あっ」としか言わないイビルアイを連れ、光の戦士は街へと繰り出していた。生憎の空模様だが、閉鎖空間で2人きりは耐えられず、1階の酒場で飲んでも常連たちに茶化されるだけだ。
行く当てもなくブラブラ。エオルゼアに居た頃、光の戦士は意味も無く世界を散策するのが好きだった。時間と脅威に常に追われていたが、何とか隙間を見つけて練り歩いたものである。遠出の時も可能な限りエーテライトは使わず、自分の足や商団の馬車に乗せてもらっていた。
人々の生活模様、動物たちの営み、五感をくすぐる自然。各国の統治者は民のより良い生活を願い、文字通り身を粉にして働いていた。不謹慎極まりないが、そこに暗躍する暗い影も、それもまた"世界"を彩る要素の一つに他ならなかった。
「……」
しかしこの世界……と言うより、この国の民からは活力が感じられない。聞いただけの話ではあるが、バハルス帝国とスレイン法国はもっと活気に溢れているという。
貴族の腐敗、犯罪者組織の暗躍、蔓延する違法薬物。国家の運営について光の戦士は明るくないとはいえ、これらの要素は国を傾けるに足りるものであると理解できる。卵が先か鶏が先かはわからないが、一刻の猶予も許さないのではないだろうか。
「……」
まぁその辺りはどうでも良い。光の戦士はモンスターを狩ることはできるが、それだけだ。何事も適材適所なのである。心苦しくはあるが手を貸すことは不可能なのだ。
「……」
さて。先ほどから黙ったままの子供をどうしたものか。光の戦士の2歩ほど後ろをチョコチョコついてくるのは良いが、何か話題を振ったところで
「あっあっあっ」
このザマである。本当に何も返ってこない。
光の戦士はお喋りするのが好きだ。会話を通して相手のことをよく知ることが出来るし、なによりも自分の領分以外の話を聞くというのは、それだけで財産になる。
だからこそ、この世界に来てからは多くの人と話した。毎日が発見の連続で、光の戦士の心はより豊かになった。
光の戦士の周囲には、いつも声で溢れていた。酒場や組合に行けばアダマンタイト級冒険者という看板に物怖じせずに様々な人が絡みに来てくれるし、ブレインも意外と饒舌なのだ。
だからこそ、この状況には慣れない。借りてきた猫のように震えられては、光の戦士としても非常に困る。
楽しくやろうよ。これに尽きる。
光の戦士のバックボーンを知った以上、ある程度の色眼鏡は仕方がないが、別に取って食う訳でもない。光の戦士は、特に深く考えることも無く立ち止まって右手を差し出した。
「あ……」
ここで初めて、イビルアイは違う反応を示す。光の戦士に合わせて歩を止め不安そうに怯えていたが、光の戦士の右手が視界に入り、光の戦士を見上げる。
可能な限り優しく微笑む光の戦士の顔を見て、どういう心境の変化があったのか定かではない。しかし彼女は一瞬の躊躇いののち、光の戦士の手を取った。
正直なところ賭けではあった。イビルアイは200歳以上も年上であり、こんな子供扱いをしようものなら地雷を踏み抜きかねない。
自分でも何故この行動をとったのかは分からないが、1か月近く頻繁に付き纏われて子供に対する情のようなものが移ったのかもしれない。
ともかく、これでイビルアイの挙動不審は収まった。互いに、ここ王都では有名人である。そんな大物2人が付き合いたてのカップルのような距離感で歩いていれば否が応でも目立ちすぎる。
目立たないようにこれまで外出を避けていたのだが、一瞬でおじゃんになってしまった。それくらい、あの密室で2人きりになるのが嫌だったわけである。
先ほどまでの意味不明な雰囲気とは打って変わり、光の戦士とイビルアイは手を繋いで並んで歩く。2人を囲んでいた奇怪なものを見る視線はなりを潜め、生暖かい視線へと変わった。決して不快なものではないが、今すぐ裸足で逃げ出したくなる。
アリゼーと一緒に買い物に出かけた時と同じ視線だ。雑貨屋のオヤジに親子扱いされたときは、怒りのままヴァルフレアをブッパしようとするくらいにはブチギレていた。
その点、今回は安心である。イビルアイは大人しいものだ。見方を変えるのであれば、出会った当初の刺々しい雰囲気から改善されたとも言える。
いつまで共に居るかは分からないが、彼女は仲間だ。彼女の心情の如何はともかく、仲良く出来るに越したことは無い。
さて。仲良くなったところで、光の戦士は彼女に時間を潰すのに最適な遊びを尋ねる。雨が降りそうなのでできれば室内が有難い。
「そ、それなら、今日は室内の、フレアマーケットがあります」
ぼそぼそと呟くイビルアイ。しかし、フレアマーケットとは一体どういったものなのだろうか。光の戦士には全く覚えがない。
「民が不要になった物を持ち寄り、売買する市です。なんでも200年前に現れた"口だけの賢者"というぷれいやーが考案し、王都にも広まった慣習だそうです」
奇妙な名前だが、その頃も生きていたはずのイビルアイが名前で呼ばないということは、面識は無いのだろう。
しかし、フレアマーケット……フリーマーケットと似たような内容だ。口伝ではなく、記録でfleaが変化したのだろうか。
それはそれとして、確かに魅力的ではある。伝説や神話、超常の現象にばかり目を向けてきたが、市井にもしっかりと馴染む必要性は間違いない。
イビルアイの手を引いて、彼女の案内でフレアマーケットとやらの会場へと向かう。ちょっとずつ調子が戻ってきたようで何よりだ。でも手をにぎにぎするのは止めて欲しい。
♦♦
「本当にそんなモンで良かったのか?」
光の戦士とイビルアイは、並んでフレアマーケット会場から外に出る。そこそこ大きな集会場を目いっぱい使っていて、全ての店を吟味した結果3時間ほど経過していた。にわか雨もすっかり過ぎ去っており、大通りの石畳とは違って土の地面は水はけが悪く、所々水たまりが出来ていた。
光の戦士が横に居るイビルアイに目を向けると、彼女は割れ物を扱うかのように、胸元で両手を優しく包み込んでいる。
「はい、ありがとうございます」
光の戦士の言葉に、イビルアイは心底嬉しそうな声色で返事を返す。
いつも何故か居てシレっとタダ酒を飲んではいるが、フレアマーケットを散策している間、彼女からこの世界の風俗について色々聞くことが出来た。ブレインは俗世には疎いので、協力者である彼女から学ぶしかないのだ。
なので、光の戦士はこのフレアマーケットでイビルアイの好きなものを一つ買ってやると進言した。金額上限の指定は無く、光の戦士の財布で及ぶものであればなんでもOKであると。
本当に色々な物が売っていた。よく解らないガラクタから、買わせる気が無さそうな一族に伝わる家宝まで。ピンからキリまでの価格設定、白金貨100枚など狂気の沙汰である。
閑話休題、イビルアイがねだったのは銀貨数枚の物だ。互いに高給取りな以上
「これが良いんです」
まぁ、そこまで気に入っているのなら光の戦士はこれ以上何も言わない。女って好きだよなぁこういうの、とぼやくだけである。
さて。イビルアイとは仲良くなった気がするし、思いのほか時間を潰すことが出来た。雲の晴れた空に在る太陽は天上を大きく過ぎ、遅くはあるが昼飯時だ。
光の戦士は天邪鬼なので、仕事の無い日は酒が進まない。ガッツリと肉を食って、ワインは数杯で済ませたいところ。丁度、近くにデカいステーキを出す店があるはずだ。小食のイビルアイに合うメニューも揃えている。
「私もご一緒していいのですか?」
あれだけ好き勝手していたというのに、遠慮する場所は違うんじゃないだろうか。
光の戦士は苦笑いしてステーキ屋へ向かって歩み始める。しかしイビルアイは動かない。
「えっと……」
振り返ってみると、イビルアイは買ってやった物を大切そうに懐へ仕舞い、空いた左手をモジモジとさせている。チラチラと上目遣いでこちらを伺っている様子は、小動物を幻視させた。
要するに手を握って欲しいのだろう、アリゼーもよく同じ真似をしていた。初回気付かなかったときは、1日中機嫌が悪かった。あまりにも理不尽である。
歳的には逆の立場のはずがだが、外見的には何もおかしくは無い。
手を繋ぐだけで機嫌がより良くなるのであれば繋ぎ得なのだ。光の戦士はイビルアイのもとへと戻って、彼女が差し出した左手を右手で優しく握り締めた。
イビルアイの頭の上に音符マークが見える。嬉しそうで何よりだ。
イビルアイと並びながら、人ごみの中を歩いていく。光の戦士たちは腹ペコだが、世間様は腹も膨れ働き時だ。大通りに出ると、これこそ首都であるという活気を見せてくれる。……先ほどの路地へ少し曲がった瞬間、お上りさんたちの幻想は打ち崩れてしまう訳だが。
大通りを北、王城のある方角へと少し進んだところで、何やら喧騒が聞こえてくる。昼間の街は騒がしいものだが、毛色が違うようだ。1ヵ所を中心に輪のように固まり、人だかりができていた。目的の見物先がひと段落した後なのか、その外側に立っていた者たちは興味を無くしたかのように離れていっている。
光の戦士の勘的に、暴力沙汰だろう。このシケ始めの具合から、衛兵が来たか第三者による仲裁が入ったかのどちらかだ。
野次馬根性も盛んな光の戦士は気になる。腹は減っているが、トレンドに遅れないため一先ず参加してみることにした。
「げっ、アンタは」
人だかりの一番外側、光の戦士たちから最も近い場所に居る男に背後から声をかける。男は面倒くさそうに振り返り、光の戦士の顔を見た瞬間心底嫌そうな顔になった。
よく見れば、光の戦士が泊まっている宿のマスターだ。飯に酒にチップに大量の金を落としている太客だというのになんだその態度は。光の戦士は可愛らしく頬を膨らませる。
「気持ち悪いからやめてくれ。……で、イビルアイさんを連れて何しているんだ?」
それはこちらのセリフである。一体何の騒ぎなのか教えて欲しい。
「ああ、さっき暴力沙汰があったんだよ。ぶつかった拍子に、男の子が持っていたメシが酔った冒険者に掛かっちまったらしくてな。それでボコボコにされてたんだが、通りがかりの爺さんが無手で一瞬で治めたんだ」
光の戦士は、イビルアイを持ち上げて肩に乗せる。光の戦士とのやり取りにもう慣れたのか彼女は騒ぐことなく、少し背を伸ばして渦中の中心を覗き見る。
「確かに、倒れ伏している1人の男と衛兵に介抱されている子供が見えます。あとは事後処理だけのようですが――」
そこまで言葉にして、イビルアイは口を閉じる。何か見つけたのだろうか。
イビルアイに軽く頭を撫でられ、肩から降ろす。彼女は少し逡巡した後、意を決したのか光の戦士の顔を見上げた。
「その老人は見当たりませんが、私の知り合い、王国の兵士がいました。鎧を着ていなかったので今日は非番のようでしたが、何やら思いつめた様子で路地裏の方に」
兵士の知り合い。蒼の薔薇は冒険者でありながら国からの任務を受けているとイビルアイ本人から聞いてはいたが、その絡みだろう。一部始終を話したマスターの言葉からこの騒動に直接関係は無さそうだが、何かあったのかもしれない。
それに、場を制したという老人についても気になる。騒ぎが起きてから介入したということは、この人だかりを抜けて干渉したはずである。もちろん今よりも人が少なかった可能性はあるが、それでも相当な体捌きであると予測できた。
少し気になる。暴力はこの街で常態化しているが、誰もが、衛兵ですら見て見ぬふりだ。そんな中で、言ってしまえば正義の味方のような真似をする人間に心当たりは無い。
チラリとイビルアイに視線を向ければ、彼女もどこか引っかかる様子。老人だけではなくその知り合いの兵士に対してのものもあるだろうが、状況的にその兵士は老人を追ったと考えるのが妥当だろう。
まぁ、飯はあとで摂っても問題無い。善は急げである。
教えてくれたマスターに謝礼として銀貨の入った麻袋を手渡し、光の戦士はイビルアイの右手を取る。いつでも剣を抜けるよう腰の留め具の状態を確認して、2人は件の路地裏へと歩を進めた。
♦♦
昼間だというのに、路地裏に差す光は薄く暗い。先ほどまでの大通りの活気は一切の成りを潜め、まるで別の国かと錯覚してしまうほどだ。そんな場所を無警戒に歩きでもすれば、金目の匂いに釣られた無法者たちに一瞬で身ぐるみを剥がされる。
しかし、光の戦士とイビルアイにそんな真似をする輩は居ない。王国に3つだけ存在するアダマンタイト級冒険者チーム、その肩書きだけで、多くの犯罪者たちは決して関わるまいと姿を隠すのだ。
人気をほとんど感じられない道を行く。光の戦士の感知に引っかかるものは無い。無法地帯とは言え街中なので当然と言えば当然だが。
「兵士……クライムは、王国第三王女であるラナー付きの男です。冒険者で言えば金級程度の実力しか持ちませんが、その向上心と精神性には目を見張るものがあります」
イビルアイの様子からあまり興味は無さそうだが、1人の戦う者への敬意はあるのだろう。加えて、王族の関係者。イビルアイ個人だけでなく、蒼の薔薇としても気に掛けるには十分な存在だ。
そのまま道を進んで行くと、ついに正面が突き当りとなった。左右に道が伸びるT字路だが、右の曲がり角の奥から話し声が聞こえてくる。
光の戦士はイビルアイの方に顔を向け、右手の人差し指で静かに近づくよう促す。彼女もそれに同意し、気配を消して曲がり角へと歩を進めた。
角の手前に2人して張り付き、息を殺す。
「では行きますよ。意識をしっかり持ってください」
聞こえてきたのは、声からしてマスターが言っていた老人のものだろう。老人の言葉に続いて、男性の息を飲む音が聞こえてくる。
何のやり取りだろうか。争いの気配は一切感じられない、世間話のような声色だったが――
瞬間、光の戦士は反射的に左腰の剣へと手をかけていた。
堅牢な信念、忠義、献身。決して譲ることが出来ないものを守り抜くという狂気。極彩色を幻視する、濃密で暴力的な気配だ。
イビルアイの震えが、握っている左手から伝わってくる。52レベル程度であれば、この殺気に手も足も出ないだろう。光の戦士が支えているとはいえ、自らの脚で立っていられているという事実を称賛すべきである。
小さな嗚咽が聞こえてくる。可哀そうだが、今動けば気取られてしまう。光の戦士であっても、この殺気を放てる存在からイビルアイを守り抜けるか確約できない。
興味本位で後を付けただけなのだが、思わぬ収穫となった。これほどの殺気を放てる存在がリク以外に居るとは。是非お話を聞いてみたい。
しばらくして、先ほどまでの雰囲気が嘘かのように殺気は霧散した。気配自体は2つあるので、殺されてはいないだろう。
イビルアイの仮面のふちから流れている涙を拭ってやる。正気は保てているようで、イビルアイは鼻水を啜りながらありがとうございますと述べた。
さて。お取り込みも終えたようなので次はこちらの番だ。光の戦士はイビルアイの手を引いて、角から姿を晒す。気配を消してはいなかったので、老人は既にこちらに気づいていた様子だ。殺気も、3人にしか向けられていない様子だった。
その正面に向かい合うように立ち、正眼に剣を構えている金髪の少年は、光の戦士とイビルアイの登場に目を見開く。
「ふむ、貴方がたはどちら様でしょうか?」
「イビルアイ様と……」
白髪に白髭、執事服を纏った彫り顔立ちの深い老人。柔らかさは感じるが、猛禽類のように鋭い眼光。鍛え上げられた肉体は、服の上からでも手に取るようにわかる。
彼が身に着けている装備全てに、魔法の力が込められている。並大抵の攻撃ではほつれすら出来ないだろう。
しかし、光の戦士は全く別のところで違和感を覚えていた。
目を細めて老人を見る。浮かび上がる数字は――38。今のブレインとほぼ同等のレベルだが、先ほどの殺気、溢れ出ている闘気、重心、呼吸。それら全てを鑑みれば、あまりにも的外れである。
光の戦士に迫るものがある。少なく見積もっても、80レベルは超えていても可笑しくはない。
だが今は言及している場面ではない。光の戦士は軽く頭を下げ、自身の所属と名を告げる。
「……なるほど、私はセバスと申します。御覧の通り、主に仕える執事です」
しがない執事にしては、素晴らしい殺気だった。光の戦士は冒険者でも兼業したらどうかと冗談交じりに話す。セバスは一瞬目を丸くしたが、すぐに冗談と受取って小さく息を吐いた。
「僭越ながら本業が忙しい身でして。この身は我が主の為のもの、我が主に利が無いのであれば動くに値しません」
予想通りの答えである。何の面白みも無いが、その心の在り方に感心する。
それにしても、こんな場所で何をしていたのだろうか。傍から見れば、セバスが身に降りかかった火の粉を払おうとしていたようだったが、そこの少年と仲は良さそうである。
「も、申し遅れました。私はクライムというもので、この王国に仕える兵でございます。……まさか、暁を率いている御方にお会いできるとは。セバス様も、今日は本当に運のいい日です」
クライムと名乗った少年は、見た目の通り好青年の様だ。レベル11とこの世界において特筆するものは無いが、先ほどのセバスの殺気に耐えられるとは素晴らしい精神力である。
「……おいクライム、私はどうなんだ」
だがイビルアイは不機嫌だった。4人しかいないというのに、蚊帳の外で名前を除けられたのだから良い気はしなかったと思うが、あまりにも露骨だ。
「イビルアイ様! もちろん、イビルアイ様とお会いできたことも光栄です!」
「お前、あまり調子に乗るなよ。殺気に耐えられたとしても、力が伴わなければ無意味だ。鍛錬で進捗が感じられないのであれば、座学でも何でもやれることがある。お前は才能が無いんだから、決して慢心しないことだな」
「はい! 忠告、感謝いたします!」
もっともらしいことを言っているが、光の戦士と手を繋いだままでよくもそこまで威張れるものだ。クライムも気になるのか、チラチラと光の戦士の顔を伺っている。
「それにしても、暁ですか。寡聞にして存じ上げず恐縮ですが、どういった方々なのでしょうか」
「暁はこの方と、王国戦士長と世紀の御前試合を為されたブレイン・アングラウス様の2人チームです。依頼達成率100%、平均日程4日、それぞれが単身でのギガント・バジリスク討伐と、市井だけではなく王宮でもその噂で持ちきりになるほどの素晴らしい方々です!」
褒められて嫌な気分にはならないが、特に関りも深くない人間にここまで上げられるとむず痒いものがある。
しかしまぁ、イビルアイの機嫌が直ったようで何よりだ。自分のことではないのに、何故か胸をムンッと張っている。
「……そうですか」
セバスは、何やら考えこんでいる。その纏う雰囲気にほんの少し乱れが生まれたが、彼は気付いていない様子だ。何かある。だがそれが何かはわからない。ここでセバスに探りを入れても良いが、流石に藪蛇だろう。
自分で言うのもなんだが、アダマンタイト級の冒険者2人を前に、主君の名を明かさないのは引っかかる。現代の観点から見れば情報の取扱いに細心の注意を払うが、ここは中世の色が濃い。隙あらば売り込むのが普通である。
つまり名前が割れると不利益があるか、名声に固執していないか、なりふり構わず売名することに危機感を覚えているか、主から口止めされているか。
まぁそれはそれとして。目下大事なことがある。
先ほど通ってきた道にある3つの気配。本人たちは巧妙に気配を隠しているつもりだろうが、光の戦士からすればあまりにも拙いものだ。ついでに、今いる道の先にも少し距離があるが2人ほど怪しい気配を感じられる。
「貴方は気付いてらっしゃるようですね」
「セバス様、一体どういう……」
「私たちを付けてきた奴らがいる。数は3だが、こちらの人数に対して撤退しない点から伏兵が居てもおかしくないな」
流石にクライムには荷が重かったようだ。気づいていなかった彼は慌てて腰の剣を抜き放つ。
「クライム君、急ぎ過ぎるのは感心しません。焦りによる抜刀は最も無防備な瞬間、矢でも射られれば対応は難しくなります」
「す、すみません」
「謝る暇があるならさっさと壁に背を付けて防御の構えをとれ。魔法詠唱者が居るなら守りきれるかわからん」
「はい!」
イビルアイは光の戦士から手を離し周囲を警戒する。彼女の言う通り、魔法による奇襲は最も危険である。
クライムはイビルアイの叱責に従って、周囲を経過ししながらゆっくりと壁に近づいて背中を預ける。注意が必要な範囲を少なくして、下手に動くことが無いようにすればこちらも守りやすい。
「皆様、1人は生け捕りにしていただけないでしょうか。いくつか尋ねたいことがあります」
何やら事情がありそうだ。セバスは努めて感情を出さないようにしているようだが、心中の焦りが透けて見える。
努力はしよう。光の戦士がそう答えると、セバスは初めて柔らかな笑みを溢した。
「アリゼー」
ツンデレ。エオルゼア北洋諸島の都市国家シャーレアンにて哲学者議会議員を務めるフルシュノ・ルヴェユールの娘、16歳。アルフィノという双子の兄がいる。
エレゼンという人間種で、20歳に差し掛かると背やら何やらがデカくなる。
光の戦士と同じ暁の血盟に所属しており、様々な経験を経て心身ともに大きく成長し、自らの使命のため魂を燃やしていた。
なお、光の戦士のことは第七霊災以前からのファンガールであり、彼のことを思い出して以降酷く懐いた。四方八方から忍び寄る魔の手に(仲は良いが)牙を剝いている。