【CLATTANOIA】黄昏の超越者(オーバーロード)‐ファイナルファンタジーXIV‐   作:ウルトラナポリタン

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第2話 光の戦士(後編)

 

 オーガに襲われていた商人と思わしき3人を間一髪救い出せた光の戦士は、ほぅと胸を撫で下ろした。

 現地に到着した時には、すでに離れた場所で数人の武装した者たちは血の海に伏せっていた。遠目でHPを確認すると0を示しており、その周囲に転がっている数体のゴブリンから鑑みると、何とかこれらは倒したがオーガに対応しきれず殺されてしまったと推測できる。

 

 恐らく生き残った者たちの護衛か何か。要件を満たしていないので勿論蘇生もできない。

 せめて祈りだけでもと踵を返し彼らの元へ駆け寄ろうとしたところ、長剣だけ帯びたやや豪勢な身なりの中年男性が光の戦士に話しかけてきた。

 

「先ほどは……お助けいただき感謝申し上げます。私はゴルズ・フェインド・ユリゴ・ラインズ。王都一角の管理を拝命している者です」

 

 ゴルズと名乗った男は貴族のようで、仰々しい様子で光の戦士へと深く頭を下げる。まさかの高貴な出の相手に面を喰らった光の戦士だが、王都という聞き覚えの無い都市の名に反応し反射的に右膝をついて返礼した。

 

「失礼いたしました。御身について露とも知らず」

「いえ、顔をお上げください。今の私は鼻汁と小便で汚れた哀れな男です。雇った冒険者たちを、何もできずに見殺しにしてしまった。……それに、貴族とはいえ名ばかりです。政の才は無く、市場で見繕った品を横に流すだけのつまらない男」

 

 そう言うならと早速立ち上がった光の戦士。ゴルズの怒涛の自虐ネタに少し面食らうも、彼の後ろの2人組と合わせて無傷なようで光の戦士は安堵した。

 

 護衛たちの死体を麻布で包み、少し離れた場所で放置されていたゴルズの馬車へと乗せる。咄嗟の判断でこのような状況になってしまったが、光の戦士の内心は穏やかではなかった。

 死んでしまった護衛4人と斬り殺したオーガというモンスター。光の戦士がレベルを確認したところ、前者は平均レベルが3で後者は5だった。ゴルズの話によると武器を持ったオーガは若干珍しく凶悪だそうで、雇った護衛たちのふた回りほどランクが高くないと安全に討伐できないとのこと。

 

 ……ゲームでは、レベルはフィールドによって絶対的に上昇していく。相対的ではなく絶対的だ。自身のレベルが上がっても帳尻を合わせるために変動しない。5レベルのモンスターやNPCがいる場所では、何があっても変わらない。

 しかし現実は違う。警邏が行き届き雑魚モンスターしか発生しない場所でも、何かしらの要因でとんでもない個体が現れることがある。そして人々のレベルも一律ではなく、言い方はとても悪いが個体差があり、そんな変異種のモンスターを蹴りだけで殺せる一般人がその辺りを歩いていたりする。

 

 見たところ先ほどのオーガは、へっぽこ巴術師のタタルですら瞬殺できるほどの弱さだった。それが、仮にも護衛を任される者たちが一方的に蹂躙されると言うのは、どうも腑に落ちない話である。

 

 

 家臣が手綱を握る馬車の荷台の隅で、向かい合い座っている光の戦士とゴルズ。光の戦士は自身の中で疑念が確信へと変わっていくことを実感しながら、情報を引き出そうと口を開いた。

 

「それで、ラインズ殿。あー、言葉にし辛いのですが、その」

「ゴルズで構いませんよ、敬語も必要ありません。……私も商人の端くれ、貴方の状況は仰りたいことは解っております。ここで私が耳にした話は、一切他言いたしません。御者席に座る家臣たちも心得ております」

 

 ふふと笑うゴルズの顔は、先ほどまでの弱者のものではない。彼の言葉の通り、光の戦士の内心を的確に読み解く"あきんど"のそれだった。

 

「……助かるよ、ゴルズ殿」

「いえいえ、貴方は我々を救ってくれた。ラインズの男は受けた恩義を決して忘れないのです」

 

 光の戦士は、その言葉に甘えることになった。目が醒めたら知らない森の中で倒れていたこと、テレポとデジョンが使えないこと、貴族が付ける護衛にしては彼らが役者不足であること、そんな彼らが蹂躙されたオーガがあまりにも弱すぎること。そして、王都と呼ばれる地を知らないこと。

 自身の所属や立場は伏せることにした。仮にここがエオルゼアで、ゴルズが貴族なのであれば光の戦士と呼ばれる自分の顔を知らない筈がないからだ。

 

 ゴルズは黙って光の戦士の話に耳を傾けていた。その中でも空間転移のすべであるテレポとデジョン、王都に関する話題の際には目を見開き、冷や汗をかいているようだった。

 

「……貴方の置かれている状況について、ある程度は把握しました。私の雇った冒険者については、私の驕りが原因だ。戦士団の巡回ルートだったため油断したのです、鉄級の彼らにオーガの相手は酷だった。私が殺したも同然」

 

 玉のように噴き出た汗をハンカチで拭いながら、ゴルズはそう呟く。

 

「いや、彼らの役目は依頼主を守ることのはずだ、あんたが気負う話じゃない。彼らは責務を果たし、結果死んだ。気持ちはわかるが、彼らの死に意味を与えるのが、生き残ったあんたの責務じゃないのか?」

「……貴方は優しいですね。いやその通り、その通りだ。彼らが命を懸けてくれたおかげで貴方が間に合い、私はこうして生きている」

 

 ハンカチをぐしゃりと握り締め、ゴルズは天を仰いだ。

 光の戦士はゴルズの心境に同情しつつも、自身の優しさの定義との違いに目を細めた。

 

「すみません、話が脱線しましたね。色々と疑問をお聞きしましたが、8割がたはお答え出来ると思います。…… てれぽ と でじょん の件、私の雇った冒険者とオーガの難度の件については、きっと同じ話です」

 

 

 結論として、光の戦士が薄々感づいていた通り、ここは惑星ハイデリンではない。勿論リアルも該当しない、光の戦士の知識に一切該当しない全くの異世界であるというものだ。

 そしてこの異世界にも魔法の概念があり、階位魔法という名称で包括されている。テレポといった類の転移魔法は常人が使える範疇には無いとされ、これが一般的な技術であるエオルゼアとはそもそもの前提が違う。ゴルズが自ら話してくれたが、蘇生については複数あり、デメリット無しの蘇生は神の領域とのこと。

 

 故に、エオルゼアとこの世界ではそもそも強さの物差しが違う。鉄級と呼ばれた件の冒険者は所謂ボリューム層で一般的だ。基本的に難度という量りで強さを言語化しているそうで、オーガについては20と言われているらしい。ステータス上のレベルは7だったので、およそレベルの3倍が難度となる。

 つまるところ、光の戦士の肉体はとんでもないオーバースペックということ。無茶苦茶である。

 

 ハイデリンに存在する、エオルゼアから遠く離れた未知の大陸の線もあったが、あまりにも魔法の体系が根本から違い過ぎた。

 

「確かに、貴方の言う通り別の世界からやって来た……というのはすべて辻褄が合います。銀級ですらパーティを組んで討伐するオーガを一人、しかも一撃で屠る膂力。そして――あなたが身に着けているその、未知の金属で作られた装備」

 

 馬車に揺られ、光の戦士の装備が音を鳴らす。ゴルズの武器を見る目は確かなようで、光の戦士はにこりと笑った。愛用の装備を褒められて悪い気はしない。しかし、彼の視線に若干熱が籠っている気がしなくもない光の戦士であった。

 

 道中暗くなってきたため、道の外れにあるキャンピングピットで夜を明かす。

 次の日朝早くに出発し、昨日に続けて情報のすり合わせを行っていると、ゴルズはふと思い出したかのように話題を変えた。

 

「装備についてですが、一般人ならばともかく目の利く商人や、腕の立つ者には看破されるでしょう。貴方が許されるのであれば、王都の鍛冶師に見繕ってもらうのは如何でしょう」

 

 ゴルズの提案はもっともだ。レベル20以下の人間が一般的なこの世界で、全身AFの男が闊歩していれば悪目立ちするは当たり前である。しかし、路銀もツテもない光の戦士にとって、並み以上の装備を手にするのは至難の業。

 光の戦士がうんうん唸っていると、ゴルズは待ってましたとばかりに自身の胸を叩いた。

 

「お忘れですか、私は武器商人ですよ! 贔屓にしている鍛冶師がいますし、冒険者組合には知り合いが在籍しています。調理や板金にも精通されているとのことでしたが、貴方は我々にとって未知の技術を持つ存在……生産職として生計を立てるのは危険かと」

 

 願っても無い申し出だが、流石にそこまでおんぶに抱っこは気が引くものである。

 

「お気になさらず、私が自らご協力するのはそこまでです。私は貴方に命を救われ、貴方は私から立志に必要なものと知識の援助を受ける。これでこの件は終わりです。……ですが、覚えていてください。私は、確かに生きているのです」

 

 

 ――ならば、覚えていろ。

 

 

 ゴルズは御者席で周囲を警戒していた家臣から丸められた羊皮紙を受け取ると、光の戦士へとそのまま手渡した。

 羊皮紙を広げてみると、何やら大きな都市の一区画が描かれている地図のようなものだった。光の戦士が知るそれよりも酷く簡略的だったが、ランドマークの特徴がしっかりと捉えられており、位置関係が非常に明瞭な良質な地図だ。

 それぞれ離れた場所4点が丸印で示されている。

 

「中心の印が私の屋敷、その右側が冒険者ギルド。そして下部の印が市場です。あと一つはこの馬車が到着する南門となっています。まずは市場に向かい、雑貨を整えてください。少ないですが、暫くの宿代を含めた路銀をお渡しいたします」

 

 そう言って、ゴルズは懐から取り出した麻袋を光の戦士が座る隣へと体を伸ばして置いた。この世界の通貨はある程度聞いてはいたが、音からして決して少なくない金額なのは容易に想像出来た。

 光の戦士は目配せでそんなに受け取れないと伝えるも、ゴルズは有無を言わさず話を続ける。

 

 

「その後はウンバス鍛冶小屋へお願いします。マスターは気難しい奴ですが、貴方を見れば仕事を全うするでしょう。料金は私に付けてください、完成までの生活も工面してくれると思います。冒険者ギルドでは受付嬢のアイリスを頼ってください。私の三男の妻です」

 

 矢継ぎ早に話すゴルズ。光の戦士がチラリと馬車の進行方向へと視線を向けると、少し遠くに巨大な城壁が見えていた。

 

「そのまま順当に名声を上げていけば、恐らくとある集団から声がかかります。王国内に2つしかないアダマンタイト級冒険者チーム、蒼の薔薇。女性のみで構成されていますが、新進気鋭の優秀な冒険者であれば、お手並み拝見とばかりに様子を見に来るでしょう」

 

 馬車が揺れている。……光の戦士は思い出す。ウルダハの生家を離れ、知らない世界へ飛び出したあの時を。

 

「そして、蒼の薔薇に所属する魔法詠唱者、仮面のイビルアイに接触してください。その者は我々貴族ですら多くを知らない謎深き人物です。可能性は低いですが……もしかすると、元の世界に戻る手段を知っているかもしれません」

 

 

 思い出す。身勝手な思い違いをして、あの日、多くの命が失われたことを。

 

 

「騎士様、本当にありがとうございます。昨日、私と家臣2人だけではなく、我々の家族も救って下さいました。このご恩は一生忘れません。屋敷の門はいつでも開いております。何かあれば――何もなくとも、ふと、お顔を出してください」

 

「ありがとう」

 

「ありがとう、騎士様」

 

 

 

 思い出す。困った誰かに手を差し伸べた時の、彼ら、彼女らの笑顔を。

 

 

 まもなく首都リ・エスティーゼに到着する。

 

 

 

 さあ、新しい冒険の始まりだ。

 

 

 




「ゴルズ」
先代の父は敏腕政治家で、弱小貴族ながらも王派閥・貴族派閥ともに顔が効いた。ゴルズは政治関係はポンコツだが商売に関しては天才で、金で地位を確立している。ちなみに後ろ暗いことは一切ない純白貴族。

「ゴルズの雇った鉄級冒険者チーム」
戦士2、レンジャー1、魔法詠唱者1の4人チーム。全員同郷の幼馴染で、家出同然の形で村を出た。半年ほどで銅から鉄に駆け上がったが、実戦不足が祟り全滅した。なお、4人とも肉の壁になってゴルズたちを守り、少しでも逃げる時間をと最後まで戦った。この後ゴルズから多額の支援金が彼らの故郷へ送られることとなる。

「多くの命が失われた」
ひろしの黒歴史。彼の人格はこの一件と、とある仲間たちの死で形作られた。
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