【CLATTANOIA】黄昏の超越者(オーバーロード)‐ファイナルファンタジーXIV‐   作:ウルトラナポリタン

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第7話 蒼の薔薇

 

 鍛錬を付けてくれ――

 

 ガガーランからそう頼まれた時は脈絡の無さに面を喰らってしまった光の戦士だったが、考えてみると当然な話ではあった。

 彼女は戦士だ。冒険者とはただの肩書きであり、その本質は戦う者である。自身の強さの限界……ソレを知りつつも必死に足搔き、思い知り、打ちひしがれても戦い続ける者。

 興味があるのは自分の強さ。ただひたすらに、辿り着くかもわからない極致に手を伸ばす者。

 

 光の戦士にとって、それは非常に好ましい性質だった。大好きと言ってしまっても過言ではない。

 

 武芸、技術、芸能、知識、政治――そして、繋がり。何かを極めるという欲求に抗えない人々を、光の戦士は知っている。

 

 故に光の戦士は、ガガーランの望みを二つ返事で承諾したのだ。

 

 今光の戦士がいるのは、王都から北へ1時間ほど馬を走らせた場所にある廃村。その倉庫の中だ。持ってきた酒瓶を煽りながら、腰ほどの木箱の上に胡坐をかいて座っている。

 というのも、ガガーランの願いを叶えるためだ。ミスリル級のプレートが発行されるまでの1週間、彼女の鍛錬に付き合うことになった。

 ギガント・バジリスクの件。話が広がらないよう努めるが、噂程度は立つだろうと組合長から伝えられた光の戦士。貯蓄もまぁ人並みにあるので、しばらく依頼を受けずに大人しくしておこうと考えた。

 

 となると夜の情報収集以外は暇。ガガーランが指定した人目のつかないこの場所で、光の戦士は約束を果たそうとしたのである。

 

「ふうっ、ザッとこんなもんだぜ」

 

 ガガーランは水の入った桶を倒したかのように流れる顔の汗を拭い、大槌を足元に転がす。そのまま、足腰がもたないのかドスンとその場に尻を着いた。

 肩で息をしており、心拍数から見てもこれ以上一切動け無さそうなガガーランを見て、光の戦士は心底感心していた。

 本日は記念すべき初日。まずは彼女の限界を知りたいと思い、光の戦士は持てる全ての武技、技術、動きを使って、体力が底を尽きるまで虚空に向かって演武を続けるように指示したのだ。

 ガガーランが座っている場所は、彼女の間合いと同じ範囲が1m近く抉れている。彼女は光の戦士を一切疑うことなく、自身の全てを晒したのだ。

 

 彼女の全貌を見て、光の戦士は自身の予想が正しかったのだと確信した。

 ガガーランのレベルは28。彼女の振るう大槌に込められた力や体捌き、2時間ほど全力を出して底を尽きる体力。光の戦士が知る、エオルゼアにいる同レベルの冒険者や兵士と大差無い。

 しかし、相手の急所を狙おうとする打ち勘や打撃の精度は明らかにそれを逸していた。

 

 体の限界に、精神が追い付いていない。彼女に言うべきだろうか、お前はこれ以上強くなれないと。

 存在がチグハグ……と例えればいいのだろうか。彼女は恐らく"戦士"に似た職業を修めているが、それだけではないような気がする。

 

 光の戦士は情報収集において、この世界での強くなる方法も調べていた。他人の力を把握するのも理由のひとつだが、単純に自分がより強くなるためでもある。 

 結果としては非常に曖昧なもので、その道の修業をすれば勝手に力を付けているという。その過程から職業があるというのは予想がついていたが……思い切って、ガガーランに聞いてみることにした。

 

「あー……まぁ、これなら話しても良いか。あんたは最早関係無さそうだしな」

 

 ガガーランに酒を投げて渡し半分ほど飲み終えたのを確認して、光の戦士は疑問を投げかけた。彼女にとって貴重な情報だったのか、頬を掻いて少し躊躇っているようだった。

 

「普通は知らずに取るもんなんだが、職業っていう概念があるんだよ。俺だったらナイトやエアライダー、マーセナリーっていう風にな。有名な職業や流派があれば体系化されているんだが、一部の人間しか知らなかったり全く未知の職業もあるって聞いてる」

 

 ガガーランは少し歯切れが悪そうな様子だ。何かあるのだろうか。

 

「俺もまた聞きで、本当の話は分からねぇんだ。恩恵とどういった存在なのかを教えてもらって鍛錬しただけで、言われた通りの実感は有るが言葉にするのがムズイ」

 

 ということは、気づかない内に余計な職業を取っていたりしないだろうか。これはあくまで光の戦士の予測だが、人ごとの向き不向きや職業同士の兼ね合いが有ったり。

 光の戦士がそう告げると、ガガーランは驚いた様子で手に持っていた酒瓶を落としてしまった。

 

「いや……確かに、その線はある。俺はこの2年間、強くなった実感が無い。味方を守るのに良さそうだからナイトを目指したが、これが間違いだったのか? いや、それよりも」

 

 

「そうだ」

 

 

 俺は、もう強くなれないのか? ガガーランがそう言い切る前に、光の戦士は断言した。

 技術と知識で伸びしろはあるが、彼女の求める強さは頭打ちだ。肉体の強度が追い付かない。

 

 しかし――確証が無い、と言うより何が起こるかわからないで良いのなら手段はある。光の戦士としても気になるが、どのような結果に終わるかは予想もつかない。加えて、そこまで面倒を見る義理も無かった。

 

「そっか、そうだよな」

 

 ガガーランは脱力して天を仰ぐ。倉庫の外で広がる快晴は見えず、あるのは木で作られた屋根のみだった。自分で言っていた通り、限界は感じていたのだろう。

 そのまま右手で顔を覆った。少し嗚咽が聞こえるような気がする。

 

 光の戦士は、嘘を伝えることが忍びなかった。自身の力を、身の程を正しく把握し、活かすことも強さである。

 世界には自分よりも強い存在は山のように居る。それは、光の戦士にも当てはまると思っている。なまじ強者に属するガガーランが諭されることなどそう無いだろう。

 身の丈と命の使いどころを考えて生きることこそが真理であり、無駄死にはタイミングを選ぶべきだからだ。

 

 ガガーランはゴシゴシと涙を拭き、改めて光の冒険者に向き直る。

 

「……っふう、スッキリしたぜ! そうか、俺はこれまでだったか。バシッと言ってくれて、しっかりと納得できた。……だからよ、あんたの強さの一端を、良かったら見せてくれないか?」

 

 それは、想定通りの言葉だった。

 ガガーランが光の戦士を見る目は真剣だ。面倒に付き合ってしまった……光の戦士は、初めてガガーランへ少しの恨み言を心中でごちる。

 

 見せる訳にはいかない。ランパートにエクストリームガード、それにケアル。全てがこの世界の異物なのだ。これ以上の危険を冒すことに、光の戦士には何のメリットも無い。

 

 しかし、他でもない一人の戦士の懇願である。絶対に他言しないよう強く言いつけ、光の戦士は木箱から飛び降りた。ガガーランが虚空へと視線を向け何らかの合図を送ったことに光の戦士は気が付いたが、彼女を信じて何も言わなかった。

 

 光の戦士は剣と盾を抜き放ち、左半身を少し前に出して足を少し開き半身になる。

 見せても問題の無い技……良く使っていたコンボの一つであれば大丈夫だろうか。出来るだけ魔力等を使わない方が良い。

 

 呼吸を整え、身体に入る異物を制限する。戦いにおいて、不要な呼吸一つ分の空気でさえ余分な存在である。光の戦士が今から剣を交えるのは――そう、竜槍を操る彼だ。

 敵の得物は自身のおよそ2.5倍。今から振るう技はあくまで牽制、本命ではなく彼の槍の穂先を動かすためのもの。

 

 光の戦士の周囲が凍る。ガガーランは、そう錯覚した。

 

 竜騎士はどのような体勢からでも反撃する。反撃させないためには、その隙を与えることのない連続攻撃が必要だ。

 

 ――レイジ・オブ・ハルオーネ。

 

  愛する女神の名を冠した怒涛の五連撃。彼女の怒りを叩きつけるそれは、ナイトとしての光の戦士が最も得意とする技。袈裟斬り、左逆袈裟斬り、逆袈裟斬り、左一文字斬り、そして渾身の真向斬り。

 

 それら全ては一撃必殺。文字通り、敵を必ず殺す技。

 

 目の前の彼に、全て捌かれる。変わらない彼の強さに、光の戦士は満面の笑みをこぼした。

 

 

 しかしながら。剣の軌跡に存在した空気が消滅するほどの衝撃に耐えられなかった腐りかけの倉庫は、王都にまで響く炸裂音を轟かせて爆発するのであった。

 

 

 

♦♦

 

 

 

「――っていう事があってよ。ちびさん、どうする?」

 

 窮地を救ってくれた騎士風の冒険者見習いと鍛錬に向かう前日。ガガーランは、自身が身を寄せる王都一の高級宿へ仲間を集めていた。

 任務に出ている忍者のティア・ティナ双子姉妹は不在。ラキュースは丁度用事が終わり、集まる目的そのもののイビルアイは無理矢理連れてきたのであった。

 

 蒼い薔薇のために設えられた会議室で、ガガーランと向かい合うように長いテーブルを挟んで他の2人が座る。

 部屋へ入る直前に準備されたワインを瓶のまま煽りながら、ガガーランはギガント・バジリスク退治での出来事と騎士の男から聞いた事情を話していた。

 

 ちなみに、ガガーランだけでワインを6本空ける事は織り込み済みであり、給仕は予め8本準備していたりする。

 

「事情は分かった。確かに、その男は私が探している存在に近い。知らない場所に飛ばされ、お前を越える戦闘力を持ち、けある、だったか? 我々の知らない魔法を使い、元の場所へ帰る方法を模索……特徴は一致している」

 

 仮面を被った小柄な人物、イビルアイは、グラスに注がれた手を付けていないワインを眺めながら呟く。

 少女とも老人とも取ることが出来る声色。巷ではそのミステリアスさと絹のような美しい金髪、ローブの裾からチラリと見える薄いソックスから少なくないファンのいる存在であった。

 

「でもイビルアイ、貴女が行っても良いの? リグリットに一度相談した方が……」

 

 優雅にワインを傾けていたもう一人の金髪の美女、ラキュースが口を挟む。彼女は蒼い薔薇のリーダーであり王国高級貴族、アインドラ家の子女である。冒険者となった今では貴族としての発言力は皆無だが、その知能と人脈は計り知れない。

 そんな彼女でも、件の騎士に聞き覚えは無かった。戦士ガガーランを凌ぐ凄腕の魔法剣士、王国だけでなくバハルス帝国にそんな者が居れば自然と彼女の耳に入るものである。

 

「……そうだな、確かにすぐ会うのは早計だ。婆さんとアイツに一度報告したい。ガガーランを救ってもらった手前、ソイツを待たせるのは少し心苦しいが……」

「おいおい! 俺の心配してくれたのか? 可愛いところがあるじゃねぇか」

「煩いぞ金髪入りミートボール。馬鹿でも手数が足りなくなるのは避けたいだけだ。お前はソイツに、少し待って欲しいと伝えてこい」

「……」

「……ガガーラン、伝えて来てくれ」

「ん? おうわかった。明日会う予定だから任せな、ちびさん」

 

 いつものやり取り。イビルアイは頭が痛そうに天を仰ぎ、ガガーランは大笑いする。そんな様子を見て、ラキュースは楽しそうに微笑んだ。

 

 今日はこの後予定も無い。実家の堅苦しい雰囲気から解放されたラキュースは、飲めるだけ飲もうとワインのおかわりをグラスへなみなみと注ぐ。流石に瓶ごと行くのは嫁入り前の身として憚れたので、自重である。

 それでも、実家であれば拳骨が飛んできてもおかしくない愚行。表面張力でグラスの淵から少し浮かび上がる赤い液体に、ラキュースは心底嬉しそうに口角を上げた。

 

「ねぇガガーラン。明日その方にお会いするなら、近々私も伺いたいと伝えてくれないかしら」

 

 音を立てないようにワインを啜りながら、ラキュースはイビルアイとわちゃわちゃやっているガガーランに問いかけた。

 

「ああ良いぜ。ちょっと頭のネジが外れた愉快な奴だが常識はある。俺も同席するか?」

「私一人で大丈夫よ。貴女を凌ぐほどの武人……個人的にお話ししたいし、待って貰うにも私がキチンと伝えたほうが良いわ」

「そうかい。んじゃ、あいつの宿を教えてやるから会って来な」

「ありがとうガガーラン、では改めて乾杯しましょう!」

「おい馬鹿筋肉返せ! 私の酒だぞ!」

 

 グラスを奪って立ち上がったガガーランに届かないイビルアイがピョンピョンと跳ねている。

 

 蒼の薔薇は今日も平和であった。

 

 

 

「貴方が、ガガーランを救っていただいた冒険者の方でしょうか」

 

 後日、ガガーランから教えられた宿屋にやって来たラキュース。人気はあるがそれほどの価値は無い安宿に現れた有名人に店内はざわつくが、彼女は意に介さず店の奥に歩いていく。

 一番奥の4人掛けの席、窓辺で一番日当たりの良いテーブルへ着く男へ声をかけた。

 

「ああ。そういう君は――」

「私はラキュース・アルベイン・デイル・アインドラ。ガガーランから既にお聞きとは思いますが、青の薔薇のリーダーを務めています。貴方のお願いについて、2週間ほど返答をお待ちいただきたく……そうお伝えするべく参上しました」

 

 黒髪短髪で右目部分に傷。鈍い輝きを放つフルプレートアーマー、美しい装飾の施されたロングソードとカイトシールド。鎧の上からでもわかる、鍛え抜かれた身体と強い意志を感じる瞳。

 先日、正式にミスリル級冒険者となった件の彼であった。

 

「そうか、わざわざ来て貰って悪いな」

「私の方こそ早々にご挨拶に伺うべきでした。改めて、ガガーランを救っていただきありがとうございました」

「気にしないでくれ、やれることをやっただけだ。同じ立場なら、きっと誰でもそうしてた。ガガーランからも毎日感謝されてるぜ」

 

 そう言って、ラキュースは頭を下げる。彼は少し笑って、手元のジョッキを煽る。おかわりを呼ぶついでにラキュースの分も頼み、彼女へ椅子に座るよう促した。

 ラキュースは手土産に持ってきた、アインドラ家で仕入れているワインが入った革袋を椅子の下へ置き、着席する。

 迅速に運ばれてきた2人の酒が、それぞれの前へと配置された。

 

「単刀直入にお聞ききしますが、先日の大爆発は貴方が原因なのでしょうか」

「ぶっ」

 

 着席するなりラキュースがそう聞くと、彼は目を見開いて噴き出した。面にも止まらぬ速さで口元を覆ったため正面に座るラキュースに被害は無かったが、危うくとんでもないことになるところだった。

 

「ふふふ」

 

 わたわたと酒の飛んだテーブルを拭く彼は、恐らく年上だというのに酷く幼く見えた。

 透き通る蒼い瞳から感じられる眼差しは威厳そのもの、しかし不快感は無い。彼は今こうして無防備に両手をテーブルの上に乗せているというのに、僅かな隙も感じられない。

 

 そんなチグハグさが、安心感を与えているのだろう。第一印象で、彼がどこか好ましいと思える自分がいる。それはきっとガガーランも同じで、強さとは別の部分に惹かれていたのかも知れない。

 

 拭き終わった彼が怪訝な面持ちでラキュースに視線を向けると、ラキュースは不躾だったかと慌てて顔を逸らす。

 

「こほん、失礼しました」

「こちらこそ悪かった、君にはかかっていないか?」

「大丈夫です。それで、質問についてですが……」

「まぁ、オレが犯人だよ。年甲斐も無く若気の至りでね……ガガーランからは何も聞いていないのか?」

「貴方がこの酒場で彼女に聞かせたことは以外何も。それにその話は、貴方が話してもいいと」

「なるほど。彼女は約束を守ったわけだな」

 

 そう言うと。彼はジョッキに残った麦酒を飲み干す。それを見てラキュースが給仕を呼ぼうとすると、彼はそれを手で制した。彼はテーブル上の水が入ったピッチャーを指しこれがあるからと告げて――

 

「なら、次はオレが誠意を示す番だ。特別重要な内容を除いて、君の質問に一つ答える。その話も、土産話にしてもらって構わない」

 

 彼は少し姿勢を正してそう言った。

 ラキュースとしては願ってもいない提案である。彼は知らない土地からやって来た、知らない御業を扱う存在。仮にイビルアイたちが求めている存在でもなかったとしても、王国に大きな利益をもたらしてくれる可能性がある。

 しかし、その逆も然りである。彼の逆鱗に触れる行いをしてしまえば、不信感を抱き今後の接触を控えるだろう。今はラキュース側が切れる手札の方が多いが、彼がジョーカーを握っていれば話が変わってくる。

 

 試されている。貴族、冒険者としての勘がラキュースに告げていた。

 

 しかし好都合だ。個人情報のような踏み入ったものでなければ、恐らく何でも答えてくれるだろう。

 少なくとも、ギガント・バジリスク複数体と相対しても問題ない戦闘力。瀕死のガガーランを一瞬で全快にする回復魔法。彼をただの冒険者で終わらせるのは非常に惜しい。

 

 ……彼の今の立ち位置を知ることが出来れば、きっと今後の役に立つ。イビルアイからの回答は、アーグランド評議国で"彼"を交えて話をしている以上1か月は待つことになる。"彼"は非常に慎重だ、何らかの魔法で目の前の彼を監視したうえで答えを出すだろう。

 

 ラキュースは深い好奇心に駆り立てられていた。彼はその強さで何を成したのか、彼は何処に帰ろうとしているのか。

 

「……貴方は、この王国をどう思いますか?」

 

 リ・エスティーゼ王国は、彼が羽を休めるに足る場所か。

 先ほどまでの少し愉快な青年像は、もう今の彼には無い。ラキュースの眼差しをその広い雰囲気で受け止める、どこか、賢者のような佇まいだった。

 

「この王国。ねぇ」

 

 ただ質問の内容は少し想像と違ったのか。彼は体を椅子に預け、「んー」と考える素振りを見せる。

 10秒ほど沈黙すると、そのままの様子で彼は口を開いた。

 

「正直酷い有様だ。大通りとそれに直接繋がる路地はそれなりの活気があるが、それ以外は目も当てられない。持つ者と持たない者、その差を当たり前のようにどちらも享受している。誰もが……持たない人々を守る立場にある衛兵すら、虎の威を借りている」

「それは」

「国のお偉いさんが小難しいことを考えているのは解ってるが、そんなもん国民に関係ない。オレからすれば、手前も同じ釜の飯を食ったらどうなんだって思うぜ」

 

 彼の言い分に何の間違いも無い。彼の言う持つ者に類されるラキュースは思わず口を開こうとしたが、続いた言葉に閉口せざるを得ない。

 

 王国は長く苦境に立たされている。バハルス帝国との毎年の小競り合いに疲弊し、貴族たちは外の問題では無く自分たちの権力争いに固執する有様。

 城下には多くの犯罪者組織が跋扈しており、民もそんな状況を当たり前のものとして諦めている。

 

 それでも――ラキュースは諦めきれていなかった。帝国では新たな王が貴族を多く粛清して国家の安定を成し遂げたが、ラキュースはそんなものは御免だ。

 自身も貴族だから……それは無いと思いたいが、そんな気持ちが心のどこかに巣食っているかも知れない。それでも、王国を良くしたいという想いは皆一緒のはずで、自分たちが頑張ればきっと、誰もが王国のためにと立ち上がれると信じている。

 

 イビルアイは鼻で笑い、ガガーランは悲しい目をし、ティアとティナは呆れていた。けれど彼女たちは、ラキュースに付いて来てくれている。

 諦めるのはまだ早い。自分はまだ戦えるのだ。

 

「……」

 

 そんなラキュースを見て、彼は少し目を見開いた。そうかと呟き、目尻を下げる。

 失礼な表情をしてしまったのか。ラキュースは慌てて手のひらを彼に向けブンブンと振る。

 

「す、すみません」

「ラキュースは良い顔をするな。そうだ、捨てたもんじゃない。君も、ガガーランも、彼らも、良い奴ばかりだ」

 

 わっはっはと笑う彼を見て、ラキュースは何が何だかわからなかった。目をきょとんとさせているラキュースを見て、彼はさらに大きく笑った。

 店内に響き渡るほどの大声である。なんだなんだと他の客の視線が集まり、蒼の薔薇のラキュースを目にしギョっとするが、その対面に座る彼に視線を向けた途端「なんだアイツか」と全員興味を失ったようだ。

 

 それでも、初対面の人間と同じテーブルで注目の的になるという辱めに慣れていないラキュースは反射で頬を真っ赤にする羽目になった。

 

「悪い悪い! いやぁ、年を取ると説教臭くなっていかんな。……そうだ! せっかくの酒の席、君の冒険について聞かせてくれよ。オレも話せることは話すからさ」

 

 そう言って、彼は給仕を呼ぶ。酒はもう終わりじゃないのか、とラキュースが思う暇も無く、先ほど酒を持ってきた女性の給仕が再びやって来た。何を頼んだのか、給仕は呆れた顔で注文を受け下がっていく。

 

 そして給仕が持ってきたのは、なんとラキュースが用意していた手土産のワインと全く同じものだった。これが好物なんだと彼は言うが、決して安いものではない。ラキュースとの会話をより盛り上げるために頼んだのだろう。

 

 そう考えたラキュースは嬉しくなって、足元から手土産の同じワインを取り出す。そして「私も好きなんですよ!」と言うと、彼は「同じだな!」とまた笑った。

 

 

 お互いに線引きしつつも、時間を忘れて楽しく語り合う。そう、暗い話をしに来たのではない。自分の話をしに、彼の話を聞きに来たのだ。

 

 彼はよく笑って、よく驚き、よく涙ぐむ。喜怒哀楽がはっきりとしていて非常に好ましい。

 

 きっと彼なら、私たち蒼の薔薇を知っても理解してくれるだろう。

 

 ラキュースはそう遠くない、彼と真に出会う日を思いながら、今日だけは己の責務を忘れて楽しい時間を過ごすのだった。




「ナイト」
FF14におけるタンクロールの一つ。自身やPTのHP回復だったりバフ配布、魔法攻撃が出来る。唯一盾を持つジョブでもある。ギミックダメージ以外から無敵になれる最強スキルがある。

「戦士」
FF14におけるタンクロールの一つ。自己回復系のスキルが揃っており、ナイトよりも硬さは劣るが多数相手には滅法強い。フェルクリーヴという最強の技がある。

「レイジ・オブ・ハルオーネ」
剣術士・ナイトのウェポンスキル。近接攻撃で、対象に物理ダメージを与える。
FF14では基本的なコンボの最後に使う大技的な扱い。このスキルだけ使うとコンボ1段目より弱い。レベルが上がると別の強化スキルに置き換わる。

「金髪入りミートボール」
酷い。

「ラキュースのワイン」
1本金貨2枚と超高い。光の戦士は週に1回だけ飲む。
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