貞操逆転異世界のショタに転生したので女装して冒険者になろうと思います~えっ、性別がバレたら種馬確定? まあ大丈夫でしょ~ 作:寒天ゼリヰ
よくある感じで異世界転生して、よくある感じで故郷を焼かれ、よくある感じで復讐の旅に出た。……問題はただひとつ、ここが貞操逆転世界だったということ。
「待てコラ覗き野郎!! 往生せい!!」
ある日、ぼくは森の奥で女性を追い回していた。それも全裸で、ポン刀を振り回しながら。しかも相手は僧侶である。
「許してください! 許してください! ほんの出来心だったんです!」
泣きながら逃げ回るのは、僧形の女性。なんとこの女、水浴び中のぼくを覗いていたのである。坊主のくせになんてヤツだ。
「許して欲しければせめて逃げずに謝らんかい!!」
ぼくは〝魔力〟を使って一気に加速した。転生先のこの世界はよくある感じの剣と魔法のファンタジーなので、こういう芸当もできる。
「わあっ!?」
「覚悟!」
距離を詰め、エロ坊主を峰打ちでボコボコにする。人の全裸をガッツリねっとり覗いたあげく、バレたら即逃走するような不逞の輩だからな。必要最低限以上の手加減はしない。
「すみませんでした……」
それから十分後、ぼくは僧侶をロープでぐるぐる巻きにしていた。抵抗する気力を失った彼女は半泣きになりながら項垂れている。
黒緑色の長衣に、物入れを兼ねた小さな前掛け。この大陸における支配的な宗教、聖鐘教の僧侶の典型的な服装だ。
ちなみに坊主とは評したが髪型はウルフカットで、その頭からはぴょこんとキツネ耳が生えている。尻尾もあるしたぶんキツネ獣人だな。この世界にはこういう種族がたくさんいる。
他の持ち物は……大きめの背嚢とシンプルな長杖か。武器らしいものは日用ナイフくらいしかない。まあ杖も武器と言えば武器だけど。まあ、なんにせよ典型的な遍歴僧の装備って感じかな。
「法師様がこんなことをして、恥ずかしくないんですか!」
「出来心だったんですぅ……」
さっきと同じような言い訳を繰り返す僧侶。歳の頃は……二十歳いくかいかないかくらいかな? とにかく若い。いやぼくよりはだいぶ年上だけど。なにしろ今のぼくは十三歳だ。
……十三歳の水浴びを覗いてたのこの人!? ダメじゃん! だいぶダメじゃん!
「警察……じゃなかった、衛兵隊に連絡させてもらいますからね! もちろん教会にも!」
「それだけは勘弁してください! 教会だけは! なにとぞ教会だけは! それ以外ならなんでもしますゆえ!」
なんでもするんだ……。この必死の形相、尋常じゃない。まあ、未成年相手だからね。聖鐘教って結構おカタい組織だし、そりゃバレたら大事だわ。
「そんなにマズいなら覗きなんかするなって話でしょうが」
ため息を吐きながら、ぼくは自分の服装を直した。いつまでも全裸ってわけにはいかないからね。アホを捕まえたあと、きちんと服を着たわけだ。
で、そのぼくがどんな格好をしているかといえば、巫女服である。いや世界観どうなってんだよって話だけど、これ剣の師匠に押しつけられたヤツなんだよね。「我が流派の正式な装束じゃ!」つって。
ウチの師匠は当方の島国出身だ。扱う剣も日本刀そっくりの片刃剣。だから巫女服着ててもおかしくはない……いや、やっぱヘンじゃない? 本来なら神に仕える人の服だよねコレ……。
「うぉっ……首筋エッロ……」
「反省の色ォ!」
顔を蕩けさせながらボソリと呟くアホを蹴っ飛ばす。なんなんだこのダメ坊主は。
「ホゲッ……だ、だって仕方ないじゃないですか! エロいものはエロい! 神とて姦淫そ
のものは否定していないのです!」
あっ、逆ギレした。
「拙僧だってねぇ! 最初は覗く気なんかなかったんですよ! 女の子かと思いましたし……でもねえ! ちらっと目にした貴殿の裸体が目から離れなくて……」
「はいはい、言い訳は教会でしましょうね」
「そ、それだけは……アッ! そういえば貴殿! 男の子なのに魔力を使っておりましたな! もし拙僧を教会に突きだしたら、そのことを洗いざらい喋ってしまいますぞ! それは避けたいのでは!?」
「なっ……! このクソボケ……!」
今度は僕の顔が青くなる番だった。実際、ぼくが魔法を使える男であることがバレるのはマズい。
何故かと言えば、この世界では魔法が使えるのは基本的に女性だけなんだよね。ところが、ぼくは男なのに魔法が使える。転生特典ってヤツかな?
まあ、それ自体はありがたいことなんだけど、副作用もある。魔力持ちの男は皆無というわけではないけれど、非常に貴重だ。だから厳重に保護されたり、あるいは逆に種馬扱いされたりするわけ。どちらのルートにせよ、復讐どころじゃなくなるのは確実だ。
「取引! 取引をいたしましょう! 拙僧は貴殿が男の子であることを喋りませぬ! その代わり貴殿も拙僧の所業は黙っていていただきたい!」
「盗人猛々しい~!」
このドスケベ僧侶、死んだ方が世のため人のためじゃない? ぼく以外の男児にも手、出してるかもしれないし。ぼくはちらりと腰に差した刀を一瞥した。
「あいやお待ちを! 拙僧はあくまで普段は真面目な僧侶なのです。むろん、斯様な行いをしたのも今回が初めて! すべては貴殿の色香に迷わされたがゆえの乱心!」
縛られた状態でジタバタと暴れるエロ僧。黙っていれば糸目美人なのに、なんだこの無様さは。頭痛くなってきたなぁ。
「ああ、良いよもう! 分かった分かった、教会に突き出すのだけは勘弁してあげます」
いよいよ面倒くさくなって、ぼくは彼女を許してやることにした。実際、ぼくの身の上が教会に露見するのは良くない。聖鐘教は魔力持ちの男を保護する急先鋒だ。保護と言えば聞こえはいいけど、実際軟禁みたいなものだって話だし。
「ただし、無罪放免というワケにはいきません。このままじゃ覗かれ損なので」
殊勝な態度で謝ってくるならそのまま解放してやっても良かったけど、コイツ小賢しい策を使って来やがったからな。心証はサイアクだ。こうなったらこっちもコイツを利用してやる。
「お金ならありませぬぞ! 聖鐘教の僧侶は清貧であるべきゆえ!」
「へえ、覗きはいいんですね」
「……配偶者が相手で、合意のうえのプレイならたぶんセーフ! 聖鐘教では僧侶の結婚は制限されておりませぬ!」
「ダメじゃん!」
ひたすらダメだろこの人。聖鐘教、悪い評判はあんまり聞かない宗教なんだけどなぁ。見えないところで腐敗が進行してるのかも。
「ともかく、ぼくが欲しいのはお金ではありません。案内役です」
「案内役、といいますと」
「ぼくは田舎から出てきたばかりでして、世間や地理のことがいまいちよくわからない。常識が身につくまで、しばらく手伝いをしてもらおうかと思いまして」
田舎とは言ったけど、実際はそれよりひどい。故郷を焼け出されて七年、ぼくはずっと山奥の庵に籠もって師匠と剣の修行してたんだよね。だから本当に最低限の常識以外は身についてないわけだ。
「ほほう! なるほどなるほど。そんなことならばお安いご用、拙僧にお任せあれ!」
にわかに元気づく性犯罪者。……今さらながら、こんなヤツに同行を頼んだのを後悔しはじめた。大丈夫か? 水浴びや着替えのたびに覗かれたりしない? それ以上の真似もしてきそうで怖いぞ……。
「……はぁ。まあ、いいや」
ため息を吐いてから、ぼくは刀を抜いた。アホがビクリとするのを無視して、その身体を縛り上げた縄を切ってやる。
「いちおう、自己紹介をしておきましょう。ぼくはフェルト・稲葉・フォッケル。短い間ですが、よろしくお願いします」
「拙僧はステラ・ラッツァーティです。末永くよろしくお願いいたします!」
元気よく立ち上がり、エロ坊主改めステラさんは握手を求めてくる。いや~な顔でそれに応じてやると、彼女はぼくの手のひらをニギニギしながら恍惚とした表情を浮かべ始めた。……この人、斬り捨てて森の奥に埋めたほうが良いんじゃないか?